映画鑑賞

昔の名画から最近上映の映画まで、国内外を問わず幅広く楽しんでいます。別世界へ連れて行ってくれる作品が好み(本棚6)。

「ナインスゲート」

2009-02-17 06:58:48 | 手持ちの映画ビデオ・DVD
1999年、フランス・スペイン映画。
監督:ロマン・ポランスキー、出演:ジョニー・デップ、エマニュエル・セリエほか。

古本・希少本の鑑定士が主役のヨーロッパを舞台とした伝奇映画です。
こういうの、私好きなんです。
古い本がたくさん並んでいるだけで、なんとなくうれしくなります。
時を経るほど怪しい輝きを増していくアンティークと同じ魅力があるのかなあ。

ヨーロッパの古層に触れる内容です。
魔女、宗教的秘密集団の儀式・・・中世暗黒時代の香りを伺わせます。
現在でもフリーメイソンなどは活動しているようですし(白十字はどうなんだろう?)、闇の世界は現存しているのでしょう。
ちょっと「あれ?」と感じたこと。
主人公のジョニー・デップに行く先々でまとわりつく正体不明の美女(演ずるのはポランスキーの奥さんらしい)。
敵なのか、味方なのかはっきりしない。
最後に正体がわかるのですが、実はこの女性主人公より強いんです。
中世ヨーロッパから抜け出してきた設定なのに、なぜか「カラテ」の使い手。

抑制された映像美。
ポランスキーの作品は私にはインパクトが強く記憶に残るものばかりです。
「チャイナタウン」(ジャック・ニコルソンは禿げかかっているけど渋かった)
アカデミー賞受賞作品の「戦場のピアニスト」
昔々(1967年)の作品「吸血鬼」
などなど。

ユダヤ人の血を引く監督のポランスキーは第二次世界大戦を通じてナチからの逃亡生活を続け、ヨーロッパのあちこちを転々としました。
作品の底流にヨーロッパを否定する思想・肯定する思想が複雑に交錯しているような印象を受けます。
島国の日本人にはない複雑さ。

★ 5点満点で4.5点。

「二十世紀少年ー第二章ー」

2009-02-06 23:07:54 | 映画館にて
2009年公開作品。
監督:堤 幸彦、企画・脚本:長崎 尚志、原作:浦沢 直樹
出演:唐沢 寿明、黒木 瞳、豊川 悦司、平 愛梨ほか。

待望の第二章を観てきました。
相変わらず原作の雰囲気を忠実に再現していて感心しました。

野原を駆け回り、秘密基地作りに明け暮れた少年時代。
そこで仲間だけで共有する秘密を持ちたくなるのは自然の流れ。
ケンヂ達は「よげんの書」を作り、仲間意識を高めたのでした。

「忍者ハットリ君」や「ナショナルキッド」のお面は今の子ども達にはわかるまい(笑)。
カンナ役の平愛梨、オッチョ役(少年時代)の澤畠流星くんの2人はいい目をしてますねえ。
今後も活躍してくれそうな俳優です。

そして、ストーリーはその「よげんの書」が現実のものになるというSFチックな展開をしていきます。
この突飛さについて行けるかどうかで、楽しめるか、冷めてしまうか分かれますね。
映画は良くできていると思いますが、元々のストーリーに?の私にはちょっと・・・。

私も幼少時に仲間と「秘密基地」作りに明け暮れていたクチです。
物置小屋の裏側スペースにござを敷いた第一号に始まり、確か16号くらいまで造ったおぼろげな記憶があります。
稲刈りの後の積んだワラをくり抜いて農家のおじさんに追っかけられたり、
神社のお堂の縁の下に造って神主さんに叱られたり、
もう武勇伝ですね。

最高傑作は、川にせり出した樹木の上に板を載せて造った今で言う「ツリーハウス」。
完成したときはみんな得意満面でした。
川の風が気持ちよかったなあ。
しかし仲間の1人が川に落ちてびしょ濡れになって帰宅し、親にバレて撤去される羽目に。
くやし涙を流しました。

川の中を覗けばゲンゴロウやタガメやカエルの卵などがあった時代の話です。
野遊びで冬はいつも手がアカギレしていました。
当時の遊び場は今は皆コンクリートの下に埋められています。

