経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

‘知財戦略’を言うことの矛盾

2008-12-01 | 企業経営と知的財産
 先日書いたヒアリングシリーズで、ある社長様が「‘知財戦略’とよく言われるようになって、特許が直接利益に結びついたり資金調達をできたり、っていった今までにない新しい話が出てくるのかと思ってたのに、自社の強みを特許を出して守るって、そんな私たちが普通にやってきたことでよかったんですか」といったことを仰られていました。「知財戦略」とか「三位一体」とかいった切り口が却って全体を見えなくしてしまうリスクについても書きましたが、効果的な「知財戦略」とは「事業戦略」の中で自然に実現されているものであり、殊更に「知財戦略」だけを取り出して云々することは、却って知財を事業や経営全体の流れから乖離させてしまうかもしれない、という矛盾。最近よくこうしたことを考える中で、宮崎駿監督のこのコメントを見つけました。

 宮崎監督は現在の子供達の環境がアニメ、ゲーム、携帯、マンガなどバーチャルなものばかり。そんなバーチャルなものが子供達から力を奪い取っている、と指摘した。そして、「自分達のアニメの仕事も同様で、それが自分達の抱える大きな矛盾。その矛盾の中で、何を創ればいいのか、いつも自分達に問い続けながら、映画を作っている」と語った。

 その矛盾の中でいつも自分達に問い続ける、おそらく、ここに一つのヒントがあるのではないでしょうか。
 子供達に本当に必要なものは、現実の世界で様々な感動を体験することである。しかしながらそうした体験を得にくい現代社会において、その体験が大切であることをアニメを通じて問いかけることができないか。宮崎監督は何も結論を語っていませんが、そんなことを考えておられるのではないでしょうか。
 三位一体、事業に即した出願を、といった知財戦略の原則論は当たり前のことであり、現実に重要なのはどうやって実践するかというオペレーションに関する問題、それこそが事実であると思います。ところが、そのオペレーションが複雑になり、作業負担が増すようになると、だんだんと手段が目的化して本来の原則論を見失ってしまうおそれが生じる。そのために、原則論をわかり易い形で示し続けることにも意味がある。少なくともそこはしっかり認識しておかないと、「今さら何を当たり前のことを言っているの」となってしまい、「知財戦略」を云々する意味は失われてしまうのでしょう。


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2 コメント

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Unknown (特許漢)
2008-12-01 22:09:42
>現実に重要なのはどうやって実践するかというオペレーションに関する問題・・・

まったく同感です。

どんなに素晴らしい知財戦略を描いても、それが(企業の)知財担当者の行動・実践に反映されなければ、”絵に描いた餅”に過ぎません。でも、現実には、日々の業務が膨大で目先の電柱にたどり着くのが精一杯ゆえに、なかなか長期的な展望を持って業務を実践できないケースも少なからず存在するように思います。そこいら辺は、知財部門の悪しき伝統が多大に関与しているようですが・・・。

一方、特許事務所としては、そういった企業サイドの潜在的なニーズを適切にくみ取ることができれば、特許出願業務をとってみても、まだまだ付加価値を高める余地があるようにと思います。多忙な知財担当者の手をそれ以上煩わせることなく、平易で簡潔な明細書を作成することは当然のことですが、それ以外にも、事業戦略的な位置づけを十分に認識した上で、それを個別案件に反映するとか、戦略の逆算から発明を縦横無尽に広げられるとか・・・。クライアントの意向を先取りして、明細書作成を含めた出願業務に施した自らの相違工夫をクライアントに逆に提案できるような事務所があれば、社会的なニーズは極めて高いものと思います。

このようなボトムアップ型の業務が知財コンサルの範疇に属するのかはわかりませんが、少なくとも、最近よく耳にする知財コンサルと比較すれば、よっぽど社会的ニーズがあるように思います。
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Unknown (土生)
2008-12-01 23:28:26
特許漢様

コメント有難うございます。
やはり‘顧客志向’&‘現場主義’がキーワードでしょうか。
知財コンサル云々の話も、本来の目的はコンサルをすることではなく、知財活動を経営の成果に少しでも結び付ける、ということですから。
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