深夜の大都HD、CEO室。
真澄は緊急案件ではない資料に目を通す。
今は、大都HDのCEOという立場で、グループを総括的に見ないといけない立場だったが、少し時間に余裕がでれば、やはり大都芸能の状況は気になるところだ。
特に、最近、聖にわざとゴシップ記事をリークさせた相手、斎藤ハルカが気になる。やたら計算高い割に、爪が甘い印象が拭えないが、真澄が自ら動いた事もあり、どれほど数字が動いたか確認しておきたかった。
視聴率という点では、斎藤ハルカのドラマは、深夜帯にもかかわらず、好調で。
裏番組の、人気報道番組を凌ぐ勢いで、スポンサーも肯定的らしい。
特に、酒造メーカーからは、CMの依頼の話も来ており、初めての主演ドラマとして幸先も良かった。
最も、一日の終わりに報道を見ず、斎藤ハルカ主演のドラマを見たがる視聴者が多いのも、社会的にどうかと思ってしまう真澄だったが。。。
制作サイドが思うのもなんだが、、、。
『失礼いたします。』
いつもの、ノック音とともに、秘書の水城が入室してきた。
時計は、23時を回っていたが、疲れも見せず、決済箱の書類を丁寧に引き上げる。
幾度となく繰り返されてきた所作だが、この秘書の隙のない仕事ぶりは、見事なものだ。
『いいタイミングだな、、、。決済はそれで全部だ。』
そんな真澄の声掛けに、水城は口元を少しだけ緩め、笑みを作る。
部下に甘い言葉でほめる事はまずないボスに、抑えた対応で答える部下の秘書。
互いにちょうどいい距離感だった。
まあ、時々、この出来すぎる秘書は、その距離感を易々と越境する事もあるのだが。。。
『斎藤ハルカの報告書は御覧になりまして?CEO自ら動いただけある、反響が取れておりましてよ?』
相変わらず、口元を少し上げたさりげない笑顔のまま、すましてそんな事を言ってくる。
水城は、真澄自ら例の記事をリークした件を、聞いていた訳ではなかったが、さらりと言ってのけた。
勘の鋭い秘書が、この件、そして、この真澄の行動の本質に気づいているであろう事は、真澄も予想していたものの、相変わらずの水城の鋭いアンテナには感心すら覚えた。
『・・・ああ、写真一枚で、高視聴率に新規CM獲得とは、安上がりで助かったよ。』
真澄は、しれっと返す。
流石に本音では、真澄だって冷や汗も多少かいているのだが、彼の表情には全くでなかった。
左手で、PCのキーボードを時折叩きつつ、右手親指を軽く顎にあてたまま、何事も無いようなすまし顔だ。
これには、冷静な水城も少ししゃくに触る。
多少苦し紛れに、タバコに手を伸ばすとか、少しくらいは、動揺している姿をみたい所だ。
マヤと心が通じ合ってからの真澄は、やたら落ち着きがあって、水城ですら、感嘆を覚えるのではあるが・・・。
今、真澄の心はまっすぐにマヤに延び、マヤの心もまっすぐに真澄に延びている。
この内面的な揺るぎない安定が、かくも人を強くするのかと、折に触れて水城は思わざるを得なかった。
---火曜日の深夜。
---今日の攻防もここまで。
真澄がPCを落とすと、水城は頭を下げ、終業の挨拶をして、退室した。
嘘のような一瞬の静かで穏やかなひと時は、月さえ見えない、漆黒の夜空の下、摩天楼が見せた幻か。
静寂などありえないだろう。
きっと、騒動は終わらない。
真澄は緊急案件ではない資料に目を通す。
今は、大都HDのCEOという立場で、グループを総括的に見ないといけない立場だったが、少し時間に余裕がでれば、やはり大都芸能の状況は気になるところだ。
特に、最近、聖にわざとゴシップ記事をリークさせた相手、斎藤ハルカが気になる。やたら計算高い割に、爪が甘い印象が拭えないが、真澄が自ら動いた事もあり、どれほど数字が動いたか確認しておきたかった。
視聴率という点では、斎藤ハルカのドラマは、深夜帯にもかかわらず、好調で。
裏番組の、人気報道番組を凌ぐ勢いで、スポンサーも肯定的らしい。
特に、酒造メーカーからは、CMの依頼の話も来ており、初めての主演ドラマとして幸先も良かった。
最も、一日の終わりに報道を見ず、斎藤ハルカ主演のドラマを見たがる視聴者が多いのも、社会的にどうかと思ってしまう真澄だったが。。。
制作サイドが思うのもなんだが、、、。
『失礼いたします。』
いつもの、ノック音とともに、秘書の水城が入室してきた。
時計は、23時を回っていたが、疲れも見せず、決済箱の書類を丁寧に引き上げる。
幾度となく繰り返されてきた所作だが、この秘書の隙のない仕事ぶりは、見事なものだ。
『いいタイミングだな、、、。決済はそれで全部だ。』
そんな真澄の声掛けに、水城は口元を少しだけ緩め、笑みを作る。
部下に甘い言葉でほめる事はまずないボスに、抑えた対応で答える部下の秘書。
互いにちょうどいい距離感だった。
まあ、時々、この出来すぎる秘書は、その距離感を易々と越境する事もあるのだが。。。
『斎藤ハルカの報告書は御覧になりまして?CEO自ら動いただけある、反響が取れておりましてよ?』
相変わらず、口元を少し上げたさりげない笑顔のまま、すましてそんな事を言ってくる。
水城は、真澄自ら例の記事をリークした件を、聞いていた訳ではなかったが、さらりと言ってのけた。
勘の鋭い秘書が、この件、そして、この真澄の行動の本質に気づいているであろう事は、真澄も予想していたものの、相変わらずの水城の鋭いアンテナには感心すら覚えた。
『・・・ああ、写真一枚で、高視聴率に新規CM獲得とは、安上がりで助かったよ。』
真澄は、しれっと返す。
流石に本音では、真澄だって冷や汗も多少かいているのだが、彼の表情には全くでなかった。
左手で、PCのキーボードを時折叩きつつ、右手親指を軽く顎にあてたまま、何事も無いようなすまし顔だ。
これには、冷静な水城も少ししゃくに触る。
多少苦し紛れに、タバコに手を伸ばすとか、少しくらいは、動揺している姿をみたい所だ。
マヤと心が通じ合ってからの真澄は、やたら落ち着きがあって、水城ですら、感嘆を覚えるのではあるが・・・。
今、真澄の心はまっすぐにマヤに延び、マヤの心もまっすぐに真澄に延びている。
この内面的な揺るぎない安定が、かくも人を強くするのかと、折に触れて水城は思わざるを得なかった。
---火曜日の深夜。
---今日の攻防もここまで。
真澄がPCを落とすと、水城は頭を下げ、終業の挨拶をして、退室した。
嘘のような一瞬の静かで穏やかなひと時は、月さえ見えない、漆黒の夜空の下、摩天楼が見せた幻か。
静寂などありえないだろう。
きっと、騒動は終わらない。