だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

巨大地震(3)M9の衝撃

2011-03-22 23:32:06 | Weblog

 今日は名古屋大学地震火山・防災研究センターによる「2011年3月11日東北地方太平洋沖地震緊急検討会」が開かれた。これまでの観測・解析結果が急ぎ報告された。それで私が理解したのは、この地震はこれまでの日本の地震発生についての理解をくつがえす、私たちが経験したことのない現象だったということである。

 最初に揺れを感じた時、私はたぶんM8クラスの地震と思っていた。それで速報で震源が宮城県沖、M7.9と聞いて納得したのである。ところがその値がM8.8になったところで文字通り度肝を抜かれたのだ。マグニチュードというのは、地震のエネルギーの指標である。Mが一つあがると、地震のエネルギーは30倍になるような目盛りである。ということは、M8クラスの地震30個分でM9クラスになるのである。宮城県沖でこのような地震が起こるとは、にわかには信じられなかったのだ。

 この地域はプレート境界で、繰り返し大地震を起こしていることはよく知られている。太平洋プレートが東北日本の下に潜り込むのに、太平洋プレートが移動する速度分(年間に5cmとか)の移動量は、二つのプレートが擦れ合っている場所では、時々大地震を起こしてかせがなければならない。
 プレート境界がすべるとそれが地震になる。すべった面が断層面と呼ばれる。また、それは余震域とも呼ばれる。本震が起こったあとの余震がその断層面上でばらばらと起こるので、余震の震源を地図上に並べるとそれが本震のすべり面=断層面となる。
 というわけで、過去のプレート境界の大地震のすべり面は海溝に沿って数珠つなぎに並ぶことになる。そのひとつひとつは、三陸沖、宮城県沖、福島県沖、茨城県沖、というように分かれている。それぞれのすべり面がすべっても、その時の地震はせいぜいM8クラスである。これまでの理解では、それぞれについて、地震が繰り返されており、その歴史に基づいて、将来の地震発生についての長期評価が行われてきた。

 たまには、それぞれひとつずつすべるのではなく、連動することもあるだろう。今回の地震の余震域=すべり面を見ると、その三つ分が動いたと考えることができる。つまり、宮城県沖、福島県沖、茨城県沖の三つのすべり面である。上の長期評価では、宮城県沖と茨城県沖の今後30年間の大地震の発生確率は90%以上(つまりいつ起きてもおかしくない)とされていたので、ある意味ではこの評価は当たったといえる。 


 しかし、私をはじめほとんどの地球科学者が???となったのは、M8の地震が単純に三つ同時に起こっても、絶対にM9にはならないのである。Mが1増えると30個分なのである。M8を3個を足してもM8.3程度なのだ。これが今回の地震がM9クラスと聞いて度肝をぬかれた理由である。そしてこのことは、上の長期評価が考え方の出発点、枠組みのところで間違っていたということを意味する。

 もう少し細かく見ると、M8クラスの地震では、地震の際の断層面でのすべり量は5mほどである。それが、今回の地震は20mというすごい量だったとされている。これが巨大津波を引き起こした要因である。断層の面積でいえばM8.3程度のはずだったのに、これに大きなすべり量が発生したためにM9クラスになったということだ。
 つまり、これまでの地震の歴史の研究から明らかにされていた、宮城県沖、福島県沖、茨城県沖でそれぞれ独立にプレート境界に地震が準備され、発生する、という理解では、それぞれが5mずれるにすぎず、それが三つ同時に発生してもせいぜいM8.3ということだ。それでは今回のM9を理解できないのである。
 なぜ20mものすべり量となったのか?科学は経験から学ぶ他はなく、これまでの経験として記述されていなかったことは理解も予測もできないのである。

 これまでの地震対策は最大でもM8を想定していただろう。そこでM9が起これば被害が甚大になるはずである。今回の地震では、M8で想定される津波で大丈夫とされた避難所に人々が逃げ込んで、そこが津波にさらわれたところがたくさんあったと思われる。あらためて亡くなられた多くの魂の冥福を祈るとともに、自然を前にあくまで謙虚にいなければならないことを思い知らされた。
 今後はM9を想定した地震対策が必要となる。それは東海、東南海、南海地震の発生が予測されている、東海から紀伊半島、四国、九州にかけて、まさにそうなのである。

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 原発震災(10)共感とともに | トップ | 原発震災(11)「ホットス... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事