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≪ Belgian Jazz Vol.3 ≫
ベルギー出身の女性作曲家兼ピアニストであるMyriam Alter (ミリアム・アルター)の94年のデビュー作『 Reminiscence 』。B.Sharp原盤のジャケットは車中で眠るミリアムのモノクロ写真でしたが、04年に澤野から復刻された際、上のようにジャケットが変更されています。Gino Lattuca (ジノ・ラトゥカ)(tp)とBen Sluijs (as&ts)をフロントに据えたクインテット編成で、哀愁味溢れるヨーロピアン・ハード・バップを展開しています。ジャズに必要な要素とは、美しい(そして哀愁ある)メロディー、リズム、そして即興の醍醐味を味わえる胸のすくような各人のソロであるわけですが、ここに登場するメンバーは全員ハッキリ言って決して腕の立つミュージシャンではありません。後述しますが、特にミリアム・アルターは生粋のジャズ・ピアニストではないため、お世辞にも巧いとは言えないピアニストです。がしかし、彼女の曲は聴き手の心を惹きつける魅力に満ち溢れています。ジャズが、インタープレイやソロがいま一つでも、メロディーやリズムが魅力的であれば、立派に成立する音楽であることを確認させられる秀作であると思います。これほどメロディーの求心力というものを体感できる作品も珍しい。
ミリアムは、8歳の時にクラシック・ピアノのレッスンを始めるも15歳で断念せざるを得ませんでした。そしてブリュッセル大学では心理学で学位を取得しました。卒業後は広告会社に7年間務めるもその後ダンス・スクールを起業しましたが、それも7年で辞めて音楽の道に進むことを決心。アメリカ人サックス奏者John Ruocco 、アメリカ人ピアニスト Denis Luxionらなどに師事。そんな中、オランダ人ベーシスト兼 Challenge オーナーでもある Hein Van De Geyn (ハイン・ファン・デ・ゲイン)に惚れられ、彼のプロデュースのもと、本作でのデビューに至ったという異色の経歴の持ち主です。
彼女の現在までのリーダー作は以下の5作品。
1. 『 Reminiscence 』 1994年 B.Sharp (本作)
2. 『 Silent Walk 』 1996年 Challenge
3. 『 Alter Ego 』 1999年 Intuition
4. 『 If 』 2002年 Enja
5. 『 Where Is There 』 2007年 Enja
僕が所有しているのは本作以外には、国内盤で出た3) 『 Alter Ego 』だけです。ハイン・ファン・デ・ゲインと共にニューヨークに渡り、ケニー・ワーナーをはじめ、ジョーイ・バロン、ビリー・ドリューズ、ロン・マイルス、マーク・ジョンソンという、強力メンバーと録音されたもので、世界進出を目論む彼女の意欲作でした。当然、デビュー作より数段クオリティーも高くて素晴らしい出来です。アヴァター・スタジオ&ジョー・ファーラで録音も最高です。アルバム全体に漂うエスニックの香り。そのあたりがセファルディー系ユダヤ人である彼女の最大の魅力なのですが、しかしあまりにもエスニック度が高く、好き嫌いの別れる内容かもしれません。そして、この第三作以降、彼女はピアニストとしての自分に見切りをつけ、コンポーザーに徹して作品を制作しています。つい先日発売になったばかりの最新作『 Where Is There 』では、アントニオ・カルロス・ジョビンのグループでの活動で有名なブラジル人チェリスト Jaques Morelenbaum (ジャキス・モレレンバウム)と、ミリアムの師匠でもあるジョン・ロッコがクラリネットで参加している民族音楽色を更に強めた作品です(こちらで試聴できます)。
ミリアムの卓越したメロディー・センスが光るBlue Note 4000番台のリー・モーガン作品を彷彿させるB級哀愁ハード・バップ。本作は時々、中古店で澤野商品としては破格の安値で見かけることがあります。ピアノ・トリオ中心のラインナップを揃える澤野商会の作品の中ではあまり人気がないのでしょうが、意外に出来がイイので見つけたら拾っておいても損はないと思いますよ。