経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

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知的財産を「紛争の種」ではなく「成長の種」として意識しよう

2016-01-13 | お知らせ
 1月5日発行の特許ニュース・新春特集号(No.14114)に、
知財活用の裾野拡大に向けての提言 -中小企業経営を支える知財活動促進のヒント-
が掲載されました。
 以前に「中小企業が抱える課題と知財活動の効かせ方」や「中小企業は『知的財産』をどのように捉えているか」でも紹介した、昨年度の近畿経済産業局の調査事業で行った中小企業へのアンケート調査結果をベースに、これまで知財を意識してこなかった中小企業に、知財活動を通じてステップアップしていただくためには、どのような取組みを推進していくべきかを論じたものです。
 その要旨は、「知財権をおさえないと模倣されてしまいますよ」「他人の知財権を侵害したら大変なことになりますよ」といった従来からありがちなパターン化された啓発活動ではなく、知財活動には多様な効果があること、販売力や人材面など各々の企業が抱えている課題に対して知財活動が有効に働き得ることを広く伝えていくことが必要ではないか、というものです。前者のようなアプローチばかりだと、「知的財産」を「紛争の種」とイメージされてしまいがちですが、自社のオリジナリティ・他社との差異化要因であり、競争力の源泉となる「知的財産」を、まずは前向きな「成長の種」として認識することをスタートラインに設定しましょう。
 全文をこちらに掲載していますので、少々長いですがご一読いただけると幸いです。
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「ノウハウ」管理の前さばき

2015-10-28 | 企業経営と知的財産
 知財の世界で「ノウハウ」というと、「ノウハウ=営業秘密」という前提で、技術流出をどのように防ぐかという文脈で語られることがほとんどではないかと思います。
 一方で、中小企業関連の仕事でノウハウが話題になると、そのストーリーでは話がかみ合わなくなることがあります。「ノウハウ」に関する問題意識が、技術流出ではなく、「Aさんの仕事のやり方(ノウハウ)を、Bさんにも真似てほしい」「Cさんの優れた手法(ノウハウ)を多くの社員に広めて、会社全体のレベルアップを図りたい」といったところにあるようなケースです。
 
 こうした食い違いは、「知財(法律)用語としてのノウハウ」と「社会通念上のノウハウ」が必ずしも一致しないことによって生じるのではないでしょうか。
 goo辞書で検索しても、「ノウハウ」には次の2つの意味があると説明されています。
1. ある専門的な技術やその蓄積のこと。
2. 技術競争の有力な手段となり得る情報・経験。また、それらを秘密にしておくこと。
 1.が「社会通念上のノウハウ」、2.が「知財(法律)用語としてのノウハウ」です。
 そうすると、はじめから「営業秘密」を対象にするコンセンサスができているのであれば、「ノウハウ=営業秘密」という前提で、技術流出という課題にどのように対処するかを検討していけばよいのですが、そういうコンセンサスがない状態で「『ノウハウ』について考えましょう」といった場合には、「社会通念上のノウハウ」を前提にした各々の企業が抱えている課題の整理が必要になってくると考えられます。その流れを簡単な図にして整理してみました。
 整理の軸は、「社会通念上のノウハウ=専門的な技術やその蓄積」について、「模倣リスクが懸念されるか」「社内での積極活用が求められているか」の2つです。
 模倣リスクが懸念され、多くの社員が情報を共有するニーズには乏しいのであれば、営業秘密としてしっかりと管理する方策を検討すればよいことになります。
 逆に、模倣リスクはあまり懸念されず、社内での情報共有・積極的な活用が求められている場合には、厳格な秘密管理は利用促進の妨げになるおそれもあり、異なる観点での対応策を考えていかなければいけません。模倣リスクがあまり懸念されない理由には、(1)ノウハウが絶えず進化している、(2)一部のノウハウだけ真似ても効果がない、(3)企業の信用力とセットで価値がある、(4)コア技術が特許化されている、といったパターンが考えられますが、特にサービスエンジニアリングを含めたサービス業の領域では、いわゆる営業秘密としての管理より、情報共有システムなどのノウハウ管理(「ノウハウ活用」というほうが適切かもしれません)を求められるケースが少なくないものと思われます。
 難しいのは、模倣リスクへの対策と利用促進のニーズが重なり合う領域で、情報の種類や利用形態などに応じた管理方法や、利用のインセンティブなどを個別に考えていかなければいけません。

