ベイサイドのホテルのバー。バックバーの向こうの大きな窓からは、夜景を湛えた海が見える。
うだるように暑かった昼間の空気も夜風になだめられ、海も風も落ち着きを取り戻したように表情を大人に変えていた。
男は、そのバーの止まり木に、一人の女の姿をみつけた。鮮やかなエメラルドグリーンのブラウス。その足首には見覚えのあるアンクレット。
数年前に別れた女だった。このホテルのバーもよく二人で訪れたものだ。
「やあ、久しぶりだな。」
少々戸惑ったが、男は女に声をかけ、止まり木の隣の席へ腰掛けた。
「あら」とこちらへ目を向けた女は、その目に少々酔いを滲ませていた。
女の前には、服と同じ色の鮮やかなエメラルドグリーンのカクテルが置かれている。
「相変わらずだな。モッキンバードか。昔から好きだな、そのカクテル。」
「久しぶりに会ったと思ったら、カクテルの話なの?ふん、相変わらず。」
女は懐かしさとも寂しさともわからぬ笑みを浮かべて男を見つめた。
バーの端ではピアノ演奏が始まっている。ショーロが奏でられていた。
流れてきた『Tico Tico no fuba』(餌場の小鳥)の曲に合わせて、女が小さく口ずさんでいる。カクテルグラスを片手に心地良さそうに揺れた。
久しぶりに隣り合って座る止まり木。火照りのおさまった海。心地よいショーロのリズム。モッキンバード。必要なものは全て揃っていた。
長く二人の間に空いていた時間はごく当然のように縮まった。
時計の針はとっくに真夜中を指していた。バーもそろそろ幕を下ろす時間だ。
「止まり木で緑色の小鳥を見つけた。朝、僕のところでさえずってくれるつもりはないだろうか。」
キザなことを、とは思ったが、無遠慮に口説く勇気も無かったのだ。
女は、ふん、と照れくさそうに笑った。
「幸せの青い鳥じゃなくて申し訳ないけど。モッキンバードでよければ。」
朝、部屋の窓のカーテンの間からは、また子供っぽく表情を変えた陽が射し込み始めていた。
エメラルドグリーンの小鳥は、可愛らしく、そして切なげに、さえずっていた。
朝の訪れを告げるかのように。
男は、夜が明けてもエメラルドグリーンの小鳥が自分の腕の中にいることを確かめていた。
夜の間に見た夢ではなかったことを・・・
自分の腕の中でさえずるモッキンバードを・・・
~Tico Tico no fuba~
↓久々のショートストーリー。モッキンバードはメキシコに生息するマネシツグミのこと。テキーラベースのカクテルです。クリックよろしく♪tico tico
でも次は電車に乗り遅れないようにしないと(笑
もしかして、こないだ電車に乗り遅れた?んではないですよね?
また止まり木の向こう側でお待ちしておりますね。
それはきっと自分自身を探すため、そして自分自身の存在意義を確かめるため。広い広い大空で自分自身を見失わないようまた、自分自身の存在をアピールするため…「私はここにいるよ、ここで必死に生きてるよ…」
だから体の小さな鳥ほど良く囀る…
みんな分かってるよあなたがそこに居る事を……。
scotch_catがよく鳴くのも同じ理由かもしれません。
ちっちぇえなあ、scotch_cat・・・
ちょっぴりセクシーなお話書いたつもり。
小鳥の囀りを何と取るかは・・・むふふ。あなたしだい。