Bar Scotch Cat ~女性バーテンダー日記~

Bar Scotch Catへご来店ありがとうございます。
女性バーテンダーScotch Catの独り言&与太話です。

愛し疲れたら

2009-12-18 16:12:50 | short story


外は雪が降り出しそうにピンと張り詰めた寒さだった。
もう閉店に近いバーのカウンター。彼女のほかに客は一人もいなかった。
窓の外を眺め続ける彼女に、バーテンダーは「もうラストオーダーだよ」と声をかけた。
正面に向き直った彼女は、「そうね、何かウイスキーを」と答えた。
「ウイスキー?優しいもんにしとけよ。もうだいぶん飲んでるんだぜ」
くだけた口調で話すバーテンダーは、彼女の幼馴染だった。
もう他に客もいない。お客様とバーテンダー、から、幼馴染同士、の言葉使いになった。

「今日はデートじゃなかったのかよ?ずいぶん早く帰ってきたじゃないか?」
「・・・まあね。なんだか言い訳して、さっさと帰って行ったわ。他の女から呼び出しでもかかったんじゃない?置いていかれたのよ」
彼女はまたぷいと横を向いて答えた。凛とした横顔に、長い睫毛の影が美しかった。
その睫毛の影が、わずかに淋しげな色を映した。
「いつもだいぶ強気なのに珍しいじゃないか。いっぱしの遊び人を気取る君が、さては本気で恋でもしたか?」
からかうようなバーテンダーの言葉に、彼女は驚いたような顔で振り返り、慌てて顔を伏せた。
「なんだ、からかったつもりが図星かよ」バーテンダーは肩をすくめて、ホットグラスにウイスキーを注ぎはじめた。
その様子をぼんやり眺めながら、「もう諦めなきゃ」と彼女は自分に言い聞かせるように小さく小さく呟いた。決してバーテンダーにも聞こえないように。

やがて彼女の前に湯気の立つグラスが置かれた。
レモンやシナモンが入ったそのグラスからは、ウイスキーの香りが優しい湯気になって立ち昇っていた。
「ホットウイスキートゥディ。あったまるぜ。今日はこのくらいにしておいたほうがいいだろ。」
小さくうなずいて彼女はグラスに口をつけた。
「もうさ、そろそろいい歳なんだぜ、俺ら。君もちゃんと君だけを愛してくれる男を探したほうがいい。ちゃんと君のこと考えて大切にしてくれる男を」
彼女はわずかに眉根を寄せて、「うるさい!偉そうに。おせっかい!」とバーテンダーを睨むと、「遊ばれたんじゃないわ。私が遊んでやったのよ、あんな男!」と舌を出した。
バーテンダーは苦笑いして、背中を向けてグラスを片付け始めた。

彼女は湯気の昇るグラスを両手で包みながら、小さく小さく涙を拭った。決してバーテンダーに気付かれないように。
そのグラスは温かかった。優しかった。
そしてふたたび小さく小さく呟いた。そう、決してバーテンダーにも聞こえないように。
「ありがとう。持つべきものはバーテンダーの幼馴染ね」

