先のエントリに47thさんからいただいたコメントや「neon98さんに反論してみる・・・の巻」 を拝見して、私なりに考えてみました。
1.ヤミ金の性格
47thさんは現行法での違法な高利の貸し手(合法な貸手(以下「サラ金」)の返済ができなくなった人に借換えの資金を提供する業者、以下「ヤミ金」)について以下のように指摘します。
私は「取立」という段階では、債務者の返済能力をあえて毀損するような極端な行動はシステマティックではなかろうと思っているのですが、ヤミ金融(上限金利以上で貸す主体)の存在自体は極めて経済合理的(需要に応じた供給サイドの存在)だと思っていますし、その行動原理は基本的にリターンの最大化にあるんだろうと推測しています
ここについては、私は47thさんのエントリへの「な」さんのコメントに同意見で、ヤミ金は期限に元利の返還を受けようというのでなく、デフォルトを前提に、手段の合法非合法を問わず債務者の返済能力を毀損してでも(あるいは毀損することにより)取り立てる(実際にあるのかわかりませんがマグロ漁船とか風俗とかクレジット詐欺とか臓器売買とか。末尾「おまけ1」参照)ビジネスモデルのように思います。
なので、ヤミ金への需要は経済合理性で説明できるにしても、行動原理はサラ金の延長線上での経済合理性では論じられないと思います。
なので、上限金利の議論についてはつぎの2つの視点が必要なのではないでしょうか
①サラ金が社会的に機能する(債務者が「無理なく返済ができる」)ための適正な金利とは?
②サラ金が消費者の資金需要に答え債務者がヤミ金の世界に落ちないためには、上限金利はどの程度が適正か、または上限金利を設けるのがいいのか
2.上限金利の論点
neon98さんがサラ金のビジネスモデルには「親族などによる肩代わり」への期待などがあり、上限金利を上げることは親族などへの被害を拡大する、という指摘に対し47thさんは
neon98さんの問題提起は、こうした(注:自己破産をするというような)レベルでの判断力を欠いてしまった人々を上限金利規制で救済できるかということになりますが、①こうしたレベルでの判断力を欠いてしまっている人々こそ、むしろヤミ金融の餌食になりやすい-つまり上限金利規制による表ルートの遮断は救いにならないか、また、②個人レベルでの支払不能状態は日々の生活に必要な家賃や電気・水道・ガス代、食費などからも生じるのであって、こうした人々に高利金融の途を閉ざすことは単に生活が立ちゆかなくなってしまう時期を早めてしまうだけではないか、という疑問が生じます。
確かに、親族・知り合いに害が及ぶ可能性は低くなるかも知れませんが、ヤミ金融に手を出す確率が高まれば、逆に働く可能性もあります。
と指摘します。
私自身はつなぎ資金の需要であれば従前の上限金利である40%(月3.5%)程度の金利も正当化できると思いますし、そうであれば上限金利はかなり高くても(極端な話)なくてもいい、という考えもありえると思います。
しかし一方、先のエントリへのユーリャさんのコメントにあるように、サラ金も利益を最大化するために、「スポットの資金需要を恒常化」する働きかけを次から次へと仕掛けてくるので、neon98さんの懸念する債務者の被害の拡大のリスクは上限金利が上がるほど増えると思います。
※ そう考えるとスポット貸し出しと継続貸し出し(リボ払いのような)による金利差の設定も有効かもしれませんね。
3.ヤミ金と上限金利
47thさんは「ヤミ金」を「上限金利を上回る金利で貸出す業者(超過金利業者)」という意味で使い、neon98さんは「上限金利を越え、かつ過酷で非合法な取立てをする業者(強圧取立業者)」という意味で使っているように思います。
上限金利を設定しないと「超過金利業者」は存在しないので「強圧取立業者」の問題だけになります。これは行為規制の問題になります。
法定金利内では、ヤミ金融は表の金融業者と競争しなければいけません。同じ金利で借りることができるのなら、借り手は評判の高い表の金融機関の下に向かいま す。裏の金融機関は苛酷な取立を行うことで期待回収率を高めることができるかも知れませんが、上述の堂下論文で触れられているように苛酷な取立手法は摘発リスクを高めます。
さらにこの場合は47thさんのいう「レモン」の問題(末尾「おまけ2」参照)が発生します。
借り換えという行動が融資時点での信用リスクに関する情報の非対称性(レモンの問題)を解消している可能性を考慮しないと、結局、借入コストの上昇を招くのではないかという気もしています。
つまり借換えに際し情報の非対称性があり、しかも次の貸手が強圧的な取立ができない場合には、ババをつかまされるリスクを反映して借換えごとに金利が上がってしまい、やはりneon98さんの懸念のように「限界まで引っ張った挙句の破綻」が増える可能性があります。
一方で上限を設定すると、合法なサラ金が上限内でリスクを許容できる資金需要に応じるには限界があり、破綻を早めてしまうことになるかもしれません。
さらに、破綻を避けるために超過金利業者に頼る人が増え、しかも超過金利業者はそれ自体が非合法なの当然のように強圧取立業者でもあるため、上限の設定が資金需要者を過酷な状況に追いやることになる可能性があります(これを「自己責任」と整理する考え方もあるでしょうが)。
そうなると取立規制以外に消費者教育とか勧誘規制というのが大事になってくるといういわば当たり前のまとめになってしまいましたw
考えていくうちに「発散」してしまうのはいつものことですが、47thさんとneon98さんという法律家が、法律と経済のそれぞれに立ち位置をとっての議論を楽しく見物させていただいた人間の野次ということでご容赦を。
<おまけ1:ヤミ金の取立>
消費者金融でなく知り合いの買取屋さんに聞いた自動車担保融資の話です。
もう10年以上前のことですが、買取屋さんに自動車金融屋さんが査定を依頼に来ました。
対象は融資の担保に取ったベンツのSクラス。
高年式だったのでエンド価格700万くらいだったので若干ネゴ代を見て500万を提示したところ、その場で「いいよ、じゃ持ってって」と言われた。
車には所有権留保もついていなかったので買うこと自体は問題ないのだけど、借りた人が返済したらまずいじゃないかと思い
買取屋 「売っちゃっていいんですか?」
金融屋 「いいんだよ、俺300万しか貸してないから200万儲かるし」
買取屋 「そうじゃなくて、借りた金返してきたらまずいんじゃない?」
金融屋 「あぶく銭でSクラス買ったんだろうが、困ってるなら車売れば500万になるのに見栄張って車売らずに高利で300万も引っ張るような奴は絶対返せないから。それに、俺、万が一返しに来たても電話出ないし事務所なんてないから」
というような世界なんだそうです。
ヤミ金も回収不能になることもあるでしょうが、取れる人からは思いっきり超過利潤を得ているわけですね。
<おまけ2:「レモン」問題>
「レモン」とは俗語で中古の欠陥車のことを言います(語源はスロットマシーンでレモンが出ると当たりがない、というところから来ているとか(リーダース英和辞典))
複数の中古車の中にレモンが混じっているとすると、欠陥がわかる業者は欠陥を承知で安く仕入れたレモンから売りつけようとする。一方買い手は欠陥車かどうかはわからないので、レモンが混じっていることを前提に値付けより安くしか買おうとしない。
そうなると業者は下落後の価格でもペイするようなより価値のないレモンを仕入れて売ろうとし・・・という循環が起こる。
すなわち、情報の非対象性がある市場で起こりうる縮小均衡のことを「レモン」問題といいます。
詳しくはこちらの冒頭参照