法務省(民事局総務課公証係)が、「指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令の一部を改正する省令案」について意見募集しています(2007年2月14日まで)。これは何かと言うと、公証人が行う「電子公証サービス」に公的個人認証サービスの電子証明書を使えるようにしましょう(2007年4月開始予定)、ということです。
電子公証サービスは、電子政府にも通じる多くの課題を抱えています。
・特定のベンダー依存
・特定のソフトウェア依存
・利用者への過大な負担
・既得権益者の優遇
などです。
作者も意見を提出しますが、良い機会ですので、「電子公証」、とりわけ利用が進んでいる「電子定款」について、そのカラクリを見てみましょう。
関連>>「公証制度に基礎を置く電子公証制度」について(法務省)|電子公証制度のご案内(日本公証人連合会)
●電子公証制度の経緯
平成8年 「電子取引法制に関する研究会」を設置→報告書
平成10-11年度 上記報告書を踏まえた基本設計・システム開発
平成12年4月 「商業登記法等の一部を改正する法律」により制度化
平成14年1月 サービス開始
平成14-15年度 電子公証システムの改修
平成16年3月 日本認証サービス発行の電子証明書に対応
→個人でも利用が可能に
平成19年1月 改正省令案について意見募集(公的個人認証サービスへの対応)
●電子公証制度(サービス)とは
紙の文書に対して行われている公証業務の一部を、電子文書(電磁的記録)に対しても行うことができるようにするものです。
関連>>公証制度について(法務省)
●電子公証サービスの種類
☆電子公証でできること
1 私署証書の認証
2 会社設立の際に必要な定款(原始定款)の認証
3 文書への確定日付の付与
2が、いわゆる「電子定款」と呼ばれるものです。
認証した電子文書は「保存」や「謄本等の作成」が可能です。
また、1~3全てについて真性の証明(情報の同一性に関する証明)をしてくれます。
☆電子公証でできないこと
・公正証書(契約書や遺言書など)の作成
●電子公証サービスの利用料金(手数料)
・確定日付の付与: 700円
・私署証書の認証: 11,000円(原則)
・定款の認証: 50,000円(印紙税40,000円は不要)
・電磁的記録の保存: 300円
・情報の同一性証明: 700円
・同一情報の提供: 700円
定款の認証だけ、以上に高い。これも問題点の一つです。
関連>>公証人手数料令
●電子定款の利用状況
平成17年 月平均450件(前年比約5倍)
平成18年9月以降 月平均2000件超
年間3万件ぐらいのペースで利用されており、かなり一般的になりつつあります。
年間の定款認証の件数が、約9~11万件(近年、増加傾向にある)と言われており、かなりの利用率となっています。
関連>>法務統計DB(種類別 会社登記:本文はエクセルファイル)
※定款の認証件数など、基本的なデータが公開されていません。これも、大きな問題の一つです。
※上記の法務省統計データベースによると、平成17年度の会社設立の登記件数は、10万3545件となっていますので、定款認証の年間件数は約11万件と考えてよいでしょう(定款の認証は、会社設立以外でも必要な場合があります)。
●電子定款が利用される理由
・印紙税40,000円が不要となるから。
電子政府でも利用者のインセンティブとして、税額控除や一部免除が実施されますが、最大でも5000円まで。4万円のインセンティブがいかに高額かわかります。
●電子定款、一般個人の利用が少ない理由
・4万円では割に合わないから。
電子定款を利用するには、電子証明書に加えて、様々なソフトウェア(有料)が必要となります。その費用(初期投資)は、全部で5~10万円となるため、一度の会社設立では元が取れません。
●電子定款、行政書士の利用が多い理由
・お客さんからの要望が多いから
・投資に見合ったリターンが得られるから
