遅くなりましたが。
10
白桃やすぐ化膿する虫さされ
艶本のカバー思案のそぞろ寒
鮟鱇のポーズとらされ削がれゆく
鮟鱇や未読の自分史吊られをり
畑の霜パツチワークか継当か
花時計花のはだれて雪となり
鬼の居るや居らずや万燈まだ消えず
春疾風前へ前へと鳩の首
蛤に開かぬ闇あり闇見たし
両親なら俺にもあるさと亀鳴けり
20
鍵穴に錆びし二十歳の春の雪
雨優し茎折れやすし紫雲英かな
木の芽雨幼きものの冬の目よ
黄水仙の数ほどは残る日の温み
黄水仙墓碑に戦の記録やら
鹿の仔の鹿の形に組みあがる
紙の雛塵芥として水葬す
春昼や大楠の神寝なむと云ふ
春の鵙の屈託のなき命令形
朧月はみだしてゐる蛙の眼
30
アネモネや花には花の目覚め時
夕桜いまだ迷へる女運
夜桜の色とりどりの桜色
夜桜の肋骨一本ほどの枝
夜桜やイヴは骨より手足生え
夜桜や驕る平氏の少年よ
夜桜やよりくるものの多すぎて
夜桜やクレーの顔の昇りけり
散る桜あの世のことは知りませぬ
散る桜掌に一片も寄らず散る
40
花筏裸足で阿修羅と遊びけり
なけなしのＤＮＡや犬桜
蝶ときめきて十二神将の腕つぷし
蝶光る触るれば融ける白きチョコ
初蝶や始めは世木虫（よきむし）と憶え
半眼の蛙に神のこと問はむ
陽炎や彼方の戦車か乳母車
お遍路の墓と伝わる墓のあり
朧月魔女は三人三輪車
恋猫のなめればなおる傷なめる
50
春眠のまぶたの薄きひよこかな
地球より離れて春眠する猫と
ますらをの河馬のうつぶせ春眠す
春愁あれは銃声か銃声か
沈丁の香を改むる夜の雨
雨青し育ち盛りの松の芯
春分の日半分燃える地球かな
千代紙の正方形を雛となす
朝の螺旋階段蝶と譲り合ふ
初蝶やこの世あの世の遊びせむ
60
輪唱からぱつとこぼれる紋白蝶
若草やちろちろ転ぶ下駄の鈴
卒業式解放奴隷も交じりけり
桜蘂降る賊軍の無縁墓
桜蘂降る生の形死の形
桜蘂降る自分史のカルテ束
桜蘂降る言葉降る刺すやうに
桜蘂降る深く降る焦点深度
桜蘂降るから透明人間ゐる
雁帰る夢見る雁の配流さる
70
冴返る水晶体に北の空
亡き人の夜の沈丁花動かざり
春寒や時代遅れの腕時計
歯噛みして飯喰らひをり涅槃西風
花筏プレート一枚流れけり
逝く春のブルーシートを眺めけり
引潮や鴎と云う名のもの残す
三ヶ月分の新聞紙棄つ衣更
音もなき春夜の柩観覧車
黒文字の香で切る桜餅を切る
80
少年は貌より孵化を始めけり
啓蟄やスプリング・ハズ・カシイ
その先は白き死火山青き踏む
ぶらんこを漕ぎて上限は青であり
亡骸のごとき鳥籠昭和の日
きらきらし葉桜並木の英単語
五月の時報翔びだす少年鼓笛隊
空爆のお屋敷町の花石榴
薔薇園の黒き扉か黒蝶か
テイーカツプ回れよ青葉風回れ
90
後頭部の五月の空ノツクする誰
百物語百一話目の美少年
北斗七星のごとく駱駝は死ににけり
青年の群おおむらさきの色まとふ
蝙蝠の絶えし町にも怪異譚
湧水の魚鱗から透きとほる魚
焙りだしのやうに夏蝶摩天楼
