感染症内科への道標

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椎体炎 NEJM

2010-04-09 | 臓器別感染症:骨・関節系
Vertebral osteomyelitis
Werner Zimmerli, M.D., et al
The New England Journal of Medicine
NEJM, March 18, 2010

発生:10万人あたり2.4人(20歳未満では0.3人,70歳以上の高齢者では6.5人と多い)
菌:S.aureus次いで、E.coli. コアグラーゼ陰性StaphylococciやPropionibacteriumは殆ど全て脊椎術後等の外因性に発生する。
感染元:253人中51%で同定。尿路、皮膚、軟部組織(点滴部位、心内膜炎、滑液包炎、化膿性関節炎)であった。
背景:殆どの患者様では糖尿病や心疾患、免疫抑制、癌、透析を要する腎不全、薬物中毒等の背景がある。
合併症:17%で硬膜外膿瘍、26%で傍脊椎膿瘍、5%で椎間板膿瘍 1/4で麻痺や筋力低下が発生し、特に頸部脊椎炎で多い。再発は8%で、致死率は6%

症状:腰痛86%、発熱35-60%(恐らく鎮痛薬服用のため) 腰椎叩打痛は1/5
   刺すような激痛は硬膜外膿瘍を意味する。 
   非特異的な症状が多く診断までに42-59日間
部位:腰椎58%, 胸椎30%, 頸椎11%、硬膜外膿瘍の合併率は頸椎で28%、胸椎22%、腰椎12%である。
合併症:化膿性脊椎炎の三分の一までで心内膜炎が見られる

検査:80%以上の好中球増加、白血球上昇は感度が低い(それぞれ39%, 64%)
CRP,赤沈の上昇は感度が前者100%,98%と高い 
CRPは赤沈より鋭敏に治療効果と相関しマーカーとして有用である。 

血液培養は必須。陽性率は58%
血液培養が陰性であれば生検が一般的に勧められる。
腹腔内由来の敗血症でpolymicrobialによる脊椎炎が疑われる時は、血培陽性に関わらず生検をすべきである。
もし傍脊椎膿瘍、硬膜外膿瘍、腸腰筋膿瘍がある場合はCTガイド下にドレナージを行えば骨生検は不要である。生検組織の培養は血培よりも診断がより確実である。感度77%.
肉芽腫の存在はBrucellosis, tuberculosisを示唆する。
CTガイド下生検で陰性であっても化膿性脊椎炎の可能性が高ければ open biopsy を考慮する。既に抗菌薬が使用されている場合は偽陰性のことがある。
明らかな膿瘍や敗血症の所見が無ければ抗菌薬は血液培養か骨の生検検体が得られて微生物が判明してから投与すべきである。抗菌薬が開始されていて患者の状態が臨床的に安定していれば、生検は最後の抗菌薬後48時間最低明けてから行う。、陽性率を上げるには抗生剤を1,2週中止してからのほうが良いが安全性の面から推奨できない。

レントゲンはfirst stepであるが感度は高くない。神経症状がある患者様ではMRIを撮影すべきである。MRIは90%の精度を誇る。CTはMRIが使用できない場合のみ。 
化膿性脊椎炎とMRI上鑑別困難なのはerosive osteochondrosis。
3-phase Tc-99mシンチは発症後数日で陽性になるが所見は非特異的である。化膿性脊椎炎診断の精度(accuracy)は67%であるGaシンチは精度は92%とよいが、硬膜外膿瘍の特異度に劣る。 PETはMRIの代用となりうるが一般的ではない。 

可能な限り抗菌薬は起炎菌、感受性に基づいて投与する。 
120例の化膿性脊椎炎で抗菌薬を平均31日間投与で6カ月での治癒率は91%であった。
253例で、最低4週以上の抗菌薬投与で1年時点での治癒率は88%であった。
心内膜炎を合併している28例と、合併していない63例の観察研究では死亡率に差はなかった(7.1%対12.7%)。しかし脊椎炎の再発率には差があった(8%対1.9%)。

