一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

イラクの選挙の「成功」

2005-02-01 | 余計なひとこと
イラクの国民議会選挙が無事(でもないが)行われた。

これが「民主化の象徴」なのか、「アメリカ支配の象徴」なのかいろいろ議論はあるようだが
そもそも選挙の「成功」って何だろう?


投票率は60%というが、これを失敗とするなら日本の選挙はほとんど失敗ということになる。
国政選挙で、爆弾テロの心配もなくても60%前後なんだから・・・


きちんと集計できるか、という意味では、ウクライナ以上でフロリダ州と同程度、というのが最低ラインなんだろうか?


また、スンニ派は投票をボイコットした、とか、立候補者がアメリカの息のかかった者ばかりだ。つまり、議員が民意を正当に代表していないという批判もある。
しかし、当のアメリカ自体、外交政策を決定する上院の半数は、人口のたった16%によって選出されている。(ポール・クルーグマン「嘘つき大統領のデタラメ経済」p197)
これは、各州から2名という上院議員の選出方法に起因しているのだが、アメリカは民主主義の国と言う事になっている。
ならイラクも、シーア派地区、スンニ派地区、クルド人地区と連邦制をひいてもおかしくないはず。
けど、象徴的に選挙を実施したかったので全国区にしたんだろう(または、石油利権のからみとか?)


同様に、全国区にしたせいで、フセイン政権のときに権勢を振るっていた少数派のスンニ派が不利になる、いわば「多数の横暴」という意見もある。
でも、中国では新疆ウイグル自治区において1949年に4%だった漢民族が現在は41%にもなっていて、実際は少数民族の自治が実現されていない(「中国権力者たちの身上調書」p270)が、建前上は「自治区」ということになっている。(もっともここでの宗教弾圧・人権問題については国際的には批判はあるようだ。)


またまた、日本の「自主憲法」制定論者たちは、アメリカ主導の制度設計に、異を唱えているんだろうか?



結局、選挙はスタートで、ここからどんな国を作っていくのかはイラクの人々の考え方次第。たとえば「イラク国」という一つの国でなく分裂するとしても、それはそれでいいんじゃないかと思う。
そのときに「中東情勢の安定化」を主張したとしたら、それは誰にとっての安定化なんだろうか、というのを考え直すべきだと思う。

万が一イラクの一部が分離してイランと併合したりしたら、またアメリカはカンカンに怒るんだろうけど、もともと50の地域が寄り集まって経済圏や軍事力の行使をする集合体がアメリカ合衆国なんだから、他人のことは言えた義理ではないと思うんだけどなぁ。


国家とか民主主義とは何か、多様性や自分と異なる文化を認めること、について考えるいい機会なのではないだろうか。




嘘つき大統領のデタラメ経済

早川書房

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この本はタイトルは軽いし、元がNYタイムズのエッセイなので筆致も軽いが、さすがクルーグマン博士、言う事は筋が通っている


中国権力者たちの身上調書―秘密文書が暴いた処世術・人脈・将来性

阪急コミュニケーションズ

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<参考>

日本の選挙―何を変えれば政治が変わるのか

中央公論新社

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小選挙区制や比例代表制などの選挙制度の思想的背景とそれらが実際に「代表を選ぶ」にあたっての長所と短所を理論的に整理している。
比例代表制が導入されたときに多数政党に有利だと野党が反撥したが、それは比例代表制自体の問題でなく議席配分方法の設計の問題だ、など、勉強になることが沢山。
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