ガラスの御伽噺

ガラスの仮面、シティ-ハンタ-(RK)、AHの小説、BF
時代考証はゼロ
原作等とは一切関係ございません

プレゼント

2024-04-08 21:20:32 | シティーハンター
 『・・・なんすか、これ。 教授。 』

不機嫌な獠がふんぞりかえって座ると、重そうに古いソファが軋んだ。

 『見てわからんのか? 獠。 』

かずえが入れた緑茶をすすりながら、サラリと教授は答える。

見事な日本庭園が、開け放たれた窓の外に広がるココは、教授の屋敷だ。

今日は、3月31日。
桜が咲き始め、特に日当たりのよい場所の桜は見事に咲き誇る。

ソファテーブルには、薄い書類や、厚いバインダーが置いてある。
正面に座る教授は、湯飲み茶わんを両手で持ったまま、慈しむように獠を見ていた。

獠は、仕方なく、書類やバインダーを手に取る。
なんだって、こんな意味深な日に呼び出して、意味深な書類を提示してくるのか。

今日は、香の誕生日で、同時に彼女の兄・槇村秀幸の命日だ。

秀幸の墓参りに行くのが毎年恒例で、今日も午後には香と二人で行く。
なのに、朝っぱらから突然呼び出され、今は教授邸の応接室で意味深な書類を挟んで教授と対峙中である。

『簡単に用意できるシロモノでないぞ? 納税記録や、株式売買の記録、転居履歴付の戸籍謄本に住民票、歯医者の通院歴に保険証の使用履歴。 どうじゃ、さも健康的で、ろくに仕事をしない、せこい資産家のような精巧な書類じゃろう? 』

そう、教授が獠を呼んだのは、この書類を渡す為である。
戸籍のない獠が、あたかも普通の家庭で生まれたように、戸籍だけでなく、存在を証明できるよう数々の細工をしたのだ。

『なんですか? その、せこい資産家、って? 』

獠も薄々、教授が自分の為に戸籍を用意したのは感づいていたが、ここまで細かい細工がされているのは流石に驚きで。
苦笑いが、更に引きつった。

『当然じゃろう。 会社員や、公務員は、柄じゃなかろうし、放蕩ドラ息子の設定が適任じゃわい。 』

ほっほっほっ、と笑う教授に、バインダーの中を見ていた獠は、やれやれ、と息を吐いた。

『おまえさんの自由に使うがよい。 たまたま、今日が香くんの誕生日だっただけだ。 』

再び緑茶をすする教授は、どう考えても確信犯だ。
そして、教授邸に付いた時から、感じていたのだが・・・。

『何分、ここまで状況証拠を固めるのも大変でのう。 ミックには、ダークサイトで随分動いてもらったわい。』

“・・・やはり” と獠は思う。この屋敷にミックの気配がする上に、今はどうもドアを隔てた廊下にいるようだ。
何でも面白る上に、面倒くさいミックに知られたどころか、協力者とは・・・。
まるで進展しない俺たちを、ミックが面白がっているのは一目瞭然だ。

『何も獠、お前の為だけでもないぞ。 ミックのやつも、香くんの為ならと、引き受けてきれたんじゃよ。 』
ニコニコと教授は続ける。
通院歴やら、保険証のあたりは、かずえも参戦したのであろう。
女性らしい発想だ。

昨秋、奥多摩の湖畔で香に想いをつげた。
でも、香はクロイツ兵に撃たれて重傷を負った美樹の看病に、キャッツの店番、たまに入ってくるXYZの依頼で冴羽商事も忙しくて。
獠が二人の関係を次のステップに進めようにも、うやむやになって、いつの間にやら季節は春になっていた。

“カチッ”

ドアの向こうで、ライターの着火音がする。
気配も隠そうとせず、ミックがタバコを吸い始めたのだろう。

問い詰めても、ミックのことだ、 

『オレは、カオリのためにしたたけだ! オマエは関係ないもんね! 』

こんな返答が来るのは、分かりきっている。

ミックの気配が消えた。
アパートでは、香が待っている。

獠は仕方なさげに書類とバインダーを掴んだ。

『ま、善処します。 』

教授に背中を向け、バインダーを肩まで上げると、バイバイのサインの代わりにバインダーと書類を振った。
昔の獠ならば、こんな書類に見向きもしないであろうに。

“まぁ、及第点じゃのう”

老人は無愛想な獠の背中に、微笑んだ。

【完】


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映画…

2023-09-29 20:40:43 | シティーハンター
登場そうそう、1位とか…凄いですね!
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YOU CAN‘T HURRY LOVE ~19~ オーバープロテクション!?獠の思惑

2022-11-07 16:30:06 | シティーハンター
『ごっそさん』

箸がカチャリと皿にあたって、乱雑に置かれた。

獠は、食べなれた香特製ハンバーグを乗せたどんぶり飯を数杯掻き込むと、さっさとダイニングテーブルから離れた。
十条と岬は、夕べから獠の旺盛な食欲に目を見張るばかりである。

仕事への能力の高さは疑いようもないが、この食事の量も体格も規格外だ。

ほんの束の間、唖然をする二人から離れ、リビングのソファに座ると、早速獠はタバコを咥え火をつけた。
一応、ノンスモーカーで食事中の十条と岬に対する配慮で。
我に返った二人が昼食をとりながら、たわいもない会話を再開しているのがぼんやり聞こえてくる。

獠はふと、香を想った。

西九条家に出かけた香が帰宅するには、まだ数時間はある。
今頃、香はなれない金融用語のオンパレードに頭を抱えているだろう。

今回の口座開設は、報酬金(中身は新規公開株だけど)の受取と、十条の会社に名ばかりだが香も役員として名を連ねる為のものだ。
勿論、香が役職を遂行したり、今回の報酬以上の株を取得する予定はないが、西九条家当主:沙羅の悪ふざけに、獠が香の世間勉強にとのっかったのだ。
落ち着けば、香は静かに役員職を退職する算段で。

何しろ、香は貧乏が板に付きすぎて、家計以外の金融以外は無頓着である。
常々、獠は、表の世界の事情に、もっと香を触れさせたいと思っていた。
でも、都合よくそんな機会はなかなかなくて。

最も、バズーカ砲の信管抜いて発射すれば安全だとか。。。
今更、こんな発想の香を一般女性に転換させるのは無理だろう。

十条には、香を西九条コンツエルンとのパイプ役にするからと説明し、役員にねじ込むつもりだ。
十条の会社の社員(低月給の老人ばかりだが・・・)には、西九条サイドの人間と説明すればいい。
そして、香には報酬は現金で望めないから、株式で受け取って、売って金にすればいい、と話している。

強引なのは、百も承知。

それでも、これからの為に。
出来るだけ、こんな風にしていきたいのだ。

香には、表の比較的安全な仕事を。
自分には、裏のゴタボタを片付ける仕事を。

・・・二人が一緒にいる為に。

ずっと。

                                    《続く》

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シュガーボーイと金曜日 side H 〜1〜

2019-09-15 16:16:16 | シティーハンター

 

 “気をつけなさい、秀幸。 あいつは、女を引き寄せるわよ?”