一番の理由は、依頼者の要望が増えているからと言えるでしょう。「同じ頼むなら安い方法で」と考えるのは、当然ですね。
また、行政書士の場合は、業務として何度も利用するので、初期費用が多少かかったとしても十分に回収できるわけです。
電子公証サービスが、行政書士用電子証明書に対応してくれたことも、お互いに良い刺激となっています。
関連>>電子定款作成代理業務を始める方へ(日本行政書士会連合会)
●電子定款に必要なもの
Windowsパソコンやワープロソフト等に加えて、次の4つが必要となります。
1 対応する電子証明書:1~2万円ぐらい
2 電子署名に対応するPDF作成ソフト:1万4千~6万円ぐらい
(アドビのアクロバット6.0スタンダード以上など)
3 電子署名プラグインソフト:1~2万円ぐらい
4 認証された電子文書の閲覧検証ソフト:1~2万円ぐらい
2は、電子署名に対応していない「いきなりPDF」などは使えません。アドビ以外では、「SkyPDF Tools for Legal(スカイコム)」があります。
3と4については、両機能を有するソフトウェアも販売されています。
それにしても、「電子公証」という公的なサービスを利用するにあたって、これだけの有料ソフトが必要というのは、ちょっと考えられないことです。
また、対応する電子証明書(個人)も、
・AccreditedSignパブリックサービス2
・ビジネス認証サービスタイプ1-G
・日本司法書士会連合会認証サービス
と、追加されたものを含めて3つしかありません。
関連>>法務大臣が指定する電子署名の方式等
●電子公証制度が抱える問題点
冒頭で挙げたように、電子公証制度には次のような課題があります。
・特定のベンダー依存
・特定のソフトウェア依存
・利用者への過大な負担
・既得権益者の優遇
PDFファイルの普及状況や有効性は作者も理解しているところですが、「電子署名付きPDFファイル」となると、話は別です。
そうした特殊なファイルの作成を利用者に義務付け、対応するソフトウェア等は自分で用意しなさい、というのは電子政府で決してやってはいけないことです。
※法務省は、「商業登記に基づく電子認証制度」や「法務省オンライン申請システム」でも、同じような負担を利用者に押し付けています。これは、法務省だけの考えというより、関係ベンダーの意向も大きく影響していると思われます。
「電子公証」は電子政府ではない?
いいえ、違います。
会社の設立(商業登記申請)という行政手続において、定款の認証は法令で義務付けられているのです。
司法書士、税理士、行政書士、社会保険労務士などの士業を利用するか、それとも自分でやるかは、本人が自由に選べます。
けれども、公証人に認証された定款は、申請手続で必須の添付書類であり、利用者には選択の余地がありません。
そもそも、「定款の認証」なんて必要なの?
そろそろ、そんな意見も上がってくることでしょう。
平成18年5月施行の会社法で、会社の設立手続きが簡素化されました。
そのおかげで、類似商号を調べる手間が省かれ、金融機関の「払込金保管証明書」も不要となりました。
けれども、「公証人による定款の認証」だけは、料金が下がることもなく保護されました。
そして、公証人は、法務省幹部職員の再就職先でもあります。
作者自身は、公証制度は必要であり、今後ますます活躍する機会が増えてくると考えています。
であるからこそ、国民からより尊敬され、社会的な存在意義を高めるための努力を続けて欲しいのです。
「電子公証」は、そうした公証制度の見直しをする絶好のチャンスとなるのです。
関連>>公証人(Wikipedia)|平成18年「再就職状況の公表」及び「認可法人、公益法人役員への就任に係る報告状況の公表」について(法務省)|「会社法」の概要
次回は、意見募集している改正省令案の内容を見ながら、今後のあるべき姿を考えてみたいと思います。
関連>>電子公証・電子定款のカラクリ(2):オンライン化でどうなる?
