今回は、ザ・ニューボーン・タッチの話です。勿論、フィニアス・ニューボーンJr.のピアノトリオの作品です。
■1)フィニアス・ニューボーン・Jrのこの作品を作る前後の背景
(敬愛する岩浪 洋三さんが’77年にフィニアス存命当時執筆されたライナーノーツ(本LPの)を本紹介全般で引用・改変しています)
フィニアスは、’56年にデビューLP”ヒア・イズ・フィニアス”を録音した後、RCAやルーレットにLPを残した。コンテンポラリーレコードの社長のレスター・ケーニッヒは、’61年にフィニアスに会い、彼のピアノが気に入って契約し、ハワード・マギーの2作にサイドメンとして起用した後、’61年10月に”ア・ワールド・オブ・ピアノ”を、コンテンポラリーの第一作として録音した。第二作は、’62年の”グレート・ジャズ・ピアノ”で本作は第三作になる。
彼は’64年に本LPを録音した以降精神病院への入退院を繰り返し、ケーニッヒとの友情はその後も続き、’69年にフィニアスが精神的にも立ち直ったのを見届け、’69年2月についにその頃は、幻のピアニストと思われていたフィニアスの久方ぶりのレコーディングを実現させた。フィ二アスは、スタジオに入るや、自由に弾きまくり15曲がテープに収められた。内8曲が、”プリーズ・センド・ミー・サムワン・ツー・ラブ”に収められ、残りの7曲は’75年になって日本発売で”ハーレム・ブルース”(SJゴールドディスク)としてLP化された。これは推測ですが、SJの編集長も経験した岩浪さんも作れと声を上げた一人と思う。フィニアスのLPリストを再度掲載。
■2)フィニアスの奏法
ジャズピアノと言えば、アート・テイタムがその両手をフルに活用したダイナミックで立体的な演奏が有名である。後に、モダン・エイジに入ると、バド・パウエルがビバップスタイルを確立して、ホリゾンタルな右手のシングル・トーンによるヴァリエーショナルなアドリブを流行らせ、多くのピアニストがこれに追随した。実際には、パウエルは左手も十分に活用したプレイも残しているのだが、追随者達は専らパウエルの右手ばかりを追って、モダンジャズピアノ自体を単純化するという弊害も生んだのである。従って、スイング時代のピアニストの方がむしろピアニスティックという印象も与えるのである。
パウエルの先生でもあったセロ二アス・モンクは、むしろヴァーティカルな奏法を持っていたのだが、パウエルの人気が高まると忘れられ、’50年代中期になってやっと正当に評価されるという始末だった。
’56年にデビューしたフィニアスは、パウエル流に対するアンチテーゼ的な奏法が際立っていた。彼はピアノをまたテイタムのように左右を独立させて活用するピアニスティックな奏法に戻そうと試み、ホリゾンタルなものとヴァーティカルなものを共存させるスタイルを確立し、独自の世界を築いた。
■3)”ザ・ニューボーン・タッチ”について
LPのジャケットは、下記。柔和なフィニアスは和みます。これも、セブンレコードの袋に入っていますので77年に大学内のセブン・レコードで10%引きで購入したものです。
パーソネル:フィニアス・ニューボーンJr.(ピアノ) ルロイ・ビネガー(ベース) フランク・バトラー(ドラムス)
録音:’64年4月1日 L.A.にて。
コンテンポラリーの第一作・第二作と同様に、本作も、他のプレイヤーが作曲したオリジナルに挑戦している。他人のオリジナルを取り上げるのを嫌がるプレイヤーもいるが、彼は積極的に挑戦するが、これはそれだけ自信があるからだろう。彼の場合は、誰の作品を演奏しても彼の個性的な表現となっている。
■4)”ザ・ニューボーン・タッチ”の各曲
A面5曲、B面も5曲で計10曲収録。この中で、私のお気に入りは、特にバラッドのA面2曲目”Double Play”と4曲目の”Diane”と躍動的なA面5曲目”The Blessing”、流れるようなB面2曲目”Blue Daniel” ですが、全曲良いです。前半が岩浪 洋三さんの’77年当時の解説””、後半は私の感想です。
A- 1. A Walkin' Thing 4:35 (ベニー・カーター作、作者自身の演奏は、”Jazz Giant”にて)
”フィニアスの両手をバランスよく生かしたダイナミックで力強いプレイが聴ける。”
ミディアムテンポのブルース。アドリブは軽やかでブルージーでスイングする。ハイトーンも綺麗。少しフレーズが繰り返しになっているが、まあいい。けだるいムードもある。最後はガーンで。