恋人の冴子の言葉が脳裏に浮かぶ。何も考えられず、ぐるぐるとそのセリフが駆け回る。目の前には、棒立ちの妹・・・。

なんで香がここにいるんだ?と、疑問すら沸かない。何故か、ここにいるのが当然のような気がして。目を背けていた現実が現れただけだ。驚くことじゃない。ただ、動揺はしている。香も。

 

 獠がのっそり動き出して、オレは我に返った。獠はオレと香の間に転がった三つのリンゴを拾ってる。

しかし・・・。

 

 『おい!! 獠!!! そんなカッコであるくな!!!』

 

 獠のヤツは、身に着けているのはトランクスと肩に巻いた包帯だけ。おまけに左手はトランクスの脇に突っ込んでるから少しかがめば中身が見える。 たのむからやめてくれ。 ・・・と思った瞬間・・・

  --- コトン---

 ヤツのトランクスの左の裾から、小箱が落ちる。香の視線も小箱に向けられた。 本当に頼むからやめてくれ。本当に。獠に非がないのは分かっているが・・・。そんなモノ、ダイニングに持ち込むから・・・。

 『あ・・・』

右手にリンゴを三個、左腕はトランクスにつっこんだままの獠がバツの悪そうな苦笑いをして箱を拾う。

更に、香を見てニヤリとする。

 『あー、これね香ちゃん、サックなのよ、サック♡ パイソンに砂とか入らねえように銃口に被せとくの♪』

たしかに戦場なんかじゃ、そういう使い道もあるだろうが、新宿でそんな使い道するか、ボケ!、と心の中で突っ込む。最近の高校生は、経験あろうがなかろうが、この衛生用品の使い方を知らない訳がない。

でも。

獠なりに、不器用な心遣いなのか。

仕方なく、オレは空気を戻すために、香にまっとうな質問をした。

 『香、どうしておまえ、こんな所にきているんだ?』

香が、獠が撃たれたあの日の早朝、オレをつけてここに来たことを話す。しどろもどろに弁解する香を見ながら、予感がした。

---これから、俺たち三人のストーリーーが始まるんじゃないか---って。

 

                                           «続»

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シュガーボーイと金曜日 side R 〜1〜

2019-09-01 20:30:00 | シティーハンター

 気まずい沈黙。

コーユーの、確か、サンスクミったっけ? 教授の蔵書にあったよな…。

 

食いかけのカレーライスのスプーンを口に加えたまま、固まっている兄妹をみる。

 

槇ちゃんは、さっきまでオレに説教してたブツの存在はどっか行ったみたいで。

呆然とヤツの愛妹を見ている。

 ゴムの入ったカラフルな箱は、この兄妹が我に返る前に唯一着ている(履いている?)トランクの中に隠す。

 

計れば2、3秒のこの時間がやたらに長い。

こんな、危機感のかけらもナイ出来事に。

 

ーーーどーした? オレ…ーーー

 

香の足元に転がるリンゴを拾いに立ち上がると、やっとココの空気が動き出した。

 

                   〈続〉

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〈番外編〉 シュガーボーイと誕生日

2019-03-31 12:00:00 | シティーハンター

 

       『いつも三月って、、、。』

 香はクッションを抱えて床に座り込みながら、灰色にに濁った空を睨み付けて、ぶつぶつ言っている。ご機嫌は斜めだ。今日は朝からずっとこんな感じで。もう夕方近いというのに、朝から水以外は口にもしていないようだ。

 ソファでタバコを燻らしながら英字雑誌を読んでいた獠は、窓に区切られた曇り空を見ている香の後姿に視線を移した。

 今日も秀幸のお下がりのぶかぶかなもオーバーオールに、これまた秀幸が中学生の頃に来ていた縞模様のトレーナーをインナーにした姿。横には、スタジアムジャンパーが脱ぎ捨てられてくしゃくしゃになっている。

 つい先日、絶世の美女に変装してきたかと思えば、拗ねたような後姿は正真正銘のシュガーボーイで。

 ちょっと獠はこんな香をもてあます。女が訳もなく、機嫌が悪くなる理由なんて・・・。適当につけたラジオから流れる、テンションの高いトークのせいか、タバコの煙のせいか・・・?

 こんな天気の日は、獠だってけだるい。あんまり考えずに出てきた言葉は、

      『なんか香ちゃん、ご機嫌わるいのな。生理か?』

 間髪入れずに、クッションが飛んできた。獠の適当なコメントは当たりだったようで。

 香はスタジャンを着ると、体育座りをして丸くなってしまった。実は、生理痛もあって、こんな日はいつもは楽しい冴羽アパートでの時間がひどく憂鬱だ。

 でも、仕方ない。

 昔、秀幸に検挙された男が仮釈放されたのだが、槇村家のポストに逆恨みの手紙を投げ込んで来たのだから。

          ---妹をぶっ壊す---

その手紙はたった一行の文句に、隠し盗りした香の写真の胸部と下腹部に卑猥な言葉を油性マジックで書きこんだものが同封されていた。

  最も、香はその手紙をみていない。だから、兄がここに自分を置いて一人で外出している意味がいまいち分からない。大体、いつもならアパートで留守番するように言われて、香が無理やり秀幸にくっついてココにくるのが常なのだ。女の子の日は、自分の部屋にこもっていたい。

 秀幸は、昨日投函されたらしいその手紙を見るや否や、簡単に荷造りするよう香に言い含めると、香を冴羽アパートに押し込んだ。

       『獠、絶対に香をここから出さないでくれ。』

そういって消えた秀幸は今頃犯人を捜しているのだろう。一応獠は、

       『槇ちゃんが香とアパートにいれば? オレが行った方いいだろ? よ~く脅しておくぜ?』

とは言った。秀幸が自分で肩をつけにいくであろう事は分かっていたが、心当たりの犯人は単独犯ではない。刑事時代の秀幸に麻薬売買の調査を受け、つぶされかけた組織の幹部だ。組織のトップは当分堀の外へは出られない。そこで、仮釈放で先に出てきた幹部の一人が報復に動いているのだ。刑事の秀幸なら、警察組織として動けたが、今はそうではない。獠という相棒はいるが単独と変わりないのだ。

 獠はひそかに情報屋に秀幸の行動を監視させた。秀幸が窮地に落ちれば、すぐ飛んでいく算段で。でも、情報屋から連絡は何もない。香の護衛も兼ねてるから、獠も冴羽アパートから出られなくて。不機嫌なシュガーボーイと絶賛籠城中だ。

       『暖かくなったと思ったら、急に寒い。』

獠が秀幸の事を考えていたら、ヤツの妹はまたしゃべり出す。さっきの続きのようだ。この少年のような生き物は、突然訪問してきて甲斐甲斐しく食事の世話や掃除をすると思いきや、想像を超えたとんでもない美女に変装してきたり、こんな風に石のように丸まったり・・・。捉えようがないのに、一緒に過ごす空気に違和感のない、不思議な存在だ。

