オータムリーフの部屋

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引きこもり

2019-06-03 | 社会
登戸の事件は社会に衝撃を与えた。引きこもり気味の男が事件を起こしたことで、引きこもりを抱える家族が非難の目を向けられ、関連した事件が起きることが危惧される。
元農水次官だった父親が40代の引きこもり長男を殺めてしまった。隣の小学校で行われていた運動会の騒音がうるさいということで口論となり、刺殺してしまったという。父親の頭には自分の長男も拡大自殺を図るという切迫感があったのではないか。
 
内閣府が3月29日に公表した、40~64歳の「ひきこもり中高年者」の数が推計約61万3000人に上ったという。共同通信によると、根本匠厚生労働相は同日の会見で、内閣府の調査結果について「大人の引きこもりは新しい社会的問題だ。様々な検討、分析を加えて適切に対応していくべき課題だ」と話したという。今頃、気づいたのか、今更の対策か。これほど問題がこじれてからの対策、しかも具体的な政策はない。
 
引きこもりを大量に生み出したのは、社会の変容である。昔は貧しく、子供部屋などなかった。親族や近所隣の交流も日常的でトラブルも多かったが、引きこもりなんかやってられない騒々しさだった。そんなわずらわしさから逃れるために、人は都会を目指し、核家族化を好み、他人とは必要最小限の付き合いにとどめるという生活スタイルを選択した。
親の世代は豊かになった。引きこもる子供を養っていけるのである。家族の庇護のもと、何の対策も講じられずに引きこもり状態が長期化する。長期化するほど社会復帰は困難になる。
40歳以上の引きこもり当事者やその家族の相談の声は、何の支援も得られず、家族のスティグマとして長年、隠ぺいされ放置されてきたのである。
 
もちろん、引きこもりは海外にも存在する。しかし、社会の対応が全く異なる。海外ではひきこもりは精神疾患と認識され積極的に支援されるが、日本では怠け者として非難され、隠ぺいされる。
 
引きこもりの精神障害として考えられるのは、うつ病、対人恐怖症、不安障害、依存症、人間不信など、誰でも少なからず経験する病理である。それが長期に及ぶとトラウマとなって、その状況から抜け出せなくなる。
アメリカ人がひきこもりを病気と認めるのは、トラウマやPTSDの社会的理解が進んでいるからだろう。引きこもり症状からトラウマ性、人間不信、対人恐怖、自殺願望、不眠などを無視すると、働きもせずに部屋で遊んでいる怠け者にしか見えない。
 
海外では病気と認められ、専門家の助けを得られただろうに・・・・。日本では病状を悪化させ、犯罪まで引き起こす結果となっている。
 
海外と日本にどういう差があるのだろう。
まず気がつくことは、欧米は個人の自由を大切にする社会であるが、日本は個人の自由よりも社会的な協調性が求められる。類型的な人生が押し付けられ、そこから外れると、親は落胆し、子供は非難される。
日本は与えられた役割を果たす社会だ。子供は勉強するのが当たり前、成人男子は毎日働くのが当然、女性は適齢期になれば結婚し、子供を産むのが当たり前だ。その役割を果たさない人間は不良品なのである。学校に行かない子ども、定職を持たない男、子供を産まない女、結婚しない男女、家事をしない主婦はまともじゃないのである。子供は良い成績を取ること、男は文句を言わずに残業すること、出世すること、女は良妻賢母になることが期待される。日本人の生活はこうした隠然としたルールに縛られており、その役割を果たさないと肩身の狭い思いをする。
多くの日本人は、嫌なことをするのが人生だと思っている。忍耐と努力が好まれ、嫌なことを我慢するのが当然と思う日本人にとって、ひきこもりは与えられた役割から逃げる、許せない存在であり、不良品なのである。
 
ひきこもりの背後には「自由を否定する文化」が隠れている。祖先から脈々と受け継がれてきた類型的な役割分担の価値観が、物の豊かな今、ひきこもりを生み出しているのかもしれない。
 
アメリカ人は誰からの干渉も受けずに職業、住む場所、結婚相手を自由に選ぶ。その生活態度自体が人間を自立に向かわせるのかもしれない。自立ではなく、従順を求められ、期待された人生を素直に歩む日本人はその人生のコ-スから外れたが最後、ひきこもりの人生が待っているのかもしれない。

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