シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

ショートターム

2016-05-23 | シネマ さ行

先日「ルーム」を見たあとに「ショートターム」でのブルーラーソンが良かったと聞き、このブログのコメントにも同じ意見をいただいて「ショートターム」?確かそんな作品あったなぁと漠然と思い出しレンタルして見てみました。

問題を抱える子どもたちの保護施設「ショートターム12」(原題も「Short Term 12」です)ショートタームは短い期間という意味で12は子どもたちは最長でも12か月しかここにいられないという意味(かな?)ここで働くスタッフリーダーのグレイス(ラーソン)は小さな事件やもめごとが日々起こるこの施設をうまくまとめていた。

グレイスは一緒に働くスタッフのメイソンジョンギャラガーJr.と同棲していて、今回妊娠したことが発覚し、彼女の心の中で何かが大きく動き始める。

折しも施設では、問題児ジェイデンケイトリンデヴァーが入所してきて、グレイスは周囲に馴染もうとしない彼女を気にかけているうちに彼女が父親から虐待を受けていることに気付き彼女を救おうと奔走します。

グレイスがジェイデンの状況を改善してやり、ジェイデンの心の傷を癒そうとしていく中で、グレイス自身の心の傷口がどんどん開いていき、彼女自身がその傷と向き合わざるを得なくなってきます。いつも優しく大きな心で見守ってくれるメイソンにさえ打ち明けることができないグレイスの傷とは、、、

同じころもうすぐ施設を卒業しなくてはならないマーカスキーススタンフィールドが荒れていた。この施設を出なくてはいけない不安からだろう。彼が書いた母についてのラップに胸が痛む。母親の愛情を知らない彼の母への訣別のラップだった。髪の毛を剃ったマーカスがグレイスとメイソンに聞く。母親が殴った傷が残っていないか、と。残っていないから大丈夫。そう言われて初めてマーカスはこの施設を出ていく心の準備ができたのだろう。

ジェイデンが書く童話が象徴するもの。友達のいないサメとタコの物語。タコは友達が欲しくて友達になりたいなら脚をちょうだいと言うサメに1本ずつ脚をあげてしまう。そして全部の脚をあげてしまったところで2人とも結局ひとりぼっちになってしまう。悲しい悲しい物語。これを聞いて父親の虐待に気付いたグレイス。

自分の何かを削ったり相手の何かを奪ったりして誰かと関係を結んでもそれはうまくはいかない。それが親子であればなおのこと。無力な子供にそれを強要する大人からは子供を引き離して助けるしかない。でも、保護施設で働いているだけで心理学者でも福祉局の人間でも弁護士でもないグレイスには、上司に訴えるしかすべがない。そして上司は慎重で簡単に解決してくれそうにない。このはがゆさ。グレイスはそのはがゆさに甘んじることなく実力行使してしまいますが、あれでグレイスがクビにならなかったのはあの上司の温情も相当あったのではないかなと後で思った。

ジェイデンとの出会いと自身の妊娠をきっかけに向き合うことになるグレイスの傷がまた悲惨で。ジェイデンに語った話は初めて他人にきちんと話したことだったんだろう。初めてすべてを語ることで一区切りつけることができたようだった。心を開かないグレイスに腹を立てていたメイソンにもこれできちんと向き合うことができたはず。これからも心の傷は消えることはないだろうけど、グレイスとメイソンなら乗り越えていける。そんな気がした。

内容はドロドロなのに、どうしてこんなに爽やかな物語を作り上げることができるんだろう?デスティンクレットン監督の手腕と集まった若い役者たちの素晴らしい演技の賜物だと思うのだけど、終始涙が止まらずに見ていたのに、心はなぜか落ち込むことはなくずっと先にある希望の光を見つめながら作品を見ているような不思議な感覚でした。

そしてウワサ通りブリーラーソンは素晴らしかった。彼女って本当に自然にセリフを話しますよね。それが脚本に書かれた文章とは思えない。彼女の口からついて出た言葉だと感じるんです。「ルーム」の時もそうでしたが、まるで彼女がその役の人の人生を生まれた時からずっと生きてきたような感じすらします。

DVDを見終わったあと表示を見ると「上映時間97分」とあったのでビックリしました。もっと長く感じたというと退屈だったように思われると思いますが、そうではなくて中身が濃かったという意味で、とても中身の詰まった97分という感じです。そして、もう少し彼らの世界を見ていたいなという気持ちにさせてくれる作品でした。

オマケ妊娠しているグレイスがずっと自転車に乗っていたので、自転車乗っていいの?って心配になりました。アメリカではそういうのはないのかなぁ。