 しゃべりだす香の肩が小さく震えている。獠は咥えタバコを灰皿変わりの缶詰の空き缶で揉み消すと、背後からこっそり香に近づき顔を覗き込んだ。急に、獠が覗き込んだ来た事に気が付いて香がかみついてきた。

       『なんだよ! いきなり! 見てんなよ!!』

言葉遣いこそ、男言葉のオンパレードだけど、涙を流しながら歯を食いしばり必死に何かに耐えているのが見て取れる。いつもは白いほほが、赤く染まり、足を抱える手は、手の甲に爪跡が残りなそうなほど握り占められ小刻みに震えている。

       『あのなあ、同じ部屋ん中で相棒の妹がこんなんで放っておけるか? 訳はなせよ?』

獠は香の横に胡坐をかいて座る。泣いている女を慰めるのは大得意だが、泣いているシュガーボーイはどうしてよいか分からなくて。まずは事情聴取だ。

頑固な秀幸の妹だ。そう、簡単に口を割らないと思っていたが、以外と早く香は言葉を口にし始める。

       『明日・・・、あたしの誕生日なんだ。でも、いつもこの時期、また寒さが戻ってきて・・・。』

香の言葉は、泣いている理由に聞こえない。昨日、秀幸は一緒に冴羽アパートに来た香を置いて、すぐに犯人を捜しに出かけてしまった。秀幸を心配していた香は夕べろくに寝ていないのだろう。脈来のない言葉は、そのせいか・・・? と獠は考えつつ、次の言葉を待つ。

 外は小雨が降っていて、風も吹き始め、窓ガラスの水滴が増えていく。この分だと、見ごろの桜も大分花弁が散ってしまうだろう。

       『なのに、いつもアニキ、いないんだ。いつも、いなくて、・・・誰かのために・・・』

そこまで言うと、香の目がギュッと閉じられ大粒の涙があふれ出した。寂しいから泣いたのではない。自分よりも、他の人間の心配をして昼夜寒暖も関係なく飛び回る、たった一人の兄を案じての涙。少ない香の言葉でも、獠にはその気持ちが痛いほど分かった。夕べ、秀幸は例の脅迫状の手紙をこっそり獠に渡すと、香を置いて出て行ってしまった。理由が分からず不安気な香には、

       『香、お兄ちゃん用事があるから、ここで獠と一緒にいてくれ。お前の誕生日までには戻るから。』

それだけだ。後は優しい笑顔を浮かべ、見上げる香の頭をそっとなでて。

こんなイレギュラーなこと、香が納得しているはずもないし、かえって心配を煽るだろうだろうと獠は思うのだが、とことん妹に甘い兄は、事情など説明する気はないらしい。どうも、この兄にとって、香は小さな妹のままのようで。保護すべき、愛しい存在といった所か。でも、香はそこまで子供ではない。いつもは自分から遠ざけたがる獠に自分を託し、行き先も告げずに帰って来ない兄の心配は時間が立てば経つほど募る。この時点で香は限界で。大粒の涙は、限界をこえてあふれた香の悲しみだ。

 今までも、たまにこんな事があった。突然、自分を昔の同僚家族に預けて姿を消し、やっと帰ってきたと思ったら、ひどい怪我をしている事もあり・・・。でも、兄の心配をして泣いている自分を見せたことは今まで一度だってない。何故か、この男のそばでは泣けるのだ。

 泣いて少しすっきりしてきた香を、ふいに暖かいものが包む。

        『心配すんな。 お兄ちゃんは、オレの情報・・・、あ~、いや、ダチがみてっから。 なんかあったらオレも行くし。』

 獠は丸まったままの香を横から大きく抱き留めると、あやすように話す。暖かい囲いの中で、香の体から力が抜けるのが感じられる。獠はそのままじっと動かずに香の様子伺った。香は少しづす落ち着きを取り戻しているようで、獠の胸に耳を当てるようによりかかり、かたく握っていた手を緩め、足を崩していく。規則正しい獠の心音を聞いているようだ。

    ---可愛い---

獠は素直にそう思う。自分の作った囲いの中で、安心して身をゆだねる存在は純粋に兄の無事を想うシュガーボーイ。泣きつかれて、いつの間にか呼吸は静かな寝息に変わっている。窓ガラスに打ちつける雨が強くなってきたし、ラジオから流れるハイテンションなトークは相変わらずだけど、まるで世界に二人きりのような優しい時間に、獠も一瞬の安らぎを知った。

 このあと帰ってきた秀幸に、香を抱いている所を見られ、制裁を加えられる事になるのは数時間後のお話。

 

                                              【完】

 

 

