ガウスの旅のブログ

学生時代から大の旅行好きで、日本中を旅して回りました。現在は岬と灯台、歴史的町並み等を巡りながら温泉を楽しんでいます。

旅の豆知識「田舎教師」

2017年07月18日 | 旅の豆知識
 小説は、ある特定の地域やモデルを基に創作されたものがあり、その地域を巡ってみると、小説の場面が浮かび上がってきて、なかなか面白いものです。そういう旅を「文学紀行」などと言ったりもします。
 しかし、その小説が書かれた年代が古ければ古いほど、現在の状況と相違していて、がっかりすることもしばしばです。
 その中で、明治時代後期に書かれた田山花袋著の小説『田舎教師』は、大きな話題となったことから、書かれたゆかりの地に文学碑や資料館が建てられ、その小説を追想することが可能です。
 あまり観光地化されていないところなので、のんびりゆかりの田園地帯を巡りながら、小説を読んでみるのも良いのではないでしょうか。

〇{田山花袋}とは?
 明治時代後期から昭和時代前期に活躍した小説家で、本名は田山録弥といい、1872年1月22日(明治4年12月13日)、旧館林藩の下級武士の家の次男として生まれました。父鋿十郎は上京し、警視庁巡査となりましたが、1877年(明治10)の西南戦争に従軍し戦死しています。以後、田山家は困窮した生活を続け、花袋も丁稚奉公に出されたこともありました。しかし、館林東学校に通いつつ、旧館林藩儒学者の吉田陋軒に漢学を学び、この頃から漢詩や和歌に興味を持ち、雑誌に投稿するようになります。14歳の1886年(明治19)に一家で、東京に移り住んだ花袋は、1891年(明治24)、尾崎紅葉を訪れ、小説家を志します。西欧文学に刺激されて、日本での新しい文学にチャレンジ、日露戦争の時は従軍記者にもなりました。1907年(明治40)『蒲団』の発表により、日本の自然主義の確立者として、文壇に地位を得ました。続いて、『生』、『妻』、『縁』の三部作や、『田舎教師』を発表して注目されます。紀行文にも定評があり、晩年には歴史小説や、心境小説にも取りくみましたが、1930年(昭和2)5月13日、58歳で亡くなっています。

〇小説『田舎教師』のモデルとは?
 小説『田舎教師』は、妻の兄に当たる当時の建福寺(文中では成願寺)住職太田玉茗(文中では山形古城)から、肺結核のため、21歳で亡くなった青年教師小林秀三(文中では林清三)の話を聞いたことがきっかけになったそうです。彼は、埼玉県第二中学校(現熊谷高等学校)卒業後、弥勒高等小学校に準教員として3年間勤務し、建福寺にも下宿したことがありました。死後残された日記を読んで、丹念に実地踏査をし、5年の歳月を経て、1909年(明治42)に出版されました。その結果、当時の埼玉県北部(熊谷、行田、羽生等)の様子を彷彿とさせる記述となっていて、実在の場所や建物がたくさん登場します。特に、農村の風景を描いた描写は秀逸で、のどかな田野の情景を垣間見るような気になります。

☆小説『田舎教師』の関係地

(1) 田山花袋記念文学館と旧居<群馬県館林市>
 田山花袋は、旧館林藩主の次男として生まれ、14歳までこの地で暮らしました。その功績を湛えて、1987年(昭和62)4月に市立の「田山花袋記念文学館」が開館し、道路をはさんで向かい側の第二資料館に田山花袋の旧居が移築されています。田山花袋の文学と経歴を知る上では、重要な施設で、小説『田舎教師』を執筆した前後の状況なども学ぶことが出来ます。

(2) 水城公園<埼玉県行田市>
 文中、羽生へ移る前の林清三の実家が、行田の古城跡の方にあったと書かれています。現在、古城跡(忍城跡)は、水城公園と変わり、市民の憩いの場になっていますが、その一角に田山花袋の文学碑(田舎教師の碑)が立てられています。そこには、「絶望と悲哀と寂寞とに 堪へ得られるやうな まことなる生活を送れ 運命に従ふものを勇者といふ」と刻まれていて、清三の志のようなものを感じ、胸が熱くなります。

(3) 建福寺<埼玉県羽生市>
 文中の主人公、林清三が最初に下宿した成願寺は、この建福寺のことで、モデルとなった小林秀三もここの旧本堂に下宿していました。当時の住職太田玉茗は、田山花袋の妻の兄に当たり、小林秀三の死後残された日記を読んで、この小説を書くきっかけとなったそうです。小林秀三の墓もここにあり、羽生市の史跡となっています。また、1938年(昭和13)、新感覚派の作家、川端康成、片岡鉄兵、横光利一の3人は、「田舎教師遺跡巡礼の旅」として、熊谷、行田、羽生を訪ね、羽生では「田舎教師巡礼記念」と題して連名の句「山門に木瓜 吹きあるる 羽生かな」を宿の扇子に書き記しました。それを1977年(昭和52)2月に石碑として、旧本堂の前に建てられています。さらに、2003年(平成15)9月22日に、小林秀三の百回忌に、建立田舎教師研究会の記念碑が、墓の脇に建てられ、「運命に従ふものを勇者といふ」と刻まれています。

