大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第224回

2015年08月04日 14時46分07秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第224回



お昼前に暦がやって来た。

「お昼まだでしょ?」 玄関に立ちながら持っていた紙袋を少し上げてみせた。

「わぁ、またお昼作ってきてくれたの?」

「今日のは簡単に作ってきただけよ。 期待しないでね」 部屋に入るとすぐに持ってきた紙袋からタッパを出し蓋を開けだした。

「あー、美味しそうなサンドイッチ」 レタスやトマト、卵が彩りよくサンドされている。

「ハムもベーコンも入れてきてないから大丈夫よ。 ソーセージは魚肉ソーセージだから大丈夫でしょ? 鶏肉も大丈夫だったわよね?」

「うん」

「良かった、これは鳥の照り焼きサンドでこっちは竜田揚げ。 それとサラダ。 お昼にはちょっと早いけどもう食べない?」

「うん、食べる」

「はい、じゃあ召し上がれ」

「それじゃあ、コーヒーを入れるわね」

「あ、いいわよ。 スープも持ってきたから」 タッパが入っていた紙袋から水筒を出した。 だが、まだなにか紙袋をガサガサしている。

「え? スープも?」

「うん。 カップだけ出してもらえる? ・・・それとサラダ用のお箸もお願い。 割り箸を忘れてきちゃったみたい」 ペロッと舌を出した。 
紙袋をガサガサしていたのは割り箸を探していたようだ。

「お箸くらい出させてもらうわ」 暦が忘れ物をするなんて珍しいと思いながらも、ふと暦も普通の人間だったんだと思った自分に笑えた。

そんな思いを持ちながら箸とカップを用意する琴音の背に向って暦が続けて話しかける。

「コーンスープを作ってきたんだけど、琴音好きだったわよね?」

「うん。 大好き!」 コーンスープと聞いて満面の笑みで振り返る。 もう暦への思いは吹っ飛んでいる。

箸はタッパのフタを箸置き代わりにして置き、コーヒーカップを2つ出すと 暦が水筒の口を全開しカップに注ぎ入れた。 

「はい、どうぞ」

「ありがとう。 いただきまーす」 テーブルを囲んで二人で食べ始める。

「昨日 ご近所さんから食パンを沢山貰っちゃってね、うちでは消費しきれないから手伝ってもらおうと思ってサンドイッチにしたんだけどご飯の方がよかった?」

「うううん。 サンドイッチってここの所食べてなかったから嬉しいわ。 って言うか、この鳥の照り焼きサンドとか竜田揚げサンドって、朝から焼いたり揚げたりしたの?」

「うん、そう。 油の片付けとかしてたからちょっと来るのが遅くなっちゃった。 で、慌ててたから割り箸を忘れちゃったのかしらね」 朝から揚げ物とは琴音には信じられない。 
それをサラッと言ってのける暦。 

朝から忙しくしていたのだ、割り箸くらい当たり前に忘れるだろう。 
自分だったら下手をしたら作ったものを忘れてきそうだ・・・あ、いやいくらなんでもそれは無い。 そんなことがあるとしたらその張本人は文香だろう。
今までにも沢山の料理を作ってきてくれた。 この部屋で作ってくれた。 今更ながら本当に自分の友だろうかと思わず暦をじっと見た。

「え? なに?」

「あ、何でもない。 これ美味しいわ。 ホントに暦は料理上手ね」 引っ越してしまうと、こうやって簡単には逢えなくなるという寂しさからか、どこか感傷に浸ってしまったようだ。

「そんな事ないわよ。 でも、褒めてくれてありがとう。 沢山食べてね」 

「うん。 どれにしようかなぁ。 全部美味しそうだけど彩がキレイな野菜サンドからいっちゃおう」 野菜サンドを手に取り、パクッと口にした。 

その姿を見て暦が口を切った。

「で、早速だけど引越しの事ちょっとは考えたの?」 暦は卵サンドを一つ手にとって 口に入れた。

「うん・・・。 暦との電話を切ってから文香からも電話があってね、文香も早めに引っ越す方がいいだろうって言ってた」

「そうなの。 で、琴音自身はどうなのよ」

「二人に言われて段々とそんな気になってきたのもあるし・・・」

「ん? なに?」 スープを飲もうと思った手が止まる。

「えっとね、怒らないで聞いてくれる?」

「なに? どうして私が怒らなきゃいけないことがあるの? 言ってごらんなさいよ」 スープを口にした。

「暦に言われてあちこちの引き出しや机の中を見てみたのね。 そしたら結構要らない物が入ってたの。 で、それを整理してたら、このままの勢いでサッサと引っ越しちゃえって思ったりしてたの」

「ふーん。 で? その話の何処に私が怒るわけ?」 

「えっと・・・要らないものを沢山置いてたから・・・その・・・ちゃんと片づけをしてなかったから・・・」

「ちょっと待ってよ、どうしてそんな事で私が怒るのよ」 サンドイッチを食べようと開けた口が琴音に向いた。

「だって・・・いつも子供たちに片づけができてないって怒ってるじゃない」

「それは子供たちの話でしょ? 琴音は私の子じゃないでしょ? もう、いい大人が何を言ってるんだか」 溜息全開だ。

「そう? 怒られなくて良かったー」 こちらも安心の大きな息が全開だ。

「・・・違う所に怒りそうだわ」 眉間に皺が寄った。

「そんな事いわないでよ。 でもね、あの暦の言葉があって片付けをしだしたから、引越しを意識するようになったわ。 それまで漠然と頭では分かっていたけど、具体的には全然考えていなかったのよ」 

いつもの様に冗談めかして事を正す言葉のひとつも言いたいけれど、今は琴音のこれからのことを話さなくてはとその言葉を収める。

「その気になったのなら、まずは引越し屋に見積もりをとってもらいなさいね。 荷造りは可能な限り手伝いに来るから、いつでも言ってくれたらいいわよ」

「うん。 ああ、段々その気に火がついてきたみたい」

「家賃のこともちゃんと考えて日取りを考えるのよ。 あ、それと」 今度はバッグの中を探して

「はい、これ」 暦が広げて見せるとそれは数件の引越し業者の広告だった。

「どうしたの?」

「前に琴音の話を聞いてからいつかは引越しするだろうからと思って、新聞に挟まっていた広告を置いておいたの。 参考になるでしょ? それと少なくとも電話番号を探す作業がカットできるでしょ?」 

「へぇー。 色々あるのねぇ」

「業者によって色んなサービスパックがあるみたいだから琴音にとって都合がいいものをチョイスするといいわよ。 あ、私が持ってきたからって、他の所で頼むのは悪いかな、なんて考えなくてもいいわよ。 あくまでも参考に持ってきただけだからね。 他に良い所があればそこに頼むといいわよ」

「うん、でも当てがあるわけじゃないからこの中で決めると思うわ」 暦のサンドイッチを持っていた手が下がり、眉を下げ少し首を傾げながら間を置いて話した。

「普通ならね・・・友達が引越ししちゃうのは寂しいからこんなに言わないんだけど・・・」

「え? なにどうしたの? 急に」 だが今、寂しそうにしていた暦の顔の口角が上たった。

「行く先が琴音の実家で、私の実家の近くでもあるんだから安心だものね。 こっちも変なリキが入っちゃうわ」 少々、複雑な心境のようだ。

「そうよね、暦が実家に帰ってきたときに会えるものね」 暦の心が何を言いたいのか分かる。 だからこの返事が精一杯だ。

「あ、忘れてた!」 今の空気を切るように琴音が大きな声を上げた。

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