 尤も、いずれのケースにも共通するのは、(社会通念上)のノウハウが漠然とした状態では扱いようがないので、ノウハウが形式知として「見える化」されている必要があるということです。「見える化」を第一歩として、模倣リスクと活用ニーズの両面から取り組むべき課題を認識し、管理方法の基本方針を確認する、といったプロセスが、「ノウハウ」管理の前さばきとして必要になるのではないでしょうか。
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中小企業に関わりのある方はぜひご一読を。

2015-09-30 | 書籍を読む
 拙著・元気な中小企業はここが違う! でもご紹介させていただいた株式会社エンジニアの高崎社長が、「『ネジザウルス』の逆襲 累計250万丁の大ヒット工具は、なぜ売れ続けるのか」を上梓されました。出張時の移動中に読み始めたところ、そこに高崎社長とエンジニアの社員の皆さんがおられるかのような気分になってきて、すっかり本の世界に入り込んでしまっているうちに、あっという間に読み終えていました。
 中小企業にとって大切なことは何か、それがすごくリアルに伝わってきます。社長のお人柄(僭越ながら「人柄」というよりもっと総合的な「人間性」と言ったほうがいいかと感じます)と思い、そして社長と社員の方々との関係性、それが新商品という形で実を結び、社会に広がっていく喜び。知財戦略についても具体例を含め大変示唆に富む理論が展開されていますが、中小企業の知財に関わられる方には、テクニカルな講釈を垂れる前に、ぜひこのリアルな人と人との関係性の部分をしっかりと感じとってもらうことが必要ではないかと思います。
 ベンチャーファイナンスに携わっていた頃も、よく同業者と「結局は人(=経営者)だよね」と言い合っていましたが、改めてそのことを思い起こすことになる一冊でした。

「ネジザウルス」の逆襲 累計250万丁の大ヒット工具は、なぜ売れ続けるのか
クリエーター情報なし
日本実業出版社
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中小企業は「知的財産」をどのように捉えているか

2015-08-23 | 企業経営と知的財産
 前回に続き、昨年度の近畿経済産業局の調査事業で行った中小企業へのアンケート調査結果から考え方ことの2つめです。

 近畿知的財産推進計画2014策定の基礎調査で、中小企業を「知財への関心が高いか否か」「売上が増加傾向か減少傾向か」という2つの軸に基づいて図(近畿知的財産推進計画2014の7p.から引用)のA〜Dのグループに分類したところまでは前回と同じですが、各々の企業が知的財産をどのように捉えているかを質問し、図(近畿知的財産推進計画2014の35p.から引用)のようにグループ別に集計してみました。
 知的財産の捉え方(定義)は、以下の3つから選択してもらっています。
(1) 特許権や意匠権、商標権など知的財産権に限る
(2) 知的財産権の他にノウハウも含める
(3) 社内で独自に生み出した知的資産全般を知的財産と捉える
(「社内で」と限定するなど正確ではないのですが、知的財産基本法は「知的財産」と「知的財産権」を明確に区別して定義しているので、その考え方に最も近いのは(3)になると思います。)

 これまでにあまり目にしたことがないデータですが、いくつかの興味深い傾向を読み取ることができます。
 まず気づくことは、知的財産の定義がバラついているということです。無回答を除き、全体を平均すると、(1)〜(3)がほぼ1/3ずつに分かれています。
 以前に「一番必要なのは「知的財産」の意味の社会的なコンセンサスを形成することではないか」のエントリにも書きましたが、これは困った状況で、いくら知的財産の普及啓発に力を入れても、肝心の受け手の捉え方がバラバラでは、十分な効果を期待することはできません。
 例えば「知財活用を進めましょう」と言った場合の「知財活用」とは何なのか。知的財産を(1)で捉えていれば、権利行使やライセンスといったいわゆる知財関連の業務のみがイメージされやすいのに対して、知的財産を(3)で捉えていれば、自社の強みをどう引き出して事業に生かしていくかという様々な部門に広がりのあるテーマとなり、このメッセージが響く層が異なるものになるはずです。
 「知的財産」に関する取り組みの裾野を広げ、より多くの中小企業に「知的財産」という物の見方を活かしていただくためには、(3)のような捉え方が社会的なコンセンサスとなるように努めることが、重要な政策テーマになるのではないでしょうか。
 
