ガラスの御伽噺

ガラスの仮面、シティ-ハンタ-(RK)、AHの小説、BF
時代考証はゼロ
原作等とは一切関係ございません

木枯らしの街で  2023年秋の号外編 ※時間軸超破壊。長いだけの駄文です。

2023-11-19 11:00:00 | ガラスの仮面
 強いビル風が、吹き抜けていく。
街路樹の銀杏の葉は散らされ、道を黄金色に色付けていった。

 スモークガラスで外側から見えないようにされた、特別仕様の黒いベルファイア。
走行中の車内の座席で、マヤは流れる景色を見ている。

 深まる秋。
XXXX年 Tokyo 16:55:11 

 西に沈む陽の光は、夕焼けのグラデーションとなり、夜のとばりを導いた。

 いつもマヤを気遣い、時に世話女房のようなマネージャー、竹中は、マヤの斜め後ろの座席で、ラップトップを叩きながら、時折電話で話している。
 今日は、紅天女新春公演の顔合わせ。
無事に終了した事を、大都芸能の北島マヤ・マネジメントチームの上席に報告しているのである。

 大河ドラマ『弓姫』は、社会現象とまで言われ、高視聴率をたたき出すのみでなく、ロケ地やモデルになった地域の聖地巡礼による経済効果、出演俳優のランクアップ、大御所音楽家・坂上龍二によるサウンドトラックアルバムの世界的ヒット、・・・快挙は数え切れず、今やマヤには北島マヤマネジメントチームがついて、全社ならずグループ全体も巻き込んでフォロー体制が築かれている。

 『お疲れ様です、竹中です。』

マネージャーの竹中は早朝からマヤを迎え行き、会見中もスタッフとの打ち合わせや調整、根回しと働きづめであっったが、疲れも見せず淡々と仕事をしている。
マヤへの情の厚さに加え、このスタミナも竹中がマヤのマネージャーに任命された理由の一つだった。
なにせ、当のマヤこそ、芝居にのめり込むと常人ではない集中力でぶっ通しで稽古を続ける、体力お化けで、、、。

 静かに増す夕闇をスモークガラス越しの車窓から眺めていたマヤは、後ろから聞こえてくる竹中の声を聴いている。
一流芸能会社でバリバリ働く竹中の声は、活舌がいいのに穏やかなハスキーボイスで、耳に心地よい。

 最近はまっている、アメリカの海外ドラマに出てくる女性パラリーガルを演じる女優がとても素敵だった。
もし、日本版でドラマ化されたら、ちょうど竹中のような感じだと思う。

 でも、今日はちょっと竹中の声が、上ずっている。
情には厚くも、仕事は冷静な彼女にして珍しい。
マヤが左肩越しに少し振り返ると、竹中は長いストレートヘアを耳にかける仕草で電話していた。
焦ると、髪を耳にかけるのは、彼女の癖なのだが、、、

 『・・・はい、、、』

なんだか歯切れも悪い。
マヤはいつも、竹中を尊重し、彼女の仕事の話に口を突っ込む事もしないし、興味本位で質問する事もしない。
だが、竹中の電話の相手はマヤをマネジメントするチームのマネージャーだ。
マヤに直接ふりかかってくる内容である可能性が高い。
流石に気になった。

 『そうですね、急ですね。明日の21:00からの番組ですね、はい。』

竹中はスケジュールの調整をしているようだが、明日は午前中から立て続けにインタビューや、CM撮影の打ち合わせと、過密スケジュールだ。
確かに、21:00なら体は開くが、それも順調に進めばの話で実際は深夜に及ぶことも多い。
急なオファーが入ったのであろう、調整に苦慮しているようだった。

 『・・はい、スタジオ入りは、遅くても21:00ですね。台本なしで、司会がアナウンサー大江麻紀子さん、・・存じています。WBCのメインキャスターの方ですね。』

マヤの頭の中は、?印である。
WBC、という報道番組名は知っている。世界の政治・経済を主に取り扱う人気報道番組だ。
メインキャスターのアナウンサー大江麻紀子とは、以前インタビューを受けた事もあり、会えば会釈する程度に顔みしりだし、素敵な女性だった印象もある。

