大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第199回

2015年05月06日 14時23分12秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第190回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第199回




少しゆっくりと寝ていたが顔を洗ってお茶を飲み、実家に泊まる準備をすると今度はテレビで天気予報の確認だ。

「雪は降ってないわね。 交通渋滞は・・・」 チャンネルを変えた。

「どこかでやってないかしら」 次々と変えるとやっと交通情報があった。

「あ、どうかしら?」 暫く見ていると少し混んではいるが渋滞で動かないというほどではなさそうだ。

「今のうちに行こうか・・・」 そう思った時

「あ、暦おばあちゃんに怒られるわ。 ちゃんと朝ご飯をしっかり食べなきゃ」 昨日、暦が置いていったおにぎりが一つとおかずが少し残っていた。 
それを温めて食べるとすぐに車を走らせた。
   


実家に着いて車を停めていると車のエンジン音に気付いた母親が家から出てきた。 エンジンを切った琴音が母親に気付き慌てて車から降りた。

「お母さん、熱があるんでしょ! 寒いから家に入ってて」

「熱って言っても微熱だから何ともないわよ」

「あー、分かったから。 とにかく入ってて」 琴音にそう言われても車に近づいてくる。 

そしていつもとなんら変わりない様子で

「荷物は?」 と聞く。 

「1つだけだから、自分で持てるから」 助手席からボストンバッグを出すと

「ほら、早く家に入ろう」 母親の腕をとって玄関に向かった。

家に入るとコタツで新聞を読んでいる父親がいた。

「お父さん、ただいま」

「おお、お帰り。 渋滞してなかったか?」 読んでいる新聞を畳み

「車の台数は多かったけど思ったほど渋滞はしてなかったわ」

「そうか。 じゃああまり疲れてないんだな」

「うん、大丈夫。 それにここの所しょっちゅうこっちまで運転してるから運転にも慣れちゃったみたい」

「そうか」 母親がお茶を入れてきた。

「はい、琴ちゃん」 琴音の前に湯呑みを置き父親の前にも湯呑みを置いた。

「お母さんそんな事は私がするから寝てて」

「大丈夫よ。 熱って言うほどじゃないんだから」

「お父さん、お母さんいつもどうしてるの? 寝てないの?」

「いつもは布団で寝てるよ」 それを聞いた母親が慌てて

「お父さん! どうしてそんなことを言うんですか! 琴ちゃんが要らない心配するだけでしょ!」 すると父親が琴音を見て

「そうだってさ、琴音」

「もう、お母さん。 熱があるんだからお布団で寝ようよ」

「微熱よ。 琴ちゃんの運転と一緒で慣れたわ。 ね、そんなことより今日の夜は何が食べたい?」

「もう、何言ってるのよ。 あるもので私が作るから。 お母さんはそんな事考えなくていいの」

「じゃあ、一緒に作ろうね」 

「琴音、お母さんの好きなようにさせて上げなさい」 二人の会話を聞いていた父親が琴音を諭すように言った。 

それを聞いてハァーと1つ大きな溜息をついて

「じゃあ、辛くなったらすぐに言ってよ」

「大丈夫だってば」 

母親の微熱は若い頃にずっと働きづめだったため、歳を重ねその歪が出てきたという事もあったが 琴音が今まで以上に顔を見せた嬉しさから気が上ってしまったというところもあった。 
気が上がって身体のバランスを崩してしまったのだ。

結局、夕飯どころか母親と一緒に正月の準備も始めた。

「お母さんね、琴ちゃんとこうして台所に立てるのが何より嬉しいの」

「そうなの?」 意味が分からないという顔をする琴音に何を言っているのかと言わんばかりに

「そうよー。 娘を産んだんだから一緒に台所に立つっていうのが何より嬉しいわよ」

「ふーん、そんなものなのかなぁ?」 琴音の頭の中ではよく出来た娘とか、息子の嫁に何もかも任せて上げ膳据え膳を楽しむ老後の方が余程楽しいのではないのかと疑問が残る。

「琴ちゃんも娘を産むとわかるわよ」 その言葉を聞いて母親が何を考えているのかすぐに察し

「あ、それ以上言わなくていいからね」

「もう! お母さん、孫も見てみたいんだから」 やっぱりかと思いながらも

「ごめんなさい」 おどけて言った。

年末年始と母親の体調は良くなり微熱も治まった。
今年もお節は注文だ。 だか、黒豆と金時人参、他の野菜の煮物だけは母親と琴音で作った。


元日、お節を食べながら

「琴音が数日泊まってくれてるだけで熱が下がるって お母さんも現金なもんだな」

「お父さんが私の話を聞いてくれないから 絶対にストレスだったんですよ」 両親の会話とも言えない会話を聞いていると

「またそれかい。 琴音何とか言ってやってくれよ」 とばっちりが琴音に回ってきた。

「二人で仲良くしてよ。 心配でマンションに帰られないじゃない」 話を上手く終わらそうとしたが母親の言葉で思ってもいない方向に話が進んでしまった。

「帰らなくてもいいじゃない。 こっちにいれば? あの、何とかって言うのはどうなってるの? そこでお手伝いなんかじゃなくて正社員として働けば?」 

正道との約束の日に時々実家に寄ってはいたが、正道との話は全くしていなかった。 というより、いつも母親の話し相手になっていただけだったのだ。

「駄目よ、まだまだ勉強中。 それにまだ建物も立っていないし開いてないもの」 それを聞いた父親が

「勉強中ってもう半年くらいたってるんじゃないのか?」

「うん。 でも簡単にはいかないわ」

「琴音、週に1回と言えど半年かかってもまだ勉強中って言うのはおかしくないか? 本当に変な所じゃないんだろうな」

「お父さん、普通の事務職や会社の仕事と違うの。 そうね・・・言ってみれば板前さんの修業って何年もかかるじゃない、あれと同じような事なのよ」 そう言いながらも父親の言うとおり自分が不出来なのではないだろうかと不安に陥る。

「お父さんは黙っててください! お正月からそんな話の仕方。 ねぇ琴ちゃんそこが開いたらお勤めそこに替わりなさいよ。 そしたらこの家から通えるでしょ?」 

そうなるかもしれないと言いたかったがまだ言えない。 母親に期待をさせておいて結局何も出来ないからその話しは無かったとは言えないからである。

「どうなるかな? その時になったらその時のことよ。 今は今の会社にお勤めしてるんだから先のことは分からないわ」 

会社閉鎖の話をするとややこしくなりそうな気がして黙っておいた。

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