経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

「ノウハウ」管理の前さばき

2015-10-28 | 企業経営と知的財産
 知財の世界で「ノウハウ」というと、「ノウハウ=営業秘密」という前提で、技術流出をどのように防ぐかという文脈で語られることがほとんどではないかと思います。
 一方で、中小企業関連の仕事でノウハウが話題になると、そのストーリーでは話がかみ合わなくなることがあります。「ノウハウ」に関する問題意識が、技術流出ではなく、「Aさんの仕事のやり方(ノウハウ)を、Bさんにも真似てほしい」「Cさんの優れた手法(ノウハウ)を多くの社員に広めて、会社全体のレベルアップを図りたい」といったところにあるようなケースです。
 
 こうした食い違いは、「知財(法律)用語としてのノウハウ」と「社会通念上のノウハウ」が必ずしも一致しないことによって生じるのではないでしょうか。
 goo辞書で検索しても、「ノウハウ」には次の2つの意味があると説明されています。
1. ある専門的な技術やその蓄積のこと。
2. 技術競争の有力な手段となり得る情報・経験。また、それらを秘密にしておくこと。
 1.が「社会通念上のノウハウ」、2.が「知財(法律)用語としてのノウハウ」です。
 そうすると、はじめから「営業秘密」を対象にするコンセンサスができているのであれば、「ノウハウ=営業秘密」という前提で、技術流出という課題にどのように対処するかを検討していけばよいのですが、そういうコンセンサスがない状態で「『ノウハウ』について考えましょう」といった場合には、「社会通念上のノウハウ」を前提にした各々の企業が抱えている課題の整理が必要になってくると考えられます。その流れを簡単な図にして整理してみました。
 整理の軸は、「社会通念上のノウハウ=専門的な技術やその蓄積」について、「模倣リスクが懸念されるか」「社内での積極活用が求められているか」の2つです。
 模倣リスクが懸念され、多くの社員が情報を共有するニーズには乏しいのであれば、営業秘密としてしっかりと管理する方策を検討すればよいことになります。
 逆に、模倣リスクはあまり懸念されず、社内での情報共有・積極的な活用が求められている場合には、厳格な秘密管理は利用促進の妨げになるおそれもあり、異なる観点での対応策を考えていかなければいけません。模倣リスクがあまり懸念されない理由には、(1)ノウハウが絶えず進化している、(2)一部のノウハウだけ真似ても効果がない、(3)企業の信用力とセットで価値がある、(4)コア技術が特許化されている、といったパターンが考えられますが、特にサービスエンジニアリングを含めたサービス業の領域では、いわゆる営業秘密としての管理より、情報共有システムなどのノウハウ管理(「ノウハウ活用」というほうが適切かもしれません)を求められるケースが少なくないものと思われます。
 難しいのは、模倣リスクへの対策と利用促進のニーズが重なり合う領域で、情報の種類や利用形態などに応じた管理方法や、利用のインセンティブなどを個別に考えていかなければいけません。

 尤も、いずれのケースにも共通するのは、(社会通念上)のノウハウが漠然とした状態では扱いようがないので、ノウハウが形式知として「見える化」されている必要があるということです。「見える化」を第一歩として、模倣リスクと活用ニーズの両面から取り組むべき課題を認識し、管理方法の基本方針を確認する、といったプロセスが、「ノウハウ」管理の前さばきとして必要になるのではないでしょうか。