話しぶりから察すると、生出演やライブ中継の類のようだが、さすがに今日の明日の話で、確かに急である。
おまけに、そのオファーを受ける事が前提で会話が進んでいるようだ。

 つい、マヤも竹中の話が気になり、振り返ってしまう。
竹中は、マヤと目が合うと、口角は上げつつも、眉をハの字に寄せ、こくびをかしげてマヤに視線を送った。

 『承知しました。5分で折り返し致します。』

竹中は電話を切ったが、あと30分ほどで大都GHDの地下駐車場に入る所まで来ているのに、随分と差し迫っているようで。
スマホから耳を話すと、ため息に近い吐息が竹中の口元から漏れた。

 『? 竹中さん、仕事がはいったの? わたし、何も予定ないし、今晩でも明日でも構わないけど?』
日頃の厳しい稽古や撮影で鍛えられているマヤは、あっけらかんとしている。
何なら、今から走れといわれれば、車を降りて、大都GHDまでランニングしてもいい。
実際、自宅マンションに帰る前に、スポーツジムに行くつもりで、傍らにはスポーツバックまで用意している。
頼もしいマヤの発言に、竹中の表情に笑みが差した。

 これほどの影響力を持つ女優になった今も、自然体のままのマヤは、マネージャーとしても本当にありがたいタレントである。

 『実は、明日ののWBCで、生放送の対談オファーがはいってるの。ただ・・・。対談相手もスケジュールがギリギリで打ち合わせなし、ぶっつけ本番なのよ。』

申し訳なさそうに竹中が言うには、対談相手も突然のオファーで、ギリギリのスケジュール。対談場所はWBCの番組スタジオをそのまま使い、メインキャスターのアナウンサー大江麻紀子が進行役を行うという。稀有なほど優秀なアナウンサーでも、この状況ではタイムキーパーの求める尺で完全収めるのは難しい。
そんなリスクを負いながら、緊急対談が必要なオファー。
一体、相手はだれだというのか。

かの大御所、音楽家・坂上龍二が相手でも、ここまで無茶な番組編成にはしないだろう。
竹中が視線をマヤのスポーツバックに落とす。バックにはスポーツウエアメーカーのロゴが大きく描かれている。

“ニューバランツ”
創立から35年の合衆国のブランドだった。

ブランドに無頓着なマヤが、色がかわいいからと選んだバッグ。
それが何だと言うのか。

竹中は意を決して話した。

『ありがとう、マヤちゃん。急ぎでチームに報告しなくちゃいけなくて、焦っちゃってたわ。』
スマホを握る手に力が入る。
 
『対談相手だけど、極秘で帰国している、野球選手で、大滝翔平、って大リーグの選手なの。この間、大リーグでMVPに選ばれて、毎日彼の報道一色だったでしょう? WBCのスポンサーのニューバランツ日本法人の社長の意向もあって、マヤちゃんと対談させたいんですって。』

ニューバランツ日本法人の社長とは、米国から赴任しているインド系米国人の紳士だった。
紅天女の大ファンで、マヤにとっても恩義あるスポンサーだ。
今や世界的野球選手の大滝翔平氏と、ニューバランツ日本法人の社長ニューバランツ日本法人の社長と揃っては、番組の調整が難航しても、絶対に実現させたい対談なのだろう。

おまけに、大滝翔平氏は28歳で独身。現在25歳マヤとの対談は、日米スーパースターの対談としてだけでなく、勝手なロマンスの憶測が世間を盛り上げる、恰好の組み合わせだ。

