オータムリーフの部屋

残された人生で一番若い今日を生きる。

拡大自殺

2019-05-28 | 社会
神奈川県川崎市内の登戸駅近くで児童ら19人が襲われた殺傷事件は無関係な他人を道連れにする「拡大自殺」である。確保された男は自らの首を刺し、その後死亡した。
 各種報道などによると、男は川崎市内の51歳、スクールバスを待っていた小学生らに包丁を複数持って次々に襲いかかった。
 
 この種の犯罪の防止は、自殺を防ぐことが最善だ。自殺の原因は困窮と孤立。特に高齢者に多く、下流老人と呼ばれる高齢者は孤独になりやすい。
一般的に預貯金などの金融資産500万円未満の高齢者世帯が下流とされているが、金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査〔二人以上世帯調査〕(2015年)」によると、60代以上で金融資産500万円未満の世帯は実に4割を超えるという。今現在は下流でなくても、子供たちなど、家族の事情で資産をなくし、下流になってしまうリスクは誰にでもある。最後の頼みは生活保護など福祉だが、持ち家や不動産を持っていては受給できない。バイクや自動車もダメだ。借金していても、保護費で借金返済となるから、NGだ。もらえたとしても、高齢者の単身世帯の場合、8万円以下の様である。家賃などは別途支給されるが、食べるだけの最低生活だろう。
 
 71歳の老人による新幹線車内での自殺事件ではガソリンをかぶって焼身自殺を図った老人のために巻き添えで一人の女性が亡くなった。事件後の取材で、年金だけの生活では苦しく、不満を漏らし、自殺をほのめかしていたという。その老人の年金受給額は月12万円。居住していた杉並区の生活保護基準は14万4430円だった。年金受給額が生活保護基準を下回っていた。その老人は以前、清掃業の仕事をしていたのだが、仕事がなくなって年金だけの生活になった。生活費がもっと少なければ生活保護を申請するケースが多いのだが、12万余というのは、生活保護基準を下回るが、極端にひどくはない。普通のサラリーマン生活を送ってきた人が、年金暮らしになり、しかも夫婦でなく単身生活を送ることになった場合の標準的なケースだという。つまりかなり多くの高齢者が、将来、この自殺した老人と同じような生活に至る可能性が高いのだ。小泉構造改革から10年余を経て、格差はますます拡大しつつある。アベノミクスなるものの恩恵を受けて景気が回復しつつあるなどというのはまゆつばで、多くの人がますます生活が大変になりつつある。
 
もっとも、経済的に困窮しているだけで、拡大自殺を図るまで追い詰められるわけではない。やはり、孤立が重要な要因になる。
 
16年8月7日、東京都杉並区の商店街で、夏祭りのサンバカーニバルを楽しんでいた人々の群れに突然、近くの建物から火炎瓶が投げ込まれる事件が起きた。計15人がやけどなど負傷する惨事になった。火炎瓶を投げ込んだ60代の無職の男は、消防隊が駆けつける前に首を吊って死亡している。この男は、資産家で不動産を複数所有していたらしく、経済的に困窮していたわけではない。ただ、事件の2年前に妻を亡くしてから、以前営んでいた酒屋の上階にひとりで暮らしていた。地域とほとんど交流がなく、半ば引きこもりのような生活を送り、生前、周囲に「サンバがうるさい」と漏らしていた。孤独な生活の中で憎悪と復讐願望を募らせたようである。拡大自殺をする人は、人生に絶望しており、社会への復讐感情が強い。人知れず、静かに死ぬのは我慢ならず、誰でもいいから巻き添えにしたいと思っている。社会に衝撃を与えて、自分の死を犯罪史に残し、社会に復讐しようとする。
 
グローバル化により貿易の自由化が進み、未熟練労働者(誰でもできる仕事についている人)を雇用して生産する工業製品の輸入が増加した結果、未熟練労働者の需要が低下した。途上国では格差が縮小する一方、先進国では格差が拡大する。90年代以後、消えた日本各地の工場と地方衰退、そして中国の繁栄ぶりを見ると納得がいく。
 
拡大自殺は格差社会であるアメリカで多く、学校での銃乱射事件は頻発している。ラスベガスで、男がホテルの32階から屋外コンサート会場に向けて銃を乱射し、59人が死亡した事件は、アメリカ史上最悪の銃乱射事件となった。この事件を起こした64歳のスティーブン・パドック容疑者は、警察が突入する際に自殺した。拡大自殺の典型だ。
 
わが国でも拡大自殺が多くなりつつある。銃がなくても、ガソリンや自作の爆発物を用いれば拡大自殺が可能であることを過去の事例は示している。また、拡大自殺を図る人の胸中には、絶望感と自殺願望、怒りと復讐願望が潜んでいる。社会に排除の空気が漂うほど、こうした感情や衝動を抱く人は増え、特に閉塞感の漂う都会では人々の孤独感は高まる。さらに、なんでも模倣する「コピーキャット」現象によって、拡大自殺の連鎖が起きることは想像に難くない。
 

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