電子公証サービスは、電子政府にも通じる多くの課題を抱えています。
・特定のベンダー依存
・特定のソフトウェア依存
・利用者への過大な負担
・既得権益者の優遇
などです。
作者も意見を提出しますが、良い機会ですので、「電子公証」、とりわけ利用が進んでいる「電子定款」について、そのカラクリを見てみましょう。
関連>>「公証制度に基礎を置く電子公証制度」について(法務省)|電子公証制度のご案内(日本公証人連合会)
●電子公証制度の経緯
平成8年 「電子取引法制に関する研究会」を設置→報告書
平成10-11年度 上記報告書を踏まえた基本設計・システム開発
平成12年4月 「商業登記法等の一部を改正する法律」により制度化
平成14年1月 サービス開始
平成14-15年度 電子公証システムの改修
平成16年3月 日本認証サービス発行の電子証明書に対応
→個人でも利用が可能に
平成19年1月 改正省令案について意見募集(公的個人認証サービスへの対応)
●電子公証制度(サービス)とは
紙の文書に対して行われている公証業務の一部を、電子文書(電磁的記録)に対しても行うことができるようにするものです。
関連>>公証制度について(法務省)
●電子公証サービスの種類
☆電子公証でできること
1 私署証書の認証
2 会社設立の際に必要な定款(原始定款)の認証
3 文書への確定日付の付与
2が、いわゆる「電子定款」と呼ばれるものです。
認証した電子文書は「保存」や「謄本等の作成」が可能です。
また、1~3全てについて真性の証明(情報の同一性に関する証明)をしてくれます。
☆電子公証でできないこと
・公正証書(契約書や遺言書など)の作成
●電子公証サービスの利用料金(手数料)
・確定日付の付与: 700円
・私署証書の認証: 11,000円(原則)
・定款の認証: 50,000円(印紙税40,000円は不要)
・電磁的記録の保存: 300円
・情報の同一性証明: 700円
・同一情報の提供: 700円
定款の認証だけ、以上に高い。これも問題点の一つです。
関連>>公証人手数料令
●電子定款の利用状況
平成17年 月平均450件(前年比約5倍)
平成18年9月以降 月平均2000件超
年間3万件ぐらいのペースで利用されており、かなり一般的になりつつあります。
年間の定款認証の件数が、約9~11万件(近年、増加傾向にある)と言われており、かなりの利用率となっています。
関連>>法務統計DB(種類別 会社登記:本文はエクセルファイル)
※定款の認証件数など、基本的なデータが公開されていません。これも、大きな問題の一つです。
※上記の法務省統計データベースによると、平成17年度の会社設立の登記件数は、10万3545件となっていますので、定款認証の年間件数は約11万件と考えてよいでしょう(定款の認証は、会社設立以外でも必要な場合があります)。
●電子定款が利用される理由
・印紙税40,000円が不要となるから。
電子政府でも利用者のインセンティブとして、税額控除や一部免除が実施されますが、最大でも5000円まで。4万円のインセンティブがいかに高額かわかります。
●電子定款、一般個人の利用が少ない理由
・4万円では割に合わないから。
電子定款を利用するには、電子証明書に加えて、様々なソフトウェア(有料)が必要となります。その費用(初期投資)は、全部で5~10万円となるため、一度の会社設立では元が取れません。
●電子定款、行政書士の利用が多い理由
・お客さんからの要望が多いから
・投資に見合ったリターンが得られるから
一番の理由は、依頼者の要望が増えているからと言えるでしょう。「同じ頼むなら安い方法で」と考えるのは、当然ですね。
また、行政書士の場合は、業務として何度も利用するので、初期費用が多少かかったとしても十分に回収できるわけです。
電子公証サービスが、行政書士用電子証明書に対応してくれたことも、お互いに良い刺激となっています。
関連>>電子定款作成代理業務を始める方へ(日本行政書士会連合会)
●電子定款に必要なもの
Windowsパソコンやワープロソフト等に加えて、次の4つが必要となります。
1 対応する電子証明書:1~2万円ぐらい
2 電子署名に対応するPDF作成ソフト:1万4千~6万円ぐらい
(アドビのアクロバット6.0スタンダード以上など)
