大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第145回

2014年10月28日 14時17分17秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第140回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第145回




会社に行けば年末も押し迫りいつもの仕事よりはるかに忙しい。

「いつもが気楽すぎるだけに年末となると厳しいわ」 あれやこれやと伝票が飛び回り税理士とのやり取りもしなければいけない。

「もしもし、お世話になっております悠森製作所でございます。 急がせて申し訳ないのですが、もうそろそろ年末調整の額が出ましたでしょうか?」

「はい 出ていることは出ているんですけど この数日、先生が留守をしておりましてまだ先生の判子をとれていないんです。 申し訳ありません」 そこまで聞くと 

「もしかして悠森製作所さん?」 電話の向こうで話しかける声が聞こえた。

「あ、少しお待ちください」 琴音の電話相手がそう言うと

「はい」 何だろうと 琴音が電話の向こうに耳を澄ますと少し離れた所からのようで大きな声で話しかけているようだった。 それによく聞くと少し前までの悠森製作所の担当の声だった。

「悠森製作所さんは先生の判子が無くてもいいわよ。 私がちゃんと目を通したからすぐにファックスを送ってあげて」 そんな声が聞こえてきた。 そして

「あ、もしもし お待たせしました。 今からすぐにファックスでお送りします」

「有難うございます。 じゃあ、お願いします」 すぐにファックスが送られてきた。 それを見て

「全員、還付。 徴収は無しね。 早く計算しなきゃお給料日に間に合わないわ。 それにしても今までの担当さんお偉いさんになったのかしら?」 ファックスを持ち席に着こうとすると

「織倉さん、織倉さん」 小さな声で琴音を呼び止める声がした。 

事務所には琴音の他に男性社員が2人居るだけだ。  呼び止めたのは武藤と話をしていた社員だ。

「はい、何でしょうか?」

「年末のボーナスどうなってますか?」

「あ、ボーナスは残念ながら・・・」

「やっぱり。 あー、帰って奥さんに何て言おう」 天を仰いだ。

「仕方ないよな。 これだけ暇なんだもんな」 話を聞いていたもう一人の社員が会話に入ってきた。

「期末のボーナスも無かったですもんね。 男性は大変ですね」

「あー、この何年まともにボーナス無いじゃんかよー」 今度は机にうなだれた。

「え? でも去年はあったんじゃないんですか?」 ハロワークの求人募集には年に2回と書いてあったことを覚えていた。 

するとうなだれている社員に代わってさっきの社員が椅子を滑らせてきて説明を始めた。

「昔は年に3回出てたんですよ。 それも1回が4か月分とかね。 それが10年位前から 減ってきて5年前くらいからはボーナスもあったり無かったり。 出ても2か月分も無くてね」

「3回も出てたんですか?」 琴音のその言葉を聞いて机にうなだれていた社員が

「そうですよー、 夏もあったんですよ。 それがこんなになって家追い出されますよー」

「あ、でも今月は皆さん還付金がありますからいつもよりはお給料が多いですよ」

「そんなの慰めになりませんよ。 ああ、家に帰るのが怖い」

「お前の奥さん気が強いもんな」 今度は自分の席に戻ろうとヨイショヨイショと足を使って椅子を滑らせた。

「どこも不況ですから奥さんも分かってくださいますよ」

「駄目・・・今はもう話しかけないで下さい」 机に再度うなだれた。

笑ってはいけないと思いながらも子供のような仕草にクスッと笑いながら琴音も席に着き給料計算を始めた。

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