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「家」世界の原理

2008-05-31 | 日本文学
「家」世界の原理 投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2008年 5月31日(土)00時31分33秒

>筆綾丸さん
讃岐国は知行国の実態を把握する手がかりに恵まれた珍しい国ですね。
私は以前、田中健二「大覚寺統分国讃岐国について」(『古代中世史論集』.吉川弘文館)という論文をみつけて、少し掘り下げたら面白そうだなと思ったことがあるのですが、きちんとした分析をするだけの基礎がなくて、結局そのままです。

和知の場面については、永原慶二氏が、

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 在地領主層がこのような形で、本領について将軍権力も及びえない強力な「家」権力を確保し、空間的にはいかなる上級支配権をも排除した屋敷地を核として、その排他的支配領域を拡大しようとしていたことは、国家体制との関連から見れば、中世国家においては国家の中に国家権力の介入できない「家」世界が存在していたことであり、近代国家的理解からはおよそ考えられない事態である。
 後深草院女房の日記『とはずがたり』によると、その女房が一三〇二(乾元元)年厳島詣の帰路、海が荒れたため、先の船中で知った備後国和知郷の地頭代官和知氏の家に泊めてもらったが、主人が毎日男女の人々に呵責を加えるのにおどろき、程近い江田に住む和知氏の兄の家に移った。和知氏は「年来の下人に逃げられ、兄がこれを取った」と怒り、兄弟喧嘩にまでなったが、たまたま下ってきた地頭広沢与三入道に救われたという事実がある。かりそめに宿泊した貴族の女房を、「下人」というのはまことに乱暴な話としかみえないが、いったんその家に泊った者はその家の内部にあるかぎり主人の「家」権力=家父長権に包摂される、というのが当時の考え方であったから、和知氏の主張もあながち無法ではないのである。
 在地領主層の「家」世界はこのように、屋敷地・「住郷」といった空間とともに、その「家」的人間関係の一切を包みこんでいる自律的世界である。いうまでもなく、在地領主層自体は中世国家の権力基盤を構成する地方支配層であるが、かれ自身の直接的存立基盤は中世国家の「公」権が立ち入ることのできない世界となっている。こうした「家」世界の原理は、在地領主層における「領主制」の発展とともに、独自の支配領域として拡大されてゆくが、「家」はあくまでその原点であり、中世国家の構造的特質を規定する基本的契機をなしていたのである。
http://www015.upp.so-net.ne.jp/gofukakusa/just-nagahara-zaichiryoshuto-iekenryoku.htm

などと言われていますね。
私は「領主制」の難しい議論については全くの門外漢ですが、他の信頼できる記録に基づくならともかく、『とはずがたり』のエピソードを根拠に、こんな壮大な理論を打ち立ててよいのであろうか、という懸念は感じますね。
和知の話も、結局のところ、自分のように美しくて才能豊かな女に惑わされて地方の馬鹿豪族どもが右往左往して面白かった、美人は何て罪作りなのかしら、という自慢話なんですけどね。
永原氏は「事実がある」と言われますが、果たしてどこまで信じられるのか、訳のわからん話じゃなかろか、と私は思います。

>はぎつきさん
いろいろお騒がせしましたけど、掲示板の基本スタンスは全然変わっていませんので、以前同様、自由に書いてくださいね。
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