風の族の祝祭

詩歌の森のなかで、風に吹かれて、詩や短歌や俳句の世界に遊んでいたい。
著作権は石原明に所属します。

俳句 OCTOBER,2009 Ⅱ

2009-11-04 20:53:06 | 俳句
セスナから撒かれしビラのごとき秋
囃子笛人形絡繰秋祭
心中に肉食獣あり寒月夜
雷神に裂け雷獣に折れしも欅なり
立冬や角封筒の別離来る
金木犀闇は漆黒の猫となり
柊や傷つき易し鬼の肌
枯園や幻視弦楽四重奏
旧街道韃靼ダンスの枯葉かな
御神渡る男神はヨドバシカメラまで

狐火を吐きて死ぬるや摩天楼
春は桜の秋は紅葉の嘘をつく
飼へぬなら心に飼はむ寒の鵙
水仙は岬に合ふ花風の花
水仙やとどろに渡る雷の神
忍返しせめて落葉は串刺しに
冬薔薇今朝も無人の乳母車
枯蟷螂老いの形の鎌曝す
牡丹雪の思ひ煩らふ重さ軽さ
このゆびとまれ人さし指から末枯れし

冬の泉緋鯉のごとき落葉かな
節分会鬼と成り出でそのままに
ホルマリン槽の死体と笑う寒夜かな
凛凛と弥生の町に入りにけり
石の狐石の眼の恐ろしや
小春日のプラスチックの動物園
犬狼星イエスは腐臭を放ちたるや
冬木立暮るれば影は人めきて
星の死の葉牡丹のごと渦巻けり
神無月アウシユビツツに神ありて

罅割の獣のごとく血を舐むる
冬の星在り在る在らむ宇宙なり
昴あり吾も獣の臭ひなり
冬銀河闇も光れぬ星の群
寒星や吾が来し方は迷路なり
木犀やむづかつてゐる恋心
神おはすと大白鳥の羽搏けり
カテーテルに流るるごとき冬の川
冬の蜂すでに異界を歩みをり
凍蝶や翅ぼろぼろで死にたくなし

花八つ手透明人間とすれ違ふ
花八つ手この世の果も雨滴かな
花八つ手そして誰もいなくなった
花八つ手日陰日陰と咲いてをり
花八つ手ワセリン臭ふモデルガン  
花八つ手掌ににんげんの傷深し
花八つ手飛行機雲の細き時間
人参喰ふ兎を喰らふ人参喰ふ
秋の草白紙のままの白地図に
冬銀河何処にありやベツレヘム

海嘯のただただ深し冬鴎
狐火の消えて山山墓地のごと
寒雷や手相にしるき余命なり
時雨来て何を笑ふや道祖神
寒月や人は微かな腐臭あり
胡桃割る胡桃痛いと胡桃泣く
秋深し言ひ募るをんなと嵯峨野ゆく
空も夢も青しベンチを船として
柿落葉音無く滑る車椅子
烏瓜に目鼻を描いてコルト45

二人して裸で寝ねよ春隣
月見草凛と手折りし祝婚歌
黄泉より浮上がりくる鯉生臭し
敗荷や思はず杖で打ちてをり
露天風呂裸身であれば大オリオン
西洋の眼で昏く見てをり蓮の花
冬の蝶離れ離れに弱りをり
靴跡に幾千億の冬銀河
武装せよ蝸牛還暦を過ぎにけり
死んだかと突付かないでくれ穴惑ひ

足裏のアンモナイトの海くすぐつたい
枝枝に鴉の飢あり寒月夜
燕帰る軍務は遠き父の挙手
少年の指細し栗菓子フォーク細し
剛毅な革命何処にありや胡桃割る
手袋の似合ふリユクサンブウルかな
余命あらば五年日記を買ひ給へ
黒揚羽それを記憶と呼ぶべきや
冬の海底知れぬまま夕暮れる
霰打つ打つには値せぬものも

散骨の海の底なる鬼海星
雷神の顎の形の気に食はぬ
天涯の傾きしまま冬薔薇
氷柱酒明日猪撃たむと青年呑む
誘導灯暗き海より寒の闇
賛美歌の絶へて木枯アンダンテ
立冬や思ひあぐねしものを捨つ
蟷螂や死しておどろに枯れてをり
青蜜柑剥けば滴る海の色
鮟鱇の腹から虚無の溢れけり

梟や過去へ連なる夜の木霊
狐目の女のポスター三番館
死に方を決めよと寄する冬の波
冬の星聖母の張りたる乳房かな
煙草捨つくねりくゆりて燻りぬ
水仙花水面のナルシス何を見し
砲弾の錆びし墓碑あり冬の森
みぞるるや空白の肺の手術痕
山茶花のとめどなくちる恋心
虚子の忌や去るものはみな大股開き
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10月の短歌

