副題に「誤った地球温暖化論に惑わされないために」とあるように、本書は地球温暖化問題の科学的根拠を提供しているパリ国際気候変動パネル(IPCC)の報告およびそれに乗っかった報道活動を科学者の立場から批判した本です。
著者の赤祖父俊一氏はオーロラ研究の第一人者であり、1986年から1999年にわたり、米国唯一の総合的北極圏研究の拠点であるアラスカ大学地球物理研究所の所長、2000年から2007年までは日米の協力で荒らすか大学に創設された国際北極圏研究センターの所長として地球温暖化問題を含む北極圏の地球科学全般の総合研究を指導してきた人です(そして地球温暖化問題について米上院で専門家として議会証言もしています) 。
著者の主張は
現在進行中の温暖化の大部分(約6分の5)は地球の自然変動であり、人類活動により放出された炭酸ガスの温室効果によるのはわずか約6分の1程度である可能性が高い
というものです。
本書では、地球の気温上昇(それに伴う氷河の後退や海面上昇)は1800年頃から連続して起こっており、Co2の排出が急速に増加した1946年以降に起こったものではない。気候変動は「常に」起きており、現在でも温暖化の顕著な場所もあれば逆に寒冷化している場所もあり、しかもそのサイクルは数十年単位で変動している、(海面について言えばここ30年は下降している)といういことを具体的な例を挙げながら説明しています。
そして、IPCCの報告書の曖昧さ(非科学性)とそれに乗っかってはやし立てる報道機関を実例を挙げて鋭く批判します。
IPCCの報告書はスーパーコンピューターによるシミュレーションに過度に依存しているため、必要な数値データが得られるここ数十年の変動をベースにしていて長期変動を軽視している。
また、科学者が資金集めをするために研究をアピールすることは仕方ないが、アピールが非常に政治的であり、そもそも厳密に証明されたわけでもないCo2による地球温暖化という仮説について科学的に批判・検証すること自体が非難されるという非科学的な状況にある。
そしてマスコミも不正確な理解のうえにセンセーショナルな報道をしている(アル・ゴアはノーベル平和賞を受賞したのであり「科学賞」でないことに注意)者のアル・ゴアを担ぎ上げ(に乗せられ?)
たとえば氷河の崩壊の映像が温暖化の象徴のように映し出されるが、氷河は常に新しい氷に押し出されて末端は海に落ちていくもので、全く温暖化とは関係ない(確かに氷河が「後退」しているのであれば海に到達しないはずです)。
2040年には海氷がなくなりシロクマが絶滅すると言われているが、海氷は2100年でも十分にあるという研究結果もあり、また、海氷がなくなったとしてもそれは秋までの話で冬には北極海は氷に閉ざされる。そもそもシロクマは海岸域に生息しており北極海の流氷の上で取り残されるものはいたとしてもほんのわずかである(シロクマを心配するなら年間約400頭が原住民により狩猟されていることはなぜ問題にされないのか)
そして筆者は、今地球全体で取り組むべきは、飢饉や水・エネルギーの不足、環境破壊(汚染、過剰な収穫や森林伐採、無責任開発)であり、危険もその効果も明らかでない炭酸ガスに問題を絞るのは誤っていると言います(「エネルギーの無駄を省き化石燃料を子孫に残しましょう」というだけで十分)。
そして、日本の将来にとって重要な問題は日本のエネルギーと食料の確保であると主張します。
各国も批判を浴びたくないというのが本音で、実際は自国の経済発展や安全が第一であり、国家戦略のないまま京都議定書の議長国になる日本はお人よし過ぎる、と見えるといいます。
内容的には各章で重複も多いですし、全編から著者の怒りが伝わってきますが、地球温暖化を考えるには重要な本だと思います。
余談ですが、米国の金融危機により、レバレッジの効いた金融商品を組成して売りさばく商売が成り立たなくなったので次は何で稼ぐ?と日本の金融機関の人に聞いたところ、間髪を入れず
「環境」
という答えが返ってきたそうです。
排出権取引とかを意識しているのでしょう。排出権取引についてはちょっと聞きかじった程度ですが、「そもそも元をたどったときに仕組みを成り立たせている根拠は何よ」と突き詰めていくと、素人的にはサブプライムローンやCDOに近い臭いがします。