EG105、EG106、EG107、EG108の続きです。比較の構文‘as ~ as ・・・’と‘-er than ~’の共通点についてです。以下、見ましょう。
(1)ジョンは、トムを、ジャックと同じくらい強く蹴っ飛ばした。
まず、(1)の日本語です。パッと見た感じ、意味は簡単そうですが、しかし、実はそれほど簡単なことでもありません。日本語(1)は、よく考えてみると、その解釈があいまいで、以下のように、2通りの解釈が可能です。
(2)ジョンはトムを蹴ったが、それは、ジャックがトムを蹴ったのと同じくらいの強さだった。
(3)ジョンはトムを蹴ったが、それは、ジャックを蹴ったのと同じくらいの強さだった。
つまり、解釈(2)では、ジョンとジャックが、トムを蹴ったので、結局、2人で1人を蹴った、と言っているのに対し、一方、解釈(3)では、ジョンが、ジャックとトムを蹴ったので、結局、1人で2人を蹴った、と言っているわけですね。そこで、日本語(1)の「ジャックと同じくらい」の部分が、(2)と(3)のような、あいまいな解釈を引き起こす原因となっていることがわかります。
(4)John kicked Tom as strongly as Jack. (訳同(1))
そこで、(4)の英語では、比較の構文‘as ~ as ・・・’「・・・ と同じくらい ~ だ」が使われていますが、日本語訳としては、(1)と同じです。そして、実は、英語(4)に関しても、日本語(1)と同様に、解釈(2)と(3)が成り立つという、とても不思議な類似性があります。そこから、(4)においても、‘as Jack’の部分が、(2)と(3)のような、あいまいな解釈を引き起こす原因となっていることがわかります。
(5)ジョンは、トムを、ジャックよりも強く蹴っ飛ばした。
今度は、(5)の日本語ですが、「ジャックよりも」の部分に関して、やはり、2通りの解釈が発生します。日本語(5)の場合も、日本語(1)と同じく、ジャックが蹴る側の立場にあるのか、それとも、蹴られる側の立場にあるのか、が解釈の分かれ目となります。
(6)ジョンはトムを蹴ったが、その強さは、ジャックがトムを蹴った時よりも強かった。
(7)ジョンはトムを蹴ったが、その強さは、ジャックを蹴った時よりも強かった。
つまり、日本語における、「・・・ と同じくらい ~ だ」であれ、「・・・ よりも ~ だ」であれ、全く同じ、共通した特徴を示しているわけですね。そして、やはり、英語においても、これと全く共通した特徴が見られます。
(8)John kicked Tom more strongly than Jack. (訳同(5))
(8)の英語でも、やはり、その解釈があいまいであり、(6)である一方、(7)でもある、という事実があります。そこで、一応の考え方としては、(4)の‘as Jack’や、(8)の‘than Jack’について、‘Jack’が、‘kick’「蹴る」という動詞の主語であるか、それとも、目的語であるか、という観点が必要、ということになります。
(9)Jack kicked Tom. (ジャックは、トムを蹴った。)
(10)John kicked Jack. (ジョンは、ジャックを蹴った。)
つまり、(9)の文を前提にして、(4)や(8)を発話すれば、(4)では、解釈が(2)に決まり、(8)では、解釈が(6)に決まります。一方、(10)の文を前提にして、(4)や(8)を発話すれば、(4)では、解釈が(3)に決まり、(8)では、解釈が(7)に決まります。ですので、結構、ややこしい話なんですね。
(11)John kicked Tom as strongly as Jack does. (訳同(2))
(12)John kicked Tom more strongly than Jack does. (訳同(6))
そこで、あいまいな解釈を許す(4)や(8)のような問題を避けるための手段として、(11)や(12)のように、‘Jack’の後に、助動詞‘does’を後続させて、意図的に‘Jack’に主語としての解釈をさせるように仕向ける方法があります。 (助動詞‘does’以下の表現は、「動詞句」の消去によって消えています。EG20、参照。)
このようにすれば、最初から、(11)の解釈は、(2)に決定されますし、一方、(12)の解釈も、(6)に決定されます。そして、(11)の‘as Jack does’や、(12)の‘than Jack does’のようなカタチが、OKである、という事実からは、‘as’(前半の‘as’ではなく、後半の‘as’) や、‘than’が、「接続詞」である、という結論になります。