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シュガーボーイと春休み〜2〜

2017-11-27 13:00:00 | シティーハンター

『はぁい、獠❤』

獠と秀幸が香の発言に固まるやいなや。

突然入室してきた深夜のアポなし訪問客は・・・。

『冴子、どうしたんだ?』

冴子の来訪で我にかえった秀幸は、冴子に要件を伺うように話しかけた。

親しげに深夜の訪問客に話しかける兄に、今度は香は固まる。

自分の知る兄とギャップを感じるのだ。

先ほどの会話で、冴子という女は警察職らしい事まで察した。

だが。

実物の本人ときたら・・・

グラマーな胸元を大きく開いたカットソーに、真っ白いタイトなブレザー。

足も尻も、形状があらわになるほど体にフィットした、紫色のスカート。

脇のスレンダーは深く入り、白く肉付いた太ももが艶めかしい。

おまけにヒールの高い白いパンプスは、冴子のグラマラスな肢体を一層際立たせるように姿勢を美しく際立たせ、要は・・・。

香にはどぎつい色気でムンムンで。

漂ってくる濃い香水の匂いだけで、酔いそうであった。

こんな、歩く18禁のような女に、兄は普通に話しかけている。

そして、獠はと言えば鼻の下を伸ばしながら、冴子のスカートのスリットをガンミしている。

ディープな大人の世界に香が茫然としていると、冴子は獠が座るソファにツカツカと近寄り、その背もたれに浅く体を乗せた。

『な・・・、なんだ?冴子っ。』

鼻の下を伸ばしつつも、獠はなんとなく不機嫌で。

でも、香からみた三人は、とても大人ッぽくて、且つ親しげだ。

とてもではないが、会話に入っていける雰囲気でない。

そんな香を歯牙にもかけず、冴子は獠に接近する。

『急なお仕事たのんで、ごめんなさいね、獠。・・・でも、引き受けてくれるわよね?』

冴子は右手を獠の背後から忍ばせると、獠のあごを細い人差し指でスルリと撫でる。

少し傾けた冴子の横顔はひどく妖艶。黒々とした髪の毛からキラリと光るピアスが覗く一瞬が煽情的だ。

『ふんっ、冗談じゃねえ!』

獠が反抗を見せる。

まるで子供が拗ねるように、顎を冴子の指から振り外す。

こんな時、いつも秀幸はため息交じりで仲裁役だ。

『なあ、獠、大事な仕事なんだ。明日、オークションにかけられるのは盗まれた日本国宝だぞ?』

『国宝なんて興味なし! なんで、ペア出席のパーティーに同伴の女がいねーんだよ!リョウちゃん、パス!!』

“問題は、やはりソコか・・・”、と冴子は苦笑いするが、そんな冴子の冷静な対応は香の目に入らない。

香にとっては、冴子が獠をかどかわしているようにしか見えなかった。

『うふふ、ねえ、獠? ワタシ、あなたを一人で行かせたりしなくてよ?』

冴子はソファの背もたれから離れ、獠の傍にカツカツと歩みすすむ。

『へんっ、冴子、お前は面が割れてるから潜入できねえんだろ?』

獠の返答はぶっきら棒である。

『ええ、そうなの、獠。だから、明日の同伴は、私の妹の麗華にお願いしようと思って。あの子ならイブニングドレスも持ってるし、明日のパーティーもそれ自体は安全なものだから、心配ないわ。』

冴子の妹の麗華は、元警官で今は一人で私立探偵事務所を営んでいる。

『・・・そうか、麗華ちゃんは、警察やめてから、そんなに立つんだな・・・。』

秀幸は感慨深そうだ。

獠と秀幸だけだと思っていた香の世界に、次々と知らない女が登場してくる。

香は自覚もなく動揺していた。

そんな香を置いて、会話は続けられる。

『・・・あの子、警察は早くにやめたから。あいつらの警察署員データにも乗っていないはずよ。』

麗華は、冴子を通して獠や秀幸と面識がある。そして、麗華が獠に淡い恋心を持っているのを冴子は知っていた。

今回の冴子の采配は、そんな健気(冴子には、そう見える。)な妹に、ドレスアップして獠とデートをさせるという趣向で。

ちょっとした、冴子から麗華へのプレゼントだ。

『そうか。まあ、明日は会場入りしたら、ターゲットの行動に合わせ獠が単独で会場を出て、オークションする部屋で証拠を小型カメラにとった所で終了だし・・・。 麗華ちゃんには、危険もない。・・・いいんじゃないか?』

秀幸は淡々と答える。

『私はホテルの周囲で警察隊と待機しているわ。証拠を押さえたらすぐに連絡を頂戴ね、獠! マフィアもオークション客も一網打尽にしちゃうから ♪ 』

冴子はパチッとウインクを決める。

その様は、妖艶ななのに、ひどく可愛くて。何故か、香の心をかき乱した。

しかし。

これで、明日の作戦会議は終了と思われたのに・・・。

『グフフフフ・・・。麗華かあ〜・・・。会場はホテルだし、仕事終えたら・・・・、ぐふぐふぐふ・・・。』

獠が満面笑みのスケベ顔で明日の妄想を始めてしまった。

秀幸は毎度の事と承知している。でも、冗談でもあまりに品がないのはお断りだ。

『獠、真面目にやれよ? 麗華ちゃんに、失礼なことするんじゃないいぞ?』

念を押すが・・・。

『槇村! 恋愛は自由だ! 大人の男と女、麗華がOKなら明日はモッコリ・ナイト決定!! 』

香には具体的な意味は分からないが、獠がとても非道徳な事を言っている事には思い当る。

そして、なぜか。

名前も分からない不思議な感情がマグマのようにたぎっていく。

『麗華がOKなら、いいんじゃない? ❤ 』

冴子のバクダン発言が、香の火山に火をつけた。

そう、このモッコリ発言を連発する変態男を監視するのは自分の役目だと。

誰にも、譲りたくない。

理由なんて、何もなくて。

ただ、他の女にこの役を取られるのは、どうにも我慢できない。

“バンっ”

テーブルに両手を強く打ちつけて、香が立ち上がった。

つい今しがたまで、人形のようにおとなしかった香に、獠、秀幸、冴子の視線が集中する。

『ダメ! 明日はアタシが同伴する!!』

ここにきて、初めて香が口を開いた。

秀幸は思わずこめかみを抑える。

せっかく、明日の仕事が香から離れたと思って安心したのに。また振出に戻ってしまった事が嘆かわしい。

そんな秀幸の心情を、冴子は敏感にくみ取った。

明日のパーティーへの潜入は危険を伴うわけではないが、このシスコンの男は、香にそんな事をさせたくないのだろう、と。

冴子は得意のフォローに入る。

『うふふ、明日のドレスコードはイブニングよ? おまけに周りはセクシーな美女ばかり。・・・無理よ、“ぼうや”には。』

冴子と秀幸は恋人同士だ。

でも、秀幸は香がいるからと夜に一緒に飲みに行っても夜中には帰ってしまうし、ろくにデートの約束も取り次げない。

つい、日ごろの鬱憤をはらすように、冴子は香を男の子扱いしてしまった。

だが。

これが、香の火に油を注いでしまう。

獠は、一件唖然とやり取りを見ているようだったが。

槇村には悪いと思いつつ、このシュガーボーイの意表をつく行動の数々から目が離せない。

こんな人間は初めてで。

そして香の勢いはとどまることを知らず。

『ド、ドレスくらいあるから!!アニキ、電話貸して!!!』

兄から携帯電話をひったくる。

香が電話をした先は・・・。

秀幸は、“あ〜っ”、と苦虫を潰したような表情で天を仰ぐ。電話した先に心あたりがあるようで。

獠と冴子は、訳が分からず香を見る。

・・・。

着信コールが数回流れ、ほんの数秒。

微妙な空気が部屋に漂う。

『アッ、もしもし、絵梨子?』

絵梨子って誰? 

そんな気配が、獠と冴子の表情に出る。

槇村はもう、どうしようもないというようなあきらめ顔で。

『なあ、槇ちゃん、絵梨子って誰?』

小声で、獠が秀幸に問う。

『・・・香のリーサルウエポンだよ、獠。』

冴羽アパートは深夜0時。

波乱は続く。

                       «続»

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シュガーボーイと春休み〜1〜

2017-11-20 17:00:00 | シティーハンター

香、高校2年生の春。

待望の春休みに入った。

春休みが終われば、香は高校3年生になる。

大学に行くきは更々ない香は。

受験勉強とは無縁の日々で、春休みはノンビリしたものだ。

そんなかんだで。

終業式を終えてからというもの、兄と獠のいる冴羽アパートに入り浸りたっている。

『獠、仕事だ。』

“バリバリバリ・・・”

『冴子経由ねえ・・・・。』

“♪♪♪〜♪♪♪〜!”

『そういうな、まあ、報酬は安いが警察の経費からねじ込んでるんだ。勘弁してやってくれ。』

“ゴクゴクゴク・・・”

『だってさあ、冴子の仕事のたんびにモッコリ報酬たまってくのに。返してくんないし〜?』

“バリバリバリ・・・”

『獠、そんな報酬はもとから無い!』

“♪♪♪〜♪♪♪〜!”

