シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

イントゥザワイルド

2008-10-03 | シネマ あ行
ショーンペンが監督した作品だから、見に行こうかなぁとは思っていたものの、裕福な若者が何もかもを捨てて一人アラスカを目指す話?それって、大自然との闘いみたいなの?一人で行くってことはセリフもめちゃ少ない?寝てしまうかも?とちょっと、迷い気味だったワタクシですが、行ってまいりました。

ワタクシが勝手に予想して不安がっていた要素はまったく心配する必要のないことでした。確かにクリス(アレックス)エミールハーシュは一人でアラスカを目指しますが、それにいたるまでの人間関係がいろいろと描かれているので、決して彼一人が黙々と荒野を行く映画ではありませんでした。

裕福だけれど、父ジョンハートと母マーシャゲイハーデンがいつもケンカをしていて、そのケンカが暴力にまで発展してしまう家庭に育ったクリスはこの社会にうんざりして、一人で何の力も借りず、自然と対峙できるアラスカ行きを目指す。その放浪の旅の途中さまざまな人との出会いがある。

その中でも、車で放浪するジャンキャサリーンキーナーとレイニーブライアンH.ダーカーのカップル、革職人の老紳士ロンフランツハルホルブルックが印象的だ。

ジャンとレイニーは倦怠期に陥っているカップルでクリスと出会ったことがきっかけで、ヨリを戻すことになるのだが、ジャンは昔ティーンネイジャーの子供と絶縁状態に陥ってしまい、いまはどこにいるか分からなくってしまったらしく、自分自身の子供とクリスを重ね合わせて見ているところが泣ける。ジャンを演じるキャサリーンキーナーがめちゃくちゃカッコ良かった。ロンフランツも昔妻と子供を亡くした経験があり、アラスカに旅立つ直前のクリスに自分の養子にならないかと誘う。クリスの両親のことを何も知らない彼らがみな一様に、両親との連絡を薦めるところは、もちろん普通の人ならそういうアドバイスを与えるのが普通なんだろうけど、毒になる親とは連絡を絶つほうがいいってこともあるんじゃないかなーとは思ったけど。まー、そういうアドバイスをするのが人情ってもんなんでしょうね。

クリスは「人間関係だけが人生じゃない」と言いつつも、旅の途中で出会った人々と交流し、彼らになんらかの影響を及ぼす。彼らとの別れのとき、クリスは涙を見せず、見送る者たちは涙する。その光景がクリスを傲慢に見せたが、最後の最後に彼が「幸せとは誰かと分かち合ってこそ現実のものとなる」と書き留めたのは、旅の途中で出会った人々が彼にも影響を与えたということなのかもしれない。ワタクシもこの映画を見ている最中、ずっと「こんな美しい自然を見ても、どんなに素晴らしい経験をしてもそれをともに味わう人がそばにいなければワタクシはぜんぜん楽しくないな」と思いながら見ていた。自分が物事の真理をついているなんておこがましいことは思わないけど、クリスが最後にワタクシと同じように感じたことを素直にうれしく感じた。

結局のところ、クリスは“過剰な物質社会”や“お金”“偽善”といったものに反発し、ただ一人荒野へ向かい、身ひとつで生きていくと言っていたが、要するに彼の中で消化し切れない思いというのは“物質社会”への怒りでもなんでもなくて、欺瞞に満ち、愛情に欠けた両親への愛の渇望だったのではないかと感じた。別にワタクシはそれをバカにするつもりもないし、甘ちゃんだとかそういうことを言うつもりもない。もし、彼がこの旅の中でそれをじっくり見つめ、両親からの愛を求める自分を認め、受け入れることができたなら、この先の彼の人生はどんなふうに変わっていたかとても興味があった。彼は残念ながらその前に荒野のトラップにかかって亡くなってしまうわけだが、すべての人間関係を否定していたような彼が「幸せとは誰かと分かち合ってこそ現実のものとなる」ということに気づいていたのだから、もしあのまま生き残ることができたなら、もし彼がそれを望めば両親とも向き合えることができたかもしれないと思う。誤解してほしくないのは、ワタクシはそれと向き合った上で彼が両親と絶縁するならそれはそうしてもいいと思う。それはワタクシ自身の“家族”というものへの考え方というだけだけど。

なんかね、“裕福な家庭に生まれた反抗児”ってショーンペンと重なるとこあるなぁって思いますね。彼がどんな思い入れを持ってこの作品を作ったか知らないけど、なんか若いときの自分と重なる部分があったんじゃないかなーって思いました。

まーそれにしても思うのは、アメリカってデッカイなぁってことだ。日本にも山はあるし、その中に入れば町で育った者はたちまち遭難してしまうだろうけど、アメリカはほんとにスケールが違う。自然の脅威というものを肌で感じることができるもんなぁ。

あ、そうそう。忘れちゃいけないのが主役のクリスを演じたエミールハーシュね。彼の演技はとても素晴らしかったと思います。ハンサムじゃないけど、これからもたくさんの映画で活躍しそうですね。

オマケ途中、ジャンがクリスに教えてくれるけど、歩いて放浪する人をLeather Tramp(レザートランプ)、車に乗って放浪する人をRubber Tramp(ラバートランプ)って言うんだって。歩く人は革(Leather)靴で、車の人はゴム(Rubber)タイヤで移動するからだって。なんかカッコいいね。