A-2.Double Play 3:59 (ラス・フリーマン作、作者自身の演奏はA・プレヴィンとの”Double Play ”にて)
”リリカルで美しいメロディを持つ曲だが、彼はまるで2台のピアノによる演奏のような効果を出している。”
ミディアムテンポのテーマから。少し哀愁を帯びたブルーなテーマを転がす。アドリブは、ここでも玉を転がすフレーズやスインギーなメロディーを次々に繰り出す。
あくまで哀調を基調にした切ないメロディのテーマを素直に淡々と演じる。これがまた良いんです。
A-3. The Sermon 2:39 (ハンプトン・ホーズ作のブルース、作者自身の演奏は、”Everybody Likes Hampton Haws”にて)
”グルーヴィーでファンキーなフィーリングを生かして演奏している。抜群の技巧とガッツのあるタッチ、ユニークなアドリブフレーズが展開されており、フィニアスの本領発揮である。尚、左手のみの演奏。”
少しコミカルでファンキーなテーマ。ミディアム・スローテンポ。でもピアノは、早い。アドリブもコミカル
A-4. Diane 4:15 (アート・ペッパー作、作者自身の演奏は、”Getting Together ”にて)
”フィニアスのイマジネーションはバラッドを素材にした場合も限りなく広大に繰り広げられる。速い曲と共にバラッドも聴かなければ彼の真の才能は理解できない。彼自身この曲には惚れ込んで弾いたと語っている。”
ゆっくりとしたイントロ。落ち着いた曲調のテーマへ。深い情感を秘めた、しっとりと、ゴージャスなバラード。抑えたアドリブ。最後は少し粘るが詩情を持って終わる。
A-5. The Blessing 3:09 (オーネット・コールマン作、作者自身の演奏は、”Something Else!!!! ”にて)
”アグレッシブで躍動的な演奏であり、Dsのフランク・バトラーとのインタープレイが焦点となっている。”
軽やかなテンポのスイング。アドリブに入ってからは、本領発揮。多彩多様。自由自在。ドラムも4バースで頑張る。
B-1. Grooveyard 3:09 (黒人ピアニスト、カール・パーキンス作、作者自身の演奏は、”Harold Land's ob Jazz”にて)
”グルーヴィーな曲で、彼はブルーなムードを込めながら力強いタッチの中にセンシビリティーを発揮しながら弾いている。”
イントロが印象的。ミディアムスローの少し気だるいテーマで始まる。ブルースフィーリングを基調にアドリブは、玉を転がすようなフレーズ、きらびやかなハイキーも鏤めてしめやかに進めていく。淡々としたムードが胸にしみる。
B-2. Blue Daniel 3:22 (Tbのフランク・ロソリーノ作、作者自身の演奏は、”Shelly Manne & His men at Black Hawk Vol.1”にて)
”ミディアム・ファースト・テンポで流れるような華麗なアドリブを繰り広げている。クリアーな音の美しさが際立っても居る。”
ワルツ調のイントロで始まる。アドリブに入ると軽快にスイングする。玉を転がすアドリブが冴える。
B-3. Hard To Find 4:04 (bで参加の、ルロイ・ビネガー作、作者自身の演奏は、”Leroy Walks Agein!”にて)
”スインギーで爽やかな雰囲気の演奏に纏め上げている。”
ミディアム・ステンポ。テーマを暫し。軽快に玉を転がす。力強いタッチで弾きまくる。
B-4. Pazmuerte 3:32 (黒人Asのジミー・ウッズ作、作者自身の演奏は、”Conflict”にて)
”タイトルは、スペイン語の”平和と死”を合体したもので演奏にも強くスペイン色が反映されている。変化に富むリズムが生されており、バトラーとの絡み合いが聴き所となっている。”
スローなイントロ。少し、もの悲しいテーマから。途中から力強いタッチに変わる。ドラマチックな曲調になっていく。ガーンという破綻音で終わる。
B-5. Be Deedle Dee Do 4:06 (gのバーニー・ケッセル作、作者自身の演奏は、”ザ・ポール・ウイナーズ・ライド・アゲイン”にて)
”ハッピーなフィーリングを持ったブルースで、原曲に触発されて彼はのびのびと自由奔放にアドリブを繰り広げており、彼がグルーヴィーなブルースも得意にするピアニストであることが示されている。しかし、両手をバランスよく生かしたプレイには彼らしい構成美が感じられる。”
これもミディアム・ステンポ。少し気だるいムード。アドリブも淡々としているが、多彩なテクニックを伺わせるスインギーな演奏。
■5)You Tube