(13)John wants as many cars as Tom has bicycles. (〇)
(ジョンが欲しがっているクルマの数は、トムが所有している自転車の数と同数だ。)
(14)John wants more cars than Tom has bicycles. (〇)
(ジョンが欲しがっているクルマの数は、トムが所有している自転車の数より上だ。)
(13)の‘as’+‘Tom has bicycles’や、(14)の‘than’+‘Tom has bicycles’からも明らかなように、やはり、‘as’や‘than’は、文をつなげるはたらきをもった接続詞である、と断定できるでしょう。
つまり、(4)の‘as Jack’や、(8)の‘than Jack’においては、前半の文で、既に使われている‘kicked Tom’や、‘John kicked’という同一表現の繰り返しを避けるために、(9)をもとにして、主語‘Jack’を残し、‘kicked Tom’が消去されている、または、(10)をもとにして、目的語‘Jack’を残し、‘John kicked’が消去されている、とでも説明されることになるでしょう。
(15)John kicked Tom when Jack kicked him. (〇)
(ジャックがトムを蹴っ飛ばしたと同時に、ジョンはトムを蹴っ飛ばしたのだ。)
(16)John kicked Tom when Jack _. (×) (訳同上)
しかし、‘as’や‘than’が接続詞である、とは言っても、単純な接続詞というわけにはいきません。(15)は、接続詞‘when ~’「~ とき」が、‘John kicked Tom’と‘Jack kicked him’をつないでいて、当然のこと、OKですが、一方、(16)では、(15)において同一表現である‘kicked Tom’が消去されていて、何とアウトです。
つまり、本来、「接続詞+文」においては、その文の中の要素を、既に出てきたものと同一表現である、という理由で、どんなものでも自由に消去してもよいわけではない、ということなのです。
(17)John is as tall as I (am). (〇) (ジョンは、ボクと同じくらい背が高い。)
(18)John is as tall as me. (〇) (訳同上)
(19)John is taller than I (am). (〇) (ジョンは、ボクよりも背が高い。)
(20)John is taller than me. (〇) (訳同上)
さらに、(17)や(19)のような比較の構文では、‘I (am)’の‘I’が主格なので、前半の‘John is’の‘John’が主格であることに対して、バランスが取れているものの、一方、(18)や(20)のように、いきなり、目的格の‘me’を用いても、OKになるという不思議な現象が起こっています。
そして、(17)や(19)のような主格‘I (am)’は、格式ばった言い方であるため、あまり一般的であるとは言えない一方、(18)や(20)のような目的格‘me’は、(17)や(19)のような主格‘I (am)’よりも、一般に、かなりよく使われているという事実があります。
このように、比較の構文において、比較の対照を示す‘as’や‘than’は、後続する文に対して、特殊な振る舞い方を許す接続詞という点で、かなり、慎重な扱いが必要になってくるのがわかると思います。というよりも、もっとハッキリ言ってしまえば、今回の観察結果からは、‘as’や‘than’が接続詞である、という結論自体が、まだまだ怪しいのではないか、という疑問も、まだ残されています。
今回のポイントは、比較の構文、‘as ~ as ・・・’「・・・ と同じくらい ~ だ」と、‘~ -er than ・・・’「・・・ よりも ~ だ」における共通した特徴です。比較の構文において、その比較対象を明示するはたらきがある‘as’(前半の‘as’ではなく、後半の‘as’)や‘than’は、共通した特徴をもってはいるものの、どういった分類をすればよいのか、その一般化が、なかなか困難な特殊な性質をもっている、ということを示しました。
また次回も、この問題について扱ってみたいと思います。
●関連: EG20、EG105、EG106、EG107、EG108
