化学系エンジニアの独り言

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エチレンボトム油からの水素製造

2006-05-19 | 水素
エチレンクラッカーのボトム油(エチレンタール)から水蒸気改質により燃料電池向けの水素を製造する技術を某大学と某社が開発したという某産業新聞の記事。

新聞に載る技術開発の記事は随分と間違っていることが書いてある。もちろん、プレス発表をする側が誤っていることもあると思うが、大部分は記者の理解不足によるところが多いのではないかと思う。結局、インタビューや発表の中からキーワードを切り出す時の意識の問題ではないかと思う。

この記事ではこれまで重油を水蒸気改質の原料にすることは、触媒活性低下が大きくて難しかったが、カルシウムを添加することでコーキングを抑制しているとしている。ここまでは読む分には有効な技術だろうと読み取れる。

現在用いられているガスや灯油に比べてエチレンボトムは価格的にも安いので製造コストの低減には寄与するだろうことも理解できる。しかし、記事中では反応器温度は1000℃であり、水蒸気にヘリウムを混合して供給するとある。現在化学工場などでガスやナフサを原料に行なわれている水蒸気改質水素製造では、800℃程度の温度と、スチームのみを供給する。1000℃と言うと反応管などの材料コストが大きく上昇する。また、ヘリウムガスを追加するコストもかかる。この条件ではたして製造コストが本当に下がるのだろうか?

さらに記事ではエチレンボトムは消費しきれずに廃棄物として処分されることも有ると書いているが、本当だろうか。エチレンボトム油は超低硫黄で燃料油として利用されるはずである。事故等の非常時で無い限り、廃棄処分されることなどありえない。

記事ではただ同然の分解重油を原料とするため、水素製造の大幅なコスト低下が見込めるとある。エチレンボトム油が常にただ同然で提供されるならばわざわざ水素などを作らずに燃料油として利用されるだろう。

技術としての新規性は理解できるのだが、それが一体どういうメリットを生むのかがはっきりしない。この技術が実用化できるとわれわれにとってどういういいことがあるのかを伝えて欲しいものである。

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