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ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

メッセージ

2017-05-16 23:50:25 | ま行

観終わって、いまも、考えて、考えてる。
この余韻の長さがたまらん。


「メッセージ」73点★★★★


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湖畔の家に独り暮らす
言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)。

ある日、いつものように大学に行くと
学生たちが騒然としている。

「先生、テレビつけてください」と言われてつけると
そこには、巨大な謎の物体が写っていた。
地球のあちこちに出現しているそれは
「宇宙船」らしい。

そしてルイーズのもとに
軍のウェバー大佐(フォレスト・ウィテカー)がやってくる。

「この言葉が、あんたにわかるか?」

それは異星人のメッセージなのだろうか――?


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「灼熱の魂」(名作!)のあと、次々と作品を発表し、
「ブレードランナー2046」の公開も控えている
旬なドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のSF。

ワシの大好きな思考系SFの要素があり
「インターステラー」「ツリー・オブ・ライフ」を思わせる
時空の考察が、とても好みだす。

それに異星人コンタクト話も好きなんだよね~。
なんたって「未知との遭遇」が映画とのセカンドコンタクトだから。


で、本作は
流れるような自然なカメラワークで
主人公のいつもの日常から
巨大な宇宙船が出現する非日常へ、実に美しくつながっていく。

撮影は「プリズナーズ」でも一緒だった
ロジャー・ディーキンズか思ったけど

彼が別のプロジェクトでNGだったため
ブラッドフォード・ヤングが担当していた。
「アメリカンドリーマー」の人ね!すごい見事でした。


異星人とのコンタクトシーンもとても静かで、
映画全体が、どこか悠々としていて、そこが好き。

サウンドの迫力もすごいですねえ。

しかし、話は
思考を異次元に飛ばさないといけないほど
高度な感じになっていくので
(タイムトラベルものとか、ワシ、いつも思考を追いつかせるの大変なの。好きなんだけど。笑)

うーん、観終わってから
一晩、数日、ずっと頭から離れなかった。

原作も読んでみたけど
これは、映画がすごくいいと思った。

ぜひ、劇場でご覧くだされ。
そして
「この映画について」語り合わせてください(笑)


★5/19(金)から全国で公開。

「メッセージ」公式サイト
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マンチェスター・バイ・ザ・シー

2017-05-10 23:50:48 | ま行

これは忘れない映画。


「マンチェスター・バイ・ザ・シー」80点★★★★


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アメリカ・ボストン州の郊外。

リー(ケイシー・アフレック)は
方々の家に行き、淡々と電球を替え、トイレを直す便利屋。

一見“フツーの男”のような彼だが
どうも、(いやあきらかに)なにかワケがありそうだ。

そんな彼に、
地元マンチェスター・バイ・ザ・シーに住む兄が倒れたという
知らせが入る。

地元に戻ったリーは
兄の息子、16歳のパトリック(ルーカス・ヘッジズ)の
面倒を見ることになる。

だが、彼にとってそれは
過去のある出来事と向き合うことでもあった――。


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祝・アカデミー賞、脚本賞!そして
ケイシー・アフレック主演男優賞!

いや~、しみた。

喪失や痛みを描く映画は数多いけれど
なぜ、この映画が忘れられないものになるのか。

月並みかもしれないけれど
そのすべてが“映画であってこそ”もたらされるものだから、と思うんです。



色あせた海辺の町、きしむボート、水音。

過去シーンと現在のシーンに継ぎ目がなく
慣れるまで、ちょっと不思議なリズム。

ケイシー・アフレックの背中や
ミシェル・ウィリアムズのあの表情。
(マジに、あの数秒に泣かされた!

ストーリーというよりも
映画のエッセンスや、感じた痛みが、映像と空気をともなって
鮮明に思い出されるんですよね。


ある悲劇に責任を感じ、自分を許せず、
楽しむことも感じることも、禁じてしまった男。

過去と現在をいったりきたりしながら
彼の抱えている“もの”が、徐々に明らかになっていく構成が巧みで

彼の苦しみが、ささくれた痛みが、
ひたひたと伝わってくる。

そんな彼が、16歳の少年の面倒を見ることになり
そこから、ほんのわずかに、光が射しはじめる。

この少年と、リーとのやりとりがおかしく
ときに吹くこともあり(笑)
こんなに重苦しい題材なのに
映画をライトに乾いた感じにしているんですよねー。
そこが、いい。

まあ、とにかく
観終わると、記憶のなかに、
ピリッと痛む悲しみとともに、あの町の風景が刻まれる――という案配です。


応援コメントにも参加させていただきましたが
ホント、このタイトルってバンド名みたいじゃない?(笑)

