ギリシャ神話あれこれ:エリュシオンの野

 
 ギリシャ神話で、タルタロスが地獄なら、エリュシオンはさしずめ極楽。どうも人間の思いつくことって同じ。
 で、悪行やその懲罰が収斂する、地獄というものに対する人間のイマジネーションが逞しいのとは対照的に、極楽のイマジネーションはなんとも貧弱。結局、人間て、極楽に行くことを望んでいたわけではなくて、地獄に行くことを怖れていたわけだ。
 
 エリュシオンの野は、世界の西の果て、オケアノスの海流の近くにある、あるいは冥界にある楽園。神々に祝福された、ごくわずかな選ばれた人間だけが、死後に住まうことができるという(ちなみにエリュシオンは「エリート」の語源らしい)。
 雨も雪も降らず、嵐もなく、常に温暖で(常春の国マリネラみたい)、穏やかな西風ゼピュロスが吹きそよぐ。咲き誇る花々と、豊かに実る果実との芳香に満ち、かつて冥王ハデスに愛されたレウケが転身した、白ポプラの樹が茂っている。

 ラダマンテュスの統治のもと、ここに住まう霊魂たちは、あらゆる苦痛から解放され、憂いを知らぬ心で、永遠に平和な、至福の生活を送ることができるという。
 レテ(忘却)の川の水を飲み、記憶をリセットして、生まれ変わることも許されたとか。

 ……自然学や数学、論理学を含めて、あれだけ、哲学という形で科学的、思想的営為を追求した古代ギリシャの人々にとっても、平和が最上の幸福だったってことは、本当に昔は悲惨な生活だったんだろうな。

 画像は、シュヴァーベ「エリュシオンの野」。
  カロルス・シュヴァーベ(Schwabe, 1877-1926, Swiss)

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