ギリシャ神話あれこれ:冥府の川の渡し守

 
 私は以前、夢のなかで、死者の霊魂たちのなかに混じって、隠れていたことがある。見つかると死者たちに殺される、という設定。頭から布をかぶって顔を隠し、息をひそめて、神妙に死者のふりをした。……が、バレた。
 死者は、くしゃみをしないらしい(私の勝手な夢の世界では)。

 死者の霊魂たちは冥府の川ステュクスを、渡し守カロンの艀に乗って渡ってゆく。
 
 カロンは暗黒エレボスと夜ニュクスとの子で、無愛想で貪欲な、襤褸を纏った長髭の老神の姿をしているという。
 死者たちから渡賃として必ず銅貨を取り立てて(だから古代ギリシャでは、死者の口のなかに銅貨を入れて埋葬した)、死者たちに艀を漕がせて川を渡る。この渡賃がないとステュクスを渡ることができず、霊魂は半ば永遠に川辺をさまようことになる。

 カロンは死者にしかステュクスを渡ることを許さないのだが、例外的に生きたまま渡った人間も、何人かいる。
 死者以外は渡河を断るくせに、渡賃を握らせた、愛神エロスの妻プシュケのことは、あっさり渡してあげるほど貪欲。かと思いきや、詩人オルフェウスの竪琴と歌にほだされて、渡してしまう一面もある。黄金のヤドリギの枝を持参した英雄アイネイアスを、機嫌よく渡してあげる一方で、英雄ヘラクレスのことを頑として拒み、怒ったヘラクレスに力ずくで渡させられるハメにも(ちなみに、この咎で、怒ったハデスに鎖に繋がれて、踏んだり蹴ったり)。
 ……カロンを出し抜いて冥途の川を渡る方途も、いろいろあるもんだ。

 死者の霊魂を冥府に導くヘルメス神には、普段の馴染みで、地上の世界を案内してもらったりもしたらしい。

 カロンは冥王星の衛星だけれど、……冥王星、惑星でなくなっちゃったもんね。

 画像は、シュプレイラス「亡霊を舟で渡すカロン」。
  ピエール・シュプレイラス(Pierre Subleyras, 1699-1749, French)

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