最近、あまりバンド名にしたくなる映画ってないから
この映画は、絶対にセンスはずさないと思います。


★5/13(土)からシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国で公開。

「マンチェスター・バイ・ザ・シー」公式サイト
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マイ ビューティフル ガーデン

2017-04-09 21:29:11 | ま行

イングリッシュガーデンは
美しくて気持ちいいですねえ。


「マイ ビューティフル ガーデン」68点★★★★

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ちょっと変わった女の子ベラ(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)は
その生い立ちから
予測不可能な出来事や、植物が苦手になってしまった。

規則正しく生活し、図書館でマジメに働いているが
アパートの庭は荒れ放題。

アパートの隣人アルフィー(トム・ウィルキンソン)は
そのことを苦々しく思っていた。

あるとき、ベラは家主から
「1ヶ月で庭を元通りにできなければ、退去」との通知を受ける。

困り果てたベラに、隣人アルフィーが手を差し伸べるが――?


******************************


「ダウントン・アビー」の人気女優が主演。
「ダウントン~」は見ていないのですが、
なーるほど、スカヨハとキーラ・ナイトレイをかけたような、いい顔ですね。

そしてやはり、庭の映像が美しいので
ガーデン好きはぜひ。

ただ
話としてはちょっと散漫で、深みに足りないかな。

実際はそこまで「ガーデニング」推しでもなく、
想像していた「老人と若者」というわけでもなく
風変わりなヒロインの、恋愛と成長のラブストーリーなんですよ。


ヒロイン・ベラが勤務先の図書館で
机を食べかすだらけにしながら
賢明に本を読んでいる青年に恋心を寄せ
しかし同時に、隣人の料理人である男も存在感を増し・・・?!という展開。

ベラには
お皿の上のニンジンの配置にこだわりがあったり、
規則正しい毎日を送り、予測不可能なことが苦手で、植物に触れない――とか
あきらかに自閉症を思わせる点があるんだけど

意外と簡単にマイルール破りができたり、
他人を簡単に受け入れられたりする面があって
ちょっと設定が中途半端かなと。

昔だったらこういうキャラは
「ちょっと変わった女の子」で済んだかもしれないけど
いまの時代、
あまり、このへんをあいまいに描かない方がいいんじゃないかなー、とか
あえて、厳しいことを言ってしまいます。

まあ単に、ラブストーリーだったのが
拍子抜けだったのかな(笑)

ただ、庭“マスター”な隣人がベラに教える
「土の中の根っこは取り除かないと、植物が育たない」っていうのは
すごーく勉強になった。
あれ以来、ベランダガーデニングでもそうさせていただいてます。


★4/8(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「マイ ビューティフル ガーデン」公式サイト


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ムーンライト

2017-03-30 20:31:28 | ま行

後出しみたいだから言わなかったけど
作品賞はこれだと思ってた(←ゆってるじゃん。笑)


「ムーンライト」77点★★★★


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治安の悪いマイアミの公団住宅で
母(ナオミ・ハリス)と暮らす少年シャロン(アレックス・ヒバート)。

体が小さく、内気な彼は
学校で“リトル”とあだ名をつけられ
“オカマ”だといじめられている。

ある日、いじめっ子たちに追いかけられた彼は
フアン(マハシャーラ・アリ)に助けられる。

麻薬のディーラーで強面のフアンは
なぜかシャロンを気にかけ、面倒を見てくれるようになるが――。


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これは応援したくなる映画!