 2つめは、グループ別の内訳です。CとDのグループはほぼ同じような結果で、無回答も含めておおよそ1/4ずつに割れているという点も興味深いですが、より注目されるのはAとBの違いです。
 AとBは「知的財産に関心がある」というグループだけあって、CやDより無回答の比率がグッと少なくなっていますが、(2)にはほとんど違いがないのに対して、(1)と(3)の比率がほぼ逆転したような数字になっています。同じ「知的財産に関心がある」というグループでも、売り上げが伸びているグループは知的財産を広く捉えている企業の比率が高い(売り上げが伸びていないグループは知的財産を知的財産権に限定して捉えている企業の比率が高い)、という傾向が現れています。
 この傾向が何を意味しているのか。確定的なことを言うにはさらに詳細な分析が必要ですが、Bのグループの企業が「知財活用=知的財産権の活用」という考え方に縛られ、知財活動が硬直的になってしまっている可能性も、一因として推測できるのではないでしょうか。
 このデータも、知的財産を広義で捉えることの必要性を裏付ける材料の一つになり得るのではないかと考えています。


KINZAIバリュー叢書 ゼロからわかる知的財産のしくみ
土生 哲也
きんざい
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企業が抱える課題と知財活動の効かせ方

2015-08-20 | 企業経営と知的財産
 以前のエントリで少し触れた、昨年度の近畿経済産業局の調査事業で行った中小企業へのアンケート調査結果から考え方ことについて、2つほど書いておきたいと思います。本日はその1つめです。

 上記の調査は近畿知的財産推進計画2014策定の基礎調査として行ったもので、中小企業の知財支援施策の方向性を検討するために、知財への関心が高いか否か(先のエントリでは「知財活動が活発か否か」と紹介しましたが基本的には同旨です)、売上が増加傾向か減少傾向か、といった2つの軸に基づいて中小企業を図(近畿知的財産推進計画2014の7p.から引用)のA〜Dのグループに分類して、各々のグループに属する企業が認識している自社の強みや経営課題を整理しました(この分類は事務局として報告書をとりまとめていただいた株式会社ダン計画研究所さんのアイデアです)。

 ここで特に注目したいのが、BとCのグループです。
 中小企業向けの知財支援というと、Aグループの事例を紹介しながら「知財活動は役立ちます、取り組むべきです」とストーリーを語り、「啓発活動」をしたつもりになってしまいがちですが、果たしてそれでいいのでしょうか。Bグループの「知財やっても儲からへんで」、Cグループの「知財なんてやらんでも儲かってるで」という声に耳を塞ぎ、あるいは「知財の重要性がわかっていない!」と頭ごなしに撥ねつけてしまっていては、いつまでたっても中小企業&知財の領域は、Aグループ+Bグループの知財担当者が形成するサロンから抜け出すことはできないでしょう。

 では、BグループやCグループの知財活動をどのように考えていけばよいのでしょうか。
 Bグループの企業が自社の強みをどのように認識しているかをみると、技術力(74%)、商品力(44%)といった項目の数値が比較的高くなっています。
 Cグループに目を移すと、短納期(42%)、小口・多品種対応(38%) 、価格競争力(19%)といった項目の数値が比較的高い。
 こうした傾向をみると、Bグループは、開発活動に積極的に取り組んでいるものの、それを十分に売上に結びつけられていない開発先行型の企業、Cグループは、自社製品は持たない小回りがきいて機動力のある受注生産型の企業という企業のイメージが浮かび上がってきます。

 一方で、両者はそれぞれの経営課題をどのように認識しているのか。
 Bグループでは、販路開拓・拡大(69%)の数値が高いのに対して、海外展開(23%)が相対的に低くなっています。
 Cグループでは、人材(65%)、社員のモチベーション(39%)といった項目の数値が比較的高い。
 すなわち、Bグループは技術力に自信があって製品開発に力を入れている、それに伴って知財への関心も比較的高い(ゆえに知財活動にも取り組んでいる)ものの、販売が思うように進まず(海外展開以前の問題として国内でも思うように売れない)十分な売上に結びついていない。一方のCグループは、しっかりと仕事を拾って売上につなげているものの、(言葉は悪いですが)便利屋的・下請け的なポジションで、人材を集めにくくモチベーションも上がりにくい。
 こういった状況にあることがイメージされる企業群に対して、「知財権で独占的な地位を築きましょう」「権利侵害でトラブらないように知財意識を高めましょう」と促したところで、彼らの問題意識とはミスマッチとなり、「なんかピンとこーへん(きーひん?)な」と感じられてしまうことは避けられません。

