「その際マルスさんたちカレイドスコープナイトが迎撃し、わが国の領内で戦いが行われました。 わが国と隣国との間で小規模な紛争が起きることはめずらしくありませんが、このとき攻め入ってきた戦士たちは明らかにいつもと様子が違っていました。 そこで悪しきものを看破することのできる時の鏡に彼らの姿を映してみたのです。 すると、彼らの背後にさそりのような骸骨のようなものが映っていたのです」 女王の話を受け、マルスが付け加えた。
此処までの説明はミッシェルがユピテルから聞いたものと同じ内容であったが、この憑霊現象の説明を再度聞くことにより、ようやくミッシェルは先ほどの悲劇の事情を察することが出来た。 「それじゃトレントたちとダミアンは・・・」 「彼らも被害者だ・・・実はわしが悪魔になったものたちと戦ったのはこれが初めてではない。 今からずっと前、アポリュオーンに憑依された隣国の戦士たちが、わが国に侵攻してきたことがあるのだ」 マルスがそういったところで、女王がコメントを始めた。
「陽月界でも奈落界のことは、ほとんどわかっていないのだが・・・アポリュオーンが如何に恐ろしい生命体かだけはわかっている。・・・アポリュオーンの恐ろしさがその戦闘能力にあると思ったら大間違いだ。 アポリュオーンの恐ろしさは、連中がもたらす憑霊現象にある」 「憑霊現象!? それは一体!?」 驚くルシフェール。 「アポリュオーンは毒針を突き刺すことによって他者に憑依することができるのだ。 そして憑依されたものは悪の思念を食べ生きているアポリュオーンの腹を満たすため、攻撃性や猜疑心、欲望が極度に強くなるよう洗脳されてしまう。 そのため古代からアポリュオーンに憑依されることを『悪魔になる』と呼んでいるのだ」
「それぞれの世界は独立して存在してはいるのだが、稀に時空のゆがみによって世界間に出入り口が生じ、そこから異世界に入り込んでしまうものが現れることがある。 そうやって陽月界や人間界にアポリュオーンが進入したことが過去何度かあるのだ。 特に全世界の時間の流れを管理する道具である時の鏡はその裏側が即異世界に通じている。 中でも奈落界に通じている過去の鏡が割れた結果として、アポリュオーンを呼び込んでしまったというわけなのだ」 マルスの口調にさらに重みが増す。