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ガラスの御伽噺

ガラスの仮面、シティ-ハンタ-(RK)、AHの小説、BF
時代考証はゼロ
原作等とは一切関係ございません

プレゼント

2024-04-08 21:20:32 | シティーハンター
 『・・・なんすか、これ。 教授。 』

不機嫌な獠がふんぞりかえって座ると、重そうに古いソファが軋んだ。

 『見てわからんのか? 獠。 』

かずえが入れた緑茶をすすりながら、サラリと教授は答える。

見事な日本庭園が、開け放たれた窓の外に広がるココは、教授の屋敷だ。

今日は、3月31日。
桜が咲き始め、特に日当たりのよい場所の桜は見事に咲き誇る。

ソファテーブルには、薄い書類や、厚いバインダーが置いてある。
正面に座る教授は、湯飲み茶わんを両手で持ったまま、慈しむように獠を見ていた。

獠は、仕方なく、書類やバインダーを手に取る。
なんだって、こんな意味深な日に呼び出して、意味深な書類を提示してくるのか。

今日は、香の誕生日で、同時に彼女の兄・槇村秀幸の命日だ。

秀幸の墓参りに行くのが毎年恒例で、今日も午後には香と二人で行く。
なのに、朝っぱらから突然呼び出され、今は教授邸の応接室で意味深な書類を挟んで教授と対峙中である。

『簡単に用意できるシロモノでないぞ? 納税記録や、株式売買の記録、転居履歴付の戸籍謄本に住民票、歯医者の通院歴に保険証の使用履歴。 どうじゃ、さも健康的で、ろくに仕事をしない、せこい資産家のような精巧な書類じゃろう? 』

そう、教授が獠を呼んだのは、この書類を渡す為である。
戸籍のない獠が、あたかも普通の家庭で生まれたように、戸籍だけでなく、存在を証明できるよう数々の細工をしたのだ。

『なんですか? その、せこい資産家、って? 』

獠も薄々、教授が自分の為に戸籍を用意したのは感づいていたが、ここまで細かい細工がされているのは流石に驚きで。
苦笑いが、更に引きつった。

『当然じゃろう。 会社員や、公務員は、柄じゃなかろうし、放蕩ドラ息子の設定が適任じゃわい。 』

ほっほっほっ、と笑う教授に、バインダーの中を見ていた獠は、やれやれ、と息を吐いた。

『おまえさんの自由に使うがよい。 たまたま、今日が香くんの誕生日だっただけだ。 』

再び緑茶をすする教授は、どう考えても確信犯だ。
そして、教授邸に付いた時から、感じていたのだが・・・。

『何分、ここまで状況証拠を固めるのも大変でのう。 ミックには、ダークサイトで随分動いてもらったわい。』

“・・・やはり” と獠は思う。この屋敷にミックの気配がする上に、今はどうもドアを隔てた廊下にいるようだ。
何でも面白る上に、面倒くさいミックに知られたどころか、協力者とは・・・。
まるで進展しない俺たちを、ミックが面白がっているのは一目瞭然だ。

『何も獠、お前の為だけでもないぞ。 ミックのやつも、香くんの為ならと、引き受けてきれたんじゃよ。 』
ニコニコと教授は続ける。
通院歴やら、保険証のあたりは、かずえも参戦したのであろう。
女性らしい発想だ。

昨秋、奥多摩の湖畔で香に想いをつげた。
でも、香はクロイツ兵に撃たれて重傷を負った美樹の看病に、キャッツの店番、たまに入ってくるXYZの依頼で冴羽商事も忙しくて。
獠が二人の関係を次のステップに進めようにも、うやむやになって、いつの間にやら季節は春になっていた。

“カチッ”

ドアの向こうで、ライターの着火音がする。
気配も隠そうとせず、ミックがタバコを吸い始めたのだろう。

問い詰めても、ミックのことだ、 

『オレは、カオリのためにしたたけだ! オマエは関係ないもんね! 』

こんな返答が来るのは、分かりきっている。

ミックの気配が消えた。
アパートでは、香が待っている。

獠は仕方なさげに書類とバインダーを掴んだ。

『ま、善処します。 』

教授に背中を向け、バインダーを肩まで上げると、バイバイのサインの代わりにバインダーと書類を振った。
昔の獠ならば、こんな書類に見向きもしないであろうに。

“まぁ、及第点じゃのう”

老人は無愛想な獠の背中に、微笑んだ。

【完】



いま、ここに立つ 1

2023-12-15 16:55:53 | スラム ダンク
プロローグ

待ち合わせ時間まで、あと6分。
師走の東京駅のイルミネーションを見ながら、肩にかけたリュックがずれて落ちそうで、ぐいっと手繰り寄せた。
約束の20分前について、立ちっぱなしだから、結構寒い。
冷えてきた手をコートのポケットに入れた。