玉虫の翔ぶや心の割れしまま
初めての昏き茶房の熱帯魚
夏蝶や天使に突然変異せず
100
初夏の木乃伊鰹節削り器で削る
芍薬を剪りてくれなゐ掌に移す
蛍袋どうすりゃいいのさ指で弾く
何事もなき大輪の薔薇を選る
卯の花腐し抹香臭き句をひねる
若葉風マーマレードのふた頑固
目隠し鬼夕菅一輪探し当て
夏草や巨人は敵大男は味方
草笛も音痴と言はれそれつきり
万緑や奇術師綺羅綺羅嗤ふ
110
死亡記事蝶より小さく切抜かれ
聖五月玉葱さくさく水の輪に
死に近きグツピー抵抗か痙攣か
危うきや輪切に胡瓜も香りも
逆立をしても騙し絵立葵
蟻の乗る乗る夏の靴の動きかね
角刈りにさつきさつきと刈込まれ
五月闇ほとほと甘き甘納豆
亡骸のある虫籠のある火に捨つ
身捨つるほどの過去未来形百日紅
120
ひたむきに夕焼時間を滑り落つ
青葉騒樹液の形に祈るなり
青葉騒カレンの歌の空騒ぐ
万緑の翳りに映る俄か雨
万緑や生きるも死ぬも二進法
こめかみに灰色の砲あり黒南風
百日紅幹の内なる少年よ
五月闇メーテルがゐないだけの闇
水のごとく夏溢れだす草も木も
エレジイは果てて果ある雲の峰
130
手羽先の骨ぎしぎしと夏の川
雲の峰樹齢詐称の大樹かな
夕鴉大きく鳴けり淋しくなる
とまどはず別れありけり七変化
青梅雨の躊躇の晴れ間別れねば
ラタトーユ夏の野菜と変わりけり
そら豆の殻の硬さやみなみ風
蛍掌に楽しきことを告げ来たり
蛍来て水致死量を溢れ出す
若葉風キリンの鼻毛そよぎをり
10
白桃やすぐ化膿する虫さされ
艶本のカバー思案のそぞろ寒
鮟鱇のポーズとらされ削がれゆく
鮟鱇や未読の自分史吊られをり
畑の霜パツチワークか継当か
花時計花のはだれて雪となり
鬼の居るや居らずや万燈まだ消えず
春疾風前へ前へと鳩の首
蛤に開かぬ闇あり闇見たし
両親なら俺にもあるさと亀鳴けり
20
鍵穴に錆びし二十歳の春の雪
雨優し茎折れやすし紫雲英かな
木の芽雨幼きものの冬の目よ
黄水仙の数ほどは残る日の温み
黄水仙墓碑に戦の記録やら
鹿の仔の鹿の形に組みあがる
紙の雛塵芥として水葬す
春昼や大楠の神寝なむと云ふ
春の鵙の屈託のなき命令形
朧月はみだしてゐる蛙の眼
30
アネモネや花には花の目覚め時
夕桜いまだ迷へる女運
夜桜の色とりどりの桜色
夜桜の肋骨一本ほどの枝
夜桜やイヴは骨より手足生え
夜桜や驕る平氏の少年よ
夜桜やよりくるものの多すぎて
夜桜やクレーの顔の昇りけり
散る桜あの世のことは知りませぬ
散る桜掌に一片も寄らず散る
40
花筏裸足で阿修羅と遊びけり
なけなしのＤＮＡや犬桜
蝶ときめきて十二神将の腕つぷし
蝶光る触るれば融ける白きチョコ
初蝶や始めは世木虫（よきむし）と憶え
半眼の蛙に神のこと問はむ
陽炎や彼方の戦車か乳母車
お遍路の墓と伝わる墓のあり
朧月魔女は三人三輪車
恋猫のなめればなおる傷なめる
50
春眠のまぶたの薄きひよこかな
地球より離れて春眠する猫と
ますらをの河馬のうつぶせ春眠す
