羽黒蛇、大相撲について語るブログ

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平成28年・2016年1月場所前、平成27年を振り返って(真石博之)   

2015年12月31日 | 相撲評論、真石博之
1月場所の資料をお送りいたします

○九州場所の白鵬は、さびしくなった身体にかつての張りが戻った印象があり、6日目までは盤石の相撲。

7日目、前場所に苦杯を喫している隠岐の海に攻め込まれた土俵際で上手やぐらを決め、翌日には39回目の中日勝ち越し。ところが、10日目の栃煌山戦で2度の猫だまし、翌日の稀勢の里戦では立ち合いだけでなく途中のにらみ合いでもビンタそのものの張り手と感心できない取り口。13日目の日馬富士戦は「スピード負けした」と語った通りの完敗で初黒星。ひどかったのは翌日の照ノ富士戦。ガップリ右四ツのまま、得意の巻き替えも試みず、廻しを切ろうともせずの2分49秒。まだ負け越しの可能性もあったモンゴルの後継者照ノ富士に勝ち越しを進呈する相撲にも見えました。千秋楽には鶴竜にも敗れて終盤での3連敗となったため、白鵬の体力の衰えを指摘する声もありますが、もともと、白鵬は序盤と中盤に滅法強く、終盤はさほどではないのです。別紙『白鵬の序盤・中盤・終盤の戦績』にある通り、横綱に昇進してから初の休場をするまでの48場所で、序盤に負けたのは240回(5日×48場所)のうちの9回だけ、中盤は17回だけに対して、終盤の5日では48回負けており、2勝3敗の終盤も5回あるのです。



○2場所連続で休場していた日馬富士は、2日目、大砂嵐に先にガッチリと上手をひかれ何の抵抗も出来ずに寄り切られ、前途多難を思わせました。しかしその後は、突きささるような立ち合いで相手を一気に攻め落とす全盛時の相撲ではなく、しっかりと廻しを取って相手に体を密着させ頭を胸につけて出るという丁寧な相撲で勝星を重ねました。13日目、全勝の白鵬に対しては一転しての速い相撲。左に少しずれた立ち合いからイナし、泳いだ相手の上手を取り、右も差して寄り倒し、相星の優勝争いに持ち込みました。

翌日、白鵬が敗れたため逆転、星一つリードして迎えた千秋楽は、両者ともに敗れるという何とも気の抜けた優勝となりました。幕内最軽量という決定的なハンディキャップを持ち、それが原因とも思える両足首の痛みと肘の負傷を乗り越えての7回目の優勝でしたが、この先も身体と相談しながらの相撲でしょう。



○前場所優勝の鶴竜は初日に嘉風に敗れ、同じ力士に3連敗という横綱として恥ずかしいスタート。押し込まれては引く同じ取り口で不調の妙義龍にも敗れ、これまた同じ力士に2連敗。10日目には、豪栄道に張り手を見舞われ両差しになられての完敗。千秋楽に白鵬を破って意地を見せたものの、これが横綱同士の対戦でやっと2つ目の勝星で通算2勝10敗。結局は9勝6敗で、横綱の地位も前場所の優勝も泣きます。もっとも、9月場所の優勝は、3度も立ち合いに変って手にしたものでした。



○日馬富士と鶴竜を抜いて実力No.2に駆け上がり、横綱は指呼の間と思われた照ノ富士が右膝を傷めたのは9月場所の13日目。その怪我の回復が思わしくなく、「怖い」と漏らしつつ出場に踏み切った九州場所は、終始おっかなびっくりの土俵でした。初日は重い逸ノ城を相手に、自分有利の組み手に持ち込むまで51秒かけて料理したものの、翌日には、栃煌山に両差しを許して中に入られると、売り物だったこらえる脚がなく、あっさりと寄り切られました。上背では3cm負ける勢の右差しからの掬いにも呆気なく体が浮いてしまっての完敗。寄られるとずるずる下がり、横に動かれると対応できずで、あの強さがまったく影をひそめての9勝6敗。秋場所の終盤2日間の強行出場と同様に、九州場所出場は完全に裏目に出ました。11月末に24歳になったばかり、2場所休んで関脇から出直しても、時間はたっぷりあるのです。