流石に鈍感なマヤでも、ニューバランツ日本法人の社長が日本人の反応を面白がって、組み込んだであろう事がうかがえる。
でも、アナウンサー大江麻紀子が司会と進行をしてくれるなら、心配はないように思えた。
それに、なにより、本社から返答をせかされている竹中が板挟みにあって、気の毒である。
恐らく、マヤがOKとなれば、SMSにツイートがでて、明日の緊急対談を世間一般に情報解禁させるのだろう。

あれだけ有名でありがながら、あまりTVなどに顔出しもせず、プライベートに関する情報も少ない大滝翔平氏が異例の緊急対談となれば、ツイートと同時にものすごい反響があるだろうし、相手が今を時めく紅天女の北島マヤとくれば、どれだけか。。。
当面は、ボディーガードもつける事になるだろう。

『え、、と、上手く話す自信はないですけど、大江さん、きっと助けてくれるんですよね? やばかったら、フリップひらひらさせてくださいね? 竹中さん。あはは(;'∀') 』

とても頼りないが、竹中も今はこのマヤの発言にすがるより他ない。
明日は、太いマジックと、スケッチブックを抱えスタジオに入り、マヤから見えやすい位置にスタンバイしたら、臨機応変に手書き指示だ。

 恐らく、対談が公表されると、若い二人がときめいた視線を交差させながら、照れたように話たりとか、そういうのが期待されるんだろうけど、、、

いや、絶対そうである。スポーツ界の頂点に立つ、若き野球選手と、日本の芸能界のトップに躍り出た三角関係の恋の噂が誠しやかにささやかれる若干25歳の女優。

そして、この二人のカップリングに対して、勝手な意見・憶測・希望、或いは絶望のコメントでメディアもSMSもハチの巣をつついたような騒ぎになるのだろう。
でも、竹中の心配は、ちょっと違う。

多分、この件は既に速水真澄DGH会長や、その秘書・水城の耳にも入り一同、同じ心配をしているのだろうが、、、。

明けて翌日。

いよいよ今晩、例の対談である。
が、朝からインタビューに、CM撮りの打ち合わせと押し寄せ、幸か不幸か、碌々世間の反応を伺う時間もない。
周囲も、夕べ解禁された、今晩のWBCでの対談について興味深々な視線を送ってくるものの、何として21:00までにスタジオで涼しい顔でスタンバイしなければならず、スケジュールの鬼の管理人と化した竹中の前に、だれもつけ入る事ができなかった。

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『北島さん、入りまーす!』

結局、マヤと竹中は、ギリギリセーフでWBCの番組スタジオに滑り込んだ、
番組側の期待通り、マヤはメインキャスターのアナウンサー大江麻紀子の隣に座り、番組開始と一緒に、大江を一緒い頭を下げる。

TVカメラが、いつも大江一人にフォーカスする所を、冒頭からマヤと二人TV画面に映るようカメラワークしていった。

マヤは、カメラに視線を向け微笑んでいる。
メインキャスターのアナウンサー大江麻紀子の挨拶が始まった。

『こんばんは。WBCメインキャスターの大江麻紀子です。今晩は、夕べのツイートでご存じの方もおいでかと思いますが、紅天女を継承された女優、北島マヤさんと、大リーグ大滝翔平さんとの生放送対談があります。北島さん、宜しくお願い致します。』

大江がマヤに振る。

『よろしくお願いします』
時間に余裕がない生放送なので、マヤも簡単に挨拶して会釈する。
すぐに、画面はニュース映像に切り替えられ、マヤに退席のサインが出された。

マヤはそっと立ち上がると、スタジオ内の対談スペース近くに移動する。
今晩の対談相手、大滝翔平が既に対談席についていて、互いにかるく頭を下げる。
音がはいらないように、どちらも声はたてられない。マヤも、対談席に座り、進行役の大江が移動するのを待った。

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『そろそろですわね、会長。』

水城は、会長室のTVチャネルをWBCに合わせ、リモコンを真澄のデスクに置いた。
真澄はこの後、2時間後には現地(NY)では早朝にあたる、深夜のネットミーティングが予定に入っている。
NY時間に合わせる為、この時間になるのだ。
ミーティング前の時間、いつもなら簡単なメールチェックや日中できなかった仕事を消化しているのだが、、、

