“気をつけなさい、秀幸。 あいつは、女を引き寄せるわよ?”
恋人の冴子の言葉が脳裏に浮かぶ。何も考えられず、ぐるぐるとそのセリフが駆け回る。目の前には、棒立ちの妹・・・。
なんで香がここにいるんだ?と、疑問すら沸かない。何故か、ここにいるのが当然のような気がして。目を背けていた現実が現れただけだ。驚くことじゃない。ただ、動揺はしている。香も。
獠がのっそり動き出して、オレは我に返った。獠はオレと香の間に転がった三つのリンゴを拾ってる。
しかし・・・。
『おい!! 獠!!! そんなカッコであるくな!!!』
獠のヤツは、身に着けているのはトランクスと肩に巻いた包帯だけ。おまけに左手はトランクスの脇に突っ込んでるから少しかがめば中身が見える。 たのむからやめてくれ。 ・・・と思った瞬間・・・
--- コトン---
ヤツのトランクスの左の裾から、小箱が落ちる。香の視線も小箱に向けられた。 本当に頼むからやめてくれ。本当に。獠に非がないのは分かっているが・・・。そんなモノ、ダイニングに持ち込むから・・・。
『あ・・・』
右手にリンゴを三個、左腕はトランクスにつっこんだままの獠がバツの悪そうな苦笑いをして箱を拾う。
更に、香を見てニヤリとする。
『あー、これね香ちゃん、サックなのよ、サック♡ パイソンに砂とか入らねえように銃口に被せとくの♪』
たしかに戦場なんかじゃ、そういう使い道もあるだろうが、新宿でそんな使い道するか、ボケ!、と心の中で突っ込む。最近の高校生は、経験あろうがなかろうが、この衛生用品の使い方を知らない訳がない。
でも。
獠なりに、不器用な心遣いなのか。
仕方なく、オレは空気を戻すために、香にまっとうな質問をした。
『香、どうしておまえ、こんな所にきているんだ?』
香が、獠が撃たれたあの日の早朝、オレをつけてここに来たことを話す。しどろもどろに弁解する香を見ながら、予感がした。
---これから、俺たち三人のストーリーーが始まるんじゃないか---って。
«続»