大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第201回

2015年05月12日 14時37分57秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第190回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第201回




「あー、美味しかった」 ドリアをペロリと食べ終えた母がスプーンを置いて満足気に言った。

「気に入った?」

「凄くおいしかったわ。 また食べたいわ」

「うん、また食べたくなったらお父さんにつれて来てもらうといいわよ」 父親ではなく自分が・・・と言いたかったが、ここは父親の存在を大きくしようと思った。

「お父さんと?・・・」 苦虫を噛んだような顔をする。

「・・・お母さん・・・」 溜息しか出ない琴音を無視するかのように母親が続ける。

「でもこういうのって西洋のコックさんにしか作れないのよね?」

「そんな事ないわよ。 家でも作れるわよ」

「え? そうなの?」

「まぁ、同じ味が出せるかどうかは分からないけど、基本は作れるわよ」 

「琴ちゃん作り方知ってるの?」

「知ってるわよ。 じゃ、レシピを書いておくね」 ドリアも知らなければグラタンも知らない母だ。 ホワイトソースの作り方さえ教えれば何とかなるだろうと思った。

と、共に暦の顔が浮かんだ。
(全然味が違うって言われたら暦に聞けばいいわよね)

母親はいつも美味しい物を父親に食べさせたいと思っていた。 琴音の居ない日は食卓に並ぶ料理は父親の好物ばかりだ。 それを知っていた琴音は母親の無言の父親への気持ちを察していた。

この美味しい物を父親にも食べさせたいと思う気持ちを。



食事が終わり、母親の満足そうな顔を見てから思い切って琴音が切り出した。

「ねぇ、私がお手伝いに行ってる所に行ってみない? ここからそんなに離れていないの。 ドライブがてらにどう?」

「そうねぇ、見てみるのもいいわね。 ね、お父さん」

「見たところで賛成はしないぞ。 そんなわけの分からない物なんて」

「賛成して欲しくて言ってるんじゃないわ。 ただ、見てもらうと少しは安心してもらえると思うの」

「琴ちゃんいいわよ、お父さんの返事なんて聞かなくて。 それにお母さん、このままじっと座ってるとお尻がムズムズしてきちゃうわ。 行こう行こう」 そう言って隣に座っている琴音を押した。

「じゃ、行こうか。 お父さん見るだけでいいから」 琴音が席を立つのを見てシブシブ父親も席を立ち駐車場へ向かった。

車を走らせていると

「へぇー こんな所に来た事はないわねぇ」 過ぎ行く風景を見ながら後部座席の母親が言うと

「そうか? こっち方面に何度か来ただろう?」

「私がですか?」

「ああ。 えっと・・・琴音の友達の何て言ったかな? ほら、お母さんもよく知ってる・・・」

「誰ですか?」

「ああ、そうだ。 琴音が山に登って体が動かなくなったときに見に行ってくれた・・・」 それを聞いてすかさず琴音が

「え!? 暦の事?」

「ああ、そうそう。 暦さんだ」

「暦とお母さんが来たの?」

「いや、暦さんのお母さんとうちのお母さんが・・・」 そこまで言うと母親が

「ああ、あの時?」

「思い出したか?」

「あらー? こっちの方だったかしら?」

「お母さんは方向音痴だからな。 何処へ行ったかぜんぜん分かってないみたいだったけど お母さんが帰って言った話からするとこっち方向じゃなかったか?」 両親の話を聞いて訳の分からない琴音が

「なに? いったい何の話なの?」

「暦ちゃんのお母さんとバッタリ会ったときにね 今から山に山菜を摘みに行くから一緒にどう? って誘われたのよ。 暦ちゃんの親戚の山だから何の気兼ねも無く摘めるらしくて 車に乗せてもらって何日か採りに行ったのよ」 それを聞いた琴音が

「暦の親戚の山?」

「そうらしいわよ」

「おばさんいつもその山で摘んでたの?」

「いつもは違う山みたいよ。 でもなんて言ってたかしら? もうその山を手放したいから最後に山菜を摘んでやってもらえないかって言われてたって言ってたかしら? 大きな山じゃなかったから何度か一人で摘みに行ってるって聞いたけど」

「まさか・・・まさかよね」

「なに?」

「何でもない」 車は段々と正道の持つ土地に近づいていった。 母親は窓から風景を眺めている。 

「あの時、こんな大きな道を通ったかしら?」 国道の事だ。

「抜け道を走ったんじゃないか?」 父親がそう言うと

「違う道だったら全然分からないわ」

「同じ道でもお母さんだったら分からないだろう。 全く方向がわからない上に風景も何も覚えないんだから」

「まぁ、酷いことを言いますね」 方向音痴は母親より自分の方が幾分ましかと思いながら両親の会話を聞き 車は目的地を目の前にした。

「あら?」 正道の車が停めてあるのが見えた。

「どうした?」

「うん・・・ほら、工事中の建物があるでしょ。 ここよ」 ハンドルを切って国道を曲がった。

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