東京グリンツィング シェフブログ

フレンチレストランのシェフが紹介する季節の料理と食材

イベリコ豚のロースト バスク産トウガラシ風味 

2008年08月03日 | メインディッシュ

本日は、メインディッシュの一皿をご紹介します。

イベリコ豚のロースト バスク産トウガラシ風味です。

スペイン産イベリコ豚の骨付きロース肉を香ばしくローストし、たっぷりのお野菜と共にシンプルに味わっていただく一皿です。

スペイン産イベリコ豚は、本日の特別料理として良く登場しますが、毎回調理する度に脂の香りの良さと味わいの濃厚さに感激します。

そして、今回の調理法には秘密がありまして、一見普通のローストに見えますが、実は低温の湯煎で一時間以上かけてじっくりと加熱した真空調理になっています。

真空調理では、専用の袋に食材を入れて機械で真空状態にしてから調理する方法ですが、低温でむらなく加熱出来るだけでなく、素材の風味を閉じこめて逃がさないメリットもあります。

通常のオーブンを使うローストですと、そこまで低温で長時間加熱する事は難しく、また時間が経つほどに香りや肉汁が蒸発して逃げてしまいます。

真空調理にする事で、今までのローストでは出来なかった食感の柔らかさやジューシーな味の表現が可能になりました。

もちろん湯煎にかけただけでは火が通っているだけですので、最後に塩をしてフライパンで表面を焼き上げてから、たっぷりの黒胡椒をふりかけて香ばしく仕上げています。

仕上げに焼く時にも、イベリコ豚の脂を煮溶かして作った自家製油で焼いていますので、イベリコ豚の風味を十分に楽しんでいただけると思います。

そんな美味しいお肉には、シンプルで旨みの詰まった肉汁のソースとアクセントを与えるスパイスやハーブの香り、お皿に余韻とコクをあたえる少量の良質なオイルで十分です。

今回は、スペインに近いバスク地方のトウガラシとドングリを食べて育ったイベリコ豚に合わせて、グリルしたピーナッツのオイルを添えています。

イベリコ豚の説明が長くなりましたが、この一皿のもう一つの主役は、たっぷりのお野菜です。

グリンツィングでは、お客様に美味しくて安全なお野菜を楽しんでいただきたいので、生産者の方から直接に送っていただいています。

以前にもご紹介しました東京都田無に在りますニイクラファームの新倉さんと、今回ご紹介します山梨県東八風土記の丘農産倶楽部の原田さんから送っていただいています。

いつも新鮮で美味しいお野菜をありがとうございます。

毎週沢山の種類のお野菜が届きますので、中には見たことの無い種類の物が有ったりと戸惑う事も有りますが、それも一つの出会いや発見だと思い毎日楽しんで料理しています。

そんなキッチンでの気持ちをお客様にも感じていただけたらと思い、主役のお肉に負けない位の量と種類をお皿にのせています。

毎日暑い日が続きますが、グリンツィングで美味しいお肉とたっぷりのお野菜を食べて、明日の活力にしていただけたらとても嬉しいです。

 

「食材」

先日、熱田オーナーのご好意で、山梨県に連れて行っていただきました。

お忙しい中、貴重な経験と美味しい食事をありがとうございます。

そこでは、野菜を送っていただいています東八風土記の丘農産倶楽部の原田さんと生産者の五味さんにお会いする事が出来ました。 

一つ一つの野菜の説明と農作業の大変さ等、キッチンの中にいては分からない大切なお話が聞けて、とても勉強になりました。

原田さん、五味さんの印象は、真っ黒に日焼けした顔と真剣な眼差しから、自然と共に生きる、人間本来の強さを感じました。

そして最後には、お昼ご飯までいただき、本当にありがとうございました。

五味さんの奥さんに作っていただいた手料理、とても美味しかったです。

こうして生産者の方達と会う中で、自分自身の料理や食材に対しての考え方も徐々に変わってきています。

今までも、食材の大切さは考えてきましたが、それでも自分の作りたい料理の為の材料としての意識が強かったと思います。

季節に合わせてこんな料理が作りたいという発想から、メニューの値段に合わせた中で、出来るだけ良い物を使いたい、という考え方でした。

しかし、今回のように生産者に会い、そこで育てられている野菜に直に触れますと、今までの考え方ではいけない気がします。

新倉さんや五味さんのハーブや野菜を見つめる目は、自分達の子供のようでした。

その畑の様子や説明されている時の言葉から、どれだけの愛情を持って育てられているか伝わってきます。

そして、そこで育つハーブや野菜は、食材である前に一つの命である事に。

その光景を思い出すと・・・。

今の自分には、料理を作る為の材料やパーツとは言えません。

 

料理を作っていますと鍋の中から、キャベツはキャベツで、かぼちゃはかぼちゃで、最後まで自分らしく在りたい・・・。

そんな声が聞こえてくる時があります。 

 

その気持ちは、野菜も人間も同じかもしれません。