Clindamycinはbioavailabilityに優れているがstaphylococciに対しては静菌的作用であるので慢性のS.aureusの骨髄炎での長期治療によい。S.aureus骨髄炎の長期治療に良いがエビデンスに乏しいΒラクタム剤経口は生体利用率が低いため投与すべきではない。 
理想的な治療期間はなく、推奨は4-6週間-3か月と幅がある。一般的には6週間
ドレナージができない膿瘍やimplantがある場合は長期とすべき。 

急性血行性骨髄炎は普通、抗菌薬のみで治療は成功する。手術は主として open biopsy 目的に行われるが大抵、CTガイド下のドレナージで十分である。脊椎手術後でimplantが入っている場合は常にデブリドマンが必要である。脊椎手術後30日以上経っての発症の場合は、常にimplant除去が必要である。

Staphylococcus aureus(MSSA), coagulase陰性staphylococci
第1選択:ナフシリンかオキサシリン2gを6時間毎
      またはセファゾリン1-2gを8時間毎
 第2選択:フルオロキノロン(例レボフロキサシン 750mg経口1日1回)+リファンピシン300mg12間毎

・MRSA
 第1選択:vancomycin 1gを12時間毎(troughは15-20μg/mlとする)
 第2選択:daptomycin 6mg/kg以上1日1回、リファンピシン300mg1日2回+レボフロキサシン750㎎1日1回 ST(trimethoprim 160mg sulfamethoxazole 800mg)8時間毎 fusidic acid 500mg 8時間毎
      
・streptococcal species
 第1選択:PCG500万単位を6時間毎
 第2選択:CTRX 2g1日1回

・腸内細菌群(enterobacteriaceae:quinolone susceptible )
 第1選択:ciprofloxacin 経口750㎎12時間毎
 第2選択: CTRX 2g1日1回

・腸内細菌群(quinolone resistant、ESBL-E.coliを含む)
 第1選択:imipenem 500mg6時間毎静注

・Pseudomonas aeruginosa
 第1選択:cefepime又はceftazidime 2gを8時間毎 aminoglycosideとの併用を2-4週間
考慮。 その後ciprofloxacin 750㎎12時間毎
 第2選択:piperacillin-tazobactam 4.5g6時間毎(aminoglycosideとの併用を考慮)、2週から4
週、次いでciprofloxacin 経口750㎎12時間毎

・嫌気性菌
 第1選択:Clindamycin 300から600㎎を6時間か8時間毎静注
 第2選択:グラム陽性嫌気性菌(Propionibacterium acnes)に対しPCG500万単位6時間毎静注、またはceftriaxone 2g1日1回,グラム陰性嫌気性菌(Bacteroides群)に対しmetronidazole500㎎経口8時間毎

抗菌薬治療4 週後の評価が有用である。症状(発熱、疼痛)の軽快がない場合や、CRPが3.0㎎/dl以上の場合は治療失敗である。
MRIは、臨床経過とMRI所見があまり相関しないのでフォローアップには余り有用でない。MRIで改善している患者は臨床的にも改善しているが、4週から8週経ってMRIが変化ないか悪化していても85%は臨床的には改善していた。4週間、経過して症状の改善がない場合やCRP改善がない時、硬膜外膿瘍が疑われる時(腰痛の悪化、新たな神経症状出現)のみMRIの適応である。外科的にドレナージされない大きな膿瘍がある場合は、抗菌薬中止前にMRI再検査を行う。

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4 コメント

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Unknown (てつさん)
2011-07-11 13:16:47
整形外科医です。勉強になりました。今後とも宜しくお願いします。
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椎体炎 (管理人)
2011-07-16 08:10:13
コメントありがとうございます。
椎体炎治療はいくつか日本において先駆的治療が行われていますし、10年後には是非日本の論文が採用されてほしいですね。
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感謝 (nao)
2013-04-01 21:50:28
なるほど。
勉強になりました!
返信する
Re;感謝 (管理人)
2013-04-07 21:33:21
ありがとうございます。今年、米国より初のガイドラインが発表予定です。
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