私は小学6年生の時に転居してその土地を離れました。
大人になってから、数年に1回くらい懐かしさが募ってそこを訪れることがあります。
住んでいた市営住宅は高層アパートとなり、昔の面影はほとんどありません。
しかし一つだけ変わらない場所がありました。
神社です。
逆上がりの練習をした鉄棒や、草野球をやったフェンスが40年の時を経てそこにそのまま存在しているのです。
クラッカーをしていて雑草に飛び火して燃え始め、みんなでオシッコをかけて消したのもこの場所。
囲いの鉄の棒で繋がれた石柱の上を渡り歩いて遊んだのもこの場所(おかげで鉄棒の上も歩けるようになりました!)。
その場に佇んでいると、時間が逆戻りして茶色く変色したランニング姿で走り回る子ども達の姿が見えるよう・・・。

そんな記憶を呼び覚ましてくれただけでも、この映画を観る価値はありました。
あ、全然映画評になっていませんね。失礼。

★ 5点満点で4点。

「風の歌を聴け」

2009-02-01 07:09:34 | 手持ちの映画ビデオ・DVD
1981年、日本映画。
監督/脚本:大森一樹、原作:村上春樹、
出演:小林薫、真行寺君枝ほか。

皆さんご存じの小説家「村上春樹」さんの初期作品を映画化したものです。
今はすっかり有名になりノーベル文学賞にもノミネートされるビッグネーム。
私にとってはリアルタイムで作品を読み続けた唯一の小説家です。

「風の歌を聴け」という小説は彼の初長編であり「僕と鼠」三部作(他は「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」)の一作目でもあります。
私はこの三部作を学生時代に繰り返し読み耽りました。大学のあった青森県から実家に帰省するたびに読んでいたような気がします。
それほどピシピシと心の襞にしみ込んできました。
彼の小説から得たことは「一人で生きていくのも悪くない」ということでしょうか。
登場人物は未完ながらも皆自分の世界を持っています。それが人生の中でたまたま重なったのが人間関係。
私小説ながら多くの人に受け入れられ、普遍性を有したことは太宰治と共通する要素があるのかもしれませんね。

村上春樹の魅力は「会話のかっこよさ」でした(過去形です)。
彼の思考や情景を凝縮したような短い言葉で言い切る会話に惹かれました。
でも、「世界の終わりとハードボイルド、ワンダーランド」や「ダンス、ダンス、ダンス」あたりから伝えたいことを凝縮するのではなく引き延ばして長編小説にしているような印象に変わり、魅力が半減しました。
その後の作品はあまり読んでいません。
私にとっては「僕と鼠」三部作が彼の最高傑作です。

映画は原作の雰囲気をそこそこ残していると思いますが、まあ監督の味付けも無視できません。
大森一樹監督は村上春樹と同郷で中学校の後輩に当たるそうです。

価値観の定まらない青春期は仄暗いトンネルの中にいるようなイメージがあります。
いろんな人と関係を持ちながら浮遊する主人公。
でも彼の意識はどちらかというと醒めていて、そのニュートラルは存在は時に他人をいらつかせ、ときに他人の心のざわめきを沈静化してくれます。

彼の台詞に「高校時代、クールに生きようと思った。思っていることの半分しか言わないと誓った。そうしたら、思っていることの半分しか言えない自分になっていた。」というのがあります。
ここに共感しました。
自分をわかって欲しくてしゃべり続けた時期が私にもありました。でも人によってはそれを迷惑がることを知るに至り、その後数年間は自分について極力しゃべらない時期がありました。

「人と人とがわかり合えるはずがない」
彼の小説によく出てくるフレーズです。作品の根底に流れている思想なのかもしれません。

小林薫さん、若いですね。私の好きな男優の一人です。
暗い影のある原作の主人公と比較して、少々好人物過ぎるような気もしました。
彼にはビールより日本酒の方が似合うと思うのは私だけでしょうか。
真行寺君枝さんも美しい。妖しい魅力を放っています。
室井滋さんがなんとヌードを披露している!
バーテンダー役の坂田明さん(ジャズ・サックス奏者)もいい味出してます。

ストーリーの中で室井滋さん演じる仏文科の女子学生が自ら命を絶ちます。
青春期は不意に「死」があちらから近づいてくる時期でもあります。
エネルギーの固まりが疾走するような体はその内部に矛盾を抱え始め「自分の存在意義(レーゾン・ディテール)」を自問自答することになります。
「真実」「正義」に執着すれば自己崩壊をきたし、生命体の連鎖を受け入れられない精神は危うい状況に置かれます。
それに何とか折り合いをつけて、人は大人になっていくのでしょう。

昔々(もう四半世紀前)頭でっかちになって考えをめぐらした記憶が少し蘇りました。