ガラスの御伽噺

ガラスの仮面、シティ-ハンタ-(RK)、AHの小説、BF
時代考証はゼロ
原作等とは一切関係ございません

光の街 3

2022-01-15 17:28:06 | BANANA FISH (BF)
シンがリビングに戻ってきた。
ジムでトレーニングした後、シャワーも済ませたらしく、本当に荷物をおいただけで戻ったので、OYAKODONも料理中だ。
よほど、暁からの手紙が気になるのかと、英二はシンに見えないように、料理に集中しているフリしてクスリと笑う。

シンは冷蔵庫から、冷えたクアーズ355ml缶を取り出すや、一口飲むと早速、暁の手紙に目を通し始めた。

『シン、できたぜ! チキンエッグボウルだ。』

だけど、いつもならすぐに食べ始めるのに、何か難しい顔をしてシンは暁の手紙を凝視中で。
たわいもない話題しか書かれていない暁の手紙なのに、どうしてシンがそんな顔をしているのか分からない。
英二は、彼の前に親子丼の皿をスプーンも置くと、自分には冷えた水出し緑茶をグラ

に注いだ。

『どうしたんだ、シン? あーちゃんの手紙に、どうしてそんな難しい顔をしているんだい?』

ようやく、シンが顔を上げた。そして、英二をじっとみる。

『・・・ああ、秋に英語の弁論大会に出るってかいてるじゃねえか。スピーチのテーマなんにしようかって。。。』

『ああ、高ノ宮杯のだね?』
英二は何ともないように、穏やかに返答する。実際、難しい話題でもないし、由緒ある弁論大会に彼女が出ること誇らしい。英二にとって、暁は既に身内のような存在だ。そして、実際の身内以上に、彼女の気持ちに同調すら覚えているくらいで。

『あいつ、二年前にNY来た時、英語ほとんどはなせなかったじゃんか。大丈夫なのか? まず、予選があって、そこを突破して全国大会なんてさ。』

あまりに過保護なシンに英二は思わず噴き出した。バディも心なしか、シンを見る目があきれている。

『そこ、わらうとこかよ、英二!』

こういう一生懸命な所は、彼と初めてあった頃から変わらない。英二30歳、シン25歳。
英二はフォトグラファーととして注目を浴び、シンは青年実業家として早くもNYでは有名人だが、二人でいるときは、変わらないやり取りにほっとしたりする。

『ごめん、ごめん、でも、ありがとう、あーちゃんの事、こんなに気にかけてくれて。』

噴き出したあと無理に笑いを治めた英二の目じりに、うっすら涙が見える。そんなに、可笑しいことかと、ちょっとシンは憮然とした。

『・・・なあ、英二、暁だけど、家族とうまくいってないんだろ? だったら、英語の勉強もできるし、こっちに留学とかしたほうがいいんじゃねえか?』

それは、英二も思っていた事だが、二年前にNYから日本に戻った暁は、とても明るく、きっと自分で道を切り開く力を得たのだと思っている。たしかに、暁がNYに留学してくれば、英二だって嬉しいが、ちゃんとした両親がいる中学生の女の子にはハードルの高い話だ。

『たしかに伊部さんからきく話だと、オヤジさんも相変わらずみたいだね。・・・でも、あーちゃんに暴力をふるうわけではないし、弁論大会にでられるほど彼女の英語学習の環境もいいんだ。しっかりした親御さんだよ・・・。』

親子丼を食べながら、少し目をふせて話す英二の話はもっともで。

『は~、あんま電話すると煙たがられるし、手紙だけって・・・。せめてインターネットでチャットぐらいできりゃあな!』

暁の父親は相変わらず自宅に寄り付かない。自宅に電話をかけると、大抵まず暁の母親がでるのだが、周囲の反対を押し切ってカメラマンになった義弟の伊部俊一や、渡米した奥村英二、そしてNYにいったときに友人になったというシン・スウリンという、ずっと日本という島国固有の文化の中で、ひたすら主婦業に努めてきた暁の母親からすれば、異端的で意に沿わないのだろう。お世辞にも、受電した時の母親の対応は機械的なもので迷惑そうなものだった。