現在は、A面2曲目、B面1曲目、5曲目以外は、上がっています。
■1)フィニアス・ニューボーン・Jrのこの作品を作る前後の背景
(敬愛する岩浪 洋三さんが’77年にフィニアス存命当時執筆されたライナーノーツ(本LPの)を本紹介全般で引用・改変しています)
フィニアスは、’56年にデビューLP”ヒア・イズ・フィニアス”を録音した後、RCAやルーレットにLPを残した。コンテンポラリーレコードの社長のレスター・ケーニッヒは、’61年にフィニアスに会い、彼のピアノが気に入って契約し、ハワード・マギーの2作にサイドメンとして起用した後、’61年10月に”ア・ワールド・オブ・ピアノ”を、コンテンポラリーの第一作として録音した。第二作は、’62年の”グレート・ジャズ・ピアノ”で本作は第三作になる。
彼は’64年に本LPを録音した以降精神病院への入退院を繰り返し、ケーニッヒとの友情はその後も続き、’69年にフィニアスが精神的にも立ち直ったのを見届け、’69年2月についにその頃は、幻のピアニストと思われていたフィニアスの久方ぶりのレコーディングを実現させた。フィ二アスは、スタジオに入るや、自由に弾きまくり15曲がテープに収められた。内8曲が、”プリーズ・センド・ミー・サムワン・ツー・ラブ”に収められ、残りの7曲は’75年になって日本発売で”ハーレム・ブルース”(SJゴールドディスク)としてLP化された。これは推測ですが、SJの編集長も経験した岩浪さんも作れと声を上げた一人と思う。フィニアスのLPリストを再度掲載。
■2)フィニアスの奏法
ジャズピアノと言えば、アート・テイタムがその両手をフルに活用したダイナミックで立体的な演奏が有名である。後に、モダン・エイジに入ると、バド・パウエルがビバップスタイルを確立して、ホリゾンタルな右手のシングル・トーンによるヴァリエーショナルなアドリブを流行らせ、多くのピアニストがこれに追随した。実際には、パウエルは左手も十分に活用したプレイも残しているのだが、追随者達は専らパウエルの右手ばかりを追って、モダンジャズピアノ自体を単純化するという弊害も生んだのである。従って、スイング時代のピアニストの方がむしろピアニスティックという印象も与えるのである。
パウエルの先生でもあったセロ二アス・モンクは、むしろヴァーティカルな奏法を持っていたのだが、パウエルの人気が高まると忘れられ、’50年代中期になってやっと正当に評価されるという始末だった。
’56年にデビューしたフィニアスは、パウエル流に対するアンチテーゼ的な奏法が際立っていた。彼はピアノをまたテイタムのように左右を独立させて活用するピアニスティックな奏法に戻そうと試み、ホリゾンタルなものとヴァーティカルなものを共存させるスタイルを確立し、独自の世界を築いた。
■3)”ザ・ニューボーン・タッチ”について
LPのジャケットは、下記。柔和なフィニアスは和みます。これも、セブンレコードの袋に入っていますので77年に大学内のセブン・レコードで10%引きで購入したものです。
パーソネル:フィニアス・ニューボーンJr.(ピアノ) ルロイ・ビネガー(ベース) フランク・バトラー(ドラムス)
録音:’64年4月1日 L.A.にて。
コンテンポラリーの第一作・第二作と同様に、本作も、他のプレイヤーが作曲したオリジナルに挑戦している。他人のオリジナルを取り上げるのを嫌がるプレイヤーもいるが、彼は積極的に挑戦するが、これはそれだけ自信があるからだろう。彼の場合は、誰の作品を演奏しても彼の個性的な表現となっている。
■4)”ザ・ニューボーン・タッチ”の各曲
A面5曲、B面も5曲で計10曲収録。この中で、私のお気に入りは、特にバラッドのA面2曲目”Double Play”と4曲目の”Diane”と躍動的なA面5曲目”The Blessing”、流れるようなB面2曲目”Blue Daniel” ですが、全曲良いです。前半が岩浪 洋三さんの’77年当時の解説””、後半は私の感想です。
A- 1. A Walkin' Thing 4:35 (ベニー・カーター作、作者自身の演奏は、”Jazz Giant”にて)
”フィニアスの両手をバランスよく生かしたダイナミックで力強いプレイが聴ける。”
ミディアムテンポのブルース。アドリブは軽やかでブルージーでスイングする。ハイトーンも綺麗。少しフレーズが繰り返しになっているが、まあいい。けだるいムードもある。最後はガーンで。
A-2.Double Play 3:59 (ラス・フリーマン作、作者自身の演奏はA・プレヴィンとの”Double Play ”にて)
