チャーシューは、ラーメン丼の中ではとてもエラソーにしている。
海苔、メンマ、もやしなどと一緒に並んでいると、一族の長という貫禄さえ感じる。
ラーメン屋でラーメンを注文し、ラーメンが到着すると大抵の人はその全容を点検する。
スープの光具合、ネギの浮き沈み、メンマの数、海苔の水没度などを点検したあとチャーシューを見る。
その眼差しは、海苔やメンマやネギに投げかけたときとは全く違う尊敬の眼差し。
チャーシューはラーメンの丼の中では間違いなくスターである。
ネギはいくら頑張ってもネギ止まりで終わる。
ところがこうしたチャーシューも、配属先が変わると様子が一変する。
ビールなども出すラーメン屋では、チャーシューをおつまみとして出す。
ちっぽけな皿に四、五枚のチャーシューが少しずつずらされて並んでいる。
スターが折り重なっているのだ。
ラーメンの丼の中で、あれほどゆったりとくつろいで、我が世の春を謳歌していたチャーシューとは思えない、全員板のように硬直し表情も硬い。
実際口に入れても、ラーメンの丼の中にいたときの、あの美味しいチャーシューとは思えないほど味気ない。
配属先が変わるとこうも変わるんだ。
ラーメンのスープがチャーシューを美味しくしているのだ。
このようにラーメンの周辺では権勢を誇るチャーシューも、ひとたび高級中華料理店に配属されると地位はさらに低下する。
チャーシューは、コース料理の最初の前座として出てくる。
蒸し鶏、クラゲ、ピータン、アワビの冷製などと一緒に皿に並ぶ。
どう見てもこの皿の中ではチャーシューの地位が一番低い。
ラーメン屋ではスターだったのに、ここでは扱いが粗末だ。
チャーシューはラーメン丼の中が一番居心地がいいのであった。