『大学とかなら学内で操作もできるだろうけど、あーちゃんは中学校だからなあ・・・。』

最近ではやっとプロバイダ契約も出来る世の中になったものの、暁の自宅にあるのは、父親が使っていた古いPCだけだ。当然、ネット環境もなければ、対応できるOSもはいっていないシロモノで。塾代を惜しむことはない家だが、母親にネット契約をお願いした所で理解されず断られるのは目にみえているし、暁が父親にお願いするとは考えずらかった。

時々届く暁からの丁寧な手紙が、彼らには嬉しく、そして切なくもある。

食べるのが早いシンは、いつの間にか親子丼をカラにして、缶ビールも飲みほしていた。

『なんとかって弁論大会でるんなら、せめて夏休みこっちにこれないのか? 英二が招待することにすれば、旅費はオレがだすぜ?』

シンはポテトサラダをモグモグ食べながらも、目は真剣だ。英二にしたら、普通に中学生の女の子が英語の勉強の為に、ちょっとNYに行くなんてのは、彼女の環境を取り巻く“常識”から逸脱しているのは明らかなので困ったように微笑む。それでも、シンの気持ちは、おせっかいかもしれないが、彼なにり真剣なのがわかるだ。

シンと暁。年は10歳もはなれ、生まれた国は勿論、育ちも違いすぎる。
けど。
くだけたようでいて、他人には簡単に心を許さないシンが、暁の前ではとても素直で。そして暁も、シンとじゃれあって怒ったり笑ったり屈託がない。
二年前、彼らが一緒にいた時間はそれほど多くなかったけど、何かしらの特別な感情が存在していた事はたしかだ。

そして、恐らくは暁の母は、母親独特の感で、何かしら感ずいているような気が英二にはする。
暁の母の、一見視野が狭いようでいて、妙な鋭さをもつ感性も、夫が家から遠ざかる一因だとも思っている。
夫が家から遠ざかるのは決して、暁が男の子でないからという理由ではないだろう。むしろ、夫が家を遠ざける理由を、母親が暁のせいにしたのだろうと、、、。

そうは言っても、いずれにしろ、年頃の女の子を旅費を出すからといった所で、簡単にあの母親が承諾するとは思えない。電話すら歓迎されていないのに、あの頭の固い暁の母親なら、英語学習は日本で十分だと断るのは火を見るより明らかで。

シンの気持ちは痛いほどわかるけど、彼の直球すぎる提案は非現実的だった。

『シン、お金の問題じゃないと思うんだ。そりゃ、僕もあーちゃんにはいつだってNYにきて欲しいし、あーちゃんもNYに来たがっている事はわかる。でも、彼女はまだ中学生で、親の管理の元に成長していかないけない時期だ。彼女だけでなく、同じ年ごろの子達だって、なにかしら閉塞感を感じながら進まないといけない時期なんだと思う。』

言い終わり、冷えた緑茶のグラスに口をつける英二をシンはちょっと睨んだ。眉間にしわがよって、今の英二の説明に全く納得していないようである。

普段とちがう、英二とシンの様子に気づいたバディがゆっくり起き上がった。ゆっくりとダイニングテーブルの近くに来て、また壁にもたれるように寝そべる。

バディの頭上には英二が撮った写真のフォトフレームがいくつかおかれて、その中には、アッシュの写真もあった。
写真の中のアッシュは、銃など知らないようなただの少年で。故郷のそばの川で大きな魚を釣り上げて無邪気に得意そうに笑っている。

---バディは、ふと鼻を上に向ける。でも、また何事もなかったように、英二とシンを見つめた。まるで、二人を見守るように---