 では、なにを伝えていけばよいのか。
 ここで求められるのが、知財活動の効果の多様性に対する理解、引き出しの多さです。このブログや、「元気な中小企業はここが違う! 」に繰り返し書いているように、知財活動は、他者参入の排除や権利侵害の回避という典型的な効果だけでなく、自社技術の見える化、社内の活性化、交渉力の強化、オリジナリティのPR、仲間作りなど様々な効果が期待できるものです。
 販売力強化を課題としていることが多いBグループの企業には、オリジナリティのPR、仲間作り(=販売パートナーとの提携等)といった効果を意識して、例えば、営業部門との知財情報の共有による自社製品の強みの再認識といった活かし方が考えられます。人材面を課題としていることが多いCグループには、自社の独自技術を見える化する技術ブランディングによる社内の活性化、モチベーション強化といった方向性が考えられるのではないでしょうか。
 知財活動をいかに販売力やモチベーションの強化に結びつけるか、これらはまだまだ未開の領域であり、これといった定型的な手法が用意されているというものではありません。しかし、こうした面も意識しながら、「国内市場の低迷 → 海外展開が必要 → 模倣リスクが高い → 海外での権利取得やオープン・クローズの使い分けが重要」といった直線的なシナリオだけでなく、中小企業が抱える様々な課題に対して知財によるソリューションを提供できるように努めることが、中小企業&知財の領域を広げるネクストステージに向けて取り組んでいかなければならないテーマではないかと思います。

<お知らせ> 知的財産のアウトラインを速習できるビジネスパーソンのための入門書、「ゼロからわかる 知的財産のしくみ」を上梓しました。普通の入門書ですが、読み易さには十分に気を配りましたので、機会がありましたらご一読いただけると幸いです。

KINZAIバリュー叢書 ゼロからわかる知的財産のしくみ
土生 哲也
きんざい


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「ゼロからわかる 知的財産のしくみ」発売のお知らせ

2015-08-07 | お知らせ
 「<入門の入門>知的財産のしくみ」の後継版となる「ゼロからわかる 知的財産のしくみ」が、間もなく発売されます。帯のキャッチコピーのとおり、「知的財産を速習したいビジネスパーソンのための決定版 一読すれば、知的財産のアウトラインと勘所をつかめる!」というコンセプトで書き下ろした、ビジネスパーソン向けの知的財産の入門書です。
 以下、本書の「はじめに」の一部を紹介させていただきます。

===========================================================

 筆者が初めて知的財産の入門書を上梓したのは、今から8年前になります。その巻頭に次のように書きました。

 (前略)インターネットの世界では、誰もが自由に参加することが可能な、双方型の利用形態である「Web2.0」への流れが加速しています。
 これを知財の世界になぞらえるならば、これまでは企業の知的財産部門や弁護士、弁理士などの外部の専門家に任せきりであった知財業務の領域に、多くのビジネスパーソンや研究者が双方向で参加する、「知財2.0」とでもいうべき状況への転換が求められているところではないでしょうか。(中略)
 本書が、知的財産のしくみを理解することに役立ち、知財の世界とビジネスや研究開発の現場を結びつける橋渡しとして、「知財2.0」のステージに進む一助となれば幸いです。(後略)

 あれから8年を経て、状況はどのように変わったでしょうか。
 企業の知財部門で・・・
 このように、知的財産に直接関わる側の意識や人材の層が変化する一方、ビジネスの現場ではどうでしょうか。
 特許の出願件数は2割近く減少・・・「知財の双方向化」は、なかなか進展していないのが現状です。
 その間の日本経済を振り返ってみると、リーマンショック、東日本大震災と2つの大きな試練に直面しました。生き残りのための構造改革に追われ、知的財産を活かして新規事業を立ち上げるという、前向きな投資に意識が向きにくい経営環境が続いたことは否めません。
 しかし、日本経済は明らかに変化してきました。上場企業はROE重視の姿勢を鮮明にして、成長のための投資に資金を振り向ける動きを見せています。地方再生の担い手として、中小企業の活性化に向けた様々な施策が打ち出されるようになりました。新しい事業、成長の種となる知的財産を意識する場面が増えるのは必然であり、知的財産を意識する場面が増えるようでないと、経済成長も覚束ないものになってしまうでしょう。
 専門家に任せておくだけでない「知財の双方向化」は、まさにこれからが本番です。

 本書は・・・ビジネスパーソンが、知的財産の「専門家としての知識」ではなく、「専門家と話すための知識」を身につけることを意識して書き下ろしました。一読すれば、知的財産とはどういうものか、そのアウトラインと勘所をつかむことができるように、簡潔さとわかりやすさを重視したため、十分に説明できなかった箇所も残っています。
 知的財産の活かし方について・・・知的財産管理技能検定3級を目標にしてみるのもよいでしょう。