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(1)ジョンは、トムを、ジャックと同じくらい強く蹴っ飛ばした。
まず、(1)の日本語です。パッと見た感じ、意味は簡単そうですが、しかし、実はそれほど簡単なことでもありません。日本語(1)は、よく考えてみると、その解釈があいまいで、以下のように、2通りの解釈が可能です。
(2)ジョンはトムを蹴ったが、それは、ジャックがトムを蹴ったのと同じくらいの強さだった。
(3)ジョンはトムを蹴ったが、それは、ジャックを蹴ったのと同じくらいの強さだった。
つまり、解釈(2)では、ジョンとジャックが、トムを蹴ったので、結局、2人で1人を蹴った、と言っているのに対し、一方、解釈(3)では、ジョンが、ジャックとトムを蹴ったので、結局、1人で2人を蹴った、と言っているわけですね。そこで、日本語(1)の「ジャックと同じくらい」の部分が、(2)と(3)のような、あいまいな解釈を引き起こす原因となっていることがわかります。
(4)John kicked Tom as strongly as Jack. (訳同(1))
そこで、(4)の英語では、比較の構文‘as ~ as ・・・’「・・・ と同じくらい ~ だ」が使われていますが、日本語訳としては、(1)と同じです。そして、実は、英語(4)に関しても、日本語(1)と同様に、解釈(2)と(3)が成り立つという、とても不思議な類似性があります。そこから、(4)においても、‘as Jack’の部分が、(2)と(3)のような、あいまいな解釈を引き起こす原因となっていることがわかります。
(5)ジョンは、トムを、ジャックよりも強く蹴っ飛ばした。
今度は、(5)の日本語ですが、「ジャックよりも」の部分に関して、やはり、2通りの解釈が発生します。日本語(5)の場合も、日本語(1)と同じく、ジャックが蹴る側の立場にあるのか、それとも、蹴られる側の立場にあるのか、が解釈の分かれ目となります。
(6)ジョンはトムを蹴ったが、その強さは、ジャックがトムを蹴った時よりも強かった。
(7)ジョンはトムを蹴ったが、その強さは、ジャックを蹴った時よりも強かった。
つまり、日本語における、「・・・ と同じくらい ~ だ」であれ、「・・・ よりも ~ だ」であれ、全く同じ、共通した特徴を示しているわけですね。そして、やはり、英語においても、これと全く共通した特徴が見られます。
(8)John kicked Tom more strongly than Jack. (訳同(5))
(8)の英語でも、やはり、その解釈があいまいであり、(6)である一方、(7)でもある、という事実があります。そこで、一応の考え方としては、(4)の‘as Jack’や、(8)の‘than Jack’について、‘Jack’が、‘kick’「蹴る」という動詞の主語であるか、それとも、目的語であるか、という観点が必要、ということになります。
(9)Jack kicked Tom. (ジャックは、トムを蹴った。)
(10)John kicked Jack. (ジョンは、ジャックを蹴った。)
つまり、(9)の文を前提にして、(4)や(8)を発話すれば、(4)では、解釈が(2)に決まり、(8)では、解釈が(6)に決まります。一方、(10)の文を前提にして、(4)や(8)を発話すれば、(4)では、解釈が(3)に決まり、(8)では、解釈が(7)に決まります。ですので、結構、ややこしい話なんですね。
(11)John kicked Tom as strongly as Jack does. (訳同(2))
(12)John kicked Tom more strongly than Jack does. (訳同(6))
そこで、あいまいな解釈を許す(4)や(8)のような問題を避けるための手段として、(11)や(12)のように、‘Jack’の後に、助動詞‘does’を後続させて、意図的に‘Jack’に主語としての解釈をさせるように仕向ける方法があります。 (助動詞‘does’以下の表現は、「動詞句」の消去によって消えています。EG20、参照。)
このようにすれば、最初から、(11)の解釈は、(2)に決定されますし、一方、(12)の解釈も、(6)に決定されます。そして、(11)の‘as Jack does’や、(12)の‘than Jack does’のようなカタチが、OKである、という事実からは、‘as’(前半の‘as’ではなく、後半の‘as’) や、‘than’が、「接続詞」である、という結論になります。