赤木晴子 21歳。

現在は都内で一人暮らしをしながら、青山学院大学に通っている。
夜間や、週末は、近隣の中学校のバスケ部の審判やコーチを、ボランティア団体のメンバーとして活動する日々。
バイトはしていないものの、結構いそがしく、充実している。

腕時計を見ると、ちょうど待ち合わせの18:00。
周囲を見回すが、赤毛の彼はまだ来ていない。

もともと、寝坊が得意なたちだから、定時通りに来るとが思っていない。
彼が日本をたって、4年ほど。

あの、表情豊かな彼と会えると思うと、懐かしかった。

********************************************

1993年

『桜木花道!』

湘北バスケ部美人マネージャー、彩子の声だ。手には、ハリセン。
クラスの男子生徒がざわついた。

『彩子さん、どうしたんすか?』

いつもふてぶてしい態度の花道だが、このマネージャーには、どうにも頭が上がらない。
海沿いのリハビリテーション病院から戻り、久しぶりに学校に来て、水戸洋平とクラスで談笑していたのだが、席を立ち、仁王立ちの彩子がいる廊下に出た。

『どうしたもこうしたもないでしょ! 今日から学校に出るの、なんで部に報告しないのよ!』
スパーン!と、説教と同時に、ハリセンが花道の頭を叩く。
久しぶりの感触だ。

『・・・あ~・・・。』

花道は、ぼりぼりと赤毛の頭を掻きながら、首を肩の方にまげて眉を寄せた。
胴には、いまだコルセットを着用しているので、動きづらい。

『今日、五時! 第一会議室! 時間必ず守りなさいよ! 安藤先生から話があるからね!』

なんだかんだ言って、一倍世話のかかる桜木花道は、彩子にとって可愛い後輩だ。
なのに、赤木晴子と文通くらいで、碌々バスケ部に報告も連絡もないので、少しご立腹だ。

今日から学校に出てくる事だって、部活顧問の鈴木が、リハビリテーション病院からの連絡で知った位だし・・・。
彩子にしてみれば、心配かけているんだから、もう少ししおらしく誠意を見せて欲しいのだ。

なのに。
花道はズボンのポケットに両手を突っ込んで、斜めの方角をみて突っ立ている。
因みに。
教室の席についている水戸洋平は、ずっと困ったように笑っているだけ。

もともと、和光中学時代からの、筋金入りの問題児として名高い連中だが、掴みどころがなくて、つい怒ってしまう。

『もーうう、あんたは! どうせ、5時に集合っていっても、遅れてくるんだから! あんたは、4時半集合よ!』

昼休み終了のチャイムと共に、畳み込むと、やっと彩子は自分のクラスに小走り戻っていった。
学年が違うので、上の階だ。
五時限目に遅れないよう急ぐ彩子は、相変わらず真面目である。

花道はヒョイと教室の入り口に頭をぶつけないように、くぐると何でものないように自分の席に着く。

コルセットで固めた背中は、未だ完治には遠かった。

木枯らしの街で  2023年秋の号外編 ※時間軸超破壊。長いだけの駄文です。

2023-11-19 11:00:00 | ガラスの仮面
 強いビル風が、吹き抜けていく。
街路樹の銀杏の葉は散らされ、道を黄金色に色付けていった。

 スモークガラスで外側から見えないようにされた、特別仕様の黒いベルファイア。
走行中の車内の座席で、マヤは流れる景色を見ている。

 深まる秋。
XXXX年 Tokyo 16:55:11 

 西に沈む陽の光は、夕焼けのグラデーションとなり、夜のとばりを導いた。

 いつもマヤを気遣い、時に世話女房のようなマネージャー、竹中は、マヤの斜め後ろの座席で、ラップトップを叩きながら、時折電話で話している。
 今日は、紅天女新春公演の顔合わせ。
無事に終了した事を、大都芸能の北島マヤ・マネジメントチームの上席に報告しているのである。

 大河ドラマ『弓姫』は、社会現象とまで言われ、高視聴率をたたき出すのみでなく、ロケ地やモデルになった地域の聖地巡礼による経済効果、出演俳優のランクアップ、大御所音楽家・坂上龍二によるサウンドトラックアルバムの世界的ヒット、・・・快挙は数え切れず、今やマヤには北島マヤマネジメントチームがついて、全社ならずグループ全体も巻き込んでフォロー体制が築かれている。

 『お疲れ様です、竹中です。』

マネージャーの竹中は早朝からマヤを迎え行き、会見中もスタッフとの打ち合わせや調整、根回しと働きづめであっったが、疲れも見せず淡々と仕事をしている。
マヤへの情の厚さに加え、このスタミナも竹中がマヤのマネージャーに任命された理由の一つだった。
なにせ、当のマヤこそ、芝居にのめり込むと常人ではない集中力でぶっ通しで稽古を続ける、体力お化けで、、、。

 静かに増す夕闇をスモークガラス越しの車窓から眺めていたマヤは、後ろから聞こえてくる竹中の声を聴いている。
一流芸能会社でバリバリ働く竹中の声は、活舌がいいのに穏やかなハスキーボイスで、耳に心地よい。