一人の若者の人生を
「幼少期」「少年期」「青年期」に分けて
別の俳優に演じさせる手法もおもしろいし

とにかく
フレッシュさと、リリシズムに溢れている。

人物の周りをカメラが360回転したりする、ラフで自由なカメラワーク。
月夜の闇、明け方のブルーなど
主人公たちの肌を照らし、たゆとう光。

なにより好きなのは
「察してくれよ」なところですね。

麻薬中毒者や売人がはびこる
危険なマイアミの地域が舞台なのに
過激な暴力描写もなく、

3つのパートに飛ぶ
そのあいだの説明もなく。

すべては
言わずもがな、言わぬが花。

そんななかで描かれる
主人公の迷いや届かぬ想いに、キュンとする。

日本的な
わびさび、さえ感じるなあと思った。

監督は「ウォン・カーウァイやゴダールに影響を受けた」と
語ってるんですが

ツイッターで見つけた動画で
「ウォン・カーウァイ監督作との類似点」
というのを見て
すんごく納得!いきました。

コレ作った
Alessio Marinacciさんはスゴイ。


でもね、正直、試写では
“ダブル・マイノリティ”(=ブラックでゲイ、ということ。「ぼくの魔法の言葉」のロジャー監督が言ってた)
という題材ゆえか、
首を振りながら出て行く年配の方も散見した。

そういう場面に出くわすたびに
壁ってまだまだあるんだよなあと、ホント実感するんですよね。

そんなもの越えて、
この映画が羽ばいていくことを願ってるし、
きっと羽ばたくと思う!


★3/31(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「ムーンライト」公式サイト
コメント (2)
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未来よ こんにちは

2017-03-23 21:35:40 | ま行

ワシ、これDVD買う(笑)


「未来よ こんにちは」77点★★★★


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パリの高校の哲学教師ナタリー(イザベル・ユペール)は
人生を折り返した50代。

二人の子どもたちは独立し
同じ哲学教師の夫(アンドレ・マルコン)とは
同士のような関係。

最近は夜中にかかってくる
一人暮らしの母(エディット・スコブ)から愚痴の電話に付き合っている。
母は少し、ボケてきているようだ。

そんな日々でも教師の仕事に情熱を持ち
前向きに日々を過ごしているナタリーだが

ある日、夫に突然
「離婚してほしい」と切り出されてしまう――!


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ミア・ハンセン=ラヴ監督。

またしても登場人物と同じ時間を過ごした気になる、
この監督の不思議なマジックにやられました。


取り立てて大事件も起こらないのに
するすると見て
「ああ、このままこの時間が、終わって欲しくない・・・!」と思うというパターン。

「EDEN/エデン」もそうだったし、
「グッバイ・ファーストラブ」もそうだった。

振り返ってみると
「あの夏の子供たち」からやられてるようだ(笑)

どれも自分とどこか引っかかるようで
実際はビミョーに違うのに、なんでこんなにシンクロ?

この監督の不思議さは、なんだろう?と
このところずっと考えている。


登場人物の心理描写が、とりたててすごーく掘り下げられてるわけでもない。
ただ、とにかく、映画時間が、自然。

シーンのつなぎがうまいのかなあとも思う。
時間の流れが中断されることがないんだよね。
(「3年後」とか、いともたやすく時間が飛ぶのだけど)

とにかく身を任せるのに気持ちいいんです。


プレス資料のインタビューで監督が
「映画というのは私にとって動いている肖像画」と語っていて
「うおぉ、それだ!」とちょっと開眼しましたよ(笑)
なるほど、そんな感じ。

まして、今回はその肖像がイザベル・ユペールだもの。
とにかく見飽きない。


ボケてきた母親の介護に、浮気をして出ていく夫。
ずっと付き合ってきた出版社からも
「もうあなたは古いのよね・・・(面と向かっては言えないケド)」と
見放されてしまう。

スリムな体型を保ちつつも、老いは確実に忍び寄り
確実に時間に追いつかれ、追い抜かれそうになっている50代のヒロイン。
(実際の本人は60過ぎというのがすごすぎるけど。笑)


すべてが「なんだかなあ!」な状況なのに、
でも、彼女は慌てず騒がず、淡々と前へ進むんです。

仲良くなった猫にさえ執着しない。甘えない。
このあっさり感は、達観の域。

そうやって
過ぎていくものを追わず、いまを受け入れ、どんどん身軽になっていく。
そんな彼女が素敵でたまらない。

でもちょっぴり泣いたりする夜もあって
ああ、なんて共感できるんだろう!って。

ずっとこのイザベル・ユペールを見てたい。
この映画時間、終わってほしくない!と思いました。


★3/25(土)からBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「未来よ こんにちは」公式サイト
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