同人戦記φ(・_・ 桜美林大学漫画ゲーム研究会

パソコンノベルゲーム、マンガを創作する同人サークル

放課後に残って、誰の者だか決めていた 【律氏】

2010年02月07日 | 短編小説
「トンカチを持った男の人に道端であったら、どうする?」

 照りつく、赤の光線だった。夕日にあおられた、白いカーテンが、教室の一番端の机に、まあるい影を落とす。時計の針だけがチクタクと鳴いていて、砂嵐のような悲鳴は、グラウンドで叫んでいる野球部のマネージャー達の応援の声だと分かった。

「素通りする」

「もしかしたら、その人はトンカチの配り売りをしていたのかも」

「人を殴らない可能性は?」 

 残照はもはや無い。膨らんだ三角の、山の中腹に消えていく太陽は、少しでも欠片を残そうと必死だが、世界は消えていくものに優しくない。きっと、このまま夜になってしまう。そして、ここにいる全員が、夜の帳の中にひっそりと溶けいるのである。だって、教室の蛍光灯は光っていない。眼鏡の上峰さんは、すでに誰一人として認識をしていないのだろう。

「トンカチは人を傷つける道具じゃない」

「何する道具?」

「歪みを直す道具」

 ガタン、と机が押された。傍にあった椅子が軋んで、足が折れたかのように倒れこむ。だが、無機物には意思が無い。表情もないので、痛くは無かったのだろう。いや、痛みはあるのかもしれない。僕たちが、そう思い込んでいるだけで。椅子にも、トンカチにも、痛みはあるのかもしれない。
 皆が一斉に清水晴彦を見る。クラス一のいじめられっ子だった。

「歪みって、お前……」

「そうだよ。誠のことさ」

 誰かが、ひっ、と息を呑んだ。誠は、クラス一のいじめっ子だった。

「話しは戻るけどさ。道にトンカチを持った男の人がいたらどうする?」

「逃げる」

「素通り」

「立ち向かう。でも、一人だったら逃げる」

 下校のチャイムが鳴ると、同時に太陽が消えた。トロイメライではなく、鎮魂歌だったのは、気のせいであろう。

「じゃあ、また明日」

「ばいばい」

「おい、晴彦。お前のだろ。持って帰れよ」

「僕のじゃないよ」

「じゃあ誰のだよ」 

「だから、その男の人の、だろ。世界を叩いて、歪みを直している」

「叩いたって歪みは直らないだろ」

「でも、誠は直ったよ。もう、くだらないことはしない。いや、できないだろうし」

 晴彦はにやりと笑った。そう思ったのは、いつもいじめる時に、誠がにやりと笑っていたからだ。今の晴彦には、誠と重なるところがあった。



 明くる朝、教室の隅にある誠の席には、白い花が置かれていた。

 結局、誰の者だか分からず、置き去りにされた赤く錆びたトンカチと共に。

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 試験的千字小説、第二回目です。

 小説の作法を、きちんと踏襲しているかは、甚だ疑問です。いいえ、不問です。


 次は、明るい小説を書こうかなぁ……  みつを  


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
深い・・ (アサヒ)
2010-02-09 02:32:26
とても、深いです・・

>>明るい小説

楽しみにしてます(笑)
Unknown (律氏)
2010-02-10 07:04:09
アサヒさんへ

この物語に込められたメッセージは、……ごめんなさい。正直、自分でも分かりません。

深くないです。浅はかで、すみません。

ご期待にそえるような作品を書きたいです。

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