Manaboo 電子政府・電子申請コラム 

電子政府コンサルタントの牟田学が、電子政府・電子申請、その他もろもろ、気まぐれにコメントしてます。

電子政府の優先順位を考える、推進体制の確立が最優先

2010年06月14日 | 電子政府
首相が交代したことで、「日本の電子政府が、ますます遅れてしまうのではないか」という心配もあるようですが、作者自身は何度も述べてきたように「電子政府を急いで進める必要は無い」と考えています。

それよりも、足元をきちんと固めて「何のための、誰のための電子政府なのか」を再確認することが必要でしょう。

とある勉強会で、電子政府について整理する中で「韓国と日本の比較」をしてみました。

概要だけ抜粋してみましょう。

●韓国

1. 「情報化促進基本法」および「情報化促進基本計画(1996年)」が基礎にあり、その下に政府(立法、司法を含む)に特化した「電子政府法」がある。
2. 大統領をトップとする強力な推進体制下で、電子政府を実現。
3. 行政情報の共同利用、業務・データの標準化・共通化など、日本が現在抱えている課題を、2000年頃までにほぼ解決している。
4. 90年代にバックオフィスの簡素化・電子化・標準化・連携・共同利用が進められたことが、 90年代後半からのフロントサービス充実に結びついている。
5. 国民登録番号制度により「個人の識別」や「情報の名寄せ」が容易であったことが、電子政府の発展に寄与したとも言われている。

* 韓国では、97年のIMF経済危機を契機として、「知識情報を基盤とする経済への転換」や「国際化」「情報化」を迫られた。
* 電子政府の強力な推進は、「国民の政府」「財政資源の効率的運用」「自律・競争・成果原理」の観点から、行政改革や公務員制度改革や地方分権改革と並行・一体に実施された。


●日本

1. 「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」および「e-Japan戦略・重点計画(2001年)」が基礎にあり、その下に行政(手続)に特化した「行政手続オンライン化関係三法」がある。
2. 内閣総理大臣をトップとする推進体制下で、手続のオンライン化を中心に電子政府を実現。
3. 2010年現在、海外の電子政府先進国と比べると、行政情報の共同利用はあまり進んでおらず、業務・データの標準化・共通化は非常に遅れている。自治体で共同利用できるデータベースや情報システムが整備されておらず、重複投資・開発・管理となっている。
4. 業務やバックオフィスの見直しが不十分なまま、電子化・オンライン化したことが電子政府の失敗を招いたと言われる。
5. 現在検討されている社会保障と税の共通番号が有効に機能するためには、国及び自治体におけるバックオフィスの簡素化・電子化・標準化・連携・共同利用の実現が必須。

* 日本には、韓国ほどの危機意識が無く、行政にも国民にも政治家にも電子政府推進の意味や必要性を理解できなかった。
* 日本は経済水準の高いIT先進国であるといった驕りがあった。
* 行政改革(地域主権を含む)や公務員制度改革なしには、どんな電子化・情報化も無駄に終わる可能性が高い。
* これからの電子政府に必要なのは、危機感と覚悟を国民と政府が共有することである。
* 最低限の情報化武装なしには、グローバル社会、少子高齢化社会、低成長社会、社会保障負担増を乗りきれない。
* 国家が危機を迎えている時だからこそ、国民も行政も政治家も協力しなければいけない。自分の利益ばかり考えて好き勝手なことを言っている余裕は無い。


●電子政府の優先順位

日本が置かれている状況を考えた場合、電子政府における優先順位は次の通りです。

1 推進体制の確立
2 行政内部(バックオフィス)の整理・統合・連携
3 国民向けサービスの充実

2010年6月現在、既に多くの電子政府サービスが稼動しており、その維持費・改善費だけでも莫大な金額(平成21年度の政府IT予算:約1兆800億円)になります。

新たに電子政府サービスを作る必要は無く、むしろ不要なものを廃止するなど整理・統合した方が良いでしょう。

新たな情報通信技術戦略から読み解く、日本の電子政府はどうなる?で述べたように、政府CIO等の推進体制案を含む、強力に電子政府や電子行政を推進する法律が制定されれば、今後の電子政府にはかなり期待が持てます。

しかし、推進体制が確立(=IT予算・人事の一元化)しないようであれば、日本の電子政府は決して良くならないでしょう。

「なぜ推進体制の確立が最優先なのか」と言えば、本物の電子政府は、行政改革そのものだからです。

推進体制の次に来る「行政内部(バックオフィス)の整理・統合・連携」とは、行政改革、公務員改革、地域主権改革なのです。これらは、

・仕事のやり方を変える
・仕事の内容を変える
・仕事を廃止する
・仕事を移管する
・公務員を減らす
・人事評価を変える

といったことを意味します。

本物の電子政府が動き出したら、間違いなく霞ヶ関の仕事や権益は減り、地方出先機関や天下り機関の仕事は激減します。

行政内部における情報の共同利用が進めば、不要な手続は減り、申請や届出をする必要さえなくなります。

こうした恩恵は、電子政府は誰でも使えなくて良い、使わない人でも恩恵を受けられることが大切で述べたように、インターネットやパソコンを使える使えないに関係なく、全ての国民が受けることができます。

この状態まで進めることができたら、初めて新しい電子政府サービスを考えれば良いのです。急ぐ必要は、全くありません。

電子政府先進国のサービスを上っ面だけ真似るようなことは、「百害あって一利なし」なのです。

行政改革の伴わない電子政府に、税金を使う価値はありません。

これを守るだけでも、日本政府のIT投資効果は格段に高まるでしょう。


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