だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

食料危機にそなえる(2)

2008-08-24 23:40:52 | Weblog

 オーストラリアの干ばつが続いている。小麦の生産量は2006,2007年と平年の半分程度である。今年も降雨は少なく深刻な状況が伝えられている。これで北米が不作にでもなれば日本は深刻な事態になる。
 食料調達を輸入に頼っていて深刻な食料不足を経験した国のひとつがキューバである(吉田太郎氏による「キューバの有機農業」サイト参照)。キューバは東側経済圏の一員として、農業はサトウキビ生産に特化し、それを輸出して食料とエネルギーを輸入していた。それがソ連崩壊に伴う東側経済圏の崩壊によって破綻した。食料のみならず、食料生産に必要な石油、肥料、農薬も入ってこなくなる。この危機的状況では、いかだでアメリカに亡命するキューバ人がたくさんでた。
 しかしながら、キューバはほぼ5年で食料不足を解消する。それは徹底した農業推進策をとったからだ。土地の耕作権を都市住民に開放した。化学肥料も農薬も手に入らないので、やるのは徹底した有機農業だ。ミミズ堆肥で土を作り、各種微生物資材で肥料や農薬をつくる。70年代から政府の農業試験研究機関で地道に有機農業の研究を積み重ねていたのが花開いたのである。
 キューバで人々を助けたのがオルガノポニコ。都市で農地がないところに、ブロックで囲いをして、その中に牛のふんや生ゴミから作ったミミズ堆肥などの土を入れたものだ。巨大なプランターともいえる。それで都市の中でも農作物を生産したのである。

 さて、日本では。日本の都市にも土がない。オルガノポニコももちろん有効だが、それに入れる土をどこから調達するかが大問題である。そこで、私たちは「有機肥料の養液栽培」という水耕栽培を提案している。プランターでもよいし、地面に木で枠をつくって、防水性のシートをはって水を張ってもよい。そこに発泡スチロールの板を浮かべて、そこに植物の茎を固定する。根が水槽の中で伸びていき、水分と養分を吸収して成長する。
 肥料はもちろん有機物である。これまで水耕栽培は化学肥料でなければ不可能とされてきた。有機物を水に入れるといわゆる水が腐った状態になって、作物は育たない。それを絶妙なやり方で水を腐らせずに生育可能にする方法を開発したのが、農水省の研究所である農業・生物系特定産業技術研究機構・野菜茶業研究所の篠原信さんである。私たちは篠原さんに手取足取り教えていただきながら、この栽培法の開発を共同して進めている。

 有機物を肥料として利用するためには、それを分解して最終的に硝酸イオンやリン酸イオンという無機物にまでしなければならない。これを有機物の無機化と呼ぶが、これを微生物の集団にやらせる。といっても特別な微生物を植え付けるわけではない。まず水づくりというのをやる。水槽に水を張って、毎日少しずつ、決まった量の有機物を入れる。水槽の中にはお茶のパックに入れた土(バーク堆肥や園芸用土)をつり下げておく。水中に酸素を供給するためにエアポンプでぶくぶく空気の泡を出す。そうすると、その環境にあった微生物が水中につりさげられた土から増殖して、有機物を分解し無機化してくれる微生物の生態系をつくってくれる。
 安定して無機化してくれることを確認したら、苗を浮かべる。あとは、生育のようすをみながら有機物を水槽に投入していく。私たちの研究室では、かつおの煮汁(かつおぶしを作る時にでてくる廃液)や、スーパーで出てくる生ごみを乾燥させたものを肥料として、サラダ菜やトマトを作ることに成功している。生ごみを堆肥にして土耕栽培に利用すると栄養成分は抜けてしまって肥料としては役にたたない。土壌改良材という位置づけになる。ところが、水耕栽培ならば100%植物に吸収されるので、ほんのちょっぴりの有機物で収穫まで栽培できる。修士課程1年の青山ちひろさんの研究によれば、サラダ菜一株作るのに、乾燥生ゴミ4gで足りるのである。また水も貯めているだけなので、土耕栽培よりも節約できる。

 最近では、修士課程2年の渡辺篤敬君がさらにこの手法を進めて、水槽で魚を飼いながら植物を育てるという合わせ技に挑戦している。写真は下の水槽に金魚がいる。ここに金魚のエサをやる。金魚がこれを食べておしっこやうんちをする。それが水とともに上の水槽にポンプで移動すると、微生物の生態系によって、硝酸イオンやリン酸イオンにまで分解されて、トマトの根から吸収されるという案配である。まさにミニ生態系である。今のところ金魚もトマトも元気だ。
 これが食料危機時には、魚はドジョウ、コイ、ウナギ、ナマズなどの食べられるもの、植物はカロリーの高いイモ類になるだろう。渡辺君がひとりで工夫して作ったこのシステムを見て、私はこれで食料危機がきてもなんとかなるという手応えを感じた。「食料危機時の有機養液栽培キット」をマニュアルとともに確立するのが、私たちの今後の研究課題だ。

 食料危機が来る時にはキューバと同じくおそらく石油も入ってこないだろう。車は動かないのだから、広い駐車場いっぱいに有機養液栽培の水槽を並べたい。高速道路は片側一車線になり、ここにも延々と水槽が並んでいる光景を想像すると、不謹慎かもしれないが、ちょっと楽しみな気もする。
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1 コメント

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Unknown (NZK)
2008-08-27 09:34:59
先日のセミナーでは、楽しくかつ深刻なお話を
興味深く伺いました。
この研究室の彼が作り上げたシステムは
振り返れば25年ほど前まで、弊社でも
当たり前の生活の中にありました。
浄化槽の放流水と雨水で池に鯉を飼い、
適当に太ったら鯉コクにして食う。
裏の畑の菜っ葉には、この池の水をまく。
菜っ葉は僕らや鳥小屋の鶏が食べる。
鶏も卵をとって、催事に〆て食べる。
名古屋市内でほんのこの前までやってました。
戻っても苦にならない時代の
おおらかなシステムです。
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