 最近はまっている、アメリカの海外ドラマに出てくる女性パラリーガルを演じる女優がとても素敵だった。
もし、日本版でドラマ化されたら、ちょうど竹中のような感じだと思う。

 でも、今日はちょっと竹中の声が、上ずっている。
情には厚くも、仕事は冷静な彼女にして珍しい。
マヤが左肩越しに少し振り返ると、竹中は長いストレートヘアを耳にかける仕草で電話していた。
焦ると、髪を耳にかけるのは、彼女の癖なのだが、、、

 『・・・はい、、、』

なんだか歯切れも悪い。
マヤはいつも、竹中を尊重し、彼女の仕事の話に口を突っ込む事もしないし、興味本位で質問する事もしない。
だが、竹中の電話の相手はマヤをマネジメントするチームのマネージャーだ。
マヤに直接ふりかかってくる内容である可能性が高い。
流石に気になった。

 『そうですね、急ですね。明日の21:00からの番組ですね、はい。』

竹中はスケジュールの調整をしているようだが、明日は午前中から立て続けにインタビューや、CM撮影の打ち合わせと、過密スケジュールだ。
確かに、21:00なら体は開くが、それも順調に進めばの話で実際は深夜に及ぶことも多い。
急なオファーが入ったのであろう、調整に苦慮しているようだった。

 『・・はい、スタジオ入りは、遅くても21:00ですね。台本なしで、司会がアナウンサー大江麻紀子さん、・・存じています。WBCのメインキャスターの方ですね。』

マヤの頭の中は、?印である。
WBC、という報道番組名は知っている。世界の政治・経済を主に取り扱う人気報道番組だ。
メインキャスターのアナウンサー大江麻紀子とは、以前インタビューを受けた事もあり、会えば会釈する程度に顔みしりだし、素敵な女性だった印象もある。

話しぶりから察すると、生出演やライブ中継の類のようだが、さすがに今日の明日の話で、確かに急である。
おまけに、そのオファーを受ける事が前提で会話が進んでいるようだ。

 つい、マヤも竹中の話が気になり、振り返ってしまう。
竹中は、マヤと目が合うと、口角は上げつつも、眉をハの字に寄せ、こくびをかしげてマヤに視線を送った。

 『承知しました。5分で折り返し致します。』

竹中は電話を切ったが、あと30分ほどで大都GHDの地下駐車場に入る所まで来ているのに、随分と差し迫っているようで。
スマホから耳を話すと、ため息に近い吐息が竹中の口元から漏れた。

 『? 竹中さん、仕事がはいったの? わたし、何も予定ないし、今晩でも明日でも構わないけど?』
日頃の厳しい稽古や撮影で鍛えられているマヤは、あっけらかんとしている。
何なら、今から走れといわれれば、車を降りて、大都GHDまでランニングしてもいい。
実際、自宅マンションに帰る前に、スポーツジムに行くつもりで、傍らにはスポーツバックまで用意している。
頼もしいマヤの発言に、竹中の表情に笑みが差した。

 これほどの影響力を持つ女優になった今も、自然体のままのマヤは、マネージャーとしても本当にありがたいタレントである。

 『実は、明日ののWBCで、生放送の対談オファーがはいってるの。ただ・・・。対談相手もスケジュールがギリギリで打ち合わせなし、ぶっつけ本番なのよ。』

申し訳なさそうに竹中が言うには、対談相手も突然のオファーで、ギリギリのスケジュール。対談場所はWBCの番組スタジオをそのまま使い、メインキャスターのアナウンサー大江麻紀子が進行役を行うという。稀有なほど優秀なアナウンサーでも、この状況ではタイムキーパーの求める尺で完全収めるのは難しい。
そんなリスクを負いながら、緊急対談が必要なオファー。
一体、相手はだれだというのか。

かの大御所、音楽家・坂上龍二が相手でも、ここまで無茶な番組編成にはしないだろう。
竹中が視線をマヤのスポーツバックに落とす。バックにはスポーツウエアメーカーのロゴが大きく描かれている。

“ニューバランツ”
創立から35年の合衆国のブランドだった。

ブランドに無頓着なマヤが、色がかわいいからと選んだバッグ。
それが何だと言うのか。

竹中は意を決して話した。

『ありがとう、マヤちゃん。急ぎでチームに報告しなくちゃいけなくて、焦っちゃってたわ。』
スマホを握る手に力が入る。
 
『対談相手だけど、極秘で帰国している、野球選手で、大滝翔平、って大リーグの選手なの。この間、大リーグでMVPに選ばれて、毎日彼の報道一色だったでしょう? WBCのスポンサーのニューバランツ日本法人の社長の意向もあって、マヤちゃんと対談させたいんですって。』

ニューバランツ日本法人の社長とは、米国から赴任しているインド系米国人の紳士だった。
紅天女の大ファンで、マヤにとっても恩義あるスポンサーだ。
今や世界的野球選手の大滝翔平氏と、ニューバランツ日本法人の社長ニューバランツ日本法人の社長と揃っては、番組の調整が難航しても、絶対に実現させたい対談なのだろう。

