本屋を散歩していて見たことのない三島由紀夫の文庫本を発見したので読んでみました。
三島の日記形式のエッセイを独自にまとめて文庫化した一冊です。
こちら目次。昭和23年から始まりますが、この頃は大蔵省の役人だったころ。最後の昭和42年は、豊饒の海の執筆中(春の雪を書きあげた後)という時代です。「小説家の休暇」、「裸体と衣装」は、すでに文庫化されています。
三島の日常の思索が随所に読み取 . . . 本文を読む
大江健三郎の短編を読んで興味が深まり、長編も読むことに。
社会から疎外された子どもらの絶望、子どもらを支配しようとする農民とそれへの反駁が、緊張感あふれる文章でつづられ、一気に読んでしまいました。極限状態の中で、同志愛、人間愛、異性愛、同性愛と、さまざまな愛が交錯する展開も印象的です。短篇における、アニミズムからもっとも遠い動物小説は、こちらの長編でもその傾向が発揮されています。
ちょっと . . . 本文を読む
こないだ自選短編集を読んだ流れで、初期の作品集を読んでみることに。わたしにはどうも初期作品の方が好みに合っているように思います。
こちら内容紹介。
大江健三郎の初期作品には動物が登場するのが特徴です。それに対し、動物と人間の対比を漠然と考えていただけなのですが、三島由紀夫が、「裸体と衣装」のなかで動物文学とカテゴライズし、この頃の大江作品に触れていました。
動物からも、そして人間からも政 . . . 本文を読む
2024年下期の芥川賞受賞作。
好みの作品(昭和文学)ばかりではなく、時代の先端の作品も読まねばならぬとの思いから、芥川賞受賞作は毎回読むようにしているのですが、本作「東京都同情塔」はここ数年の中で出色の作品だと思います。もちろん、私の好みで言えばですが。
バベルの塔の再現。この書き出しから一気に物語の中に没入できました。言葉が言葉の役割を持たなくなる危険性を、バベルの塔をメタファにし . . . 本文を読む
ずいぶん前に読んだ一冊なのですが、ひょんなことから読み直してみました。釣り好き作家の草分け的存在、井伏鱒二の釣りに関する選集です。
井伏鱒二といえば、確か中学校の国語の教科書に「山椒魚」が載っていて、それで知ったような記憶があります。
こちら内容紹介。
釣り好きな人すべてにお勧めしたい内容です。釣りは釣るのみにあらず、ということが伝わる一冊です。
目次1。
「釣魚記」では、作者が . . . 本文を読む
昨年の11月くらいだったか、外出したときに電車の中で読む本を探して本屋をぶらついていて、ふと目にした一冊。
短篇のイメージとは真逆の、この分厚さに惹かれました。
こちら内容紹介。
大江健三郎の作品はあまり読んでないので読んでみよう、と買ってみたのですが、いやあ、かなり時間かかった、一冊読み終わるまで2か月近くかかりましたよ。
初期作品はそうでもなかったのですが、中期作品からは難解さ . . . 本文を読む
禁色を読み終えたところで、平野啓一郎の三島由紀夫論を読むことを再開しました。III.英霊の聲論を読むにあたって、二・二六事件三部作が収録されているこちらの本を読んでみました。
二・ニ六事件三部作とは、「憂国」「英霊の聲」「十日の菊」で、このうち前者2作は何度も読んだ作品なんですが、十日の菊(戯曲)は初めて読みました。
こちら内容初回。付録についているエッセイ「二・二六事件と私」が三作品を理 . . . 本文を読む
平野啓一郎の三島由紀夫論の中で、金閣寺と対をなす作品として鏡子の家、仮面の告白と対をなす作品としてこちらの禁色、が挙げられていました。禁色の内容はほぼ忘れているので、あらためて読んでみようと古本を購入。昔ながらの表紙で懐かしい。
で、読み始めたのはいいのですが、えらく時間が掛かってしまいました。こんなに難解な一冊だったっけ?2か月くらい掛かりましたよ。老作家が鬱積した青春の怨念を同性愛者の美 . . . 本文を読む
先日、中公新書の「タイの歴史」を読んで、その中で紹介されていた、タイでもっとも有名な日本人=コボリが登場するという小説を読んでみました。
メナムの残照。メナムは「川」という意味で、かつて日本ではチャオプラヤ川のことをメナム川と呼んでいました。タイトルのメナムはメナム川のことです。原題は、คู่กรรม(クーカム=運命の人) です。
時は第二次世界大戦中、タイに進駐した日本軍の青年将校小堀と . . . 本文を読む
タイに興味が向いたのは三島の暁の寺を読んでからですが、さらにその興味を深めるのに役立ったのがこの本でした。
アユタヤ王朝から、トンブリー朝を経て、ラッタナコーシン朝を開き現代にいたる王朝の歴史、立憲革命による民主化、東南アジア諸国を見舞った共産化の波を受け入れなかったこと、第二次世界大戦に敗戦国になりながらも属国にならなかったこと、数多いクーデターのこと、などなど、日本と比較すると興味深い内 . . . 本文を読む
ここ最近、三島の文体に触れている時間が一番落ち着く、というか、心地よいというか。そんなわけで、午後の曳航を買い直して読んでみました、40年ぶりくらいか?動機は、舞台が地元横浜、中区から金沢区になるので、そこらへんの描写も気になりました。
内容紹介。これを読むと、この作品は大人のラブロマンスとそれに反抗する少年の物語、というように思え、私の最初に読んだときの印象(もうだいぶん忘れてしまっていま . . . 本文を読む
幸田文の「包む」へのコメントで、ウチ●さんに教えていただいた一冊。
とても面白く読めました。すべての釣り人にオススメしたい。
幸田露伴プロフィール。
収録作品はこちら。小説あり、紀行文あり、考証文ありと多岐に渡る内容を、木島佐一が注釈をつけています。
「幻談」、「葦聲」は小説。前者はちょっと怖い話、後者はしみじみとした哀しさが滲み出てくる、いずれも短編です。
「雨の釣」、「夜の隅 . . . 本文を読む
豊饒の海の三巻目に当たる作品ですが、諸事情により9月中に読んでおきたかった一冊。
豊饒の海の作品を通して認識者として存在する本多邦繁がこの巻では主役になります。富を手に入れ、老いた本多が、清顕、勲の生まれ変わりと思われるジン・ジャン姫に出会ってからその破局までが本巻のストーリーです。
久しぶりに読み直すと、人間の老いについての描写と、認識の成れの果てである窃視に溺れるさまが、特に印象的です . . . 本文を読む
複合汚染に続いて、読まねばならぬ、と手にした一冊。
1972年の本なので、認知症への認識や、介護に対する考え方など、現在とはかなり違う部分もありますが、老いてゆく父親を持った家族の心理状態の移ろい、老いへの怖れが表現されている一冊です。
しかし、三島を読んでいるときもそうですが、昭和の作家は、将来の社会をなんと正確に予測しているものだとつくづく思います。こんな警鐘が鳴らされているにも関わら . . . 本文を読む
平野啓一郎の三島由紀夫論を読みながらの、三島文学読み返しシリーズ、その2。仮面の告白に次いでは、金閣寺です。
この文庫本は3冊めの購入。炎の表紙がカッコイイ。山種美術館所蔵の速水御舟「炎舞」の部分画だそうです。
1950年の金閣寺放火事件をテーマにした小説で、絶対的な美である金閣を燃やすまでに至った溝口の心理が克明に描かれています。そして絢爛な文体は三島ワールド全開。
仮面の告白論を読ん . . . 本文を読む