『ああ。・・・こんな緊張は、あの子が筋書きも知らずに舞台に出ていった、夢宴桜、、以来だな。。。』

舞台は役者だけの世界。
そして、今回は生放送中。

眼下に眩い都会の夜景がひろがる、成功者の証のようなDHG会長室で、若き会長と敏腕秘書は、固唾をのんで画面を見守った。

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『お待たせいたしました。大滝翔平選手と、女優の北島マヤさんの、対談の時間です。お二人には本当にお越しくださりありがとうございます。』

マヤと大滝翔平選手の間の席についた大江は、美しい足を優雅に斜めにそろえ、膝に小さいスケッチブックとマジックを乗せている。
いざという時、番組スタッフに送るシグナルを書くためだ。

勿論、竹中は、大きなスケッチブックとマジックをもって、正面から撮っているカメラの脇にスタンバイし、何かあれば手書きフリップでマヤをフォローする作戦である。
そして、大滝翔平氏のマネージャーも何故か、竹中と同じように、大きなスケッチブックとマジックを持ち、竹中の反対側に陣取っていた。

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『いよいよだな。』

真澄がつぶやく。
椅子に座っていられず、思わず立ちあがり、会長室のテレビの前に立った。

マヤは無難に挨拶し、今は通常の報道番組に切り替わっている。
出だしは悪くない。
ちょっと、ぼんやりしている様子ではあるが、落ち着いている。

『・・・竹中は、よくやってくれましたわ・・・』

水城は、真澄の小さなつぶやきも聞き漏らさず、意を汲むように返事をした。

世界的大リーガー大滝翔平の珍しいテレビ出演に、彼女候補にうってつけの若き日本人トップ女優との生出演対談。
夕べ、この情報が解禁されるや否や、ツイートは日本語のみでなく英語やスペイン語に中国語に韓国語・・などなど怒涛の投稿の連続で、このWBCも海外でネット視聴されている。

影響力のあまりの大きさに、大都芸能のみならず大都GHDは大騒ぎだ。

“じつは二人は既によく知った間がらで、婚約のサプライズ発表だ!”
という投稿がバズレば、大都GHDの株価があがり、

“北島マヤの結婚引退で大都芸能の収益予測は下方修正だ!”
という投稿がバズレば、株価が下がる。

海外投資家も情報に踊らされる始末で、手が付けられない乱高下相場だ。
元々、野球に対しストイックで有名な大滝翔平氏は、オフシーズンにプライベートを重視する事も良く知られ、実際彼のプライベートは謎が多い。
これほど有名でありながら、個人的な情報が殆ど出てこないので、今回の対談は国際的なお祭り騒ぎとなっている。

この状況に動じてもしょうがないので、さすがの真澄も今はディフェンス一辺倒で状況を見守るしかない。
自分もスタジオ入りしたい気持ちであったが、大都芸能を離れた身では、その行動で更に憶測を呼ぶ事が懸念され、会長室でただただ心拍数をあげていた。

昔から、マヤをよく知る水城も同様の有様で。

只今、Tokyo 21:18:26

煌めく眼下の摩天楼には目もくれず、会長ち秘書はたったまま、テレビを凝視していた。

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Tokyo 21:20:35

ニュ-バランツの新商品スニーカーと、ザバツのプロテインのCMが終わり、アナウンサー大江麻紀子が画面に映った。
先ほどの報道番組のメインキャスターの顔から、インタビュアーの顔に変わった彼女は、リラックスしたような表情で視聴者に語り掛ける。