おまけに、大滝翔平氏は28歳で独身。現在25歳マヤとの対談は、日米スーパースターの対談としてだけでなく、勝手なロマンスの憶測が世間を盛り上げる、恰好の組み合わせだ。

流石に鈍感なマヤでも、ニューバランツ日本法人の社長が日本人の反応を面白がって、組み込んだであろう事がうかがえる。
でも、アナウンサー大江麻紀子が司会と進行をしてくれるなら、心配はないように思えた。
それに、なにより、本社から返答をせかされている竹中が板挟みにあって、気の毒である。
恐らく、マヤがOKとなれば、SMSにツイートがでて、明日の緊急対談を世間一般に情報解禁させるのだろう。

あれだけ有名でありがながら、あまりTVなどに顔出しもせず、プライベートに関する情報も少ない大滝翔平氏が異例の緊急対談となれば、ツイートと同時にものすごい反響があるだろうし、相手が今を時めく紅天女の北島マヤとくれば、どれだけか。。。
当面は、ボディーガードもつける事になるだろう。

『え、、と、上手く話す自信はないですけど、大江さん、きっと助けてくれるんですよね? やばかったら、フリップひらひらさせてくださいね? 竹中さん。あはは(;'∀') 』

とても頼りないが、竹中も今はこのマヤの発言にすがるより他ない。
明日は、太いマジックと、スケッチブックを抱えスタジオに入り、マヤから見えやすい位置にスタンバイしたら、臨機応変に手書き指示だ。

 恐らく、対談が公表されると、若い二人がときめいた視線を交差させながら、照れたように話たりとか、そういうのが期待されるんだろうけど、、、

いや、絶対そうである。スポーツ界の頂点に立つ、若き野球選手と、日本の芸能界のトップに躍り出た三角関係の恋の噂が誠しやかにささやかれる若干25歳の女優。

そして、この二人のカップリングに対して、勝手な意見・憶測・希望、或いは絶望のコメントでメディアもSMSもハチの巣をつついたような騒ぎになるのだろう。
でも、竹中の心配は、ちょっと違う。

多分、この件は既に速水真澄DGH会長や、その秘書・水城の耳にも入り一同、同じ心配をしているのだろうが、、、。

明けて翌日。

いよいよ今晩、例の対談である。
が、朝からインタビューに、CM撮りの打ち合わせと押し寄せ、幸か不幸か、碌々世間の反応を伺う時間もない。
周囲も、夕べ解禁された、今晩のWBCでの対談について興味深々な視線を送ってくるものの、何として21:00までにスタジオで涼しい顔でスタンバイしなければならず、スケジュールの鬼の管理人と化した竹中の前に、だれもつけ入る事ができなかった。

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『北島さん、入りまーす!』

結局、マヤと竹中は、ギリギリセーフでWBCの番組スタジオに滑り込んだ、
番組側の期待通り、マヤはメインキャスターのアナウンサー大江麻紀子の隣に座り、番組開始と一緒に、大江を一緒い頭を下げる。

TVカメラが、いつも大江一人にフォーカスする所を、冒頭からマヤと二人TV画面に映るようカメラワークしていった。

マヤは、カメラに視線を向け微笑んでいる。
メインキャスターのアナウンサー大江麻紀子の挨拶が始まった。

『こんばんは。WBCメインキャスターの大江麻紀子です。今晩は、夕べのツイートでご存じの方もおいでかと思いますが、紅天女を継承された女優、北島マヤさんと、大リーグ大滝翔平さんとの生放送対談があります。北島さん、宜しくお願い致します。』

大江がマヤに振る。

『よろしくお願いします』
時間に余裕がない生放送なので、マヤも簡単に挨拶して会釈する。
すぐに、画面はニュース映像に切り替えられ、マヤに退席のサインが出された。

マヤはそっと立ち上がると、スタジオ内の対談スペース近くに移動する。
今晩の対談相手、大滝翔平が既に対談席についていて、互いにかるく頭を下げる。
音がはいらないように、どちらも声はたてられない。マヤも、対談席に座り、進行役の大江が移動するのを待った。

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『そろそろですわね、会長。』

水城は、会長室のTVチャネルをWBCに合わせ、リモコンを真澄のデスクに置いた。
真澄はこの後、2時間後には現地(NY)では早朝にあたる、深夜のネットミーティングが予定に入っている。
NY時間に合わせる為、この時間になるのだ。
ミーティング前の時間、いつもなら簡単なメールチェックや日中できなかった仕事を消化しているのだが、、、

『ああ。・・・こんな緊張は、あの子が筋書きも知らずに舞台に出ていった、夢宴桜、、以来だな。。。』

舞台は役者だけの世界。
そして、今回は生放送中。

眼下に眩い都会の夜景がひろがる、成功者の証のようなDHG会長室で、若き会長と敏腕秘書は、固唾をのんで画面を見守った。

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『お待たせいたしました。大滝翔平選手と、女優の北島マヤさんの、対談の時間です。お二人には本当にお越しくださりありがとうございます。』