”リリカルで美しいメロディを持つ曲だが、彼はまるで2台のピアノによる演奏のような効果を出している。”
ミディアムテンポのテーマから。少し哀愁を帯びたブルーなテーマを転がす。アドリブは、ここでも玉を転がすフレーズやスインギーなメロディーを次々に繰り出す。
あくまで哀調を基調にした切ないメロディのテーマを素直に淡々と演じる。これがまた良いんです。
A-3. The Sermon 2:39 (ハンプトン・ホーズ作のブルース、作者自身の演奏は、”Everybody Likes Hampton Haws”にて)
”グルーヴィーでファンキーなフィーリングを生かして演奏している。抜群の技巧とガッツのあるタッチ、ユニークなアドリブフレーズが展開されており、フィニアスの本領発揮である。尚、左手のみの演奏。”
少しコミカルでファンキーなテーマ。ミディアム・スローテンポ。でもピアノは、早い。アドリブもコミカル
A-4. Diane 4:15 (アート・ペッパー作、作者自身の演奏は、”Getting Together ”にて)
”フィニアスのイマジネーションはバラッドを素材にした場合も限りなく広大に繰り広げられる。速い曲と共にバラッドも聴かなければ彼の真の才能は理解できない。彼自身この曲には惚れ込んで弾いたと語っている。”
ゆっくりとしたイントロ。落ち着いた曲調のテーマへ。深い情感を秘めた、しっとりと、ゴージャスなバラード。抑えたアドリブ。最後は少し粘るが詩情を持って終わる。
A-5. The Blessing 3:09 (オーネット・コールマン作、作者自身の演奏は、”Something Else!!!! ”にて)
”アグレッシブで躍動的な演奏であり、Dsのフランク・バトラーとのインタープレイが焦点となっている。”
軽やかなテンポのスイング。アドリブに入ってからは、本領発揮。多彩多様。自由自在。ドラムも4バースで頑張る。
B-1. Grooveyard 3:09 (黒人ピアニスト、カール・パーキンス作、作者自身の演奏は、”Harold Land's ob Jazz”にて)
”グルーヴィーな曲で、彼はブルーなムードを込めながら力強いタッチの中にセンシビリティーを発揮しながら弾いている。”
イントロが印象的。ミディアムスローの少し気だるいテーマで始まる。ブルースフィーリングを基調にアドリブは、玉を転がすようなフレーズ、きらびやかなハイキーも鏤めてしめやかに進めていく。淡々としたムードが胸にしみる。
B-2. Blue Daniel 3:22 (Tbのフランク・ロソリーノ作、作者自身の演奏は、”Shelly Manne & His men at Black Hawk Vol.1”にて)
”ミディアム・ファースト・テンポで流れるような華麗なアドリブを繰り広げている。クリアーな音の美しさが際立っても居る。”
ワルツ調のイントロで始まる。アドリブに入ると軽快にスイングする。玉を転がすアドリブが冴える。
B-3. Hard To Find 4:04 (bで参加の、ルロイ・ビネガー作、作者自身の演奏は、”Leroy Walks Agein!”にて)
”スインギーで爽やかな雰囲気の演奏に纏め上げている。”
ミディアム・ステンポ。テーマを暫し。軽快に玉を転がす。力強いタッチで弾きまくる。
B-4. Pazmuerte 3:32 (黒人Asのジミー・ウッズ作、作者自身の演奏は、”Conflict”にて)
”タイトルは、スペイン語の”平和と死”を合体したもので演奏にも強くスペイン色が反映されている。変化に富むリズムが生されており、バトラーとの絡み合いが聴き所となっている。”
スローなイントロ。少し、もの悲しいテーマから。途中から力強いタッチに変わる。ドラマチックな曲調になっていく。ガーンという破綻音で終わる。
B-5. Be Deedle Dee Do 4:06 (gのバーニー・ケッセル作、作者自身の演奏は、”ザ・ポール・ウイナーズ・ライド・アゲイン”にて)
”ハッピーなフィーリングを持ったブルースで、原曲に触発されて彼はのびのびと自由奔放にアドリブを繰り広げており、彼がグルーヴィーなブルースも得意にするピアニストであることが示されている。しかし、両手をバランスよく生かしたプレイには彼らしい構成美が感じられる。”
これもミディアム・ステンポ。少し気だるいムード。アドリブも淡々としているが、多彩なテクニックを伺わせるスインギーな演奏。
■5)You Tube
現在は、A面2曲目、B面1曲目、5曲目以外は、上がっています。