(4) 弥勒高等小学校跡<埼玉県羽生市>
 モデルとなった小林秀三が3年間務めていた学校のあったところで、今では建物もなくなっていますが、一画に田舎教師文学碑が立ち、「絶望と悲哀と寂寞とに堪へ得られるやうな まことなる生活を送れ 運命に従ふ者を勇者といふ」と刻まれています。この碑は、1954年(昭和29)に建てられた初代の碑が古くなって字も見えなくなったので、2009年(平成21)10月に建て替えられたものです。また、道路を挟んで、田舎教師の銅像が建っています。そののどかな農村のたたずまいと共に、小説の場面を思い出させてくれます。

(5) 円照寺<埼玉県羽生市>
 弥勒高等小学校跡から少し行ったところにあり、文中、小川屋のお種さんとして出て来るモデルの小川ネンさんの墓があります。境内にそのゆかり品々を展示した「お種さん資料館」があって、『田舎教師』関係の資料が見られます。

(6) 利根川松原跡<埼玉県羽生市>
 文中、林清三が、しばしば子供たちを連れていったところで、当時は土手にみごとな松がたくさん生えていたそうですが、今はありません。その跡に、文中に出てくる詩が、碑となって立っています。「松原遠く日は暮れて 利根のながれのゆるやかに ながめ淋しき村里の 此処に一年かりの庵 はかなき恋も世も捨てゝ 願ひもなくて唯一人 さびしく歌ふわがうたを  あはれと聞かんすべもがな」と刻まれていて、なにか清三のセンチメンタルな気分が伝わってくるような感じがします。

(7) 羽生市立図書館・郷土資料館<埼玉県羽生市>
 羽生市立郷土資料館は、1986年(昭和61)年に図書館と併設してオープンしました。羽生市に関する古文書をはじめ、民俗資料や考古資料などを収蔵し、田山花袋の小説『田舎教師』に関する資料も蒐集しています。152㎡の展示室には、普段は、通常展示として「田舎教師と明治期の羽生」を開催していますが、企画展・特別展の開催により展示内容が変わる場合もありますので、確認が必要です。また、建物の前には、田舎教師の文学碑が立てられていて、小説『田舎教師』の冒頭部分が刻まれています。

☆小説『田舎教師』関係文学碑・像一覧
・田山花袋の文学碑(埼玉県行田市 水城公園)1961年10月建立
 【碑文】絶望と悲哀と寂寞とに 堪へ得られるやうな まことなる生活を送れ 運命に従ふものを勇者といふ
・発戸松原跡文学碑(埼玉県羽生市発戸 利根川発戸松原跡)1981年8月建立
 【碑文】松原遠く日は暮れて 利根のながれのゆるやかに ながめ淋しき村里の 此処に一年かりの庵
     はかなき恋も世も捨てゝ 願ひもなくて唯一人 さびしく歌ふわがうたを  あはれと聞かんすべもがな
・田舎教師文学碑(埼玉県羽生市弥勒 弥勒高等小学校跡)2009年10月27日建立
 【碑文】絶望と悲哀と寂寞とに堪へ得られるやうなまことなる生活を送れ
     絶望と悲哀と寂寞とに堪へ得らるるごとき勇者たれ
     運命に従ふものを勇者といふ
・田舎教師の像(埼玉県羽生市弥勒 弥勒高等小学校跡)1977年5月建立
 【碑文】「四里の道は長かった」の書き出しで始まる田山花袋の名作「田舎教師」は、羽生を舞台として展開する。その主人公 林清三は弥勒高等小学校に勤務し、志を得ずしてこの地に没した青年教師 小林秀三がモデルである。この像は加須市在住の彫刻家法元六郎先生の制作で、文学散歩の道しるべとしてここ田舎教師のふる里に建立する。
・田舎教師の文学碑(埼玉県羽生市下羽生 羽生市図書館・郷土資料館前)2004年9月1日建立
 【碑文】四里の道は長かつた。其間に青縞の市の立つ羽生の町があつた。
     田圃にはげんげが咲き、豪家の垣からは八重櫻が散りこぼれた。
・田舎教師の碑(埼玉県羽生市南1-3-21 建福寺境内)1934年建立
【碑文】田舎教師 花袋翁作中の人ここに眠る(碑文は小杉放庵の筆)
・田舎教師巡礼記念句碑(埼玉県羽生市南1-3-21 建福寺境内)1977年2月建立
 【碑文】山門に木瓜 吹きあるる 羽生かな
 (1938年(昭和13)、新感覚派の作家、川端康成、片岡鉄兵、横光利一の3人は、「田舎教師遺跡巡礼の旅」として、熊谷、行田、羽生を訪ね、羽生では「田舎教師巡礼記念」と題して連名の句を宿の扇子に書き記したもの)
・田舎教師研究会の記念碑(埼玉県羽生市南1-3-21 建福寺境内)2003年9月22日建立
【碑文】運命に従ふものを勇者といふ
 (小林秀三の百回忌に建てられたもの)

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