ギリシャ神話あれこれ:冥府の川

 
 宗教は、死の概念と同時に生まれるのだという。死への自覚や畏怖がなければ、宗教は成立しないのだとか。
 
 冥府はどこか、人知の及ばない、はるか遠くにあるという。世界を取り囲む海洋オケアノスのかなたの西の果て、夜と昼とが接するところ、陽の光が絶えて射すことのない常夜キンメリオイの地が、大地の底に通じている。
 が、実際には西の果てに限らず、各地に、冥界へと通ずる深い洞窟が何個所も存在するらしい。

 冥府の境界は、オケアノスの支流ステュクス(嫌忌)が七重に取り巻いて流れ、生者と死者との世界を厳重に隔てている。
 すべての死者は、このステュクスの川を渡らなければ冥界に行くことはできない。
 
 ステュクスはオケアニデス(=オケアノスの娘たち)の長姉で、ティタン戦争の際には、父神オケアノスの忠告に従い、クラトス(権力)、ビア(腕力)、ゼロス(栄光)、ニケ(勝利)の子神らとともに、いち早くオリュンポス側に寝返った。勝利に貢献したことで、ステュクスは冥界の川水として絶対の権威を与えられる。あらゆる厳正な神々の誓いは、この川にかけて立てられ、決して破ることが許されない。
 ステュクスの川水はまた、霊妙な力を持ち、その水に浸かると不死の身体を得る。英雄アキレウスの不死もそれで得たもの(剣を浸せば、絶対に折れることのない名剣となるらしい。なるほど)。
 
 ステュクスにはアケロン(悲嘆)、コキュトス(号泣)、プレゲトン(火)、レテ(忘却)の支流があり、レテの水を飲むと、死者は前世のことを忘れるのだという。

 画像は、ドラクロワ「地獄篇、ステュクスを渡るダンテとウェルギリウス」。
  ウジェーヌ・ドラクロワ(Eugene Delacroix, 1798-1863, French)

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