 最後になりましたが、本書のコンセプトを理解して出版にご尽力をいただいた、一般社団法人金融財政事情研究会の田島正一郎様に改めて御礼申し上げます。「知財の双方向化」の担い手となることを期待する金融機関との関係が深い同会から、本書を上梓できることを大変嬉しく思います。

2015年7月 土生 哲也



KINZAIバリュー叢書 ゼロからわかる知的財産のしくみ
土生 哲也
きんざい
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「休眠特許の活用」は知的財産推進計画2015の柱ではない。

2015-06-23 | 知財一般
 先週金曜日に、知的財産推進計画2015が決定されました
 この決定について、次のような報道がされています。

「知的財産推進計画」決定 休眠特許の活用が柱(NHK)
 ・・・特許などの知的財産を地方でのビジネスの創出や拡大に結びつけることが重要だと指摘しています。
 そして、▽大企業や大学などが保有しているものの使われていない、いわゆる「休眠特許」を中小企業が活用できる新たな仕組みを作るとともに、▽都市部の専門家を地方に配置し、中小企業が知的財産を活用できるようにするための支援体制を強化するとしています。・・・


大企業などの特許、地方中小の活用後押し 政府が推進計画(日本経済新聞)
 ・・・各地の自治体などに企業経営の経験者らを配置し、大企業や大学などが使わない「休眠特許」の中小企業の活用を促す。自治体や中小企業支援団体は、専門家の配置に財政的な支援を行う。
 国内では現在、登録されている特許全体の半分に当たる約70万件が利用されていない。保有する特許の実施率を見ると、中小企業の66%に比べ、大企業は35%と低い。・・・


 この計画策定のために設けられた「地方における知財活用の促進」タスクフォースに出席していたこともあり、少しでも誤解を解消できればということで書いておきますが(NHKや日経の報道に対して焼け石に水もいいところですが...)、知的財産推進計画2015の重点3本柱の1つである「地方における知財活用の促進」において、「休眠特許の活用」は柱にはなっていません。知的財産推進計画2015の本文を読んでいただければわかるとおり、「休眠特許」という概念すらどこにも出てこず、これらの報道は誤解に基づくものです。
 知的財産推進計画2015の5p.〜6p.には、「大企業が保有する知的財産を中小企業に開放し、それを活用して中小企業の新たな事業の創出につなげていく『知財ビジネスマッチング』」が紹介され、8p.には「大企業の知財活用については、知財活用途上型の中小企業が次なる一歩を踏み出すために必要な気付きと知恵を与えてくれる機会になることに鑑み、大企業が知的財産を開放して産産連携に積極的に参加するよう後押しをするなどの支援基盤の整備が求められる」と書かれていますが、ここに明らかにされているのは、大企業に特許技術の開放を促して、中小企業の知財活用を加速させようという問題意識です。その特許技術が「休眠」しているかどうかは問題ではありません。「開放」されているかどうかです。実際、知財ビジネスマッチングで先行している川崎市や近畿経済産業局の取組みでも、休眠していない、他でも利用されている特許技術の活用事例が多いと聞いています。
 あくまで政策的な目標は、「地方創生の観点からも、地域中小企業がその持てる力を発揮するため、知的財産を創造し、活用していくサイクルを再構築していくこと」にあり、主役となるのは地域の中小企業です。以前から日経は「大企業の特許実施率が低い→休眠特許を活用すべし」といった文脈が好きなようで、知的財産推進計画には全く書いていないことを思い込みで記事にしていますが、大企業の遊休資産活用が政策的なテーマというわけではないので、中小企業に「休眠特許の活用」を促す理由はありません。中小企業の立場から見ると、大企業の特許技術の活用は、多くの場合は開発プロセスのショートカットや信用力の強化、PR効果に期待したいわけであって、実用レベルにあるかどうかが明らかでない「休眠特許」より、すでに他でも利用されている特許技術のほうが導入しやすいはずです。そのあたりはちゃんと議論した上で、今回の知的財産推進計画が作成されていることをご理解いただけると有難いです。

 なお、「地方における知財活用の促進」のテーマで議論された中小企業の知財活用については、これまでは画一的に論じられることが多かった中小企業を、知財活用の状況から「知財活用挑戦型」(グローバルニッチトップのような先進的な知財活用企業)と「知財活用途上型」(下請け型など知財権取得の必要性が生じにくかった企業)の2つのタイプに区分し、施策の方向性を分けて検討していることが今回の大きな特徴です。前者については、これまでも検討されてきたような先進的な知財戦略をサポートする施策が、後者については様々な方法で意識啓発の機会を設ける施策が必要であり、大企業が開放している特許技術を導入して新規事業に取り組む「知財ビジネスマッチング」は、後者の施策の一つという位置付けになります。