2009-11-02 12:18:38 | 短歌
直立せよ叫びのごとくことごとく枝突き上げる樹であるならば

一時間さらに二時間果てしなきメトロノームよ正確とはアンニュイ

フーコーの振り子の何を占うや裂け散るものは全て裂け散れ

蛇口より幾滴すでに滴りし鼓膜は芯より凍てつき始む

月世界さらに荒涼となればこそこの満月の美しきかな

二十四時間ごとに日めくりを剥ぐようにただ正確であれ剃刀の軌道

海底に何かや何かが潜みいるや或いは潜まぬ白骨の墓場

山は皆深深と洞を隠したり薄ら明るし少年の性は

柊に傷つくほどに柔らかき鬼と呼ばれし肌も心も

青年はピエタの死を憧れて最短距離を銃弾のように

賛美歌のソプラノアルトまじわらず幾筋もあるやイエスへの道

初夏の新緑の言葉で武装せよ太陽の黄金の拒絶を抱きて
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俳句 OCTOBER,2009

2009-11-01 19:02:40 | 俳句
鯖〆て陰暦九月に入りにけり
金木犀に土の香混じりゆく霖雨
秋の花図鑑の頁きりもなし
銀砂撒く気性激しき織女かな
秋の菜の一寸刻みに暮れゆけり
そぞろ寒余熱くぐもる骨拾
群鴉土鳩雀と狩りにけり
二十一世紀の街を流るる天の川
秋風や魂抜かれたる顔の波
晩秋や死刑宣告腹の減り

漆黒に月を描く児の笑ひをり
七夕や海底珊瑚産卵す
震災忌数奇な叔父の生まれけり
知恵の輪から天の川へと遡る
秋霖や人殺しにも死人にも
菊の花ままごと遊びの小さき棺
秋時雨帝都は錆し血とネオン
火星より赤きが降りし厭まれし
稲光葛の葉裏の白き闇
鳳凰の金色の尾に野分かな

とびつきりカサブランカの別れかな
施餓鬼会や丑寅より参る鬼やんま
台風の吹返すごときサンバかな
満月や銀杏並木で手を拾う
秋刀魚喰ふ昭和のごとき苦き腸
月光と云ふ冷たきものの他になし
月の雨蛇の目唐傘毒茸
月の兎アリスの穴を捜そうか
鉄骨屋上クレーン一基秋の虹
磯鴫と逆光世界に立ってをり

落鮎や余生は無くて喰われけり
彼岸花十万億土はそこにあり
月光や肌に寄り添ふジヤズピアノ
満月やカリガリ博士ぞ神ならむ
月光に濡れし青年海に入る
青年の裸体で踊る彼岸花
月光や蟷螂と観るギリシア悲劇
蟷螂と出会ひ頭の浅き夢
蝉殻やホロコーストの並木道
プラスチックの鴨の一羽の離れをり

鮨屋にて鯵鯖秋刀魚鰯喰ふ
右脳には月天心にナイル川
月光や縄文土器の裏通り
戸隠より新蕎麦不作の便りかな
秋彼岸朱線また引く住所録
蟷螂や廃墟の空でユダを愛す
祖母逝きて三十三の七夕や
レモンのように愛はたらたら滴るだけ
秋と云ふ字に火のあり不可思議なし
グツドバイ鴎が体を寄せてをり

十五夜の月幾何問題のごときかな
秋の虹オズの国への地図を描く
しずこころなく桜紅葉のはらはらと
秋の空中天に地球掛かりをり
寒い顔をした隕石がある
大切な言葉は知らぬ冬の耳
寒家より大きな声のひとつあり
冬晴れや異心なれども凛として
寒風や鉄鈴錆のごとく鳴る
雲古くんにょんごとこの世に生まれけり

金木犀それを愛とは云へぬまま
吾死んでゐるやも知れぬ冬の霧
トタン屋根のある病院に時雨けり
三十三間堂冬ざれし諸仏沈黙す
立冬や船はエーゲに航海す
狐火やコンクリートの観音像
雪女郎刈田を渡る笑ひ声
枯欅拡大鏡で肌を見る
寒風の大景すでに白き富士
冬の波手に入るものは手に入れむ

意を決し告ぐればカンナ朱を重ね
ネオンテトラ発癌物質のごときかな
夕闇や秋草繚乱と靡きをり
水惑星のこの沼沢の渡り鳥
秋燕水半球で暮したし
吾と影笑うしかなき夜寒かな
少年の発止と氷柱打ち折りぬ
狐来て人の眼をする夜寒かな
冬の波下に都はあらざらむ
鬼やらひ鬼に偽りなきものを

直立し猿人も見しや十三夜
秋の雲北極海を描いて消ゆ
秋の空艦なき軍港戦火ありや
雪深深死せる少女の大晦日
別れ来て南天の実のほかは闇
金木犀記憶の底に鬼神あり
年輪の切り倒されて美しき
みぞれふる賢治のなみだのみぞれふる
とある街とある空より霙かな
二十世紀の名残などなし冬木立



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