マヤと大滝翔平選手の間の席についた大江は、美しい足を優雅に斜めにそろえ、膝に小さいスケッチブックとマジックを乗せている。
いざという時、番組スタッフに送るシグナルを書くためだ。

勿論、竹中は、大きなスケッチブックとマジックをもって、正面から撮っているカメラの脇にスタンバイし、何かあれば手書きフリップでマヤをフォローする作戦である。
そして、大滝翔平氏のマネージャーも何故か、竹中と同じように、大きなスケッチブックとマジックを持ち、竹中の反対側に陣取っていた。

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『いよいよだな。』

真澄がつぶやく。
椅子に座っていられず、思わず立ちあがり、会長室のテレビの前に立った。

マヤは無難に挨拶し、今は通常の報道番組に切り替わっている。
出だしは悪くない。
ちょっと、ぼんやりしている様子ではあるが、落ち着いている。

『・・・竹中は、よくやってくれましたわ・・・』

水城は、真澄の小さなつぶやきも聞き漏らさず、意を汲むように返事をした。

世界的大リーガー大滝翔平の珍しいテレビ出演に、彼女候補にうってつけの若き日本人トップ女優との生出演対談。
夕べ、この情報が解禁されるや否や、ツイートは日本語のみでなく英語やスペイン語に中国語に韓国語・・などなど怒涛の投稿の連続で、このWBCも海外でネット視聴されている。

影響力のあまりの大きさに、大都芸能のみならず大都GHDは大騒ぎだ。

“じつは二人は既によく知った間がらで、婚約のサプライズ発表だ!”
という投稿がバズレば、大都GHDの株価があがり、

“北島マヤの結婚引退で大都芸能の収益予測は下方修正だ!”
という投稿がバズレば、株価が下がる。

海外投資家も情報に踊らされる始末で、手が付けられない乱高下相場だ。
元々、野球に対しストイックで有名な大滝翔平氏は、オフシーズンにプライベートを重視する事も良く知られ、実際彼のプライベートは謎が多い。
これほど有名でありながら、個人的な情報が殆ど出てこないので、今回の対談は国際的なお祭り騒ぎとなっている。

この状況に動じてもしょうがないので、さすがの真澄も今はディフェンス一辺倒で状況を見守るしかない。
自分もスタジオ入りしたい気持ちであったが、大都芸能を離れた身では、その行動で更に憶測を呼ぶ事が懸念され、会長室でただただ心拍数をあげていた。

昔から、マヤをよく知る水城も同様の有様で。

只今、Tokyo 21:18:26

煌めく眼下の摩天楼には目もくれず、会長ち秘書はたったまま、テレビを凝視していた。

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Tokyo 21:20:35

ニュ-バランツの新商品スニーカーと、ザバツのプロテインのCMが終わり、アナウンサー大江麻紀子が画面に映った。
先ほどの報道番組のメインキャスターの顔から、インタビュアーの顔に変わった彼女は、リラックスしたような表情で視聴者に語り掛ける。

『大変、おまたせしました。夕べから、眠れなかったというコメントも沢山届いています。大リーガー大滝翔平選手、紅天女継承女優・北島マヤさんです。』

カメラが引いて、画面に3人が移る。
頭から、つま先まで全写しの画面にには、左から、
大滝翔平、大江、そしてマヤが、白い一人掛けソファにそれぞれ座って並んでいる。

193cmの長身の大滝翔平選手の隣に、身長162cmの大江が座り、右側に身長156cmの小柄なマヤ。

早速、
“北島マヤ、小さっ!” 
“北島マヤ、フィギュアか?”
“リアル1/5の花嫁wwww”
とか、言いたい放題のコメントがツイートや動画にボコボコと湧き出るように投稿されている。

ネットで、『世紀の対談をリアルで観て語ろう』という類のライブ配信動画がいくつもアップされていて、余計騒動に拍車をかけていた。
テレビ画面の3人は、いたって落ち着いて座っているので、どうも世間とのギャップが大きいようだが、、、

『大滝選手、今日は出演ありがとうございます。昨日からネットなどで多くの声があがっていますが、御覧になってますか?』

大江が笑顔で大滝翔平に語り掛けた。
なんとか、大滝翔平の口から、
“憧れのマヤちゃんに会えると思って楽しみにしてました!”、
とか、意味深なコメントを引き出したい所だが、ワイドショーではないので、当たり障りない質問で口火を切る。

『そうですね、LINEで友達から聞きました。』
はにかんだような笑顔で大滝翔平が答える。この瞬間、WBCの視聴率は過去最高を更新した。

『北島さん、新春公演を控えてお忙しい中、出演ありがとうございます。役者さんは元アスリートの方も多いとうかがいますが、北島さん、大滝翔平選手に一言お願いできませんか?』
大江はマヤには、少し積極的に質問を投げる。
マヤと対談するのは2回目という安心感がある。尺時間の節約もあって、若干畳み込んで話を振った。

ただ、やはり、2回目。
大江は、マヤを知らな過ぎた。。。

『えぇと、ニュースで拝見しました。“MBA”おめでとうございます!』
邪気の無い、はにかんだ笑顔で、はっきりとマヤは話す。

TVカメラの隣にいた竹中は真っ青だ。
周りのスタッフが気の毒なくらい青ざめ、スケッチブックに大急ぎでぺんを走らせている。

“MBA→MVP!!”