<参考エントリ> 活かすべきは「休眠特許」ではなく「開放特許」
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「中小・ベンチャー企業の知的財産活動に対する支援と課題」の一部をご紹介

2015-06-18 | 知財一般
 先週の話になりますが、6月10日・11日の特許ニュースに、座談会「中小・ベンチャー企業の知的財産活動に対する支援と課題」が掲載されました。
 元キヤノンの丸島先生、弁護士の林先生、特許庁普及支援課長の松下様と、中小企業向けの支援施策を中心にしながらも、約3時間の議論では知財に直接関係しないテーマにも話題が広がりました。断片的になってしまいますが、以下に私の発言の一部を紹介させていただきます。

<中小企業支援施策について>
施策を論ずるときには「中小企業」を全部一まとめにしてしまっていることが多いですが、その中には世界最先端の商品を持って、いわゆるグローバル・ニッチトップで、世界トップシェアを巡って争っているような中小企業もある。こういう中小企業に対しては、先端の知財戦略とかマネジメント・システムを提供してサポートをしていくという支援が必要なのはそのとおりです。
 しかし、世の中の大半の中小企業はそうではないです。下請けでずっと仕事をしているけれども親会社が海外に行ってしまってどうしようとか、特にこれといった特徴はないけど地域で地道に仕事を引き受けて成り立っているとか・・・そういう会社に、オープン・クローズ戦略とか、海外での模倣対策とか言っても、ほとんどの会社はピンとこないです。
 ですから、世界で戦っていくグローバル・ニッチトップになるような中小企業と、地道な仕事で地域経済を支えているような中小企業は分けて議論しなきゃいけないと思うのです。


※ 以前に「地域密着型中小企業の広義の知財活用促進について」のエントリにも書いたとおり、グローバルニッチトップ型の中小企業のみを念頭に置いて、知財活用→競合他社を排除→積極的な知財権行使、と直線的に決めつけるのではなく、中小企業の多様性を考慮した施策が必要と思います。

<米国とのベンチャー投資環境の相違について>
私も4年ほど投資を担当しましたけれども、ベンチャーキャピタル側からしてみると、買ってくれる人がいないベンチャーの株に投資しても商売が成り立たないわけです。日本もアメリカみたいにベンチャーに思い切ってお金を出せるようにするためには、ベンチャーが大事だと言う人は、他人事みたいに言ってないで、マザーズやジャスダックに上場しているベンチャー企業の株を買ってください。買ってくれる人たちがいれば、ベンチャーキャピタルだって売れるものは仕込む、つまりベンチャー企業に積極的に投資するようになります。

※ ベンチャーファイナンスの経験を踏まえての持論なのですが、ベンチャーを知るには自ら投資してみるのが一番。上場企業の中にも「ベンチャー」はたくさん存在しています。

<金融機関と連携した知財支援について>
どうしても我々は知財の方にいるから、知財があるのだから銀行も理解してよ、という流れで話をしているのですけれども、銀行には銀行の立場があるわけですから、何で知財を見るのよ、見てどんなメリットがあるのよと、彼らのしたいことを考えることも大事だと思うのです。
 いま銀行は何がやりたいかと言ったら・・・顧客との関係強化に知財がうまく使えるというのを示せば、彼らにしてみれば使う意味が出てくる。


※ このテーマに限った話ではありませんが、一方のニーズや社会的意義だけで物事はなかなか動きません。知財と金融の融合を実現するためには、金融側のニーズにもどらだけ応えられるかがキーになると思います。

<行政へのお願い>
この業界にも勉強したことを現場で活かす機会が不足していてうずうずしている若い人がいると思うので、その人たちが実際に企業に接して・・・機会を、行政として作っていっていただければと思います。これは乱暴な言い方ですけれども、支援メニューのこれがいい、あれがいいというのは実はそんなに大きな問題じゃなくて、いろんな人が現場の経験を積めるようなきっかけを行政の方が作ってくだされば、そこで人が育っていけば、それが一番効果として大きいのじゃないかなというふうに思っています。

※ 中小企業の多様性を理解することは重要ですが、だからといってそれぞれの性質やニーズに応じた支援メニューを設けるといっても限界があることは否めません。結局のところ、その隙間は人の力で埋めていくしかないので、支援メニュー以上に人材が鍵になるのではないでしょうか。
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知財と融資の相性

