シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

孤高のメス

2015-01-29 | シネマ か行

新人医師の中村弘平成宮寛貴の母浪子夏川結衣は看護師だったが、自分の勤めていた病院で倒れたにも関わらず病院をたらい回しにされ死亡する。母の日記を見つけた弘平は母が長年勤めていた市民病院での仕事への愚痴が綴られていた。

片田舎の市民病院では近くの大学病院から来る野本生瀬勝久という外科医が手術を担当していたが、いたずらにメスを入れては開けてはみたもののどうにもならないと閉じて患者や家族に嘘の説明をするなど、うんざりするような仕事ばかりだと書かれていた日記が、ピッツバーグ帰りの当麻鉄彦堤真一という外科医がこの病院に赴任してきてから書かれる内容の様子が変わってくる。

当麻は、こんな病院では大きな手術は無理、難しい手術は全部大学病院に回す、手術の最中にトラブルが起こり大学病院への搬送が間に合わず患者が死亡した場合は寿命だったと諦める、というこの病院の体質に真っ向から反対し、自らの手でどんどん見事に患者を救っていく。

同じくアメリカで働いていた実川剛松重豊に当麻ほどの腕があるのにこんな小さな病院で働くなんてもったいないと言われる当麻だが、彼は「地域医療の底上げをするためだ」と話し、地位にも名誉にもまったく興味がないという姿を見せる。

そんな中当麻の採用を決め支援してきた大川市長柄本明が肝硬変で倒れ、助けるためには肝臓移植しかないと分かる。同じころ浪子の知り合いの音楽教師・武井静余貴美子の息子誠太賀が事故で脳死状態に陥り、当麻は当時まだ法律で認められていなかった脳死肝移植に踏み切る。

「孤高のメス」というタイトルから非常に冷徹で暗い感じで医局内の醜い争いなどが中心に描かれる物語なのかと勝手に想像していたのですが、当麻先生のキャラクターが冷静でありながらちょっと抜けたところがあるというか、医学に関してはものすごく精通しているけど、世間のことにはちょっと疎かったり、手術中に都はるみを流したりとなかなかユニークなところがある先生で面白かった。当麻は医師として優秀なだけでなく人間性も素晴らしい人だった。浪子の同僚看護師が手術中に都はるみを流されるのはイヤだと主張し、多数決で都はるみが却下されたときの当麻先生の顔が最高だった。(自分ではみんな気に入っていると思っていたようだ)

それでいて手術の手際は素晴らしく見ていて惚れ惚れするくらい。オペ看の浪子が当麻先生に認めてもらおうと一所懸命に勉強する気持ちがとてもよく分かる。やはり素晴らしい仕事をする人というのは口でごちゃごちゃ言わないでも背中を見て周りは育っていくものですよね。

大学病院の医師との対立もあるものの、院長平田満や市長の当麻への後押しがきちんとあったのも見ていて気持ちが良かった。

武井静、誠親子と浪子、弘平親子の交流もあいだあいだで丁寧に描かれていたので、最後に誠が事故に遭い脳死状態になったときには見ているのがとても辛かった。

当麻が医師生命を掛けてまで老齢の市長を救う必要があったのか?というのは個人的に疑問に思うところだったんだけど、誠の母・静の思いも受けてのことだったのだろう。

起訴こそされなかったものの、脳死肝移植に踏み切った責任を取って病院を去る当麻に浪子別れを告げるシーンは、「あなたは最高のナースでした」という当麻の浪子へのセリフなどちょっと月並みなところがあったけれど、それでも涙が止まらなかった。

全体的に非常に素直過ぎると言ってもいいほど作りなんだけど、当麻の実直なキャラクターのおかげかそれが鼻に着く感じではなかった。

弘平が最後に当麻が院長を務める病院に就職するのも超ベタなんだけど、なんだかとても心があたたかくなりました。