風の族の祝祭

詩歌の森のなかで、風に吹かれて、詩や短歌や俳句の世界に遊んでいたい。
著作権は石原明に所属します。

耳  --ライトヴァース風に

2009-07-23 14:37:55 | 詩 
耳  --ライトヴァース風に


なぜあなたは黙っているの
毛細血管にチェリー色の血が溢れて
ウサギの耳のように
真っ赤な耳をして
わたしと同じくらい
あなたは恥ずかしいのかな

あなたは
わたしの心臓の鼓動や
五月のどこまでも爽やかな夜空の
私語を聞き分ける

わたしは
神話のバラードの時々
薔薇の蕾のように外れた音階の
幼い沈黙をカノンする

あなたの耳に流れつく溜息
滝壺への垂直の人生のように
ぶっきらぼうに
愛したいのに

わかってくれとは決して言わないけれど
なぜあなたは黙っているの
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あなたはわたしの胸に手を置いて

2009-07-15 12:35:51 | 詩 
あなたはわたしの胸に手を置いて


それから
マリンスノウのように
冷えた手は沈んできた
皮膚を
筋肉を
血管を
肋骨を
心臓を透過して
マリアナ海溝の奥底に沈むように
パラシュートのように指を拡げ

それから
何かを掴んだかのように
掌をやわらかく握りしめ
ゆっくりと上がってくる

それは
一粒の気泡
地球上の最初の酸素と水素
わたしが魚だったときに見た初めての夢
爬虫類だったときに流した初めての涙
イザナミが発した最初の言葉
初めてあなたを見た時の沈黙
記憶の地底の苦い酸の海から
拾い上げた化石の輝き

水圧をいなしながら
浮上してくる鯨のように
あなたの手は
失われた世界の記憶を
この世ではまたすぐに酸化してしまう
優しさを
掬い上げてくる
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赤色幻想

2009-07-11 12:08:19 | 詩 
赤色幻想

夜光するカクテルグラスのカンパリ酒を透かして見る
首長女の赤唐辛子のネックレス
カンバスに塗りたくられたカーマインレッドのジャンヌは
赤の女王の赤のマニキュアと赤のペディキュア
赤色矮星の夕日は水死体のように膨張し
折り重なる薔薇の深紅の屍骸から
毛細血管の切れた眼球で見上げる
アステカ神殿の心臓は
人体模型の流れることのない血管を経て
花嫁人形の唇に充血し決壊する
修道院に脱ぎ捨てられた赤い靴を陵辱する
鉛の兵隊の剥げかけた制服に
異人屋敷の曼珠沙華が氷結する
火焔樹に巻きついた
サラマンドラを見たければ
薪能の篝火を見よ
そしてさらに
見よ
この闇の

アンタレス
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俳句 JUNE,2009

2009-07-01 08:20:57 | 俳句
江戸切子冷たき酒の掌に透る

清水や源流のごとく酒を注ぐ

望郷の韓人呑みしか黒薩摩

萩に零す酒の香りに別れけり 

酒は玲瓏備前の歪むままに呑む

彼岸花数限りなく日よ沈め

名も知らぬ甲虫羽根も硬くあれ

一本の樹よ死せ守宮の眼の底に

蟷螂の真一文字の食慾よ

月光に末期の酸素が笑ってる

紫陽花や最終電車光り来る

稲光暗夜の色を重ね塗る

切子盃カサブランカの勁きかな

東屋に守宮も人も雨となる

遠雷やけだるきままに闇となり

薔薇深紅の氷河のごとき時流る

黒揚羽虚空(そら)より墜ちて雨となり

幼きが灯に惑ひしや蛾のロンド

初蜻蛉一機なれども映え映えし

紫陽花や夢は陰りに冷えてをり



「逸」26号 出句20句

春の彩影

  Ⅰ

目見当で蕾の椿を過ぎてしまった

二月二六日の椿めくればのっぺらぼう

梅花ひとつひとつと毟る風柔らか

沈丁花白木の棺こそ白ならむ

細すぎる月を手折れば菜の花

よもつひらさか母より続く桜並木

桜並木ひともとごとの鬼殺し

みつめれば白鷺ほどの傷のあり

願わくば火刑にしてよ枝垂桜

桜木に小さき奢りの胎児かな

  Ⅱ

白木蓮中年と云ふ男振り

菜の花や明日より近き亡びかな

菜の花の立ち枯れてをり匂ひをり

呆けても化粧を直す梅古木

美しと云へば蝶の瞳の母となる

菜の花を黄蝶のごとく揺らしをり

干潟ひとつ空に浮かびて月ひとつ

幾條の澪鞭跡のごとき春

逝く春や黒塀曲れば鬼女ごっこ

桜咲くえれぢいとのみ日記しるす

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