2015-06-02 | 知的財産と金融
 特許庁が進めている知財金融促進事業について、次のような記事が掲載されていました。
 【生かせ!知財ビジネス】特許庁・知財金融促進事業(下) 迫られる業務・システムの転換
 この事業は調査会社が作成した中小企業への融資審査等に活用する「知財ビジネス評価書」を金融機関に提供するというものですが、記事ではその課題について次のように述べられています。
「課題になるのは評価書の作成コスト。事業関係者の話では1件20万〜30万円前後。調査機関関係者からは『手間がかかる割に安い』との声も出ているが、1,000万円の融資なら金利2、3%にも相当する。」
 知財と融資の相性を考えた場合、一番の問題はこのコストではないかと考えています。

 何度か話題になっては消えということを繰り返してきた知財担保融資について、その課題を「価値評価が難しい」だけで片付けられてしまうことが多いですが、特に中小企業向けの融資に知財担保融資を活用することを考えた場合、より本質的な問題は評価コストにあります。仮に精度の高い価値評価手法が確立されたとしても、その評価コストが融資の利鞘に収まるものでなければ、経済合理性から考えてその活用が進むはずがありません。「知財ビジネス評価書」についても本質は同じで、記事にも述べられているように、現在は公的事業なので無料ですが、民間ベースで自立的に取組むことを想定した場合には、評価書の作成コストが大きな問題になるはずです。
 銀行等の融資業務は、貸出金利と調達金利の差である預貸金利鞘によって成り立っています。この利鞘がどれくらいかというと、全銀協の昨年度中間決算の統計では0.33%となっています。この数字には利鞘をとりにくい大企業向けの融資も含まれているので、中小企業向けに限ればもう少し高くなるとは思いますが、先の記事の「1,000万円の融資なら金利2、3%にも相当」というのは、1,000万円の融資によって銀行が1年間に得られる利益の10倍近くに相当する、という計算になるのです。
 金利2、3%という計算は年利で換算しているので、1件の評価書で2年間融資を継続すれば半分に低下することになりますが、それでもこういった評価書を外部に依頼すれば銀行の利益が全て吹っ飛んでしまうことになるのは明らかです。
 記事にはフォーマットの共有等によってコストを下げる方向性が示されていますが、知財の分析・評価は個別性の高いものであり、その低減効果には限界があるでしょう。しかも、これで融資審査の全てが完結するわけではなく、提供される情報はあくまで融資判断に用いる情報の一部です。

 これはなにも今回の「知財ビジネス評価書」に限ったことではありません。前述のとおり知財担保融資にも共通する課題です。知的資産経営報告書についても、あまり普及が進まないのは同様の理由が大きいのではないでしょうか。
 さらに、中小企業向けの新たな融資手法として知財担保等以上に期待されてきたABLですら、特に在庫担保融資はほとんど広がりを見せていない状況にありますが、これも在庫の把握や評価にかかるコストが融資の利鞘ではとてもカバーできないことが、普及の大きな障害になっているそうです。
 こうした構造的な課題になんらかの道筋をつけておかないと、評価書の質の向上やその意義を解くことに努めるだけでは、技術に走って顧客ニーズと乖離...というどこかで聞いたことがあるような話になってしまいかねません。

 こうした課題をクリアする方向性として考えられるのは、
(1) 融資のロットを増やす
(2) 貸出先(顧客)に負担してもらう
(3) 外部に評価を依頼するのではなく銀行内部で評価を行う
(4) 利鞘以外の付加価値を見出す
といったところですが(市場金利が上昇すれば利鞘も拡大しやすいので金利が上昇するまで待つ、なんてことも考えられなくはないですが...)、中小企業向け融資を前提とする限り、(1)には限界があります。(2)についても、貸出先側で融資を受けた資金でどのくらいの利益を生めるかを考えた場合(1,000万円の融資なら1,000万円に対して20〜30万円が高いかどうかではなく、1,000万円の資金を投下して得られる利益に対して20〜30万円が高いかどうかを考える必要があります)、日本企業のROA(総資本利益率)の平均値が数%の水準で推移していることを考えると、調達資金の2-3%が極めて重い負担となることは否めません。そうすると、将来の方向性としては(3)か(4)しか考えにくいことになります。
 結局のところ、個別性・専門性が高くて調査や分析にコストがかかる知財と、限られた利鞘で実行しなければならない融資、特にロットが比較的小さく利幅の絶対額が少ない中小企業向けの融資は、本質的にあまり相性が良くありません。一方で、中小企業との幅広いネットワークを持ち、その実情もよく把握している地域金融機関は、中小企業が知財活動で経営基盤の強化に取り組むきっかけを与える役割の担い手として適任でもあり、「融資」に限定するのではなく、「知財と地域金融機関」であれば相性は悪くないはずです。
 つまり、中小企業の知財活動の強化における地域金融機関の役割というテーマでは、どうしても「金融機関=融資」と結びつけてしまいがちですが、「融資」の呪縛から離れて考えてみることも必要なのではないでしょうか。
 外部の専門家が高度な分析をして融資判断に活用するレポートを提供するという将来像ではなく、銀行内部で使える簡易化された知財のチェックモデルを開発して、中小企業との対話の材料や経営支援の切り口の多様化に活かす、といったところに目標を定めるのがより現実的ではないか、というのが地域金融機関の知財への関わり方の将来像に関する私見です。
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「地域密着型中小企業」の「広義の知財活用」促進について