3 電子署名プラグインソフト:1~2万円ぐらい
4 認証された電子文書の閲覧検証ソフト:1~2万円ぐらい
2は、電子署名に対応していない「いきなりPDF」などは使えません。アドビ以外では、「SkyPDF Tools for Legal(スカイコム)」があります。
3と4については、両機能を有するソフトウェアも販売されています。
それにしても、「電子公証」という公的なサービスを利用するにあたって、これだけの有料ソフトが必要というのは、ちょっと考えられないことです。
また、対応する電子証明書(個人)も、
・AccreditedSignパブリックサービス2
・ビジネス認証サービスタイプ1-G
・日本司法書士会連合会認証サービス
と、追加されたものを含めて3つしかありません。
関連>>法務大臣が指定する電子署名の方式等
●電子公証制度が抱える問題点
冒頭で挙げたように、電子公証制度には次のような課題があります。
・特定のベンダー依存
・特定のソフトウェア依存
・利用者への過大な負担
・既得権益者の優遇
PDFファイルの普及状況や有効性は作者も理解しているところですが、「電子署名付きPDFファイル」となると、話は別です。
そうした特殊なファイルの作成を利用者に義務付け、対応するソフトウェア等は自分で用意しなさい、というのは電子政府で決してやってはいけないことです。
※法務省は、「商業登記に基づく電子認証制度」や「法務省オンライン申請システム」でも、同じような負担を利用者に押し付けています。これは、法務省だけの考えというより、関係ベンダーの意向も大きく影響していると思われます。
「電子公証」は電子政府ではない?
いいえ、違います。
会社の設立(商業登記申請)という行政手続において、定款の認証は法令で義務付けられているのです。
司法書士、税理士、行政書士、社会保険労務士などの士業を利用するか、それとも自分でやるかは、本人が自由に選べます。
けれども、公証人に認証された定款は、申請手続で必須の添付書類であり、利用者には選択の余地がありません。
そもそも、「定款の認証」なんて必要なの?
そろそろ、そんな意見も上がってくることでしょう。
平成18年5月施行の会社法で、会社の設立手続きが簡素化されました。
そのおかげで、類似商号を調べる手間が省かれ、金融機関の「払込金保管証明書」も不要となりました。
けれども、「公証人による定款の認証」だけは、料金が下がることもなく保護されました。
そして、公証人は、法務省幹部職員の再就職先でもあります。
作者自身は、公証制度は必要であり、今後ますます活躍する機会が増えてくると考えています。
であるからこそ、国民からより尊敬され、社会的な存在意義を高めるための努力を続けて欲しいのです。
「電子公証」は、そうした公証制度の見直しをする絶好のチャンスとなるのです。
関連>>公証人(Wikipedia)|平成18年「再就職状況の公表」及び「認可法人、公益法人役員への就任に係る報告状況の公表」について(法務省)|「会社法」の概要
次回は、意見募集している改正省令案の内容を見ながら、今後のあるべき姿を考えてみたいと思います。
関連>>電子公証・電子定款のカラクリ(2):オンライン化でどうなる?
・公証人手数料が全国同一価格の問題
・指定公証人のゼロ公証役場の問題
・認証する公証人の地域性の問題
等々の問題がこの度のオンライン嘱託制度によって表面化します。極めてよろこばしいことですね。
コメントありがとうございます。
横浜の研修講師、お疲れ様でした。
私も、「認証は不要」に同意見です。
いきなり不要は難しそうなので、まずは手数料の減額からと考えているのですが。。
公証人としての品位や公共性を保ちながらも、競争原理を導入して欲しいです。
オンラインとするなら、利用者が地域を限定されることなく、安くて早くてサービスの良い公証役場を利用できるようにするべきですね。
・署名プラグインソフトは法務省汎用システムが用意している無償のを利用。
・adobe acrobatがデフォルトで用意している署名機能を利用。
・利用できる電子証明書としては公的個人認証サービスの証明書、1000円ですむ。
・acrobatのみは絶対に必要。
等々です。
が、実際にこれらを解った上で一般の素人が嘱託人として手続をするかどうかは別問題ですね。厳しいけど。