春愁あれは銃声か銃声か
沈丁の香を改むる夜の雨
雨青し育ち盛りの松の芯
春分の日半分燃える地球かな
千代紙の正方形を雛となす
朝の螺旋階段蝶と譲り合ふ
初蝶やこの世あの世の遊びせむ
60
輪唱からぱつとこぼれる紋白蝶
若草やちろちろ転ぶ下駄の鈴
卒業式解放奴隷も交じりけり
桜蘂降る賊軍の無縁墓
桜蘂降る生の形死の形
桜蘂降る自分史のカルテ束
桜蘂降る言葉降る刺すやうに
桜蘂降る深く降る焦点深度
桜蘂降るから透明人間ゐる
雁帰る夢見る雁の配流さる
70
冴返る水晶体に北の空
亡き人の夜の沈丁花動かざり
春寒や時代遅れの腕時計
歯噛みして飯喰らひをり涅槃西風
花筏プレート一枚流れけり
逝く春のブルーシートを眺めけり
引潮や鴎と云う名のもの残す
三ヶ月分の新聞紙棄つ衣更
音もなき春夜の柩観覧車
黒文字の香で切る桜餅を切る
80
少年は貌より孵化を始めけり
啓蟄やスプリング・ハズ・カシイ
その先は白き死火山青き踏む
ぶらんこを漕ぎて上限は青であり
亡骸のごとき鳥籠昭和の日
きらきらし葉桜並木の英単語
五月の時報翔びだす少年鼓笛隊
空爆のお屋敷町の花石榴
薔薇園の黒き扉か黒蝶か
テイーカツプ回れよ青葉風回れ
90
後頭部の五月の空ノツクする誰
百物語百一話目の美少年
北斗七星のごとく駱駝は死ににけり
青年の群おおむらさきの色まとふ
蝙蝠の絶えし町にも怪異譚
湧水の魚鱗から透きとほる魚
焙りだしのやうに夏蝶摩天楼
玉虫の翔ぶや心の割れしまま
初めての昏き茶房の熱帯魚
夏蝶や天使に突然変異せず
100
初夏の木乃伊鰹節削り器で削る
芍薬を剪りてくれなゐ掌に移す
蛍袋どうすりゃいいのさ指で弾く
何事もなき大輪の薔薇を選る
卯の花腐し抹香臭き句をひねる
若葉風マーマレードのふた頑固
目隠し鬼夕菅一輪探し当て
夏草や巨人は敵大男は味方
草笛も音痴と言はれそれつきり
万緑や奇術師綺羅綺羅嗤ふ
110
死亡記事蝶より小さく切抜かれ
聖五月玉葱さくさく水の輪に
死に近きグツピー抵抗か痙攣か
危うきや輪切に胡瓜も香りも
逆立をしても騙し絵立葵
蟻の乗る乗る夏の靴の動きかね
角刈りにさつきさつきと刈込まれ
五月闇ほとほと甘き甘納豆
亡骸のある虫籠のある火に捨つ
身捨つるほどの過去未来形百日紅
120
ひたむきに夕焼時間を滑り落つ
青葉騒樹液の形に祈るなり
青葉騒カレンの歌の空騒ぐ
万緑の翳りに映る俄か雨
万緑や生きるも死ぬも二進法
こめかみに灰色の砲あり黒南風
百日紅幹の内なる少年よ
五月闇メーテルがゐないだけの闇
水のごとく夏溢れだす草も木も
エレジイは果てて果ある雲の峰
130
手羽先の骨ぎしぎしと夏の川
雲の峰樹齢詐称の大樹かな
夕鴉大きく鳴けり淋しくなる
とまどはず別れありけり七変化
青梅雨の躊躇の晴れ間別れねば
ラタトーユ夏の野菜と変わりけり
そら豆の殻の硬さやみなみ風
蛍掌に楽しきことを告げ来たり
蛍来て水致死量を溢れ出す
若葉風キリンの鼻毛そよぎをり