2015-04-26 | 知財一般
 2月に設置された知的財産戦略本部の「地方における知財活用促進タスクフォース」に、委員として参加させていただいています。第1回の「中小企業による大企業の知財の活用促進」、第2回の「産学連携における大学の知財の活用促進」に続き、第3回は「地方中小企業による知財の活用促進」がテーマとなりました。
 この会議では、中小企業の知財活用について議論する場合、少なくとも2つのレイヤーに分けて考えるべきだ、ということがコンセンサスとなってきましたが、おそらくこの点は議論を整理する上での重要なポイントになるはずです。

 中小企業に知財活用を促す施策(もちろん知財活用自体が目的ではないので、知財活用という手段によって中小企業を活性化する施策、が正確なところですが)について議論すると、よく出てくるのが「中小企業が特許を取得しても、使えないことが多い。なぜならば、1件や2件の特許では大手に対抗できないことが多いし、訴訟をするにはコストがかかる。勝訴しても日本では大した損害賠償額は得られないから、こんな状況では特許をとる意味がない」といった意見です。もちろんそういう側面があるのも事実ですが、それが問題の本質であるかのように言われると、個人的には以下の2つの理由から違和感を覚えることが否めません。

 1つめは、こうした意見が、特許権は競合他社を排除するために活用できなければ意味がない、という考え方に固執しているということです。
 こうした意見では、前提となる中小企業に、自社の独自技術を活かした製品で市場を独占する、いわゆるグローバルニッチトップの中小企業がイメージされていると思いますが、現実に目を移すと、そういった中小企業は全体のほんの一部でしかありません。大多数の中小企業(ここでは規制に依存して生き残る特徴のない中小企業やペーパーカンパニーは除き、広義の「知的財産」に関連する中小企業に限定します)はそうしたモデルで事業を展開するのではなく、地域をベースに様々なニーズに対応したものづくりやサービスの提供に努めているというタイプの企業です。訴訟コストだ、損賠賠償額だと言われてもピンとこず、知的財産なんて当社には関係ない話だ、と感じてしまうことでしょう。
 やはりここは、グローバルニッチトップを狙う先鋭的な「海外市場展開型中小企業」と、地域のニーズにしっかり応えて実績を積み上げていく「地域密着型中小企業」に区分して、知財活用のための課題と対策を整理していかないと、特定のレイヤーにしか響かない施策ばかりになってしまいかねません。

 2つめは、先に示したような意見では、「知財≒特許」「知財活用≒特許権の行使やライセンス」のように、狭義の「知財」「知財活用」が前提になっているということです。
 詳しくは以前に「一番必要なのは『知的財産』の意味の社会的なコンセンサスを形成することではないか」のエントリにも書きましたが、知的財産基本法にも明記されているとおり、特許権などの知的財産権そのものが「知財(知的財産)」ということではなく、その対象になる発明や考案、さらには技術情報や営業情報など、幅広くその企業に蓄積されている独自の知的資産が、活用の対象となる「知財(知的財産)」であるはずです。例えば、属人的なノウハウを見える化して社内で共有することにより社員のレベルアップを図るというように、その企業ならではの強みをうまく引き出して事業に活かせれば、それも立派な「知財活用」です。先日の日刊工業新聞に掲載いただいた「中小企業の底力・特許の力で引き出そう」のコラムも、そうした「知財活用」について述べたものです。
 こうした広義の「知的財産」の活用を促進する施策についても考えていかないと、特に前述の「地域密着型中小企業」にも訴求して、知財活用の裾野を広げていくことにはつながらないでしょう。

 といったことから、タスクフォースの第3回ではあれこれ意見を述べさせていただきましたが、今後も「地域密着型中小企業」の「広義の知財活用」促進のためのプロジェクトには、積極的に関わらせていただきたいと思っています。
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