愛し疲れた心に温かいウイスキーが沁みた。

明日の夜も冷えそうだ。でももう大丈夫。ここにくれば温かいウイスキーがある。

彼女はバーの扉をくぐると、背筋を伸ばして歩き出した。







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13 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
一生なんて (ジンベエザメ)
2009-12-18 21:36:15
「一生なんて死ぬまでの暇つぶしさ。」このセリフは額面どおりに真に受けては誤解します。真面目なジョークです。
暇つぶしですから、疲れることはありません。
暇つぶしですから、気苦労もありません。
暇つぶしですから、すっからかんになっても平気です。
暇つぶしですから、人を怨むことはありません。
暇つぶしですから、酒を飲みます。
暇つぶしですから、面白そうなことを探します。
暇つぶしですから、本を読みます。
暇つぶしですから、人を愛します。
暇つぶしですから、泣きます。
Unknown (いちかおる)
2009-12-18 22:28:11
男なんて掃かれて捨てられる・・・
じゃなかった
掃いて捨てるほどいるから・・・
(誰か この墓穴を埋めといてw)
クリスマス近いから? (達ちゃん)
2009-12-18 23:15:19
気付けば、もうクリスマスすねぇ。
でも、この季節にはぴったりの記事す。
まっ、僕ら7Kには無関係な話やなぁ。
でも、人に恋するのももっとゆっくりやれば、もっとその人の事理解できんじゃないかねぇ。
ってゆっくりしすぎても駄目かね。。。
Unknown (なお)
2009-12-19 00:52:11
自分を好きだと言いながらも平気で他の女と遊ぶ影の見える男。

「愛しつかれた」なんて思わせる男を愛し続けてもても結局は自分がダメになる。

逢える時間が少しでも言葉がそんなに上手じゃなくても、相手が自分に誠意があるかないか
付き合っているとわかってしまいますよね。

お話はフィクションでも、scotchさんのようにしっかり地に足をつけて生きている女性には誠意ある男性と、素敵な恋愛ができると信じています。





Unknown (scotch_cat)
2009-12-19 15:51:15
>ジンベエザメさん
そうですね。人生なんて暇つぶし。
そう思えば何があっても恐くないものです。
二行目以下はジンベエザメさんの生き方そのままのようで思わずニヤリとしてしまいました。

>いちかおるさん
掃いても掃いても捨てても捨ててもまだまだ出てくるほこりがいっぱい・・・ww
墓穴埋めるのを後の人に丸投げしてもダメ!ww

>達ちゃんさん
ゆっくりやれば、ね・・・
せっかちさんはついついついつい失敗するのです。てか、7Kってなに??
23日待ってるよ!

>なおさん
男なんてさ~♪ と歌いたくなってしまうわ。
いつかそんな誠実な方と出会えればいいですが、男性の9割がたは浮気心が生きる活力になっていると思われるのでwwいや、scotch_catは勝手に思っているので、難しいかもね~。
Unknown (ジン)
2009-12-19 18:41:53

待ってましたショートストーリーww

新しい一歩を踏み出すには、辛い選択も時には必要ですよね。

たった一人の人に出会う為にたくさんの分かれを経験するのでしょう。

クン スーアイ マークマー (ぼんちゃん)
2009-12-20 00:32:21
な~んて日本語で伝えられたら『脱;うずらの卵』になれるかな?('-^*)/
座右の銘『無理が通ればぁぁぁ~道理が引っ込むぅぅぅ!!』(笑)

失礼しやした(→o←)ゞ
Unknown (ラマゾッティ)
2009-12-20 08:16:19
切ない話ッスね。
ハッピーエンド?
素敵 (あくあ)
2009-12-20 09:21:46
いいですね、幼馴染。
そうでなくてもバーテンダーさんで知り合いがいたら
淋しくなっても温めてもらえそう
あ、だから私、よくバーに行ってしまうのかな?
無意識のうちに・・・
意地っ張りだけどかわいい女性、そんな女性に憧れます
Unknown (scotch_cat)
2009-12-20 14:50:35
>ジンさん
待っててくれましたかww
文章書くのが好きです。ショートストーリーを書くのが好きです。でも照れくさいです。
そして実話?とよく聞かれます。別れだけは無駄にたくさん経験してるかもしれませんww

>ぼんちゃん
scotch_catの座右の銘は「押して駄目なら押し倒せ!」
・・・ノリは一緒ですなww・・・

>ラマゾッティさん
ハッピーエンド?なのか?
切ないけど、どこにでも転がってる話。
まったく男って・・・

>あくあさん
意地は張り続けると心が張り裂ける~
だからバーで素直なヤツに戻ればいいのです。
そういうの、見守ってあげて、そっと付き添ってあげる。それがバーテンダーの仕事でもあり、scotch_catの場合、趣味かな?

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