スケッチブックを掲げ、マヤが気づくようにぴょこぴょこと上下に動かす。
最近海外ドラマにはまっているマヤが、パラリーガル役の女優の字幕セリフ、
“MBAは20歳でとったわ”
がお気に入りで。
ようは、言い間違いである。

竹中のスケッチブックは、大江と大滝にも当然見える。
とても、かっこ悪いが、この小さな女優が言い間違えたのだと、よくわかった。

背筋が凍りつく大江だが、まごまごしている時間はない。生中継だ。
“MBA”の件は、軽くスルーする。

『・・そうですね、世界中が大滝翔平選手の“MVP”二回目の受賞のニュースに沸いていますね。』
マヤの思い切った言い間違いに、大江の笑顔が何気に引きつっている。
だが、さすが看板キャスター。ぐいぐい対談を切り盛りしていく。

『大滝翔平選手、北島さんは、今、日本で注目の若手女優さんですが、それぞれの道を究める同世代として、コメントいただけませんか?』

多少の時間オーバーは、今回の対談は許容される。
しかし、番組最後に必ず流れる株式や為替相場・天気予報の枠だけは、絶対に侵害できないので、直球でコメントを繰り出した。
時間のオーバーも、最悪、放送中、画面下にスポンサー企業名のテロップを表示する事で調整する苦肉の策。
余分な時間はない。

大滝翔平は、マヤの失礼な言い違いに動揺する様子も見せず、変わらない表情で大江の質問を聞いている。
大江にとって、この大滝翔平の対応は、まさに神対応だった。
もう、意味深なコメントが欲しいとか贅沢を求める気はない。
そつなく、波風なければそれで、いい、、、。

だが、、、

『あぁ、そうですね、俳優さんにアスリートの方おおいんですね、、、?? 僕は昔からプロテインをのんでます。北島さんも飲んでますか?』

打ち合わせの時間がなかったといえ、大滝翔平の話し方は、ゆっくり目で、、、。
しかも、この対談を見守っている誰もが期待している方向から、二人の会話はどんどん離れている。

貴重な、もう二度と実現できない、世紀の対談だというのに、対談している北島マヤといい、大滝翔平といい、緊張感があまりにない。
勿論、期待しすぎと言われれば、それまでなのだが。

いくら演劇バカで有名な北島マヤでも、
米国で活躍する大滝翔平でも、

お互いの名前や活躍具合ぐらいは知っていて、もう少し何か感心らしきものがありそうなものだが。
大江の貼り付けたような笑顔に、うっすら涙が滲んで見えるのは、スタジオの強い照明のせいか・・・。

『プロテイン、飲んだことあります。稽古中に、水をのんだら、、、。同じボトルを使っていた役者さんの、間違ってのんじゃんって。いちご味だでした。』

はにかんで答えるマヤは、そこそこ可愛いが、、、。
あまりに内容が薄い二人の対談の会話。
天才キャスターと呼び声の高い大江にすら、盛り上げようにも、薄く散らばってしまった会話を集めて戻す術が見つからない。

大江の脳裏に浮かぶストップウォッチが、残り時間はもう僅かと、ピンチのアラーム警報を鳴らしている。

しかし、、、

 大滝翔平『イチゴ味のプロテインは、水より牛乳で作ると美味しいです』
  マヤ 『牛乳でもいいんですね! その俳優さんは、スポドリで作ってるって言ってました。』
 大滝翔平『それだと、熱中症対策になりますね ^^』
  マヤ 『汗かきますもんね (;'∀') 』