『大変、おまたせしました。夕べから、眠れなかったというコメントも沢山届いています。大リーガー大滝翔平選手、紅天女継承女優・北島マヤさんです。』

カメラが引いて、画面に3人が移る。
頭から、つま先まで全写しの画面にには、左から、
大滝翔平、大江、そしてマヤが、白い一人掛けソファにそれぞれ座って並んでいる。

193cmの長身の大滝翔平選手の隣に、身長162cmの大江が座り、右側に身長156cmの小柄なマヤ。

早速、
“北島マヤ、小さっ!” 
“北島マヤ、フィギュアか?”
“リアル1/5の花嫁wwww”
とか、言いたい放題のコメントがツイートや動画にボコボコと湧き出るように投稿されている。

ネットで、『世紀の対談をリアルで観て語ろう』という類のライブ配信動画がいくつもアップされていて、余計騒動に拍車をかけていた。
テレビ画面の3人は、いたって落ち着いて座っているので、どうも世間とのギャップが大きいようだが、、、

『大滝選手、今日は出演ありがとうございます。昨日からネットなどで多くの声があがっていますが、御覧になってますか?』

大江が笑顔で大滝翔平に語り掛けた。
なんとか、大滝翔平の口から、
“憧れのマヤちゃんに会えると思って楽しみにしてました!”、
とか、意味深なコメントを引き出したい所だが、ワイドショーではないので、当たり障りない質問で口火を切る。

『そうですね、LINEで友達から聞きました。』
はにかんだような笑顔で大滝翔平が答える。この瞬間、WBCの視聴率は過去最高を更新した。

『北島さん、新春公演を控えてお忙しい中、出演ありがとうございます。役者さんは元アスリートの方も多いとうかがいますが、北島さん、大滝翔平選手に一言お願いできませんか?』
大江はマヤには、少し積極的に質問を投げる。
マヤと対談するのは2回目という安心感がある。尺時間の節約もあって、若干畳み込んで話を振った。

ただ、やはり、2回目。
大江は、マヤを知らな過ぎた。。。

『えぇと、ニュースで拝見しました。“MBA”おめでとうございます!』
邪気の無い、はにかんだ笑顔で、はっきりとマヤは話す。

TVカメラの隣にいた竹中は真っ青だ。
周りのスタッフが気の毒なくらい青ざめ、スケッチブックに大急ぎでぺんを走らせている。

“MBA→MVP!!”

スケッチブックを掲げ、マヤが気づくようにぴょこぴょこと上下に動かす。
最近海外ドラマにはまっているマヤが、パラリーガル役の女優の字幕セリフ、
“MBAは20歳でとったわ”
がお気に入りで。
ようは、言い間違いである。

竹中のスケッチブックは、大江と大滝にも当然見える。
とても、かっこ悪いが、この小さな女優が言い間違えたのだと、よくわかった。

背筋が凍りつく大江だが、まごまごしている時間はない。生中継だ。
“MBA”の件は、軽くスルーする。

『・・そうですね、世界中が大滝翔平選手の“MVP”二回目の受賞のニュースに沸いていますね。』
マヤの思い切った言い間違いに、大江の笑顔が何気に引きつっている。
だが、さすが看板キャスター。ぐいぐい対談を切り盛りしていく。

『大滝翔平選手、北島さんは、今、日本で注目の若手女優さんですが、それぞれの道を究める同世代として、コメントいただけませんか?』

多少の時間オーバーは、今回の対談は許容される。
しかし、番組最後に必ず流れる株式や為替相場・天気予報の枠だけは、絶対に侵害できないので、直球でコメントを繰り出した。
時間のオーバーも、最悪、放送中、画面下にスポンサー企業名のテロップを表示する事で調整する苦肉の策。
余分な時間はない。

大滝翔平は、マヤの失礼な言い違いに動揺する様子も見せず、変わらない表情で大江の質問を聞いている。
大江にとって、この大滝翔平の対応は、まさに神対応だった。
もう、意味深なコメントが欲しいとか贅沢を求める気はない。
そつなく、波風なければそれで、いい、、、。

だが、、、

『あぁ、そうですね、俳優さんにアスリートの方おおいんですね、、、?? 僕は昔からプロテインをのんでます。北島さんも飲んでますか?』

打ち合わせの時間がなかったといえ、大滝翔平の話し方は、ゆっくり目で、、、。
しかも、この対談を見守っている誰もが期待している方向から、二人の会話はどんどん離れている。