○稀勢の里は2日目に嘉風に敗れたものの、苦手の碧山戦では星を拾い、白鵬を星の差一つで追走しました。ところが、その白鵬戦の前日に、豊ノ島の両ハズの押上げに寄り切られてミスターガッカリぶりを発揮し、そこからずるずると4連敗。千秋楽で日馬富士の優勝決定を4分間遅らせただけの九州場所でした。

○カド番で臨んだ豪栄道は7日目で4勝3敗の苦しい展開。その後、照ノ富士と鶴竜を破って、6勝4敗と愁眉を開きかけたものの、7勝7敗での千秋楽となりました。栃煌山にモロ差しを許して攻め込まれた絶体絶命のピンチで、これしかない首投げに相手がまんまとかかってくれて大関を延命。大関での通算成績は61勝58敗1休。3つの勝ち越しで大関在位連続8場所とは、麒麟も首をすくめる超低空飛行です。



○小結に返り咲いた嘉風は、初日、横綱鶴竜に対して激しい突き押しから頭を下げて懐に入り、相手の苦しまぎれの引きに乗じて、渡し込みで土俵下まで吹っ飛ばしました。横綱戦4連勝です。続く2日目、大きな稀勢の里を相手に押し込んだところで強烈な左ハズを受けて右半身が浮きそうになったものの、咄嗟に肩透かしを決めました。9日目、栃ノ心と離れての互角の攻防の中で体勢を崩されたかに見えた次の瞬間、馬のような相手の脚を右手一本で持ち上げ、そのまま土俵の外に運びました。お互いに勝ち越しを賭けた14日目は、豪栄道をまったく問題にせずに押し倒し。3場所連続での4つの三賞、年間勝利数でも54勝の4位でした。初場所は33歳にして初の関脇。幕内3番目の年配力士の若々しい相撲に期待します。



○立行司の第40代式守伊之助が、秋場所に続いて九州場所で7日目までに2度の差し違いをして、3日間の出場停止の処分を受けました。日馬富士―碧山戦は確かに判定の難しい相撲でしたが、白鵬―隠岐の海戦は誰が見ても分る明らかな差し違い。行司の昇進が入門順の単なる年功序列になり、誰もが立行司に昇進できるようになったため、木村庄之助が11年間に7人も生まれる替り過ぎが続きました。ところが、突然、世代の空白ができ、最年長者が昭和25年生れから一気に34年生れになり、今の伊之助は、定年まで11年以上ある53歳で一昨年11月場所に昇進しました。最高位の庄之助は空位のままです。



○北の湖親方が九州場所中に亡くなりました。文句なしに強かった現役時代に加え、気配りと情のある理事長との賛辞ばかりが聞かれます。しかし、芳しからざる人物を協会に入りこませてしまった罪は重大です。



平成27年を振り返って

○部屋別勢力 (別紙「部屋別勢力一覧」と「上位部屋の変遷と部屋頭」をご覧ください)

(部屋の勢力を比較するために、横綱20点、大関10点、三役4点、平幕3点、十両1点の点数化をしています。「同じ横綱でも値打が違う」等のご異論もおありでしょうが、ご容赦願います。)

 競技寿命が短く、栄枯盛衰が激しいのが大相撲の世界ですが、珍しいことに、上位10位の部屋の顔ぶれが前年と同じです。その中で境川部屋が点数を大きく伸ばしたのは豪栄道が通年で大関だったからです。



○横綱大関年収 (別紙「横綱大関の公式年収」をご覧ください)

  (公式年収とは、公表されている相撲協会からの支給金等の合計で、ご祝儀の類は含みません。)

 白鵬が9年連続1億円越えのトップで、最近6年間で4度目の2億円越えです。3回の優勝で得た優勝賞金、業績の累積で決まる給金、実力と人気を示す懸賞金、このいずれでも他を圧倒しています。照ノ富士が三賞賞金と初優勝の賞金に加え、懸賞金でも2位に入り、先輩大関を抜いて第4位に駆け上がりました。



○平成26年の新十両9人の歩み (別紙「新十両9人の戦績」をご覧ください)

 昨26年に新十両に昇進した9人の歩みです。来る初場所の番付での幕内は逸ノ城と輝だけで、十両が4人、幕下に逆戻りが3人となっています。今のところ、新十両の平成26年組は不作です。

平成27年12月26日   真石 博之