『じゃあ、パス。』

“ゴクゴクゴク・・・”

『ホントにいいのか? 獠。』

“バリバリバリ・・・”

『・・・ってか、槇ちゃん、お前の妹・・・。』

香の春休みも中盤に差し掛かった日曜日の夜。

夕食後の冴羽アパートのリビング。

獠と秀幸は、冴子から持ち込まれた仕事の打ち合わせで。

そして、香は。

彼ら二人の傍で、日曜劇場をテレビで鑑賞している。

今日は香が好きなインディ・ジョーンズの映画の放映だ。

今までは、帰宅の遅い秀幸を待ちながら、一人、公団の小さなアパートでテレビを見る事が多かった。

でも、ここにいれば、兄と獠がそばにいる。

香はご機嫌で鑑賞中で。

手には草加せんべいの大袋と、一リットル入りの紙パックジュースを持って。

さっきから、この冴羽アパートには不似合いな音の発生源だ。

獠と秀幸の会話に、香がせんべいを食べる音と、香がパックのジュースをがぶ飲みする音と、香が鑑賞しているテレビの音が混じる。

『・・・香は自宅に居させようと思ったんだが、ついてきてしまってな。』

秀幸は、ヤレヤレといった表情で妹を見る。

でも、その表情は慈愛に満ちて。

秀幸は、シティーハンターの仕事をしている事を香に知られた。

おまけに、数週間前の笹井重工の社長宅への乱暴な挨拶にも香は同席していて。

獠のシティーハンターとしての荒々しい仕事現場も目撃している。

でも、香はいつもと全く変わりなくて・・・。

“法律では守れない、世の中の理不尽ってやつから誰かを守る仕事なんだろう?”