貴重な、もう二度と実現できない、世紀の対談だというのに、対談している北島マヤといい、大滝翔平といい、緊張感があまりにない。
勿論、期待しすぎと言われれば、それまでなのだが。

いくら演劇バカで有名な北島マヤでも、
米国で活躍する大滝翔平でも、

お互いの名前や活躍具合ぐらいは知っていて、もう少し何か感心らしきものがありそうなものだが。
大江の貼り付けたような笑顔に、うっすら涙が滲んで見えるのは、スタジオの強い照明のせいか・・・。

『プロテイン、飲んだことあります。稽古中に、水をのんだら、、、。同じボトルを使っていた役者さんの、間違ってのんじゃんって。いちご味だでした。』

はにかんで答えるマヤは、そこそこ可愛いが、、、。
あまりに内容が薄い二人の対談の会話。
天才キャスターと呼び声の高い大江にすら、盛り上げようにも、薄く散らばってしまった会話を集めて戻す術が見つからない。

大江の脳裏に浮かぶストップウォッチが、残り時間はもう僅かと、ピンチのアラーム警報を鳴らしている。

しかし、、、

 大滝翔平『イチゴ味のプロテインは、水より牛乳で作ると美味しいです』
  マヤ 『牛乳でもいいんですね! その俳優さんは、スポドリで作ってるって言ってました。』
 大滝翔平『それだと、熱中症対策になりますね ^^』
  マヤ 『汗かきますもんね (;'∀') 』

Tokyo 21:29:41

『最近、プロテイン市場、売り上げがが非常に上がっているそうですね! 大滝翔平さん、北島マヤさん、本当に今夜はご出演ありがとうございました。』

持ち時間10分、ギリギリ。
大江は、二人の対談をさも興味深げに聞いている様子を醸し出しつつも、強引にクロージングトークにもっていく。

Tokyo 21:30:04

大江が対談を〆ると、画面が為替や株式相場に切り替わった。
画面の下には、スポンサー企業名のテロップ。

こうして、中身のやたら薄い、世紀の対談が終わる。

*********************************************

Tokyo 21:30:11 大都GHD 会長室

『なんといいましょうか、、予想通りと申しますか、、、』

いつの間にか会長室に入室していた聖は、何も動じる事なく、頼まれていた調査結果書類を真澄のデスクに置くと、真澄と水城にねぎらい(?)の言葉をかける。

『別に、仕方のないことですわ。』
負けじと、水城も同調した。

真澄は、胸ポケットから煙草を取り出すと、1本口にくわえる。
会長室は禁煙だが、聖も水城も見て見ぬふりをした。

そう、仕方ないのだ。
だって、、、。

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大滝翔平のマネージャー 『対談お疲れ様です。大変でしたね。』
  大滝翔平      『おふくろが子供の時に読んでたらしいけど、あまりオレしらなくて ^^; 』
大滝翔平のマネージャー 『無理ないです。連載始まったの、1975年12月5日。昭和50年ですから。』
  大滝翔平      『マジ?! おふくろ小学生か中学生だよ、、、』

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マネージャーの竹中 『マヤちゃん、お疲れ様! なんとか終わってよかったわ(;´∀`)』
  マヤ      『言い間違えたり、ごめんなさい。大リーグって、よく知らなくて、、、』
マネージャーの竹中 『無理ないわ! 2023年の対談だもん。ホントならマヤちゃん61歳のはずだし。』
  マヤ      『え? なに? 竹中さん!』
マネージャーの竹中 『 ・・ごほっごほっ・・・、むせただけよ、、、何でもないわ。』

********************************************

あれから、48年
今も終わらない、幻の名作

ガラスの仮面

登場する者も、読者も、作者も、誰も年を取らない桃源郷だと、人は言う。。。

【完】

 

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