(13)John wants as many cars as Tom has bicycles. (〇)
(ジョンが欲しがっているクルマの数は、トムが所有している自転車の数と同数だ。)
(14)John wants more cars than Tom has bicycles. (〇)
(ジョンが欲しがっているクルマの数は、トムが所有している自転車の数より上だ。)
(13)の‘as’+‘Tom has bicycles’や、(14)の‘than’+‘Tom has bicycles’からも明らかなように、やはり、‘as’や‘than’は、文をつなげるはたらきをもった接続詞である、と断定できるでしょう。
つまり、(4)の‘as Jack’や、(8)の‘than Jack’においては、前半の文で、既に使われている‘kicked Tom’や、‘John kicked’という同一表現の繰り返しを避けるために、(9)をもとにして、主語‘Jack’を残し、‘kicked Tom’が消去されている、または、(10)をもとにして、目的語‘Jack’を残し、‘John kicked’が消去されている、とでも説明されることになるでしょう。
(15)John kicked Tom when Jack kicked him. (〇)
(ジャックがトムを蹴っ飛ばしたと同時に、ジョンはトムを蹴っ飛ばしたのだ。)
(16)John kicked Tom when Jack _. (×) (訳同上)
しかし、‘as’や‘than’が接続詞である、とは言っても、単純な接続詞というわけにはいきません。(15)は、接続詞‘when ~’「~ とき」が、‘John kicked Tom’と‘Jack kicked him’をつないでいて、当然のこと、OKですが、一方、(16)では、(15)において同一表現である‘kicked Tom’が消去されていて、何とアウトです。
つまり、本来、「接続詞+文」においては、その文の中の要素を、既に出てきたものと同一表現である、という理由で、どんなものでも自由に消去してもよいわけではない、ということなのです。
(17)John is as tall as I (am). (〇) (ジョンは、ボクと同じくらい背が高い。)
(18)John is as tall as me. (〇) (訳同上)
(19)John is taller than I (am). (〇) (ジョンは、ボクよりも背が高い。)
(20)John is taller than me. (〇) (訳同上)
さらに、(17)や(19)のような比較の構文では、‘I (am)’の‘I’が主格なので、前半の‘John is’の‘John’が主格であることに対して、バランスが取れているものの、一方、(18)や(20)のように、いきなり、目的格の‘me’を用いても、OKになるという不思議な現象が起こっています。
そして、(17)や(19)のような主格‘I (am)’は、格式ばった言い方であるため、あまり一般的であるとは言えない一方、(18)や(20)のような目的格‘me’は、(17)や(19)のような主格‘I (am)’よりも、一般に、かなりよく使われているという事実があります。
このように、比較の構文において、比較の対照を示す‘as’や‘than’は、後続する文に対して、特殊な振る舞い方を許す接続詞という点で、かなり、慎重な扱いが必要になってくるのがわかると思います。というよりも、もっとハッキリ言ってしまえば、今回の観察結果からは、‘as’や‘than’が接続詞である、という結論自体が、まだまだ怪しいのではないか、という疑問も、まだ残されています。
今回のポイントは、比較の構文、‘as ~ as ・・・’「・・・ と同じくらい ~ だ」と、‘~ -er than ・・・’「・・・ よりも ~ だ」における共通した特徴です。比較の構文において、その比較対象を明示するはたらきがある‘as’(前半の‘as’ではなく、後半の‘as’)や‘than’は、共通した特徴をもってはいるものの、どういった分類をすればよいのか、その一般化が、なかなか困難な特殊な性質をもっている、ということを示しました。
また次回も、この問題について扱ってみたいと思います。
●関連: EG20、EG105、EG106、EG107、EG108
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