Tokyo 21:29:41

『最近、プロテイン市場、売り上げがが非常に上がっているそうですね! 大滝翔平さん、北島マヤさん、本当に今夜はご出演ありがとうございました。』

持ち時間10分、ギリギリ。
大江は、二人の対談をさも興味深げに聞いている様子を醸し出しつつも、強引にクロージングトークにもっていく。

Tokyo 21:30:04

大江が対談を〆ると、画面が為替や株式相場に切り替わった。
画面の下には、スポンサー企業名のテロップ。

こうして、中身のやたら薄い、世紀の対談が終わる。

*********************************************

Tokyo 21:30:11 大都GHD 会長室

『なんといいましょうか、、予想通りと申しますか、、、』

いつの間にか会長室に入室していた聖は、何も動じる事なく、頼まれていた調査結果書類を真澄のデスクに置くと、真澄と水城にねぎらい(?)の言葉をかける。

『別に、仕方のないことですわ。』
負けじと、水城も同調した。

真澄は、胸ポケットから煙草を取り出すと、1本口にくわえる。
会長室は禁煙だが、聖も水城も見て見ぬふりをした。

そう、仕方ないのだ。
だって、、、。

*********************************************

大滝翔平のマネージャー 『対談お疲れ様です。大変でしたね。』
  大滝翔平      『おふくろが子供の時に読んでたらしいけど、あまりオレしらなくて ^^; 』
大滝翔平のマネージャー 『無理ないです。連載始まったの、1975年12月5日。昭和50年ですから。』
  大滝翔平      『マジ?! おふくろ小学生か中学生だよ、、、』

********************************************

マネージャーの竹中 『マヤちゃん、お疲れ様! なんとか終わってよかったわ(;´∀`)』
  マヤ      『言い間違えたり、ごめんなさい。大リーグって、よく知らなくて、、、』
マネージャーの竹中 『無理ないわ! 2023年の対談だもん。ホントならマヤちゃん61歳のはずだし。』
  マヤ      『え? なに? 竹中さん!』
マネージャーの竹中 『 ・・ごほっごほっ・・・、むせただけよ、、、何でもないわ。』

********************************************

あれから、48年
今も終わらない、幻の名作

ガラスの仮面

登場する者も、読者も、作者も、誰も年を取らない桃源郷だと、人は言う。。。

【完】

 

あ!

2023-11-11 15:57:41 | ひとり言
治ったみたいですね…
スパム報告、してみるもんですね(;´∀`)

うーん💧

2023-11-05 22:16:07 | ひとり言
最近、検索のときに、知らない文言か…スパム報告しときましたが…💧💧💧

CEO室 深夜の攻防 ~木枯らしの街で/その後 番外編~

2023-10-08 18:00:00 | ガラスの仮面
 深夜の大都HD、CEO室。

 真澄は緊急案件ではない資料に目を通す。
今は、大都HDのCEOという立場で、グループを総括的に見ないといけない立場だったが、少し時間に余裕がでれば、やはり大都芸能の状況は気になるところだ。

 特に、最近、聖にわざとゴシップ記事をリークさせた相手、斎藤ハルカが気になる。やたら計算高い割に、爪が甘い印象が拭えないが、真澄が自ら動いた事もあり、どれほど数字が動いたか確認しておきたかった。

 視聴率という点では、斎藤ハルカのドラマは、深夜帯にもかかわらず、好調で。
裏番組の、人気報道番組を凌ぐ勢いで、スポンサーも肯定的らしい。
特に、酒造メーカーからは、CMの依頼の話も来ており、初めての主演ドラマとして幸先も良かった。

最も、一日の終わりに報道を見ず、斎藤ハルカ主演のドラマを見たがる視聴者が多いのも、社会的にどうかと思ってしまう真澄だったが。。。
制作サイドが思うのもなんだが、、、。

 『失礼いたします。』

いつもの、ノック音とともに、秘書の水城が入室してきた。
時計は、23時を回っていたが、疲れも見せず、決済箱の書類を丁寧に引き上げる。
幾度となく繰り返されてきた所作だが、この秘書の隙のない仕事ぶりは、見事なものだ。

 『いいタイミングだな、、、。決済はそれで全部だ。』

そんな真澄の声掛けに、水城は口元を少しだけ緩め、笑みを作る。

部下に甘い言葉でほめる事はまずないボスに、抑えた対応で答える部下の秘書。
互いにちょうどいい距離感だった。

まあ、時々、この出来すぎる秘書は、その距離感を易々と越境する事もあるのだが。。。

 『斎藤ハルカの報告書は御覧になりまして?CEO自ら動いただけある、反響が取れておりましてよ?』

相変わらず、口元を少し上げたさりげない笑顔のまま、すましてそんな事を言ってくる。
水城は、真澄自ら例の記事をリークした件を、聞いていた訳ではなかったが、さらりと言ってのけた。

 勘の鋭い秘書が、この件、そして、この真澄の行動の本質に気づいているであろう事は、真澄も予想していたものの、相変わらずの水城の鋭いアンテナには感心すら覚えた。

『・・・ああ、写真一枚で、高視聴率に新規CM獲得とは、安上がりで助かったよ。』

 真澄は、しれっと返す。
流石に本音では、真澄だって冷や汗も多少かいているのだが、彼の表情には全くでなかった。
左手で、PCのキーボードを時折叩きつつ、右手親指を軽く顎にあてたまま、何事も無いようなすまし顔だ。

 これには、冷静な水城も少ししゃくに触る。
多少苦し紛れに、タバコに手を伸ばすとか、少しくらいは、動揺している姿をみたい所だ。
マヤと心が通じ合ってからの真澄は、やたら落ち着きがあって、水城ですら、感嘆を覚えるのではあるが・・・。

 今、真澄の心はまっすぐにマヤに延び、マヤの心もまっすぐに真澄に延びている。

 この内面的な揺るぎない安定が、かくも人を強くするのかと、折に触れて水城は思わざるを得なかった。

 ---火曜日の深夜。
 ---今日の攻防もここまで。

真澄がPCを落とすと、水城は頭を下げ、終業の挨拶をして、退室した。
嘘のような一瞬の静かで穏やかなひと時は、月さえ見えない、漆黒の夜空の下、摩天楼が見せた幻か。

静寂などありえないだろう。
きっと、騒動は終わらない。
 




映画…

2023-09-29 20:40:43 | シティーハンター
登場そうそう、1位とか…凄いですね!

