風の族の祝祭

詩歌の森のなかで、風に吹かれて、詩や短歌や俳句の世界に遊んでいたい。
著作権は石原明に所属します。

俳句 FEBRUARY,2010 その4 30句

2010-02-27 14:31:04 | 俳句
うまれきて淡雪ふるしかなかりけり
枝垂柳旅に出でよと靡きをり
白梅や庚申塔の古き文字
ひこばえや不幸の始めの浅緑
刑場跡碑に桜蘂降る夜の音
花エリカブロンテ何処の丘で見し
生き死にと破れてゆくや紙風船
雛壇より十二単の糸電話
幽界へ手毬転がる春の宵
透明なピエロの楽隊風光る

長閑さや香具師の口上終るまで
春眠や何故か去りにし奴ばかり
錦鯉をみなのをひれ春の雪
沈丁の香り溢るる肺ひとつ
リラ冷えやドアベル鳴らす喫茶店
緋躑躅の香の薄きかな日照り雨
藤棚に小糠雨降る三輪車
女生徒の自転車銀杏の花落ちる
げんげ田にまず玉子焼箸と箸
土筆摘む土手に川沿ふゆるゆると

光りだす夜光時計や白木蓮
蔦若葉古き洋館古きまま
叱られて東西南北葱坊主
猫柳銀の陽射しに染まりけり
旧道の古刹は暗し桃の花
春田一枚の領土を誇る鴉かな
恋猫に決意ありけり俄か雨
エイリアンの子供のごとき木の芽かな
春眠の土葬の村の土偶となる
剥出しに焼場の煙突春野かな


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俳句 FEBRUARY,2010 その3 30句

2010-02-19 23:10:06 | 俳句
物怪や鏡花の筆に除夜の闇
寒鴉輪廻はゴミの集積場
白髪も茶髪も猫も春炬燵
初日の出キリンよ未来は遠いのか
紅梅のひとひらひらひら濃さ淡さ
コンビニに旧正月の餅を買ふ
春の雪咥え煙草の傘かける
牡丹雪濡れし煙草もさよならも
春の光ブルツクボンドは匂立つ
水仙や黄色は軽し死も軽し

春の昼天国ありやと思いつつ
春の雨三千世界の雨ならむ
菜の花や車窓に錆びる過去時間
春の雨網目キリンの網目かな
転轍機静かに動く春の星
春立つ日癌細胞は生まれけり
長閑さやジンジヤー・エール飲み残す
北限の猿虜囚のごとき地蔵かな
春の雪セーヌの左岸右岸まで
春愁の自転車でゆく雲までゆく

人怖れぬ鴉は鮫の眼かな
アラクネの優先席の隅の春
鮑踊るムンクほどには叫びをり
性格の良き金魚より掬わるる
春の昼座禅を組みし電気釜
送電塔の一部剥がれ落ちて鴉
「エリーゼのために」溝沿ひ春の闇
美少年ひとりで暮らす春星座
恋猫もどこか不真面目昭和かな
狛犬も狐も遊ぶ冬木立
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俳句 FEBRUARY,2010 その2 30句

2010-02-14 12:20:30 | 俳句
雪解川そを青春と云ふべきや
脳の皺の如き湿原冴返る
無作法に流木眠る春の昼
春は曙血圧計を巻いてをり
剪りとられ音に驚く薔薇の露
微震あり静かに廻る生卵
燕の巣ごと廃屋となりにけり
鯉沈む水面の林纏ひつつ
春の草土管覗けば鴉の眼
埋立の地底に蛙の数多死す

藤吹かれ生死も淡き青ならむ
春の光赤子に無駄な部分なし
春泥や阿鼻と云う字の宙を見し
火星では人は人さえ生まざらむ
東風吹けり分子模型の真中より
降誕祭飴一粒の一粒の戦後
清明や陸奥に縄文の神話あり
人も象も不思議な形春霞
雨となり波紋の中に鯉の口
蜻蛉の近きに見ればヤゴの顎

ぶらんこに精霊の声ひそひそ声
桃源はあらずされども桃の花
地に墜ちて毛虫原色原色毛虫
素魚の酸の海へと落ちゆけり
春時雨傘一つだになくて赤坂
パンジーの五色六色美術館
春の空剥がしてみたき飛行船
柿食へば普通というは怖ろしき
春雷やさらにさらなる日本海
立春や犬より速き老ひの風


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俳句 FEBRUARY,2010 その1 40句

2010-02-09 06:47:12 | 俳句
春昼や観覧車より見し象の老
叩かんとして蝿の眼が睨む
凍港やマキの去りし夜の鴎
春立つや光に沸点あるやうに
立春やステンドグラスはまだ昏し
漕ぎ出でな湖国はすでに春めきし
春の空キリンは天を仰がざる
春の虹子象に淡き憂ひあり
春の波のごとくに命抱いてをり
花祭ケーナに廻る輪廻かな

飛行機雲溶けて青増す春の昼
桜月夜花咲爺の怖ろしき
木瓜の花祖母の立居の明治なり
啄木忌ヴ・ナロードは未完なり
涅槃図に私の涙が欠けている
恋猫の鼻から夜になりにけり
雪しんしんと隠すに値せぬ道を
雪上を風来て鼻腔の形まで
春疾風骨細き男の骨鳴らす
淡雪や重力までもはかなくて

花虻の光のごとき羽音かな
春潮やプランクトンも華ぎて
春雷や罅割れしるき憤怒仏
鶯の声若ければ誤てり
煮殺さるまでの蚕の命美し
紅梅や己の老はつれなくも
誰憚ることなく落ちる白木蓮
枝垂桜翡翠深淵覗きをり
逃げ水や昭和に捨ててきしことも
昭和映す轍の跡の薄氷

鎮護すべき国家は闇に御水取
春の宵ポストより出す過去未来
蛇出でて若き形になりにけり
猫の眼に危きまでの春のあり
白梅を残して夜となりにけり
ボヘミアン虹彩すでに次の冬
河馬に臍あるやなしやと春の昼
ふらふらと剥離してゆく春の暮
仄暗き鏡の中の花盛
春彼岸穴から祖母も猿人も


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妖桃紀

2010-02-05 21:05:07 | 詩 
妖桃紀


君は君の杖を天空の土地に刺す
そこから湧き出す黄泉の水に
杖は一本の桃の木になるだろう
木は黄泉の水を吸い上げ
声のように葉を揺らし
輝く実をつける
その実を食め
その中に世界があるように
その実を投げよ
その中の世界に裏切られたかのように
それでも

君は黄泉の水が
この地を覆いつくすまで
杖を突きたてて
桃の実をこの世に産み出そうとする
言葉のような
呪文のような
歌のような
風のような
唯一の実体を

一本の杖で
聖域を犯す者
一つの言葉で世界を現わそうとする者
その時君は
初恋のような
一筋の風でしかない
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