大人びた事を言って、秀幸を驚かせた。

今日の香は、黄色いトレーナーに秀幸のお下がりの青いオーバーオールという服装だ。ソファで胡坐をかいてテレビを見ている姿は、少年のようで。

そんな、大人と子供が同居したような、年の離れた妹が、秀幸は愛しくてたまらなかった。

今日だって、冴羽アパートに行こうとしたら、くっついてきた香を一緒に来てしまった。

『まあ、いいけどさあ、・・・スイーパーのアジトでせんべいって、どうよ?』

『・・・ハハハ(汗)』

渋面の獠に、秀幸は苦笑いだ。

時刻はもうじき23:00。

日曜劇場は終わりらしく、BGMを背景にエンドロールが流れ出した。

『んで、槇ちゃん、さっきの“ホントにいいのか?”って、どういう意味?』

『ああ、潜入先の事だ。獠、アクトレスプロモーションっていう会社は知っているか?』

『アクトレスプロモーション?・・・ま、まさか・・・、超モッコリ美人女優と美女タレントばっかりの芸能プロダクション?!』

『・・・言い方はアレだが、そう、女性タレント専門の芸能プロダクションだ。』

『そこに潜入?いく!リョウちゃんいくいく!今すぐ行く!』

『慌てるな、獠。潜入するのは、芸能プロじゃない。実行も明日の夜だ。』

『明日・・・、ほ〜、ってことは、潜入っちゅうのはあのパーティーかあ❤』

『知ってるのか?』

『モッチロン♪ モッコリ美女が参加するパーティーだろ?リョウちゃん憧れの、女優の麦倉涼子ちゃんでしょ〜、グラビアの鈴木京子ちゃんでしょ〜、グフフ・・・・』

『お前にとってはそうかもしれんが、れっきとしたチャリティーパーティーだ。獠。』

秀幸は呆れ顔だ。こんな美女だらけのパーティーに潜入なんて、本当は獠にはさせたくなかったのだが・・・。

女性タレント専門の芸能プロダクション・アクトレスプロモーション㈱。

この会社は毎年この時期にチャリティーパーティーを開催している。

所属の女優やタレントを招待客と歓談させて、寄付を募るという趣向で、金持ちがあつまる事で有名なパーティーだった。

今年の会場は、都内の外資系高級ホテルのパーティー会場。

招待客の面々は相も変わらず豪華である。

だが、しかし。

今年はちょっと事情が違う。

招待客を装って、盗品美術品のコレクターが数名混じりこんでいるという情報が入ったのだ。

パーティーに出席するフリをして、途中こっそりパーティー会場を抜け出し、ホテルの別室に運び込まれた盗品美術品のオークションにも参加するという寸法らしい。

だが、パーティー自体は、まともなものでアクトレスプロモーション㈱にも、後ろ暗いものはない。

別室で盗品美術品を捌くのは中国系のマフィアで、パーティー自体はオークション参加者をカムフラージュするための単なる隠れ蓑だ。

なんの後ろ暗さもないパーティーのうえに、盗品美術品が同じホテル内にある証拠もない。警察が切り込めない為、冴子が秀幸に持ち込んだのである。

『あ、その女優さん知ってる!麦倉涼子!スケベな獠が好きそうだな!』

いつのまにか、香が会話に入り込んできた。

食べ飽きたらしく、せんべいの大袋は半分ほど残ったまま、放置され、今は獠と秀幸の仕事の話に首を突っ込んでいる。

『香、おとなしくしていなさい。今晩はそろそろ帰るから。支度しなさい。』

秀幸は香に帰り支度をさせようとしたが・・・。

『へ?支度なんてないよ?』

食べ物以外、完全手ブラできた香は荷物なんて無くて。

今の会話から逸らそうとした秀幸の努力は徒労に終わる。

そんな様子を見ていた獠は、こっそりため息が出た。じゃじゃ馬の香が、仕事の話を聞いたら興味深々になることくらい、秀幸だってわかるだろうと・・・。

『いいから、槇ちゃん、話すすめようぜ?』

『はあ・・・。香はおとなしくしていなさい。』

“は〜い”と、どっちつかずの返事をした香に、大きくため息をついて槇村は説明を再開した。

『それで、明日の夜だが、ここにあるパーティーの招待券で会場に潜入する。コレクターはこの三人。』

秀幸は、写真を三枚取り出す。いずれも、中年の太った男だ。

金だけはたんまり持っていそうだが、獠は写真を見てゲンナリする。

『せっかくのモッコリパーティーに、こーんなジジイ・・・。興冷めもイイトコだぜ。』

『チャリティパーティーだからな。参加者から寄付を集めて赤十字に寄進するそうだ。金持ちも参加しないと金が集まらん。』

『本命が、もっこりちゃんじゃなくて、盗品美術品とはねえ。趣味あいそうにねえなあ〜。』

獠はヘラヘラ苦笑いだ。

『気をつけろよ、獠。盗品を別室で捌くのは中国系のマフィアだ。荒っぽい連中だぞ。』

『心配ねーよ、そっちは。それより、招待券、・・・男女同伴参加、・・・男性はタキシード、女性はイブニングって書いてるぜ?』

『・・・ああ、それだが・・・。』

秀幸が言い出した所で、獠が口をはさむ。

『そーだっ、冴子にしよーぜ!冴子!露出の高いドレス着せりゃ、会場の男どもの気もそらせるぜえ!』

スケベ顔でまくしたてる獠だったが、秀幸から冷たい宣告がされる。

『そのことなんだが、獠、すまないが明日は一人で会場に入ってくれ。』

『えええ?! 同伴なしで行くなんて、絶対にイヤだ!! モテないヤツみたいじゃねーか!! 冴子、冴子を貸せ!!!』

ダダをこねる獠に秀幸は、また大きくため息を吐く。

香は、さっきからやたら名前が出てくる冴子って誰? とおもいつつ、ききわけの悪い獠を呆れて見ていた。

『それは無理だ、獠。』

『いいじゃねえか、明日の夜だろ? 潜入に同伴できるイイ女なんて、冴子しかいねーじゃねーか!』

冴子、冴子と連発する獠に、香は少しイライラする。いったい、どんな女だというのだ。

『敵さんは、都内の警察のデータを持っているらしい。恐らくパーティー会場にこっそり画像センサーカメラでも仕掛けるんだろう。顔認証で警察を警戒してくるはずだ。過去五年以内の警察の退職者も含まれるらしいんだ。 だから、冴子も、・・・オレも潜入はできん。』

このやり取りで、香にも少し事情がつかめてきた。冴子、というのは警察の人間で。そして、兄の同僚だったのだろう、と。

『は〜、しゃあねえ、会場でもっこりちゃん調達か・・・❤』

獠がニヘラ顔で言う。口元からは涎が流れそうだ。

『獠・・・、だから今回の潜入は任せたくなかったんだ・・・。』

秀幸が困り顔で獠を睨む。雲行きが怪しく、獠はあわててフォローに入った。

『おいおい、槇ちゃん、リョウちゃんは頑張るぜ? ばっちり仕事してきてやるって♪』

そうも言いながら、獠はグフグフ笑っている。

秀幸は、獠なら単独でも仕事はこなす事は分かっているものの、あまりに不真面目な態度に頭痛がしてくる。 

人差し指と中指でこめかみを強く揉んだ。

そして、香にも。

秀幸が困っているの理由が十分に検討がついた。

この家に転がるエロ雑誌に、女好きを隠そうとしない、今のあからさまな会話。

秀幸は、獠が女にうつつを抜かすのが心配なのだろう。

本当は秀幸が潜入した方が安心なのだろが、元警察という事で面が割れる可能性が高い。

そこで、渋々女好きな獠を美女だらけのパーティーに潜入させなければならないのだろうが・・・。

香は、ふと思案した。

そして、自分ができる(と思う)事を発見する。

兄への助け舟だ。

『ねえ、アニキ?』

香が、久しぶりに口を開く。秀幸は腕時計を確認しながら香に答えた。

『すまんな、香、眠いだろ? そろそろ帰るから。』

『そうじゃなくて、アニキ。』

『ん? なんだ?』

秀幸は香の方を向いた。

秀幸が、香を見る目は蕩けそうに甘い。

獠は、そんな相棒の表情にこっそり目を細めた。

守るべき愛しい存在がある男というのは、かくも良い表情をするのかと。

だけど、そんな獠の気持ちは心の奥底に秘められていて。

表に出る事のない、出せない想いを、目の前の兄妹は知る術もない。

だが。

そんな、獠の感傷を一蹴にする香のバクダン発言が・・・。

『アタシがいくよ!』

『え?』

秀幸は香の話が飲み込めず、聞き返す。

『明日のパーティー、アタシが獠に同伴する。獠が女にスケベな事しないように見てればいいんだろう?』

突拍子も無い、香の提案。

獠と秀幸は仰天した。

                                         «続»

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YOU CAN‘T HURRY LOVE ~18~ 表と裏

2017-11-16 18:00:00 | シティーハンター

香がフィアットパンダを走らせること、約二時間。

やっと、その門にたどり着く。

車を停車させると、すぐに警備の人間が駆け寄ってきた。

『お待ちしておりました。槇村香様ですね。お車は玄関前お停め頂いて結構でございます。』

恐らく獠と同じくらいの年齢であろう、濃紺の警備服に身を包んだ男は背が高く、中々のイケメンで。おまけに、香の事も、名乗る前に挨拶してくる徹底ぶりだ。

--さすが、名門の西九条家よね〜--

香は再びフィアットパンダのエンジンをかけると、正門から入っていく。玄関はこの正門から木々に覆われた西九条家の敷地を二キロほど走った先だ。

--たはは・・・、ほとんど、山のなかねえ・・・。---

西九条邸のあまりのスケールの大きさに、ここに来るのは初めてではないのに、思わず苦笑いとため息が漏れる。オンボロ冴羽アパートとは雲泥の差だ。

でも、心はウキウキで。

勿論、依頼遂行中だし、今現在仕事中で、まだ何も解決はしていない。

でも、依頼人の二人は獠のガード下にあるから安心だし・・・。

香は、かつての依頼人、西九条沙羅、そして今や彼女の側近秘書になった麻上亜紀子との再会が待ち遠しかった。

------------------------------

『ねえ、たっちゃん、冴羽さん、朝ご飯たべてないし、お昼ご飯、はやくしたほうがいい?』

時計の針は正午近い。十条の工場の休憩時間は12:30からだから、十条と岬の感覚からすればランチには少し早い時間だ。

『そうだなあ、香さんが用意してくださった食事、温めてくれるか?』

PCのモニターを見ながらタイプする十条は、岬の方を振る向きもせず淡々と答える。こんなのはいつもの事の岬だが、十条が香を高くかっているのを昨日からずっと感じ続けており、なんとなくさみしかった。

本音では、十条が香をどう思っているのか直球で聞きたい。冴羽という同居男性は、岬に迫ってくるし、そもそも獠と香の部屋は別々だし、本当に仕事上のパートナーなんだろう。

でも、だとしたら?

十条が、香に思いを寄せているとしたら?

いつものように軽く話題をふればいいだけだ。でも、それもコワくて聞けないでいる。

まごまごしているうちに、この家の当主が起きてきた。

『ふわ〜!!』

片手に新聞を持ち、両腕を上に伸ばしてあくびをしている獠は、ただでさえ身長が高いのに、やたら大男に見える。昨日の食事中の会話はとても楽しく打ち解けた感じはしたものの、岬には迫力満点だ。

『おはようございます、冴羽さん。』

十条はすっと立ち上がり、獠に挨拶した。獠の方は、腹のあたりをボリボリ掻きながらソファにドカリと腰をおろす。

『よお、十条ちゃん、作業すすんでっか?』

新聞を開きながら獠が切り出すのは十条の作業の進捗の確認だ。

今、香は西九条家で打ち合わせしている。

そっちの作業が済んだら、一揆に計画を進めていくのだ。

そうなったら、のんびりPCのタイプどころではない。それに、ロッポンギの荒っぽい連中もいつ動き出すか分からなかった。

『たっちゃん、お昼の支度してくるね。』

岬はなんとなく、席を外す事にした。勿論、昼食の用意というのは本当だが、男二人同士の会話はなんだか自分には重すぎる気がして。

キッチンに向かう岬は、獠にとってハムスターや子リスのように見える。勇ましく車のギアを操作したかと思えば、大男の自分を見て、まだおどおどしている様はまさに小動物で。