あっという間に、時がすぎ…

2023-06-04 15:44:08 | ひとり言
前回の更新が、昨年で、今年も半年に経とうとしています…(・_・;)
びっくり!

LINE ~番外編~

2022-11-07 17:11:04 | ガラスの仮面
セリフが英語のDVDは、字幕を読むしかない。

それでも、耳に入るハンフリー・ボガードの渋い声が、マヤの心を痺れさせた。
真澄から郵送された、ポータブル再生機を映画『カサブランカ』のDVD。

ポータブル再生機は真澄の私物だったのだろう。
綺麗な最新機種ではあるが、外装はなく、纏められたコードとアダプターだけが入っていた。
あの、忙しい真澄が、取り急ぎまとめて送付した事を思わせる。

いつもなら映画の余韻にしばらく浸るマヤだが、上映が終わった再生機のディスプレイをぼんやり見つめていた。
配給映画会社のロゴが静止画面にでているだけだが、何となく電源を落とす事も、繰り返し視聴する事もできずにいる。

麗は、地下劇場で次の公演の打ち合わせだから、つっこむ人もいない。
団長の堀田が白熱するのはいつも事のなので、恐らく彼女の帰宅は遅くなるだろう。

 ---ジャズバー 長根---

夢のような時間だったけど、目の前の再生機とDVD、そして真澄のプライベートマンションの住所が記載された茶封筒が、あれは現実だったと裏付けてくる。

でも、来月には、財閥の才色兼備なご令嬢と結婚する人。
本当に奇跡のような時間だった。

そして、まるで、この先に何か思いもしないことが待っているような、予感さえ感じさせる。

苦しいのに、甘く、ほんの少しの背徳感。
何故、こんな気持ちになるのか、マヤには説明もつかない。

でも、今は。

待っていたい。

真澄が、本心を話してくれる時を。

   《完》






YOU CAN‘T HURRY LOVE ~19~ オーバープロテクション!?獠の思惑

2022-11-07 16:30:06 | シティーハンター
『ごっそさん』

箸がカチャリと皿にあたって、乱雑に置かれた。

獠は、食べなれた香特製ハンバーグを乗せたどんぶり飯を数杯掻き込むと、さっさとダイニングテーブルから離れた。
十条と岬は、夕べから獠の旺盛な食欲に目を見張るばかりである。

仕事への能力の高さは疑いようもないが、この食事の量も体格も規格外だ。

ほんの束の間、唖然をする二人から離れ、リビングのソファに座ると、早速獠はタバコを咥え火をつけた。
一応、ノンスモーカーで食事中の十条と岬に対する配慮で。
我に返った二人が昼食をとりながら、たわいもない会話を再開しているのがぼんやり聞こえてくる。

獠はふと、香を想った。

西九条家に出かけた香が帰宅するには、まだ数時間はある。
今頃、香はなれない金融用語のオンパレードに頭を抱えているだろう。

今回の口座開設は、報酬金(中身は新規公開株だけど)の受取と、十条の会社に名ばかりだが香も役員として名を連ねる為のものだ。
勿論、香が役職を遂行したり、今回の報酬以上の株を取得する予定はないが、西九条家当主:沙羅の悪ふざけに、獠が香の世間勉強にとのっかったのだ。
落ち着けば、香は静かに役員職を退職する算段で。

何しろ、香は貧乏が板に付きすぎて、家計以外の金融以外は無頓着である。
常々、獠は、表の世界の事情に、もっと香を触れさせたいと思っていた。
でも、都合よくそんな機会はなかなかなくて。

最も、バズーカ砲の信管抜いて発射すれば安全だとか。。。
今更、こんな発想の香を一般女性に転換させるのは無理だろう。

十条には、香を西九条コンツエルンとのパイプ役にするからと説明し、役員にねじ込むつもりだ。
十条の会社の社員(低月給の老人ばかりだが・・・)には、西九条サイドの人間と説明すればいい。
そして、香には報酬は現金で望めないから、株式で受け取って、売って金にすればいい、と話している。

強引なのは、百も承知。

それでも、これからの為に。
出来るだけ、こんな風にしていきたいのだ。

香には、表の比較的安全な仕事を。
自分には、裏のゴタボタを片付ける仕事を。

・・・二人が一緒にいる為に。

ずっと。

                                    《続く》