「そろそろ皆が起きる時間だ。 今日はここまでにしようか」 「は、はい」 ルシフェールの言葉にミッシェルは応じた。 練習を終えた両者は孤児院の建物に向かい歩いた。 自分の前を歩くルシフェールに対し、ミッシェルは前から疑問に思っていたのだがここまで尋ねることが出来ずにいたことを思い切って尋ねてみることにした。 「あの、ルシフェールさん」 「なんだ?」 自分の少し後ろを歩くミッシェルの声に、ルシフェールが振り向く。 「ルシフェールさんはどうしてぼくに霊力を教えてくれているんです?」
この日、まだ皆が起きていない早朝孤児院の裏庭でルシフェールはミッシェルに霊力を指導していた。 昇り始めたばかりの朝日を浴びながら、少年時代のミッシェルが目を閉じた状態で立ち、右掌を上に向けて前に出し、そして全身に力を込めている。 「・・・・・・・!!」 されど何も起こらない。 「ちがう、力めばよいというものではない! むしろ身体をリラックスさせて精神を集中するんだ!」 ミッシェルの前に立ち、指示するルシフェール。 ミッシェルはルシフェールの言葉を考慮し身体をリラックスさせることを心がけつつ精神を集中した。 すると。 前に出したミッシェルの掌の上に、サファイアのような青い美しい光が輝いた。青い光は眩い輝きだったが、2,3秒で消えてしまった。(回想シーン カレイドスコープナイト 3-4-11 09.03.18)
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(わたしが昔霊力を指導していた彼が今わたしを守ると言っている) そう思いながらイグドラシルの樹に視線を移すと、遠くにある樹の根元には何十匹ものアポリュオーンが蠢いていた。 もしミッシェルが自分だけで人間界へ行こうとしてもあの大群の中を突破し樹の根元にある人間界への入り口にたどり着くのは難しかろう。 それに先ほどの様子から考えるならミッシェルが自分だけで人間界へ行くという選択をすることはまずないとルシフェールには思われた。 この時、ルシフェールの脳裏に再度過去の記憶がよみがえった。 マルスと初めて出会うより少し前、孤児院でミッシェルに霊力を指導していた頃の記憶である。
取り残されたルシフェールは考え込んだ。 今まで孤独に苦悩し続けてきた彼にとって、今のマルスの言葉は胸に響いたのである。 マルスの言葉はきれいごとではなく、迷うことを知らない強い男の言葉であると思われた。 そしてこの出来事を契機としてルシフェールはカレイドスコープナイトとなることを決心したのだった。 回想を終えたルシフェールは、自分を守ると言っているミッシェルの姿を見た。
「わしはカレイドスコープナイトになってから今まで戦い続けてきた。 戦いの日々は非常につらく苦しかったが、わしには女王陛下をお守りしたいという騎士としての思いがあったから迷わずに生きてこれた。 君も何らかの目的意識を持ち、それに向かい心から打ち込むということをすれば救われると思う」 そこまで話すと不意にマルスは背を向けた。 「つまらないことを言ってすまない。 これで失礼する」 マルスはルシフェールを大広間に残し去っていった。