--おもしれー子(笑)--

そんな優しい獠の視線に気づかず、岬はぎこちなくキッチンへ歩いて行った。

そんな獠の様子に、また十条は軽い驚きを覚える。

昨日、喫茶店で繰り広げられたナンパ行動、昨晩の食事の席での獠と香の爆笑トーク、岬にスケベ顔で迫ったと思えば身内に向けるような優しい視線を注ぐ・・・。

どういう人物なのかまるでつかめなかった。

『どしたの、十条ちゃん、ぼーっとしちゃって。』

なんとなく獠をみていた事にきづき、十条は慌てる。

『あっ、いえ、すみません、ええと、お昼、香さんが用意してくださって今、温めてますから。』

とっさに、あたりさわりない会話を持ちだす。でも、そのセリフに獠は目を細める。スウエットのポケットから煙草を取り出すと、一本くわえて火をつけた。

--十条と岬はまるで、家族だ。オレと香もはたから見るとそんなかんじかねえ・・・--

そんな事を考えながら獠は本題を切り出した。

まるで、なんでもないことのように、口調はあっさりしている。

『あ〜、十条ちゃん、今、香でかけてるじゃん?』

『はい、昨日、あんな危険なことがあったので、お一人で行かれて。大丈夫なんでしょうか?』

十条の顔が心配気にゆがむ。

『心配はいらねーよ。アイツの車に発信器がついてるが、ちょっと前に目的地に到着したのは確認済だ。』

『目的地・・・?あの、どこですか?』

質問してよいかどうか分からず、恐る恐る十条は獠に尋ねる。

でも、獠はプカプカとタバコを吸いながら、新聞を眺めつつの会話で全く緊張感がない。

『西九条家って、しってるか?』

『・・・はい、たしか旧財閥で、いろいろな業種の会社を傘下にしているコンツェルンの本山ですよね。銀行や証券から、商社、重工、土木、建築、・・・あ、ワタシが利用しているクラウドも西九条系列の会社の運営です。』

獠は、十条がなかなか詳しいのに満足する。これから自分が話す内容は驚くかもしれないが、飲み込みは早いだろうと。

『そっ、正解、十条ちゃん。香が今いる所は、西九条コンツェルンの本山がある西九条邸さ。』

『え???』

十条はまったく事情がつかめない。

あの有名な西九条コンツェルンに、獠と香のつてがあることも、自分たちの事で香が西九条コンツェルンへいっていると言わんばかり獠の言い回しも、なにもかも釈然としないのだ。

十条が美人依頼人なら、話を聞いて依頼人がびっくりしないように、獠はここで懇切丁寧にモッコリしながら説明するところだけど。

そんな手加減は十条にはナシだ。ズバズバ話を展開していく。

『十条ちゃん、あんたの工場だが、法人化してマザーズに上場させる。主幹事は西九条証券、メインバンクは西九条銀行、取引先は、西九条重工業や西九条工務店なんかだ。融資の条件は、特殊炭素繊維の特許を担保ってことで。』

十条は突然の話についていけず放心している。

でも、もっこり男の冴羽獠が、いい年した男に無駄な親切をするはずもなく。

獠は、話を一揆にたたきこんだ。

『社長はあんただぜ?十条ちゃん。』

獠はニヤリと笑ってタバコを灰皿で揉み消すと、立ち上がった。

キッチンからは美味しそうな匂いが漂ってくる。

茫然とする十条をリビングに残し、獠はキッチンに向かっていく。

獠の計画は、まあまあ(?)順調だ。

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シュガーボーイと金曜日

2017-11-16 11:58:17 | シティーハンター

『やっと、金曜日も終りね!香、明日は何してるの?』

金曜日の夕方、放課後の校庭を横切りながら、香と絵梨子は帰路を歩んでいた。

週休二日制を謳歌している北原絵梨子高校二年生は、親友に負けないくらいうすべったい学生鞄を振り回しながら、香の周囲をくるくる回っている。

月曜日、香の打ち明け話を聞いてから・・・。

香はいつもの香に戻った。級友たちと馬鹿笑いしたり、昼休みにバスケをしたり、すっかり元の香である。

なので絵梨子は香のきにする“彼”のことをすっかり忘れていた。

『うん・・・、あのさ、様子見に行こうかなって。』

『様子?』

『怪我、どうかと思って。』

『・・・!ああ、あの怪我した男の人。でも、お兄さんから聞いてないの?』

『アタシとアイツが知り合いなのアニキしらないし、それに、なんか、アニキ、あいつの事隠してる気がしてさ。』

『ふ〜ん。大人って色々あるってことね?』

『多分、そんな感じ。』

絵梨子は親友が気にする男の事は正直な所、あまり関心がない。香がいつもと変わりなく元気ならそれでいいのだ。

たまたま話題に出てきた獠の事を話ながら、校門まで来る。香と絵梨子はここでさよならだ。

『ねえ、香、週末、もし時間あいたら連絡してね?新作の夏の水着が来たのよ!』

『へ?水着?まだ春じゃん。』

『もうっ、香ッタラ!ファッション業界は季節先取りが常識よ?』

『へえ・・・。』

『いつか、エリコ・キタハラのデザインした服、香にきせるからね!』

絵梨子は胸をはってドヤ顔だ。まるで“えっへん”とでも聞こえてきそうである。

『動きやすいのがいい。』

『も〰う、香ってば、・・・う〜ん、いいわ。動きやすいように、思いっきりスリットが入ったドレスつくるから♪』

『ズボンにしてよ。』

香は、女っぽい服が苦手だ。

なんとなく、自分には似合わない気がするし、女っぽい髪形にする事すらはばかられる。

幼少の頃から、髪形はずっとショートカットだ。

『いやよ、女のオシャレは色気が大切!』

目の前の親友は、香と正反対だ。

見た目のあどけないルックスとは裏腹に、もうすでに大人の女の感覚を持ち合わせているらしい。

『アタシたち、まだ17歳じゃん、絵梨子。』

香は、実は大人になるのがちょっぴりコワイ。

できる事なら、いつまでも子供のように兄に甘えて暮らして行きたいのだ。

なのに、大人になるという事は・・・。

そんな些細な願望すら遠ざけてしまう気がしてしまう。

だけど親友の絵梨子は独立心旺盛で。

『もう17歳よ!これからじゃんじゃんオシャレするんだから!じゃ、アタシはパパのデザインルームに寄るから!』

『うん、また月曜日にね、絵梨子。』

『バイ、香!また月曜ね!』

そういうと、踵を返して絵梨子は父親のデザインルームがある渋谷に向かっていった。気持ち駆け足で去っていく後ろ姿は、ウキウキと楽しげだ。本当にデザインが好きなのだろう。

絵梨子のバイタリティーに圧倒され、香は彼女の背中をぼんやり見つめる。

大人の女になる事に、なんの抵抗も持たない絵梨子は、香には輝いて見えて。変なこだわりをもつ自分の背中を後押ししてくれるようなのだ。

周囲の友人達は、絵梨子が香を盲目的に大好きなのだと認識しているが、実は香は前向きな絵梨子に憧れている。

二人は、正真正銘の親友同士だ。

------------------------------------

 夕焼けの朱色の陽が差し込む槇村家の台所で、秀幸はエプロン姿でカレーを仕込んでいた。市販のカレールーも投入し、仕上げ段階だが、問題はその量である。

怪我をしている相棒の獠の冴羽アパートは、キッチンにろくなものがない。

仕方ないので、自宅で大量に食事を作って持っていくのが、この一週間の秀幸だったが、獠の食欲は尋常でなく運ぶのが難儀だ。

あるときはおにぎりを沢山つくってみたり、あるときは卵焼きを数本つくってアルミホイルで包んでみたり、あるときは大量の空揚げをラップでカバーした空き箱に入れてみたり。

配送手段もあの手この手だ。

おまけに、妹の香にはバレるわけにはいかない。

できるだけ台所の用品は持ちださないか、もちだしてもすぐに返却していた。

香はこの頃、眼に見えて料理の腕前が上がってきて。台所で秀幸にレクチャーを受けながら、コロッケやらミートソースやらを器用に作る。男まさりな面のある香だが、料理は好きらしい。

けれど、台所に香が立った時、調理用品などがなくなっている事に気づかれては都合が悪いので・・・。

---メシはタッパーに入れて、カレーはしょうがない、手頃な鍋に移して持っていくか---

香が帰宅してから出かけるのもまずいので、秀幸はさっと用意したものを紙袋に入れると、兄弟の住む小さなアパートを後にした。

---------------------------

---アイツ、どうしてるかな?---

香は自宅には向かっているのの、超スローな足取りで歩いている。

血の染みたベッドに横たわる獠の姿、自分が用意した簡素な食事をとる獠の姿、食事の後ベッドに横たわりながら自分とたわいもの無い話をしてくれた獠の姿・・・。

獠という正体不明な不思議な男の事で、頭の中はいっぱいだ。

---ちょっとだけ、様子見に行こうかな。---

いつも学校帰りに買い物をする小さな商店街の八百屋で、香はリンゴを三つ買うと冴羽アパートに向かった。

---------------

『獠、メシだぞ。』

秀幸は今しがた自宅から持ち込んだカレーライスを獠にだした。出来立てで程よく保温されており、温め直す必要もないそれは、空腹の獠を喜ばせる。

『うっまそーじゃん、槇ちゃん。日本のカレーは格別だよな。』

獠はガツガツと食べだした。

こうしてキッチンでガツガツ食べる様子を見ると、確かに相当早く回復しているようだった

獠にとってのカレーはインド人やスリランカ人が作るサラサラとしたスープに近いものだったが、日本特有のとろみが強いルーと粘り気のある米飯のカレーライスを知ってからは、日本のカレーが大好物だ。

獠は、左肩の傷はほとんど問題ないようで秀幸が来たときにはふつうにソファでくつろいでいた。

見たことの無い雑誌(エロ本)を読んでいたのを見ると、既に外出しているのが見て取れる。

ダイニングテーブルには買ってきたであろう、タバコに酒、惣菜パンの空き袋、焼き鳥を食べたのであろう大量の竹グシなどが散乱している。そして・・・。

『・・・おい、獠、なんでこんな物がキッチンにある?』

秀幸の視線の先にあるのは、カラフルな小箱。“薄々0.02ミリ”とデカデカと描かれたそれは、コ〇ドームだ。

『どこだっていいじゃん。』

獠は全く気にも留めず、カレーライスにがっついている。

皿におかわりを寄そうのは面倒らしく、タッパーの白飯にカレーを全部かけてしまっていた。

『・・・せめて、ベッドルームの棚に隠すとかなんとかしろ。』

秀幸は、いくら男同士でもマナーを求める。テーブルが散らかっているのは仕方ないとして、こんな衛生用品まで転がっているのは許容外だ。

『槇ちゃんはそうしてるのか?』

カレーライスは早くもなくなりつつある。

カレーがくっついた口で、獠は質問した。獠にとっては何の衒いもない世間話で。

しかし、

『バカ野郎、ウチにはそんな物、もちこまん!!』

ちょとだけ秀幸がムキになった。冷静な男だが、妹の事になると違うようで。

--コ〇ドームなんて--

年頃の妹がいる二人暮らしのあの小さなアパートに、絶対に存在してはならない物だと思っている。

『あ〜、オレも、使うのは外でだけ。ここに“オンナ”はつれこまねーよ。』

獠は顔色一つ変えない。秀幸とこの手の会話は成り立たない事はとっくに承知済だ。

『まったく、獠、・・・お前は・・・ん?』

玄関のスチール扉が開閉される音がする。

ちっとも気配を隠そうともしていないその気配は、明らかに女の物で。

そして、初めてここに足を入れたのではなく、この場所に来慣れている様が感じ取られる。

『・・・話がちがうんじゃないのか?獠。オンナはここに連れ込まないはずじゃなかったのか?』

当の獠は、スプーンを口にくわえたまま明後日の方向を見ている。気配を探っているのか、どうなのか・・・。

秀幸は、獠の仕事の腕も人物も高く評価している。

が、女関係はその真逆だ。

今回の怪我だって、相手が女じゃなければ無傷だったのだから。

そうこうしているウチに、問題も“オンナ”がバタバタといえのなかを駆け回っている足音がする。

最初に向かったのは、間違いなく獠の寝室だ。

『獠、やっぱり、ソイツはベッドサイドに合った方がよかったんじゃないのか?』

秀幸は完全に呆れて、こめかみを指でもんでいる。目線はの先は、カラフルなコ〇ドームの箱だ。

秀幸がイライラを募らせていると、寝室で獠を見つけられなかった“オンナの気配”が、キッチンに近づいてくる。

秀幸はキッチンの入り口を凝視しした。獠が連れ込む女なんて、どんな淫乱女が来るのかと思わず眼光が鋭くなる。

だが・・・・。

秀幸は仰天することになる。

キッチンに顔を出したのは、薄い学生鞄とリンゴの入ったレジ袋をもつ、制服姿の彼の可愛い妹であったのだから。

そして、それは香も一緒で。

今日は、秀幸が夕食を作る予定だったので、この時間に兄が冴羽アパートにいないと踏んでいた。

--まさか、兄がここにいるなんて--

思わず手から放してしまったレジ袋からリンゴが三つ、香の足元をコロコロと転がっていく。

文字通り、三すくみ状態。

『『『・・・・・・・・・。』』』

この時の事を、いつか、懐かしく語る時が来るなど。

今は誰も知らない。

                                            «完»

 

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